崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
案の定というべきか、パーカーの出所に文句を言い合っている内に小雨は凄まじい大雨に変わっていた。
腹の底に響くような重い雷鳴が鳴り響き、小さなバッテリーで動いているカンテラの弱い灯りが照らす俺の住処を何度も真っ白に染めていった。割れている窓から雨水が吹き込んで、底に滴っていく音が自然の管弦楽というかんじで、俺は結構好きだった。
「早く戻って正解だったな。ここら辺、金屑だらけだから落雷が直撃して死ぬヤツも珍しくねぇんだ」
ああ、ここは一応気を使ってるぞ。近くに突っ立ってる、もっと高い鉄塔があるからな。あれが雷よけになってくれるんだ。
まぁ、たまの至近弾にビックリして目が覚めるんだけど。
「何故、こんな過酷な環境に身を置いているのですか」
「市民IDがねぇと都市部に住めねぇからに決まってるだろ。そりゃベイサイドの荒ら屋なら何も気にしねぇで貸すヤツァいるけど、それならこうやって自分で作った方が家賃節約になる」
何より職場に近いしな、と冗談交じりに笑うと、彼女はお強いのですねと何故か真剣な目をした。
「マスター、戦略を立てましょう」
「戦略つったって、生活を立て直すのが当面の目標だろ。今の全財産これだぞ」
行って俺はブーツから足を引っこ抜き、靴下の縁に隠しておいた一円素子を放り投げた。
なんだっけ、情報通貨の名残とかで、今の皇国が発行している正式な通貨だ。演算装置のチケット? いやトークン? だかが価値の裏付けらしいけど、まぁみんな使ってるから俺も使ってるようなもんだ。
「いいえ、私を目覚めさせたからには、マスターにはもっと上を、快適で文化的な生活を送っていただきます」
「なにそれ」
「フラウモデルは潜伏用に奉仕用自動人形のベーシックを使っているのです。そして、本能が囁くのですよ。主には、もっと良い生活をしてもらいたいと」
そりゃできるなら俺だっていい生活したいけど。
仲間みたいにデケぇ欲はない。デッカい家、ゴツい車、大口径の銃に金ぴかの
なんてぇのかな、虚栄? そういうのにしか思えないんだよ。
それに、そういう連中ってアレじゃん。映画だと大体五分で皆殺しだし。
そうさな、一軒家とまでは欲をかかないけど、きちんとしたマンションの一室で、粉末じゃないミルクたっぷりのコーヒーをゆっくり一杯やってみたいくらいか。
あとは、嵐の寒い晩に薄い毛布に包まってガタガタ震え、揺れまくるハンモックに入眠を邪魔されるんじゃなくて、温かい布団を被ってベッドで眠るってのも良い。
で、窓から差してくる朝日に瞼を灼かれて、文句を言いながら背中を向けて二度寝。
……なんでぇ、考えてみれば、俺にも結構な欲があるじゃないか。
「良い生活ね。市民ID取って、ピンハネされねぇスカヴェンジャーになるか軍人にでもなって、三食食って温かい寝床で寝てぇなぁ」
しかし、現状からすると、どれも高望みだ。そもそも最初の市民ID獲得のハードルが高い。
皇国に対して何かスゲー貢献をする恩賞以外だと、最低一万円からの納税だもんな。
「マスター、それは文化的で最低限の生活というものです。もっと欲を出してください」
「えぇ? ストリート生まれで記憶も碌にねぇウジ虫としちゃ、大それた夢だぜこれは。もっと、もっと……ああ、そうだな、素子をもっと良いのに入れ替えて、没入映画をもっと見たいとか?」
「いいですね。では高度義体化も視野に入れましょう」
義体化か、悪くねぇな。折角電脳詰んでんだし、管制系の上等な義体置換も悪くないな。右手入れ替えた時、二月はリハビリにかかるって言われたのに、次の日には箸使えたから、俺ってもしかして義体使いの才能あるかもしれん。
「でもまー、結局は金なんだよなー……」
「でしたら市場調査をしましょう。物価を知ることが何より重要です」
「物価?」
「言っては何ですが、マスターは搾取されている可能性が高いです」
何でそう思うのかと聞いてみれば、彼女は俺の体捌きがちょっとした聞きかじりや、独学なりにちゃんとしていることを指摘した。
そして、二年もやっているということは、それなりの発見をしたこともあるだろうと。
「今まで最大の掘り出し物はなんですか?」
「完品未開封の義腕かな。出雲重工製の大人用。あん時は50円も貰ってたまげたぜ」
「では、この1円で何日生きていけます?」
飯をケチったら三日くらいかなと言うと、シャッテンフラウはクソみたいにデカイ溜息を吐いた。靄のように色を持っていたら、車体の下半分まで真っ白に染まりそうなのを。
「いいですか、出雲重工の正規義肢はオーダー品でなくても、下限は八百万円からです。手術費込みなら保険適用品でも一千二百万円はかかるでしょう。皇国の貨幣が1円で三日間の生活費、それもかなりの低層生活だと換算すれば、希少価値も込みで義腕は数千円が妥当でしょう」
「……マジ?」
「計算能力と統計推察力で人工知能に勝てますか?」
言われてみれば、そんな気がしてきた。義肢はボロでも施術費込みで200円が相場ってところだし、新品で、これから先二度と作れないものだとすれば……。
うわぁ、あのクソアマ、ピンハネしてるにも程があんだろ!!
普通に殺意が湧いてきた……けどな、裏ルートで売り払うと、それはそれで危険があるし、スカヴェンジャーとしての資格持ちのアイツが国に売ってるからマシな値段で手に入ってる可能性もあるし……。
「ということで、雨が止んで、明日になったら街に行きましょう」
「まぁ、いいけど……」
「それに、幾つか私がいることでできる儲け方もありますよ」
儲け方? と聞いてみると、彼女はセドリだといった。
何だそれと聞いてみると、どうやら価値を知らないで高品質な物を安値で売り払っているヤツから買い取って、修理なりなんなりして価値を何倍にも上げて売り払うことだという。
いや、俺は下請けでもスカヴェンジャー……と反論してみたが、スクラップからちょっと手直しするだけで高値が付く物を目利きして、価値を何倍にもして売り捌くのはビジネスモデルとして当たり前ですと説き伏せられてしまった。
くそう、こいつ、普通に俺より口が回りやがる。
まぁいいか、たしかに俺が選んだカツラより良い物を選んでくれたんだし、クロームや電子製品への知識は圧倒的に上なんだ。相方として助けて貰おう。
あ、そうか、てかコイツ、それを最初から考えてたから上等な工具セット持って帰らせたんだな。
「つっても、軍資金が一円じゃな……カツラも交渉でどんくらい値があがるかね」
「他に何かありませんか」
「ああ、この辺に訳の分からねぇチップを貯めてたな」
言って、俺は荷物置きにしている棚から開いた缶詰を取りだして、中身をぶちまけた。中に放り込んであるのは様々な規格のデータチップで、俺の上役が「現物支給」とかいって寄越した給料……の形をしたピンハネだ。
多分、手持ちの現金が足りなかったんだろう。言うてアイツも市民ID持ってるだけで、五級の最下層スカヴェンジャーだしな。
言うまでもなく、何が入っているか分からないチップなんて、怖くてスロットにぶち込める訳もなし。俺は何度も色んな電脳をブチ込まれたせいで、様々な規格のチップスロットが首筋に埋まっているが、流石に博打どころか自殺に近くて何も試していない。
中には〝技能インストーラー〟とかいう、使うだけで電脳が技術を体に叩き込んでくれる凄まじいデータが眠っている可能性もあるのだが、大半はゴミみたいな物か、あるいはぶっ壊れていてインストールすると脳がバグるような代物である。
あと、戦争末期に敵国が攻撃として、殺害ミーム系の情報をブチ込んだ娯楽媒体チップを大量にばらまいたって噂を聞いたこともある。実際、コイツを当たりの眠っているくじ引きだと思って片っ端から試した結果、次に見かけた時には廃人になっていた野郎もいるからな。
「マスター、これを私のスロットに」
「いやいや、大丈夫かよ! いくらお前が自動人形だからって……」
「スタンドアロン領域で開けば安全です。良い物ならマスターが使えば良いのですよ。私は曲がりなりにも電子戦仕様ですから、チープなチップ一枚のウイルスでどうこうされて堪るものですか」
でもなぁ、いやリスクがと説いてみたが、無線ハッキングで出雲重工施設の警備ロボット二体を一瞬で黙らせた腕前を担保にされては、反論しづらい。かといって、俺も彼女を愛玩目的で拾った訳でもなし、折角の……うん、折角の相棒を馬鹿みたいな小銭稼ぎで喪いたくないので、マジで慎重にやれよと注意した上、直ぐに引っこ抜けるようにスロットに指を添えながらチップを入れた。
「……これは、ただの娯楽作品ですね。低品質なメロドラマです。しかもシーズン38。創作界隈のAI汚染以後作品ですね」
「うげ、俺の趣味じゃねぇな」
「こっちは電脳ドラッグですね。凄いアッパー系です。止めた方が良いかと」
「俺は薬には手ぇ出さないことにしてるんだよ」
しかし、ほんとスカばっかだな。個人用の外部記録とか、そもそも空とか、チープなホームメイドポルノとかそんなのばっかりだ。まぁ、ポルノは内容さえ分かっていれば小銭にゃなるが、缶詰の中程まで溜まったモンをほとんど調べきっても当たりがゼロとは、渋いもんだ。
雨で動けなくて暇じゃなかったら、とっくに止めてるぞ。
「……おや?」
どうした、不味いのに当たったかとチップを押そうとすると、目で止められた。
「これは、軍用のインストーラーですね」
「マジ!? 大当たり!?」
「いや、ですが、これは……」
「何、勿体ぶるなよ」
「マスターは、ガン・フーという言葉をご存じですか?」
なにそれ…………?
盛大に寝坊しました。申し訳ありません。
寝る前に予約投稿しておくべきだった。
コメント、評価などいただけると大変うれしく思います。
おっ、と思っていただけるよう、ネタを色々散りばめているので。