崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
街を歩くと、どうにも色々と気になる。
キシワダ・ベイサイドでは、鍵にチャームを付けるような気軽さで銃を持っている人間が多いからだ。
その目線、装備した銃の質、店の護衛が持っている銃口の向き。
全方位が敵に囲まれているようで落ち着かない。体が常に安全域を求めてしまう
多分、技能インストーラーのやり過ぎだろう。五日間ぶっ通し、飯食って便所行っている時以外はドップリだったからな。
こういうのを戦争神経症って言うんだっけ? 実際やらされたからなぁ、戦場に指定されたフィールドを歩いている時、いつおっ始まるか、どのNPCが敵性存在かも分からない雑踏で行われるシチュエーション。
今のキシワダ・ベイサイドは、それに似ている。どこか遠くの国、映画だと発展途上国と呼ばれていた街の雰囲気は、それと近しいのだ。
誰もが武装して、大勢が金に困っていて、そして細いチャンスを狙っている。
この場の全員が、俺をブチ殺すのに十分な理由と武器を持っている。
前までは何のこともない、小銭を拾って生きている人間だからこそ感じなかった圧力。
なるほど、これが成功するってことか。
「存外、いいもんでもないな」
「何がですか、ヌル」
「稼ぎすぎるのもってことさ」
たっぷりとトッピングを足したあら汁で腹を満たして――今日はホッケの売り物になる部分をたっぷり入れて貰った――町外れ、近藤の塒へ向かう。
その途中でテクノ通りをブラついていたら、一つの商品が目に付いた。
「おっ……」
「どうしました」
「アレ」
指を刺せば、何かのスナッフビデオめいた光景。人間の上半身、それもまだ年若い少女のそれが頭部にミートフックを突き刺して吊してあった。
といっても、生の肉体ではない。義体である。
「これ、かなり良い物なんじゃないか? 人間用、汎用胸部で……値段は……千二百円か。へぇ、発掘品で未使用。脳殻全損につきお買い得価格?」
「何だ、また冷やかしか?」
近寄ってみると、そこは前に視覚素子を見て、冷やかしだと追い出された店だった。店主は嫌そうな顔でハタキを掌に叩き付け、俺を追い出すべき鼠か何かでも見るような目を注いでいる。
「今は金のアテがあるんだ。デカい仕事を片付けてね。協会が評定しなきゃいけないような大戦果だ」
「ホラ吹くのも……」
店主は言いかけて、俺のナリを見て言葉を止めた。
前よりも肉体がアップグレードされていることに気が付いたのだろう。
ジャケットの袖から覗く拳は軍用グレードの灰色と銀色。前を開けた懐には、スリングホルスターでもなきゃ持て余すデカいType12 FSP。そして、左目も俺が高額だと驚いた商品より上等な軍用になっているのだから。
これに気付けなければ、テクノ通りの店主として失格だろう。
「お前さん、その目……偽装カバーがないからよく分かる。出雲のEisen-眼か! 完品なら片目2000円でも惜しくねぇぞ! それに両腕は……東亜だな!!」
「ご明察。ジャンク品を直してねじ込んだんだ。スゲーだろ」
見せ付けるように瞼を下に引っ張ってやると、店主はそれを食い入るように見たあとで悔しそうにした。多分、店の奥にしまってある秘蔵品より上等だったんだろうな。
「で、オンボロの部分を修繕したから、次は相方と」
「ああ。フラウ、コレはどうだ?」
「クリプトーン・フューチャー・メカニカルズのアイドル筐体ですね。同クリプトーン・ミュージック・エンターテイメントを通じて、世界シェア一位の興業企業でした」
「アイドル? ああ、たしか……」
「前文明の職業で娯楽です。歌って踊る、大衆の偶像。これは、その一般向け模造モデルですね?」
詳しいじゃねぇか嬢ちゃんと驚いた後、店主は初めて俺達に真っ当な商売トークをしてくれた。
何でもコレは、前文明で世界的に流行したガイノイド・アイドルグループのセンターにして象徴、それに人間が〝なりきって遊ぶ〟ためのモデルだそうだ。
何だって機械の真似を人間がするんだと思ったが、前文明の人間は同化の憧れが強かったようで、特に“ファッションとして機械に近づきたがる”酔狂なヤツらがいて、その中でも好きなアイドルガイノイドと似た筐体に収まる流行があったとか。
その上、肖像権? ってヤツで、目玉商品の外見は厳重に守られていたのは当然で、理想化で再現するのは厳罰だったから、公式が売り出して商売にしていたとか。
これは、その時の名残で、たまたま胴体だけが生き残ったようだ。
しかし、金の汚さには前文明にゃ勝てねぇな。そこまでやるかよ。
「ですが店主、これは頭部機能以外にも欠けている部品が多すぎますね。有機転換ユニットは部品が足りていなくて機能不全、M-k01型モデルの声帯も非搭載。流石にこの値段は法外かと。人間が換装して使うには、大手術だけじゃなくてレストアが要りますよ」
「チッ、分かっていたが、中まで見える目持ちとはな」
店主はガリガリと頭を掻いた上で、しかし全く堪えていないように笑った。
「だが、嬢ちゃんなら型番が分かるだろ? コイツの下腹部は生きてる」
「腰部バランサーは死んでいますが?」
「おいおい、最大のメリットだろ……セクサロイド部分は完品だぜ」
セク……あっ、ああ、なるほど、俺は顔が耳まで真っ赤になったのを感じた。
直結しての電脳空間性行為だけじゃなくて、肉体的な交わりにも適応したタイプってことね。なるほど、そりゃ娼館の連中が欲しがるだろうから、高値の値付けもすらぁな。
「まさか……アイドル筐体は、セクシャル機能は非搭載のはず」
「サードパーティ品だよ。当時じゃ非合法のな。皮膚感覚は正規品、光ファイバー素子で1m㎡あたり一メガ素子。性器ユニットは1μmの超微細筋繊維、それも触覚素子付きのが断面積1m㎡あたり百万本の超名機だ」
「それは、快感増幅アンプリファイアーの設定によっては死ぬのでは?」
「生身相手も考慮した天-河True-Hole-pleasureの最上級品だぜ? 取りだして売るだけで、500円は堅い。伝手を通せば千円でも売れる」
自慢気に語っているが、要するに変態御用達ってことか。流石にこれをフラウにつけるのはなぁ。幾ら彼女が人間のクロームを使えるからといって。
「……これ、取り置きはできますか?」
「フラウ!?」
「中身はボロボロですが、高性能機だけあって他の部品がかなり小型化されていて、ペイロードに大分余裕があります」
「いや、だからって流石にさぁ……」
「今の私に求められる最適かと。店主、破損部品も考慮して500が相場では?」
「馬鹿言えよ、膣ユニットだけでも600で買いたいって日々交渉に来てる娼館主がいるんだ。今は渋ってるが、せめて1000出して貰わねぇと」
「じゃあ、他の部分はオマケじゃありませんか。三日以内、早ければ今日にでも800で引き取ると行ったら? 無論、キャッシュ一括払い」
「んー、んー……」
勝手に交渉を始めるフラウに何を言い出すんだと怒鳴ろうとしたが、射すくめられるように睨まれて体が止まってしまった。
くそ、コイツ、何考えてんだ。
「……分かった。三日だ、三日だけ待つ。ただ、それ以上は娼館に卸すからな」
「それで結構です。では、行きましょうかヌル」
ポカンとしている俺を置き去りに車椅子を動かす相方を追って、小声で怒鳴る。
「どういう買い物のセンスだよ!」
「ヌルがお年頃で色々と気になるのは分かりますが……」
「そっちじゃねーわお馬鹿!!」
顔を真っ赤にして反論すれば、彼女は内蔵されているバランサーに興味があると言った。
「あれに搭載されたバランサーはクリプトーン・フューチャー・メカニカルズの舞台演技用、つまりハイエンドですよ」
「歌って踊って金を稼ぐってか? 手足も揃ってないのに?」
「派手な動きに対応できるということです。私がソフトウェアを弄れば白兵戦にも転用できるんですよ」
なるほど、と頷く。たしかに激しいダンスや演舞に対応できるバランサーなら、ちょっと直してパラメータを弄れば戦闘用に転用することも簡単か。
「それと、人型フレームなので、手足の接合部に適応した企業が多いです」
「なるほど……」
「欲を言えば、出雲重工製の部品がよかったんですがね。入手性と費用対効果の兼ね合いで我慢します」
近藤の塒に近づいて、俺は懸念を口にした。
「でもよ、俺は近藤に市民ID購入だけで良いつったんだぜ? 800円なんて大金……」
「近藤は出しますよ。貴方が下に着くという条件を出せば」
「えぇ!? 嫌だぜ!?」
「まぁまぁ、直結してください。交渉の援護はします」
本当にあの渋ちんが金なんて出すかねと思いつつ、俺は塒のインターコムを乱暴に鳴らした…………。
業の深い義体を見つけてしまう二人。まぁ、違法品でも再現したがるひとはいるよねって。
あと、薄い本ではよく有る展開ですが、廉価版販売用アイドル自動人形にセクサロイド機能は原則非搭載です。そういう動画をアップロードされるとイメージが既存されるので、メガコーポの法務部が物理的に始末しに来る程度には逆鱗ですから。