どうにかして黒歴史を無かったことにしなければならない聖女さまの奮闘記   作:悪役令嬢物推進委員会会長

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凄く久しぶりに文章を書いてるから中々上手く書けなくて困ってしまいます。
慣れてきたらもう少し早めに更新してみたい。




どちらかと言うと私の方が被害者じゃなくって?

 己の黒歴史に苛まれ身悶えし続けているステラ(14歳、現在幼児退行気味、ストレスによる過食癖、慢性的寝不足)であったが何も最初から性格が歪んでいた訳ではない。

 少しだけ過去を遡ろう。

 

 宗教国家メディケント王国の貴族たる伯爵家マグヌオプス家の次女として生を受けた彼女は両親と4歳の姉と7歳の兄の5人家族の末娘として可愛がられ甘やかされ育った。

 明るく活発で人の言うことはあんまり聞かない、欲しがるものは大体なんでも買って貰えて我慢という言葉とは無縁の生活である。我儘放題な小さなお姫様と言った所か。

 とはいえ子どもらしい我儘の範疇に留まっていた、目の前でお菓子をチラつかせたり優しく諭されればコロっと意見を変える程度のチョロさである。小さなお姫様の小さな世界はいつも幸福で満ちていた。

 そんな彼女の精神が歪んだ切っ掛けの一つが5歳の時に行われた魔力検査の日だ。

 

『なんと!この歳でこれ程の魔力を持っておられるとは、お嬢様は天才であらせられますな』

『おお!そうか、凄いぞステラ!お前は我が家の希望の星だ!!』

『すごいー?』

『そうだ、お前ならば英雄にもなれる!お前が我らを導く光となるのだ!』

『わー!キャハハ、おとうさまくるしぃ〜』

 

 当時、貴族としては平均よりやや下回る魔力しか持って居ない父親の悩みは家門の後継者候補である長男の魔力が己よりも明らかに弱い事であった。

 祖父の代からすれば半減したと言っても過言では無い。貴族が貴族としての特権を享受出来ているのはそのものズバリ平民とは隔絶した魔法の能力、それによる魔獣の殲滅にこそある。

 人類の生存圏を確保するという高貴で命懸けの仕事。

 己の代はまだ問題は無い、息子の代もまだなんとでもなる。だがこのまま子孫の魔力が落ち続けていく事があれば何処かで他家の血を入れねばならず、そうなれば引き換えに事業や権利を売却したり最悪は領地を維持する事もままならなくなるかも知れない。

 力こそ全ての貴族社会において力が無いなどとは笑い話にすらならない、そんな中で歴代頭首よりも抜きん出た魔力を持つ末娘の存在は一縷の希望であった。

 

『今日からステラを次期頭首として扱う事とする、お前たちも兄や姉とはいえ言葉遣いや態度を改める様に。よいな?』

『はい……畏まりました父上』

『はい、お父様』

 

 家を継ぐ者はただ魔力の優劣によって定められる。

 末娘であるステラはこの日から次期後継者として正式に扱われ兄や姉よりも上の立場として遇される事になった。昨日までとは打って変わった世界、それまでの可愛がりとは次元の違う溺愛を受ける事になった子どもの気持ちが分かるだろうか?

 当然それはもう調子に乗った。

 今までは自分を小さな子どもとしてしか扱わなかった周囲の者達が傅いて機嫌を伺って来るのだ無理もない。とはいえ家族の事は好きだったので無茶な押し付けなどはしなかったが、その分の無茶振りは立場的に断ることの出来ない使用人たちへと向けられていく。

 何人もの使用人たちが無邪気な悪意で疲弊し、去っていっても誰も咎めはしなかった。小さなお姫様の小さな世界は、徐々に大きく……歪に広がっていく。

 

『なんでこんな事も出来ないのおねえさま?ほら、こうやるんだよ。ね?』

『ごめんなさいステラ、私には難しいの』

『なんで!?もう、わたしの言う通りにやってよ!こうだよ、こう!』

『ごめんなさい……』

 

 魔力は弱いもののセンスだけはあった兄と違い平民よりも少しだけ強い魔力しか無く、魔法の才もからっきしな姉ルーナはこの頃から露骨に家族からも使用人達からも侮られ始めた。

 父親からは少しは妹を見習えないのかとため息混じりに見下げられ、母親からは必要以上に庇われ余計に周囲からの反感を買った、自分より優秀な末の妹への不満や劣等感を誰かに向けるしか無かった未熟な兄からは邪険に扱われ家の中で孤立しつつあった。

 

 それでもステラにとっては大好きなお姉様に変わりはなく、落ち込む姿を子どもながらに心配し良かれと思って魔法を教えていた。褒められれば嬉しいのだから、こうすればみんなもお姉様を褒めてくれるに違いない。そんな純粋な願いだった。

 しかしいつまで経っても一向に上達せず、理由を聞いても謝るばかり。なんでこんな簡単なことが出来ないのかというもどかしさからか何時しか自分まで辛く当たり益々肩身を狭くしながら謝罪してくる負の循環に陥っていった。

 そんな中、ある日ついうっかり制御を謝って怪我をさせてしまう。

 

『あ、おねえさま……ごめ』

『ごめんなさいステラ、私が不器用だから。許して、あなたの言う通りに出来ない私が悪いの。ごめんなさい、ごめんなさい』

『……え?』

 

 にも関わらず姉は文句も言わず怒りもせず、ひたすらごめんなさいと謝ってくる。そんな姿に……胸の内に昏い感情を覚えた。周囲の反応も似た様な物だった、また鈍臭い姉が迷惑を掛けて居るのかと誰一人庇わず表立ってステラのミスを責めるものは誰も居ない。

 

 これが2つ目の切っ掛け。

 

 何をしても叱られない、唯一それが可能な立場にあった父親さえも悪い部分は無視し誉めそやすばかり。魔法に関して天才であり家族どころか他貴族の者たちからも讃えられる環境、同年代の子どもは無論歳上の少年や少女達と競い合っても一度として劣ることは無かった。

 力さえあれば何もかもが許される貴族社会において、少女は幼いながらに明確な強者の側であった。小さなお姫様の小さな世界で少女は何処までも特別な存在であり続けた。

 そして5年後、最大の切っ掛け……その始まりの日。

 

『神よりの信託が降りました!この方こそ正しく今代の聖女様で在らせられます』

『聖女って、なに?』

『おお……おお、神よ感謝申し上げます』

『聖女様万歳!』

『『『聖女様万歳!!!』』』

 

 10歳を迎えた貴族の子女へと与えられる洗礼の儀式。

 気乗りしない娘を何とか宥めその場へと立たせた父親は、大神官からの宣言を受けあまりの幸福感にその場で床に膝を突き両の手を天高く掲げて神へと感謝の祈りを捧げた。

 その場に参列していた全ての信徒達や王侯貴族達までもがそれに倣い同じ様に神への祈りと、凡そ80年振りとなる聖女の誕生に喝采する。そんな中、全ての出来事の中心であり主役である当の本人だけは周囲が何をそんなに喜んでいるのかサッパリ分からず首を傾げていた。

 

 曰く、聖なる者。

 

 曰く、救いを齎す者。

 

 曰く、神威の代行者。

 

 曰く───

 

 人類史に幾度となく刻まれた躍進の時代に現れその先鋒を担った戦乙女たち、数多ある呼称の中で今は“聖女”と統一して呼称される特別な存在。

 存在そのものが神が人々を見捨てていない証とされ、神の代理人として既存の枠組みを超え国ではなく人類の守護者にして絶対的な支配者として戴冠する事になる。

 新たなる聖女の誕生と戴冠式の報せが発布され、その儀式を見る為に国中は元より諸国外からも多くの人間が王都へと押し寄せた。

 

 歴代聖女へと伝承されてきた聖杖を大神官により手渡され国王から権力の証として冠を捧げられた、万雷の拍手に包まれながらやおら杖を掲げ眩い光を放ち民への祝福を行う。聖なる光に身体を包まれ僅かな怪我や軽い病気の者は立ち所に、重体の者にさえ活力を与える奇跡を齎した。

 感動に打ち震える者たちへと聖女は高らかに宣言する。

 

『すべての国民の皆さまへと宣言いたします、わたくしステラ・ルミナリアは聖女としてこの国を護り導いていくことを誓います』

『聖女様万歳!』

『聖女様万歳!!』

『聖女様万歳!!!』

 

 こうして公式に聖女として認定されたステラはルミナリアの洗礼名と星辰の聖女という号を与えられこの世の頂点へと登り詰めた。同時に、本来なら15歳を迎えて初めて参戦する事を許可される魔獣の殲滅戦……その最前線へと派遣されることが決まった。

 本来なら万人からなる騎士や優れた力を持つ貴族たちを100人集めて尚も命懸けとなるその戦場に、護衛の僅かな聖騎士だけを伴って。本来なら自殺行為に等しい数的差だ。しかし聖杖をかざし地平線を真っ黒に染める大群へと向けて放たれたたった一つの魔法が瞬時に戦いの趨勢を決めた。

 

 聖女として覚醒した魔力は既に人の限界を超越していた、その一撃は誇張抜きに天を切り裂き世界は光に包まれる。膨大な光に反射的に目を瞑っていた聖騎士たちの目がゆっくりと、徐々に驚愕と共に見開かれる。

 数える事すら出来なかった魔物の大半は跡形もなく消滅し、運良く生き残った者たちも半死半生で原型を僅かに留めているだけで無様にのたうち回っている。

 

『奇跡だ……』

『これが、聖女様のお力、なのか』

『凄すぎる……』

『ああ、神よ!感謝申し上げます!!』

 

 誰もが興奮冷めやらぬ表情で感嘆の声で聖女の御業と神への感謝を告げる中、ただ一人ステラだけが冷ややかな表情を浮かべ魔獣達が“居た”場所を見つめていた。もっと何かを感じると思っていた、達成感でも、優越感でも、爽快感でも、何かしら心を擽る沸き立つような気持ちになれると信じていたのに。

 しかし今こうして感じている思いを正直に形にすると……とても、つまらなかった。

 

 小さな頃から幾度となく大人達から脅しのように教えられ続けた魔獣の驚異とそれに伴う犠牲、戦う事の誇りに護ることの尊さ、犠牲に報いる為の覚悟や未来を掴む為の執念───それらは何一つ今の現実と重ならない。

 もっと小さな頃に、砂のお城を作った時の方がずっと難しかったし達成感も喜びも、何もかもがそこにはあった。

 

 貴族として産まれ、将来を期待され、これ迄重ねて来た努力が急にくだらないものに思えて……心にぽっかりと穴が空いた様だった。

 

『………………』

 

 牽制のつもりで放った魔法、それだけで魔獣は全滅した。あまりの呆気なさに本命を撃とうと溜めていた魔力が緩んで雲散し、固有魔力色の黄金色の波紋となって宙へと放出された。

 これは魔力制御の失敗の典型的な反応だ、魔法を習いたての子どもでも滅多にしない様な純粋なミス。使わない魔力は還元し肉体に戻すのなんて常識だ。だと言うのに、こんなミスさえ勝手に神聖な光景だなんだと崇めてくる周囲の者たちが、そんな風に扱われる自分自身が無性におかしくなって、表情を崩し───嗤った。

 

 王都に帰還してからは連日お祭り騒ぎだ。

 連日連夜様々なパーティが開催され誰も彼もが自分を崇めるか取り入ろうと傅き媚びへつらってくる。チヤホヤされるのは好きだから悪い気はしないし、少しでも聖女たる自分と繋がりを持とうと躍起になっているのだから無碍にしてやるのも哀れだし構ってやった。

 上辺だけは取り繕い丁寧に応対するようにした、その方が楽しい。傍目には慈愛の笑みに見える様に苦心して表情を浮かべながら、内心では嘲笑っていた。

 

(もっと私を褒め讃えなさい、そうすればお前たちをこの私が生かしてあげる)

 

 世界が自分を中心に動いている全能感と何者も自分を脅かすことがない確信。とても甘くて心地よい感覚が胸の穴を確かに埋めてくれた様な気がした。

 

 直ぐに楽をすることを覚えた。

 気分が乗らないとのらりくらり救援要請を躱し貴族たちに誘われるまま遊興に惚けたりした。

 ワザと撃ち漏らした魔獣に襲われ慌てふためく騎士たちの姿は最高におかしかった。

 貴族と違って力もなく立場も弁えず反発してくる愚かな平民たちを躾けるのは爽快だった。

 優しい聖女の仮面が外れない様にだけ気を使って、考え付く限りの楽しいことを実践して行った。

 

 楽しかった。

 

 凄く、すごく、楽しかった。

 

 そう本当に楽しかったのだ。

 

 ある時ふと自分の行動を振り返って。

 

 無性に恥ずかしさが込み上げてくるまでは。

 

 確かに楽しかった。

 

 今はただ恥ずかしい。

 

 もうマジ無理。

 

 消えたい。

 

 びょっ(絶命)

 

 

 

 

 

「だって私ってば世の中を何も知らない小娘だった訳だし」

「勝手に担がれて聖女だなんだと囃し立てられて」

「そりゃ調子に乗っちゃうというか何というか」

「うんうん、これは仕方ないことよね」

「どちからと言うと私の方が被害者じゃなくって?」

「ああ恥ずかしい、消えたい。誰にも会いたくない」

「……あばッ!(フラッシュバック)(致命傷)……ウ゛ッ(自動蘇生発動)」

 

 クアラインを離れ王都に向かう馬車の中で誰に言うでもなくブツブツと何やら独り言を呟き、今日何度目か分からない絶命の叫びをあげて倒れ込み蘇生した主をミナは生暖かい目で眺めていた。

 もうじき馬車が到着するという時間になっても降りて来ない主の部屋を訪ね、布団でくるまって丸くなり帰りたくないオーラ全開のワガママっ子をそのまま無理やり馬車へと詰め込んでから早数時間。

 ずっとこの調子である。

 

 見ていて飽きない面白さだが、まだまだ長い旅路を思うとそろそろ正気に戻って頂かなければ困るのも確かだ。

 でないと流石に口に出して笑ってしまいそうだ。

 

「お嬢様、外を見てください。気分転換しませんか?」

「外ぉ〜〜〜?」

 

 にゅるりと布団の塊から美少女の首が生えて窓を覗き込んだ、雲ひとつない青空の下で気持ちよさそうに飛ぶ鳥たちや生き生きとした自然の美しさを眺めるのは確かに良い気分転換になるだろう。

 すれ違う人々は物憂げな表情を浮かべて外を眺める絶世の美少女の姿に感嘆の息を零していた事だろう、首から下が布団の塊という事も知らず。

 

「次の街で馬車を乗り換えなくてはいけません、そろそろお着替え致しましょう?それともその格好で外に出られますか?」

「……良い手があるわ、このまま戻っ「却下です」最後まで言わせなさいよ、いじわる」

 

 美少女が恨めしそうに睨んで来たって目の保養にしかならないのである、心中で感謝申し上げつつミナは如何にも申し訳なさそうに頭を下げた。ありがたやありがたや。

 勝手に自爆しまくって反抗する気力も失せたのか、されるがままに聖女としての正装へとパパっと着替えさせられようやく布団の塊から人間へと進化を遂げた。

 白を基調とした神官服に魔力色と同じ金糸で豪奢な刺繍を施し、所々に宝石を散りばめ年頃の少女らしくフリルで可愛らしく纏めた姿は万人に合うデザインでは無いが、彼女にはとてもよく似合っていた。

 

「今日もお綺麗ですよお嬢様」

「知ってるわよ」

「はい、私も知っております」

「……ミナも、今日は随分と綺麗よ」

「ありがとうございます、嬉しいです」

 

 そうして暫くは談笑し、何処へ出しても恥ずかしくないレディとしての仮面を被ったステラはなんの気なし街の入口へと視線を向け「ギョッ!!」また絶命した。

 門の近くに場違いに大きく豪華な馬車が停まっている、黄金色で縁取られた教会のシンボルを飾り付けた馬車、それに乗る事が許されている存在はこの世でただ一人だけ。近くには総勢20名程の聖騎士達が揃って膝を折り頭を垂れていた。

 つまりは教会からの迎えである。

 

 それは良い、本当にそれはどうでも良いのだ。

 

 問題は聖騎士達の中央に居る男、その男の姿を見ることは今の彼女にとっては羞恥の極限であり己の過去からの刺客であった。良くない、これはとても良くない。

 予想はしていても覚悟していなかった目の前の現実に呼吸を荒らげ、慌てて顔を引っ込めてしどろもどろにミナへと縋った。

 

「なんで、あいつ、居る、ここに?なんで?え?」

「ああ、お嬢様の情夫ですか。この街に寄ることは手紙で教会の方にも伝えておりましたからそのツテでは?」

「言い方ァ!だ、だだだ誰が誰の情夫よ!変なこと言わないでよっ!」

「すみません、正しくは3番目の情夫でしたね」

「だから言い方ァアアア!!」

 

 今より凡そ一年前。

 聖女に絶対の忠誠を誓う為に平騎士から聖騎士長へと出世を遂げた男が居た。周囲からの評価も高く、戦場においても獅子奮迅の活躍を見せ、何より連れ回して歩くだけで婦女子達からの人気が高く優越感に浸れるお得な駒。

 だから飼う事に決めたのだ。

 

 アルフレッド・トゥテラ聖騎士長。

 22歳独身。聖女の忠実なる僕。3番目の情夫。etc...

 自分を慕う男たちを囲うのがその頃の趣味だった、その一環で手に入れたコレクションの一つであり───今では負の遺産でしかなかった。

 

 

 

 

 

 




アルフレッド・トゥテラ
称号:聖騎士長
年齢22 身長:183 体重:鎧込みで138
髪色:黒 瞳:赤
魔力資質:なし
魔力量:18(平均を100とした時)
祝福:なし
好きなもの:聖女様 鍛錬
嫌いなもの:言い訳 聖女様の役に立たない自分

ステラの逆ハー要因の一人、別名キープくん3号。
騎士の役目は貴族が魔法を放つまで耐える肉壁でしかないが、その分給与も死後の家族への補償も手厚い。一介の平民でしか無かった彼も家族の為に騎士を志したが、その運命は聖女との出会いで変わった。



魔獣
禍々しい魔力に肉体を犯され凶暴化した動物達の成れの果ての姿、小型・中型・大型と分類されそれぞれ騎士が2人・5人・10人がかりで陽動に当たる。
統率する存在が居る筈だと推測されているが、未確認である。
人類の生息圏である五大陸の内、中央大陸と北、西大陸が主な生息圏。


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