崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
この施設にもメンテナンス設備と組み立て設備はあるようだが、そこへの道は完全に封鎖されていたため、シャッテンフラウは諦めようと言った。
ローカルネットも死んでいるだろうに、何で分かるのだと聞いたら、彼女のセンサー類はアクティブ、パッシヴ共に最高の品が使われているため、現地まで行かなくても分かるらしい。
なにそれ、こわ……。
「ということで、この設備でできることは撤収くらいですね。足跡を辿って、マスターが落ちた穴を探しましょう。登攀に自信は?」
「当たり前だろ。クズ山で生活してんだから、お宝を掘り出すために不安定なところをどれだけ登ってきたか」
実際、この仕事はひたすらに使えそうな物を探し、何か埋まっていそうなところを掘り返すか、積み上げられたスクラップの山を登る行為の繰り返しだ。高い所が怖いとか、暗くて狭い所が怖いとか言ってたらやってられない。
しかし、問題がある。
「ただ、今日はアガリがまだない。何か持ってかねぇと」
「私という超高性能美少女自動人形を手に入れて、まだ足りないと。マスターはよくばりですね」
「お前さんを売っぱらう訳にはいかないだろ。マスター認証された自動人形は、価値がガクンと落ちるんだよ」
「なるほど、たしかに本社に送らないとクリーンアップはできませんからね」
で、この世の何処にも本社なんてないわけだ。
まぁ、全く不可能って訳じゃないらしいんだが。
一日中コード弄くってる、でっけぇパソコンと体が一体化したような連中なら、できると聞いたことがある。
まぁ、言うまでもなくスゲー金が掛かるんだろうな。だから自動人形は新品じゃなきゃ価値が薄いんだ。新人はまず、ナリが綺麗でも有り難がって拾ってくんなって言われるくらい。
そういや前にいたな。テメェで何とかしようとして、ニューロンがカリッカリに灼けた馬鹿。クソ、思い出したら、あの嫌な臭いが甦って鼻の奥がムズムズしてきた。
特に完品の愛玩用自動人形なんかは、需要の割りに供給が少ないから、マジで掘り出したら十年は遊んで暮らせる。絶対に裏切らず、劣化もしない愛人を欲する金持ちは多いからな。だから一山当てたがって、人形専門の発掘を行う連中だっているくらいだ。
その点、筐体はほぼ全損、マスター認証までしてしまったシャッテンフラウに売り物的な価値はない。今後の仕事を電子戦で大いに扶けてくれるであろうが、残念ながら直ぐに食う金にはならないのだ。
むしろ、今後コイツを修復しようと思えば、金は出て行く一方だろうよ。
そんでも、命を助けてくれたことを思えば、高い買い物じゃないわな。
「ってことで、この倉庫から何か持って行かねぇと。派手に陥没したから、どうせ直ぐに他の同業者が集って来て、全部持って行かれちまう。価値の高い物今の内にを厳選しねぇとな」
「なるほど、となるとお助けしたいのですが、地上の物価が分かりませんね」
「そうさな……需要が高くて、価値があって、軽くて、金になる……うん」
カツラだな、といって俺は幾つか用意されていた物を手に取った。
「カツラですか? あの? 頭の寂しい方のための?」
「なんだよ、その配慮に塗れた言い方。ともかく、前文明みたいに即日サラッとはいかないんだ。で、ハゲや薄毛に悩んでるヤツは幾らでもいる。義体化してでも直したいくらいな」
ただ、このシャッテンフラウが使うために集めたファイバー製の頭皮複合型頭髪ユニットは女性用なので需要が薄いな。何かの映画媒体で見たが、男性の方がハゲやすいからか、やはり野郎向けの方が良い値が付くのだ。
結構格好良いのにな、ハゲとかスキンヘッド。俺が好きな没入型映画じゃ主役張ってる俳優も結構いたぞ。
ま、人の好みはそれぞれだし、どれだけ上物を持っていたって、俺達下請けはライセンスを持っている飼い主にピンハネされまくるから、大した金にはならないんだけど。
男性用男性用と考えていると、急に棚に並んでいる物の商品サムネイルがポップしてきた。恐らく眠っていた電脳の機能が、勝手に検索機能を働かせてくれたのだろう。
すげぇなコレ。前文明の人間は、店員に売り場が何処かとか聞かないでよかったんだろうか。
「お、このロン毛型がいいかな。仕立て直せばどんな髪型にもなりそうだし」
「いえ、マスター、四つ向こうの棚の方が良いです。ファイバー大手の東レ製。電気伸縮機能を搭載しているので、プログラミング一つで髪型は自由自在ですよ」
「マジか。何で分かるんだ?」
「大手の製品は大体ライブラリにカタログが入っていますので」
……今なんか、サラッと凄いこと言わなかったコイツ。
俺達の仕事は目利きが物を言い、常に可搬重量との戦いだ。背嚢に入れて持って帰ることのできる空間、動きの邪魔にならない程度の重さ、常にそれを計算した上で、最も価値のある物を選んで持ち帰れらなければならない。
そう、行って帰って来るまでがスカヴェンジだ。
さもなくば逃走に失敗して死んだり、帰るまでに体力が尽きて野垂れ死んだり、死因が一気に膨れ上がる。
まだ行けるはもう危険。この業界に入って仕事のイロハを教えてくれたオッサンの言葉だ。
まぁ、そのオッサンは身の丈に合わない遺構に無理して挑んだ挙げ句、対人地雷を踏んで吹っ飛んじまったんだけどな。
要するに、目利きじゃなきゃ効率的な儲けは上がらない。けれど、コイツが助けてくれるなら、俺は今までの何倍も稼げるようになるんじゃないか?
それこそ、教えられるまで価値が分かってなかったんだから。
「となると、これ一択だな。取っ手に紐を括り付けて、ベルトを通せば何とかなるか」
「それと、あれもオススメです」
まだ直結していた彼女は、俺の視界から何かめぼしい物を見つけたのだろう。ピックアップしてきたので近寄ってみれば、ただのアタッシュケースが置いてあった。
「なんだこれ、ただのケースじゃねーか。えらく小さいが。書類用か?」
「いいえ、隠し武器です。指で触れてみてください。グリップ左側、小さな突起があります。左に倒して、右に二回」
「こうか? ……うわっ!?」
疑いながらも触れてみれば、アタッシュケースが真ん中からバカッと割れた。中央に親指を通す穴が開いたグリップがあり、そこから銃身が伸びている。そして、上部からはセンサー類が穴を開けて目を覗かせ、下部には銃弾がたっぷりと詰まっていた。
「な、何じゃこりゃ……」
「JX社、旧ベルギーに本社を置くJustix Defense製のコンシールド・スマートウェポンです。トランクに偽装した要人護衛用の外見的威圧感が少ない対人火器……という名目で作られた、口径は12.7×55mmの怪物です。自動人形や警備ロボット、完全義体化した要人の暗殺が主目的で、製造禁止令が出たくらいです」
握ってみれば、引き金がないことに気が付いた。電子制御トリガを採用しているようで、手に持ったら視界に丸い円が浮かんできてビックリした。
「なんだこりゃ!?」
「FCS連動型です。狙った通りに弾が飛ぶよう、自動で構えが補正されますよ。大型反動減衰機構が搭載されているので、その腕でも十分撃てるかと」
ベルトに差してるオモチャみたいな45口径とは比べものにならない逸品ですとオススメされたが、コイツはちょっと扱いがな……。
「市場に出回ってる弾じゃないだろ……何より見た目が……」
「ケース外装は簡単に取り外しできて、普通の展開型PDWにもできます。それと、特殊な改造を要さず様々な弾種に適応可能です」
「至れり尽くせりってか」
まぁ、長物は欲しかったところだ。逃げる時に5.45mmの密造銃は落っことした上、警備ロボットに踏まれてダメになっちまったからな。今後仕事をすることを考えれば、デカくて威力の高い、それでいて汎用性の高い銃はどうしたって必要になる。
「これ、電子制御ってことは落としても暴発しないだろうけど、うっかり殺してぇなって思っただけで弾が出たりしねぇよな?」
「マスターの電脳が何処製かは分かりませんが、FCS対応しているということはそこまで甘くないですよ。ターゲットに照準が合った上で、明確に発砲のイメージをしないと発射されません」
「ならいいんだが。ここでコイツ撃ち殺したらどうなるんだろ、って考えただけでブッ放されたら笑えもしねぇよ」
こういうハイテクってのはおっかないんだよな。多分、接触通信型だからクラッキングされることはないだろうけど、強烈な電磁パルスを喰らったらオシャカになるから、やっぱり俺は古臭いと言われても電子部品を使わない銃の方が落ち着くんだ。
ただ、この世の不変の法則として良い物は高い。あのアサルトライフルは二ヶ月も食い詰めながらコツコツ金を貯めて買っただけに、本当に惜しかった。たしかに重装の警備ロボットにゃ火力不足甚だしかったが、泥に浸かろうが多少ヒン曲がろうが撃てたって点で信頼性は高かった。
ああ、短かったな、俺の愛銃くんの寿命。
新しい物騒な獲物を手に、俺は訳も分からず逃げたせいで迷った道を、靴跡の汚れを読んで案内してくれるという離れ業を行ったシャッテンフラウのおかげで、全く迷わず遡ることができた…………。
少しずつ遺跡を漁って、段階的に強くなるのが最たる楽しみ。