崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
俺は、どーにも懐疑的だったが、中々どうしてフラウの言うことは理に適っていたようだ。
この常に薄らと寒い列島、そのストリートにおいて、両腕を肩から晒すのは力の象徴であることは分かっていた。
温感選別によって寒さなど感じない、義体化率の高い人間にのみ許されたお洒落。それ故、近藤がまるで露出狂のような格好をしていたように、辺見が義腕を見せ付けるためタンクトップを着ていたように、露出度の高い服装は威圧に繋がる。
まぁ、俺には安物のクロームを必死こいて見せびらかしているように感じられて、逆に格好悪く思えたのだが、どうやらこの考えは多忙な前文明で〝可処分時間〟をガッツリ使う、映画を愛好できる
「言ったでしょう? ヌル」
「……そうだな」
今の今まで、テクノ通りまで歩いて来たのだが、誰も俺と目を合わせようとしなかった。
破落戸通りのベランダから、下を馬鹿にするように見てくる義体率の高い三下は、急に天候でも気になったように天を仰ぎ、小突いたら小銭を落としそうなヤツがいれば絡んでやろうと物色していたチンピラは、目線を落として自分の靴をチェックするのに忙しくする。
そして、道を譲れと言った覚えもないのに、誰もが左右に捌けていくのは……なんだ、安全ではあるのだが、大分据わりが悪かった。
何かなぁ、チープなヤクザ映画みたいで落ち着かないなぁ。
「やはり、私の見立ては合っていたのですよ」
「俺ぁ着心地が良いはずなのに肩が凝って仕方ないよ」
「特殊複合合金の肩がどうやって凝るというのですか」
「そりゃジョークか? 文脈読めない訳じゃないだろお前さんも……」
黒いマットサテンの袖のない襟付きシャツは、俺をお上りさんから一息に都市部の住人に変えてしまった。一緒に買ったカーキ色の、ぴしりとワンタックの折り目が付いたチノパンは、特殊複合繊維によって泥も染みも弾く上質品で更に雰囲気を引き立てる。
その上でスリングホルスターで装備したType-12 FSPは、何と言うか物騒なアクセサリーとでも言うべきか。リストクラッカーとも呼ばれるコイツを十全に扱える、庚弐式のマットグレーを晒して歩いていることもあって、見栄を張ってゴツい銃を買ったとは思われていないのだろう。
むしろ、垂直居並んだ、銃把を叩き付ければ弾倉を装填できる専用のマガジンホルスターが説得力を与えているようにも感じられる。
これが口酸っぱく言われた、服装は鞘ということなのだろう。
ただ、靴だけは利便性のためにコンバットブーツからの買い換えは拒否したし、裾から汚れや異物が入るのを嫌ってキッチリねじ込んでいる。
これはフラウからお洒落さが足りないと言われたが、しかし数秒考えた後、足回りだけは実戦経験者のソレの方が説得力が出ますねと言って勝手に納得された。
まぁ、つま先が痛そうな、妙に長い革靴を履かされるよりずっとマシだからいいんだけど。
「やれやれ、やっとついた」
道の長さが変わった訳でもなかろうに、妙に疲れてしまった。
そろそろ店仕舞いでもしようかと思っていた店主だが、妙なざわめきに庇を収納しようとしていたクランクハンドルを手に何事かと通りを眺めた。
そして、俺を見て驚いたように目を見開く。
「おいおい、何があった……」
ちょっと分からんでもない。朝方にボロボロのフライトジャケットを着て、本当に払えるかという額で商品に唾ツケをして言ったガキが、夕方には、このナリになって帰ってきたんだ。
何が起こったのか聞きたくもなるだろうさ。
「よぉ、ちゃんと取り置いてくれてるか?」
「あ、ああ……」
店仕舞いしかけていた軒先に、朝と変わらず義体は吊してあった。手足がない、ここがテクノ通りでなければ猟奇殺人を疑いたくなるような体。
しかし、商品なんだから乳くらい隠せよ。何か微妙な気分になるわ。
「じゃ、これ現金800。文句なしの一括決済だ」
「百円素子……マジモンだな」
オヤジの手は疑似皮膚を張った義肢らしく、指で読み取ることができるようだ。念のために偽金じゃないか確認されたようだが、俺としては別に不愉快でも何でもない。
現金素子の偽装は極刑どころじゃ済まないが――噂じゃ三族皆殺しと聞く――やっぱり、いるんだよなたまにやる馬鹿。
まぁ、相手はお国じゃなくて、真贋の判別もできないような、数ヶ月前の俺みたいな貧民相手ってのが基本なんだけど。
「しかしよぉ、もうちょっと拘ってディスプレイできなかったのか? これじゃ質の悪いホラーだ」
「言ったろ、娼館向けの商品だって。〝商品部分〟を見せてる方が客も寄ってくる」
「何か可哀想だろ……」
俺はフラウを背負って、代わりに晴れて自分の物となった義体を車椅子に乗せた。流石に何かあった時、相方を守れないようでは拙いからな。だから優先度が高い方を担ぐのだ。それに、今では彼女が背中にいない方が落ち着かないくらいになっている。
ただ、それも体が手に入ったら終わりかと思うと、背中が風邪を引いてしまわないか心配だった。
「でもな、アソコだけじゃなくて、この小さい乳を晒すのが大事なんだ」
「何でだよ。乳はデカい方がいいんじゃないのか」
「お子ちゃまですね、ヌルは」
俺の意見はフラウから鼻で笑われてしまった。断っておくが、俺はデカい乳が好きなわけじゃない。むしろ、近藤にこき使われてた嫌な思い出もあって、体に分不相応なくらい巨大だと違和感も相まって微妙な気分になる。
ただ、ペイロード的に大きい方が色々と詰めるんじゃないかと思うんだが。
「すっきりした胸、細い腰、どれも高性能の証なんですよ」
「お、分かってるね嬢ちゃん」
「どれも部品が高性能かつ高品質でないとできませんからね。むしろ無駄に大きな胸部や、張り出しすぎた腰部は小型化できなかった技術力の表明に過ぎません」
そうなの? と問うたことを俺は少し後悔した。
店主とフラウが急に意気投合して、ミニマルな筐体が如何に優れているかを語り出したのだ。
しかも、俺の理解できない専門用語をベラベラと並べて。
とりあえず、足りないおつむを使って要約したところ、こういった義体は小型軽量であることが何よりも高性能であり、高級な証拠らしい。
自動人形の場合、胴体の中身に詰め込む物は、理論上削るところまで削ると、炉とバランサーだけにできるらしい。手足も同様で人工筋肉をケチれば細くするのは簡単だが、そこは性能とのトレードオフ。
しかし、人間用義体の場合はそうもいかん。
大抵の場合、人間は普段からの生活習慣を維持することで、この機械の肉体に慣れていく。物を食べる機能を搭載するのは、そのためだ。
そして、どう足掻いても生身の細胞を削りに削ったところで何パーセントかは残る構造上――特に脳の維持に不可欠だ――その生体細胞に酸素を送る機構も必要となり、空間は複雑なパーツで埋め尽くされる。
また身体的恒常性維持のため、人工血液循環系も搭載するとなれば、そりゃあもう生身の肉体と大差ない容量を食うのだ。
その上、ユーザーによっては高度電子戦に対応するべく副脳を搭載することがあり、その定番設置位置が腹ということもあって、いや余剰空間は減る。
これを解決するためには、車や銃と同じく本体をゴツくすればいいのだが、列島人はやたらと小型かつ高性能、そして多機能を重んじることもあってハイエンド製品は薄く、そして細いことが尊ばれる。
つまり、民生用は小さければ小さいほどいいらしい。
その究極系は子供型であり、永遠の無垢さを象徴するとして、超富裕層は外見年齢に見合わない見た目の筐体に収まることもあったそうな。
俺にはよく分からん感覚だ。
「mk-01モデルは、正しくその観点で最高峰なんですよ。ガイノイドでも、模倣用の筐体でも」
「そうそう、完品だと全高は僅か158cm! しかも総重量脅威の42kgだぜ! 正に異次元だ! 自動人形でも、この数値がゆるがねぇってのがスゲぇよな!!」
「しかも、その筐体に膣ユニットまでねじ込むとは……違法改造とはいえ、これを作った技師は多義的に変態ですよ。膣ユニットは分泌機能まで搭載すると大型化、そして重量増加が付きまとって……」
あのさ、一応女の子なんだから膣、膣言わないでね? 何か凄く残念な気持ちになるから。
俺が何とも言えない気持ちを抱えている中、フラウは店主と仲良くなったようで、修理に必要な細々とした部品を三割引で譲って貰っていた。どうやら、クロームが好きで扱っている店主の琴線に触れたらしい。
とりあえず、今日は塒に引き返して修理に勤しむとしよう。
そうじゃないと、頭がパンクしそうだった…………。
貧乳は希少価値でありステータスだ!