崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
仕事をするようになって覚えた記憶。
銃は横に向けるな。サイトが覗けなくなる。下手するとアッチアチの薬莢が手前の顔向かって飛んで来る。
親指はちゃんと握り込め。そうじゃないとブローバックしたスライドで肉が裂けるか、下手すりゃ曲がらない方向に指が向く。
何度も入れ替えられた、電脳に入っていた映画で学んできた銃の知識は大半が役に立たなかった。俺が憧れた、黒人の主人公が銃を横に寝かせて撃つ格好良いシーンは、何の
実際、一回真似して怪我したしな。オッサンに叱られるより、腹抱えて笑われたのがマジでキツかった。
しかし、シャッテンフラウは言う。格好良いポーズを付けながら銃を撃つことが、近距離戦を制することになると。
「ですから、格好良いポーズではありません。統計学です」
「統計ってアレだろ? 合計したらコレが幾ら売れたから、需要がどうこう……」
「統計は全てに適応できるんですよ。ああ、もう、面倒ですね。マスター、直結してください」
何で俺が聞き分けの悪い子みたいな扱いを受けているんだ? と思いつつ、首筋からポートを伸ばしてシャッテンフラウと直結した。
しかし、コイツのエントランスはえらくクリアだな。パソコンとかコンソールとかに潜ったような、ケミカルだったりエグくて苦い味が――多分、神系の誤作動でそう感じるんだろう――しない。
昔、ジュースと思って呷って酷い目に遭った、口腔洗浄液みたいな爽やかさがある。
「今、デモを流します。マスター、ポートを……」
え? と呟いた彼女は、目をキョロキョロさせている。何か考えごとをして、視神経が連動してしまっているのだろうか。
「全ポートが開放されてる!? ですが、マスターには遠隔でアクセスできませんが!?」
「ポートが何か知らんけど、ニューロンに固着したマイクロマシンのせいじゃないか? そのせいで俺の脳味噌、バッキバキで外部記憶にアクセスできねぇんだ」
「て、天然のブラックウォール?」
何に驚愕しているかは分からないが、自動人形でも露骨にびっくりすることってあるんだ。いや、こいつの疑似感情系が滅茶苦茶高性能なだけかもしれんけど。
「不便ですが、これは電子戦において凄まじいアドバンテージでもありますね……」
「外から脳を触れないなんて、ウェットな人間と変わらねぇだろ」
「電脳化して、その特性を持っているのが凄いんですよ」
分からない人だと呆れた顔をされたが、専門知識の差で語っても仕方がないと諦めでもしかたのか。没入型拡張現実に引き込まれる感覚がして、気が付けば俺の意識は広大にして果てのない真っ白な空間にいた。
ああ、知っている。疑似体験型没入視聴映画の、慣らし運転でやらされる感覚と似ていた。
だが、違うのは、指示が飛んでくる代わりに一人の男が前に立っていることだった。
「ようこそ、ガン・フー・インストラクション、その第一歩に」
目の前にいたのは、ありがちな綺麗なねーちゃんではなく、黒いシャツに黒いスーツ、オマケにネクタイまで黒いの胡散臭いオッサンだ。広い額、濃い眉の西方人で、後ろに撫で付けてる黒髪も相まって、実に曲者感がある。しかも、絶妙な小太り具合で全く強そうに見えない。
「さて、まずガン・フーの理念から説明しよう」
オッサンは後ろ手に手を組んで、俺の前をゆっくりと往復しつつ言った。
ガン・フーというのは膨大な銃撃戦のデータ蓄積から生まれた、いわゆる銃を用いた白兵戦闘の格闘メソッドであるらしい。
敵対者の立ち位置、構え、銃口の向き、それらの莫大なデータを集積して分類した時、統計学的に有利なポジショニングが計算できるようになるという。
そして、それに従った自らの立ち位置、構えを工夫することによって、敵に適切かつ戦術的に重大なダメージを与えられるようになる……だ、そうだ。
統計から弾道を読んで危害箇所を計算し、事前に回避。そして、敵の最も脆弱な場所を読んで弾丸を叩き込むとで、生身の人間が携行する武器でも敵に大ダメージを与える。この理屈によれば、ガン・フーを習得すれば脆弱部を狙うことで攻撃能力は〝少なくとも〟120%向上し、生存能力は230%向上する、オッサンは自信満々に言い切った。
何と言うか、アレだな、電脳化した人間特有の戦術みたいだ。普通の人間には背後の敵は見えないし、一瞬で配置から幾何学を読んで、適切な攻撃と防御を両立した姿勢は取れない。
つまるところ、演算能力でのゴリ押しじゃない?
「演舞を見せよう」
胡散臭いオッサンが指を立てながら俺の目を見て言うと、真っ白な空間が途端に廃工場に変わった。
そして、ぞろぞろと薄汚い格好をした、突撃小銃で武装した連中が現れた。
「これが、ガン・フーを極めるということだ」
オッサンのスーツ、その両袖から拳銃が飛び出すのと、敵が動き出すのは同時。
黒い姿がブレるように片膝を突き、その頭上を弾丸がすり抜けていく。両腕は中二階に陣取っていた敵を向き、一発ずつブッ放すことで頭を吹き飛ばしていた。
それから右足を伸ばすことでコンパスのように左向きに半回転しつつ、銃を二つ前に向けて背面にいた敵二人を射殺。流れるように位置が変わったことで、敵の照準が全く追っついていない。
今度は、そのまま撓めた足を解き放って空中に飛び上がったかと思えば、見事に半回転して後ろを向きつつ残った中二階の敵を殲滅。言うまでもなく、空中でコマのように回った動きに銃口は追随できない。
更に勢いを利用して二階前転したかと思えば、そのまま地面についた手を後方に向け、見えていないはずの地面にいた敵二人を撃破。
そこから流れるように立ち上がって半身になりつつ、伸ばした右手で左の柱から頭を出していた敵を射殺して、腰に添えるように構えた銃で右の柱に隠れようとしていた敵の首を撃ち抜く。
この間、ほんの十秒ちょっと。
敵は言うまでもなくバンバカアサルトライフルを撃ちまくっており、人数からして放たれた球数は百発を下らない。
だが、その一発たりとてスーツのオッサンの裾さえ汚すことができなかった。
銃を握った手を互い違いに触れあわせ、胸の前で構えて緩く足を開いている姿勢は、残心というヤツだろう。映画の殺陣シーンで見たことがある。
「これが、ガン・フーだ。どうだね、まるで踊るように敵を屠る。全て統計と理論だった射撃姿勢が成せる業だ」
「す、すげぇ……」
「君にも、これを習得して貰う」
ツカツカと歩み寄って来たオッサンは、俺の手を取って銃を押しつけてきた。拡張現実だということは分かっていても、有り触れたFCS直結さえしていない銃が、まるで世界全てを破壊できる超兵器のように感じられる。
「君もクラリックを目指して努力したまえ」
「クラリ……聖職者?」
翻訳機が意味を訳してくれたが、何でガン・フーを習得した人間が聖職者なんだよ。
「ガン・フーの神髄は禅に似ている。闘争の際は全神経を戦いに傾け、余計なことは考えない。ただ、効率的に排除すべき敵、それを撃破し得る最も脆弱な部位、そして安全な一の占位を一心に考える。この精神の崇高さから、特に秀でた者ををクラリックと呼ぶ」
「はぁ……」
「以上でインストラクション、そのイントロを終了する。次のステップで待っている」
オッサンが微笑むと同時に、視界は現実に返ってきた。
ダイブ型の娯楽を楽しんだ後の酔いや、現実とのラグ、体のブレが一切ない。
「私が中継して、そこら辺はちゃんとコーディングしておきましたよ」
「すげぇな。てか、思考読んだ?」
「マスターの思考は全く読めませんよ。ただ、そういう顔をしておいででした。で、やる気は出ましたか?」
問われて、荒れ狂う天を仰ぎ見る。まだ嵐の勢いは衰えることを知らず、時間はゆっくりとあるようだ。
「ぶっ続けでゲームやってゲロ吐いてるヤツもいるんだ。やってやるさ」
「では、始めましょう」
シャッテンフラウの宣言に従って、俺は初級インストラクションに潜り込んだ…………。
まぁ、要するにガン=カタなのですが、あんまりそのままだと怒られそうなので、多くのTRPGで採用されているガン・フーを選びました。
しかし、生身で統計学的に幾何学に配置した敵の最適撃破目標を弾き出して、弾が来ない場所に身を送って、どんな神経してたらできるんでしょうか?
本日は、あと17:00に更新予定です。祝日だからね!