崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
翌朝、雨は止んでいたが、いつも通りの曇天だった。
太陽光
今日の気温はセンサーによれば14度。寒くもなく熱くもなく。
まぁ、今が七月という点に目を瞑ればだが。
「おはよう、フラウ」
「おはようございます、マスター。気候変動は想定よりマシですね」
これでマシ? 俺が見た夏を舞台にした映画は、突き抜けるような青空に、伸び伸びと積み重なった入道雲。それからうだるような暑さがセットだったんだが。あと、セミとか言う生物が元気だったはずだ。
「太陽光スクリーンが本気で動いていたら、こんなものでは済みませんよ。列島平野部はシベリア化していてもおかしくありません。平均気温がマイナスの地獄です」
「ああ、それか。皇国が何かやってんだと。ロケット打ち上げて、対抗剤をどうこうしてるとか」
「戦後にクリーナーが完成したのですか? いえ、なら今の気温は最低でも25度はあるはず。不完全な物を使って、辛うじて耐えているといったところでしょうか」
「焼け石に水でも、やらないよりマシなんじゃね。嫌だぜ、水が凍らない日が今日は暖けぇなぁなんて言う世界」
大きく欠伸をし、枕元に近い座席に置いてあったボトルを手に取った。口腔抗菌ナノマシン入りのガムで、一瓶三円とお高いが、虫歯や歯周病で地獄を見るよりマシだと思って買っている。朝に一粒、寝る前に一粒噛むだけで歯痛と無縁でいられるのはいいこった。
それもこれも、アーコロジーが生産設備として稼働していることと、プラントと呼ばれる前文明の遺失技術のおかげだ。
巨大な水耕栽培設備とクリーンな環境を提供する地下巨大建築から吐き出される農作物は、辛うじて俺達が買える値段で食い物を供給し、政府に接収された無人工場は材料さえ放り込めば戦前と同じクオリティの商品を供給する。
どちらかが足りていなかったら、列島に国という組織が生まれることはなかったかもしれん。文明が崩壊して、限りある資源を取り合って何もかもがが崩壊、映画によくある暴力が全てを支配するポストアポカリプスになっていてもおかしくないな。
「いや、フラウ、お前さんからすれば今の皇国は普通にポストアポカリプスか」
「仰る通りですね。社会インフラは比較になりませんし、セーフティーネットは崩壊しています。どうせ富裕層は安全な所を独占しているのでしょう」
「アタリ。オオサカ中央部はID持ちの市民様しか入れねぇし、富裕層は太平洋上のギガフロートだ。あとはタカツキとかセッツ・アーコロジーの贅沢な居住区画かね」
世界二位の企業経済圏の成れの果てがコレですか……と、その企業の持ち得る技術を結晶化させた自動人形が呆れているのは、何と言うか皮肉が利いてて面白いな。
「それでも、辛うじて人間が生きていける分マシだろ。ボロ車修理して、水を奪い合う荒野より幾らか生きやすいぜ」
「そうですね、やり過ぎて全球凍結状態にあるよりはずっと」
肌寒さを誤魔化すためにインナーを二枚着込み、分厚いジャケットを羽織る。ダクトテープで破れた箇所を補修しまくったフライトジャケットは、残骸から見つけた前文明人の置き土産だ。
都市迷彩野戦服の裾に靴下をねじ込んで、ブーツへと足を突っ込む。コイツは揃いで十円もした、借金を除けば人生で一番高い買い物だ。オッサンが五月蠅かったんだよな、足に合うサイズの軍用ブーツを買えって。
実際、正しいアドバイスだったよ。一年半履いても草臥れやしないし、靴底の鉄板に守られて足を怪我したこともない。
あと、這い蹲ったヤツの頭を踏み砕くのにも最適だ。
「ん? NOシグナル? なんだこりゃ」
枕の下に敷いていた45口径を手に取れば、NOウェポンと表示されていた視界の端っこに映っている表示が変わった。
しかも、赤い警告がポップして、法令非適合品の危険性があります、なんて目に悪い明滅をしやがる。
「FCSに対応していない銃なので、管制系が認識できていないんですよ。戦前では軍用や警備用の火器管制ロックが効かない銃は非合法だったんですから」
「そう言われても仕方ねぇだろ。発掘品の銃はお高いんだ。これどうやったら消えんだ」
「ちょっと直結してください。正規の方法じゃ黙らせられないので」
コードを繋ぐと、喧しい警告は静かになった。文明が崩壊した後のことを考えて作れとは言わんけど、前文明ってのは色々と硬っ苦しかったんだな。
いや、銃を一般人が持たなくても安全だった、そしてコイツが未だに
念のためにマガジンを抜いて弾が満タン……ではなく、六発詰まっていることを確認した。弾倉には七発入るんだけど、造りが甘いからフル装填すると排莢が上手く行かなくてジャムるんだよな。
何が起こっても対応できるよう、チェンバーには常に弾を詰めておく。暴発の危険がどうこう言われるが、装填で一秒取られる方が命に響く。なに、コイツは設計を簡易化してグリップセーフティーは排除されたけど、ちゃんと安全装置があるんだ。そうそう手前の足を傷付けやしないさ。
ベルトで腰の裏に通せる革のホルスターに――拾いものなんで若干キツいが――ねじ込んで、予備弾倉が同じく帯革に通したポーチに二本あることを確認する。同じポケットには、安物のフォールディングナイフもしまってあった。
そういやオッサン、壊れやすいからフルタングの良いのを買えってずっと言ってたな。
「あ、コイツどうすっかな……」
それから、枕元においてあったトランクを手に取る。展開して握るとFCSと連携し、視界にターゲットサイトが映る。よく見れば、さっき45口径を手にした位置に弾数と弾種が表示されていた。至れり尽くせりだな。
ただ、平和だった世界じゃ、この形が偽装だったんだろうが、今だと逆に目立ちすぎる。現金素子が詰まっていると勘違いされて襲われちゃ堪ったもんじゃねぇぞ。
「なぁ、フラウ。何か社外品につき自社製品をお遣いくださいとか警告でるんだけど」
「ただの企業体質ですよ。二度と表示しないにチェックを入れてポップアップを消しておいてください」
「これだから
「外し方をガイドします。工具箱を」
指示通りに外殻を外すと、随分とスッキリしてくれた。照準機器が詰まっていた上部はあんまり変わらなかったが、下部はほとんどが排莢を受け止める部分だったようでかなりスリムアップしたな。一応、携行することも考えてか、スリングフックを通す穴が後方に一個開いていた。
まぁ、そんな上等な物は持っていないので、針金をねじ込んで輪っかを作り、頑丈そうなLANケーブルでシングルポイントスリングをデッチ上げた。歩く時にちょいとブラつきそうだが、一番扱いが楽で気に入ってるんだよな。
「マスター、工具箱とカツラも持って行くのですか?」
どちらも腰にぶら下げる準備をしていると、フラウは不思議そうに問うた。
「この家のセキュリティなんてあってねぇようなもんだし、価値のある物は持ち歩きたいんだよ」
「……早く稼いで、ちゃんとした所に住みましょうね」
「雨風凌げる分、俺は恵まれてるんだぜ? この程度の住処でも、奪いに来る輩はいるんだからよ」
贅沢を言う相方を背負い、さて行くかとロープに手をかけたところ、一度止められた。
「マスター、市中では私を人間として扱っていただいて良いですか?」
「いいけど……何で?」
「私自体を狙われると困ります。この義眼もフェイスプレートも人間用ですよ。本来はセーフティが働いて、自動人形は装備できません」
そう言えばそうだった。なんだっけ、暗殺用の
こいつは人形と人間用、部品の企画が明確に違う理由が何でかオッサンに聞いた時に教えられて、覚えている。
じゃあ、なんでコイツはそれができるんだって話だが……自己紹介の時に物騒な単語が並びまくってたし、専用の一部屋与えられて保管されていたくらいだから、そんなこともあるか。
それに、今や非合法もへったくれもないもんな。何せ条約自体が世界ごと吹っ飛んだんだから。
「つまり、私の価値を知っている人間が知れば、マスターを殺して奪うだけの理由になるだけの筐体なのですよ、これは」
「オーケー、分かった。じゃあ、お前は仕事にトチって手足が吹っ飛んで、死にかけを助けてやったってことにするわ」
「クソ間抜けかNOOB女の誹りは些か業腹ですが、それが丸いですね。では、昨日助けられたということで」
「……ってことは、腹がスッカスカだと違和感あるな。何か詰めて、ちゃんと胸から下がある感じにしとくか」
一旦フラウを下ろし、着替えやらタオルやらを畳み、それっぽく繕った。
まぁ、シルエットだけみれば、腰から下をやられた義体ユーザーっぽいだろう。
「ちっと欠けてる部分が多めに見えるけど……まぁ、大丈夫……かな?」
「マスター、人は思うより他人のことなんて見てませんよ」
「いや、手足なくて人に背負われてるようなヤツ、見るなってのが無理だろ」
俺は至極真面なツッコミをして、もうちょっと誤魔化しやすい偽装を考えるべきだと心の中のタスクリストに書き込んだ…………。
核の冬ではなく人工的な気象兵器による冬で酷い目に遭っている世界になりました。
つまり、地上で米は育ちません(絶望)