崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
引っ掛けてしまった背嚢は結局見つからなかったが、何とか陥没跡地から脱出することはできた。崩落した穴が思ったより深かったから、もっと下におっこって行っちまったんだろう。R,I,P、最初にイロハを教わったオッサンからのお下がり&俺の全財産。
ああ、買い直しかぁ……この持ち帰った工具セット、あとカツラでどれくらい値段がつくかねぇ。
鬱々とした気分で這いだした地上は、景気悪くどんよりと沈み、今日もシトシトと景気の悪い雨が降っている。
「チッ、雨か。最悪だ、対雨装備は背嚢ん中だぞ……」
「雨にしても随分と薄暗いですね? 電波時計の更新が途切れて久しいですが、今は14:32のはず」
「ああ、知らねぇの? 太陽光をどうこうする兵器がばら撒かれたとかでよ、今じゃ世界はほぼ年中曇りだぜ」
「太陽光スクリーン!? あの狂気を解き放ったのですか!?」
「まー人類くんのやることなんて、んなもんだろ。戦争映画でやってたみてぇに、核兵器で地上全部がコンガリよりマシなんじゃね」
「……プラネットクラッカーが使われなかった分、マシだと思いましょう。ここがシベリアになってないということは、惑星全域に散布されたようでもなさそうですし」
何かスゲぇおっかねぇ単語が聞こえた気がするけど、聞かなかったことにしよ。何だよ、翻訳機の出してくる惑星粉砕機構って……何作ってんだ前文明人……。
それはさておき、実際にどっかじゃ核兵器が使われたみたいで、たまーに黒くてべた付くヤベー雨が降ってくるんだけどな。浴びすぎると放射能? 放射線? とにかく、どっちかで体の大事なナニカをやられてえらいことになる。
噂じゃタマナシになっちまうこともあるそうで、おっかねぇ限りだ。
「しかし、参ったな。今は小雨だが、こりゃキツくなるぞ。そんな臭いがする」
「天候予測衛星と接続できれば分かるんですが……いえ、ダメですね、雲が電波を弾いてきます。まさか、スクリーニング兵器まで使ったのですか?」
それが何かは分からないが、かつては世界を覆っていた、全ての人間が接続できたとか言う広域ネットを妨害するものなんだろうか。今ではネットなんてローカルか、千々に切断された孤立ネットくらいしか存在してないからな。
そんで、死ぬほど苦労して広域ネットとやらにアクセスしたら、野良不良AIにたこ殴りだ。前文明の知識が全て眠っているお宝の山とは聞くけれど、さて設計図だけ引っ張り出して何ができるってんだかね。
流石にそのために計算速度で勝てっこねぇAIと殴り合うのに命を賭けるのは、俺にはスクラップを漁るよりも部が悪い書けとしか思えねぇんだが。
「一旦塒に帰ろう。こっからだと街より近い」
「そうですね、私としても推奨します。対雨防護が必要かと」
「だから雨合羽なんて一枚しか持ってねぇよ……それも今さっき永遠に旅立ったところだ」
全財産持ち歩かなきゃ、いつパクられるか分かったもんじゃねぇけど、一旦落としたらこの様だから考え物だよなぁ。マジでカツラの買い取り値段交渉に気合い入れねぇと、商売の建て直しがきかねぇ。
たしかに俺はスカヴェンジャー様からお零れを貰っているウジ虫だけど、それでも、この世界で、この仕事で食ってきたってプライドはある。道端に空き缶置いて、慈悲が振ってくれるのを待つのは御免だ。
……まぁ、どうしてもヤバくなったら、慈善団体の炊き出しくらいには顔を出すかも知れねぇけど。
「しかしマスター、ここはなんですか? スクラップ置き場にしても随分と酷い……秩序もへったくれもない有様ですよ。何もかも、適当に積み上げてあるじゃないですか」
「あー? 本土を再開発するってんで、壊れたモンは片っ端から放り込んだって聞いたことがあんな。だから、何でも落ちてっから、俺らみたいな連中がクズ山つって有り難がってんだけど」
「ここを一体なんだと……」
大きく溜息を吐いたシャッテンフラウは、多分手があったら目頭を揉んでいただろう。あるいは、首を竦めていたかもしれない。
つってもなぁ、何か新しい物を建てるのは、壊れた物をどっかに纏めて棄てておく他ねぇべさ。で、海を汚しすぎるとよくねぇってんで、本土からちょっと離れた埋め立て島に全部放り込むってのは、俺的には合理だと思うんだが。
「多くの情報が戦争で散逸したのですね。大和共栄経済圏も、出雲重工も、サイト89も」
たまに大戦前から生きてるとかフカしてるヤツがいるけど、それでも何にも残んなかったんだから、文明喪失戦争ってのはマジで凄かったんだろうな。
煌びやかな戦闘用外骨格、無数の戦闘用自動人形、大量のドローン各種、どれもスクラップとしてここで部品が山ほど眠っている。こんだけ集めても勝利者が出ず、世界征服できなかった戦争だ。どんだけ悲惨だったのやら。
「多分、皇国の連中も知らねぇんじゃねぇかな」
「皇国? 現政権はそう名乗っているのですか?」
「ああ、オッサンは何つってたっけ……ああ、せんごふこーしょー? とかいう組織が国を名乗りだしたのが始まりらしいぜ」
「戦後予備復興庁、です。第24次中東戦争後に、世界規模の戦争が起こった際、事前に復興準備が行えるように組織された省庁ですよ。避難用アーコロジーやシェルターの造営、管理を主業務としていました。いわゆる、世界が終わるような戦争のあとにも、大和を残そうとした者達です」
ふーん、そんなのがあったのか。前文明人も一応、後始末のこと考えて戦争してたんか。ちょっと以外だ。
つっても、列島全体を支配し終えたのは、十年くらい前らしいけど。そういや、オッサンは兵隊やってた時だけは腹一杯食えたつってたな。俺も市民IDがあれば、スカヴェンジャーじゃなくて皇国軍に入りたいと思ったっけか。
「よし、ついた」
「これが、マスターの住処ですか」
「屋根も壁もある、立派だろ?」
俺の住処は、廃材の山に突っ込まれて垂直になった電車の残骸だ。傍目には分からないように針金やらを巻いて補強した残骸の上を渡り、二段目の下半分が開いたドアから体を潜り込ませる。
中を見れば、辛うじて残った座席がテーブルや棚代わりに使われており、移動用に中央からロープが一本垂れていた。そして、シートで蓋をした上の方に建築用防音シートを折りたたんで作ったハンモックが吊してある。
あの位置には拘ったんだ。万一下から侵入されても、上の車両連絡用通路から脱出できるからな。人間、寝てる時が一番無防備だから、ない頭を必死に捻ったわけだ。
「お前は軽いよなぁ」
「高性能機は小型軽量が基本ですから。まぁ、今は更なる脅威のダイエットを遂げていますが」
「胸から上以外全部なくすことをダイエット言うな」
荷物を一旦置いて、ロープ代わりのLANケーブルに繋いで口で咥える。流石に担いだまま懸垂上昇はしんどいから、あとで引っ張り上げるのだ。
そして、シャッテンフラウを担いだまま登り、テーブルにしている座席の背に腰を下ろした。少し軋んでいるが、ここも補強しているから根元からバキッと行くことはない。
……多分。
成果物を全部引っ張り上げてテーブルに並べてから、その傍らにシャッテンフラウを凭れかけさせた。
そして、ふと気付く。
「ちょっと待ってろ」
「マスター、何か?」
えーと、この辺にたしか……ああ、あった。
雑多な当面使う予定のない、けどいつか使えるかもしれない物入れの中にあったパーカーを引っ張り出した。俺には小さすぎて着られなかったけど、裂いて包帯にくらいはできるかと思って取っといたんだ。
まぁ、鳩尾から上だけつっても全裸は可哀想だからな。とりあえず着せてやると、彼女は目をぱちくりさせた。
「お、ちょっとブカいけど合ってんな。腹の方に詰め物やれば、手足なくした人間みてぇだ」
「マスター……あの」
「何、礼は要らねぇよ。俺はお前の主人だろ? 服くらい用意しなきゃ……」
「いえ、凄く屈辱的な気分でして」
ナンデ!? と驚いて振り向けば、彼女はジトッとした目で胸元のロゴを見ていた。
そこには大東亜重工と、妙に角張った、この企業が特有で使うフォントの癖を知らないと読みづらい社名とロゴが書いてある。
「シェア争いしていた企業の販促パーカーはちょっと……」
「ある物しかないんだから我慢しなさい!!」
いやまぁ、ありものをくれてやっただけだし、当然のことではあるから感謝しろとまでは言わんけどさ。
何もそんな細かいことで文句言わなくてもよくね…………?
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