劇場版プロジェクトセカイ:PSS異伝『Lamenters』 作:唯尊
ウィスキーチームはPSS本編にも出す予定ですが、先にコッチで出します。また、この作品は比較的短い話で終わるので集中的に執筆します。つーか本編が長いッ!読者の皆様のおかげで一年以上掲載されていますが、メインストーリー編だけでもあともう100話くらい出せそう……。まぁ、書きたい事はたんまりあるので、未完にだけはならないと思います。構成や設定には時間が掛かりますが……、どうか今後もよろしくお願いします。
歌が聞こえる---------。
とても小さく、儚く、されど優しさと諦めない強い想いが込もった少女の歌声は、誰にも聞かれる事はない---------。
暗闇の中に、無数に存在する窓---------。その一つが開かれた。
西暦2020年、日本国------。
人類史上最大の激戦となった第二次世界大戦を経て、戦後の荒廃から目覚ましい復興と経済成長を遂げた極東の列島国家は、現代となっては世界で最も豊かで、選択の自由に溢れている国といえた------。
しかし、いくら飢餓や貧困、国際紛争と無縁になって久しい2020年になった今でも、国民一人一人の幸福が満たされているとは、お世辞にも言い難いのがこの世の中の実情であり、現実である。
少なくとも、自分はそう感じている------。
夜のシブヤの街にて、会社員の男・
雄蜂は今年の春から新社会人として、学生の頃から念願だった大手IT企業への就職を果たした新任のサラリーマンだったが、社内における徹底した実力至上主義の企業風土と過酷な出世競争に早くも心が折れかけていた。
自分と同時期に入社した新人社員は、自分以外の全員が既に何らかの成果を上げている。にも拘らず、自分は任せられた仕事すら満足にこなせない始末だ。上司や先輩からは「お前を採ったのは間違いだったかもな…」と毎日失望の眼差しを向けられるばかりで、雄蜂の心はもう限界だった。
もうすぐ仮採用期間も終わる、そうなれば、同期の中で真っ先にクビを言い渡されるのは自分だろう。だが、もうそれでいいのかもしれないと心のどこかで思う。毎日毎日、職場では仲間の足を引っ張るばかりで、影じゃ同僚から「役立たず」「使えない」と嘲笑を受けるばかりだ。あの会社に、自分の居場所なんてものはない。これ以上肩身の狭い思いをするのは耐えられなかった。
「ハ、ハハ…」
不意に、口から疲れた様な、諦めた様な笑いが漏れる。どのみち、あそこから追い出されるのは時間の問題だろう。仮に運良く他の企業に再就職できたとしても、ITの世界で自分がこれ以上やっていけるとは思えない。……いっその事、全てを諦めてしまおうか。これまで積み上げてきたモノを全部放り出し、忘れてしまえば楽になれるのだろうか?
「だったら、もう……」
スマホをポケットから取り出し、画面を注視する。もともと両親からも反対されていた仕事だ。事情を話して実家に戻る事を許してもらおう。電話をかけようと、指で画面を操作する直前------。
「……ん?」
雄蜂が手にしたスマホの画面に、
「なんだ、コレ…」
機種変更したのは最近であり、端末を購入してからそこまで時間は経ってない筈だが……、何かのバグかエラーだろうか?不思議に思って首を傾げていると、背後から突然の衝撃が雄蜂を襲う。
「------
フードを深く被った男に突き飛ばされ、そのまま転倒しそうになる。
「な、何なんだよ…ッ」
いきなりの無礼に舌打ちしながら逃げ去る男を睨む。正直、文句の一つでも言ってやりたかったが、心身ともに疲れ切っていたので、何も言う気にはなれず、溜息を吐きながら駅の方へと振り返った瞬間------思いっきり顔面を踏まれた。
「ぐむえッ!」
「あ、ゴメン」
雄蜂の顔面を踏み砕いたのは、忍者の如く跳び上がった薄いピンク髪の華奢な少女だった。公立神山高校のブレザーを着ているが、ただの学生とは思えない身のこなしで周囲を跳躍しながら先程の男を追跡する。群衆から「何アレ、何かの撮影!?」「すげぇ身体能力!あとメッチャ可愛いッ」と興奮気味の声が聞こえてくるが、少女は路地裏の方へと入ると、そのまま夜の闇に姿を消した----------。
*
逃走者・ヴィクター・キムは
また、キムは財団に対する諜報員としても活動していた記録があり、財団からも同じくターゲットとされていた。そして今日、シブヤを巣窟とする暴力団・四戸橋組との接触が確認され、そこを狙った襲撃作戦が実行された---------。
「ハア、ハア、ハアッ…!」
キムは息切れしながらも、必死に足を動かす。腐っても元GOC出身であり、それなりの修羅場を潜ってきた身だ。ここで足を止めれば死ぬ----------自身の経験上、深く刻み込まれた生存本能がそう告げていた。
何故だ。どうしてこうなったッ----------!?
アメリカから航空機で来日してから、自分の身元が知られる様なヘマはしてない筈だ。パスポートの偽造は完璧であり、実際に疑いなんて何一つかけられないまま、四戸橋組の事務所まで来られたのだ。今日の仕事は、キムの雇い主の護衛であり、もうじき行われる取引について交渉するべく、オフィスのソファーで組長を待っていたら、突然の停電に見舞われた。
その直後である。組員のチンピラやゴロツキどもの悲鳴と同時に、正面の扉が破られ、何者かが切断した組長の生首を片手に押し入ってきた。もう片方には、刀身に赤銀色の輝きを持つ曲刀----------日本刀に似た剣を持っていた。
「どうも悪党の皆さん〜、毎度お馴染みのウィスキーで〜す!」
そんな巫山戯た第一声と共に乗り込んできたのは、ストロベリーレッドの髪をサイドテールにした長身の少女だった。暗闇の中、不自然な事に彼女の双眸は蒼く光ってる様に見えた。
「あ、この世界では初めましてだっけ?じゃ、やり直しで----------ど〜もこんばんは〜!SCP財団で〜す!」
彼女は無造作に首を投げ捨てる。自分を含め全員が少女に武器を向けた。
「初めまして!そして---------さようなら」
少女の声が冷酷なものへと変わる。月明かりが差す中、少女の一番近くにいた組員が斬り殺され、鮮血が宙を舞う。刹那、此方の銃が一斉に彼女を捉え、弾丸が発射される。しかし、放たれた銃弾が少女に当たる事はない。少女は常軌を逸した動きで銃撃を躱し続け、すれ違い様に片っ端から視界に映る人間を斬り捨てて行く。不意に、少女が冷たく吐き捨てた。
「今度生まれてくる時は、アノマリーになんか関わらず、善人に生まれてきなさい」
悲鳴と銃声が交錯する中、キムは確信した。彼女は人間ではない-------。ここにいれば殺されるだけだと、雇い主を見捨てて逃走に移る。憤怒の形相で呼び止める雇い主が、背後から心臓を刺し貫かれた所を最後に、キムは四戸橋組の事務所から離脱した。
それから既に30分は逃走を続けている----------。
しかし、残念ながらヴィクター・キムが
彼女達は"魔女"----------。財団と人類に仇なす存在を確実に始末する究極の
キムの現在地は、財団の人工衛星とドローンのデータリンクにより齎された全ての情報が機動部隊シータ-25W、通称"ウィスキー"チームの情報処理&PC担当の少女、アニエス・バシュラールの元にリアルタイムで届けられており、その動向は完全に捕捉されていた。
「こちらウィスキー1。逃亡者、ヴィクター・キムを映像で確認。まもなくウィスキー2の狙撃ポイントへと向かいます」
『ウィスキー2、了解。狙撃体勢に入るわ』
透き通る様なプラチナブロンドの髪を後ろに纏めた16歳のフランス人少女は、無線で各隊員に指示を送る。PCの画面には、必死の形相で逃げ仰せるキムが映っており、その数十メートル後方には、逃亡者を追跡するウィスキー3の姿があった。
『こちらウィスキー3、問題発生、目標が人混みに紛れて逃げそう』
ウィスキー3、
「ミクさん」
『分かってるわ。信号機を操作して別ルートに誘導する。逃亡者は心理的に立ち止まる行為を嫌うから、きっと狙撃ポイントまでノコノコ来るわよ』
不意に、PCの別モニターから他の声が聞こえてくる。ボーカロイドの初音ミクだ。ただし、画面に映る電子の歌姫は、一般的に知られてる姿と異なり、財団のシンボルマークである
彼女の正体はやや特殊であり、財団でも限られた者しか存在を知らされていない。
ややもすれば、信号機により通行を阻まれたキムが進行方向を変える。このペースだと、すぐにでもウィスキー2の元に現れる筈だ。
『------こちらウィスキー2、目標を視認したわ。射界に入り次第やるわよ』
「了解、発砲許可は出ています。あとは任せましたよ---------ヴァーリャ」
『任せなさい。あと、任務中に愛称で呼ばないで』
ウィスキー2のスナイパーとしての腕は一流だ。しくじりはしないだろう。
やがて、狙撃ポイントである橋の下に現れたキムを、後方からウィスキー3が追い込みをかける。キムは懐から自動拳銃を抜き発砲するが、逃げながらの射撃なんて当たる訳がない。銃口から弾道を予測し、撃たれる前に回避する。これにより、ウィスキー3は一発も弾丸を食らう事なく接近を続ける。
『ウィスキー3、これより確保の準備に入る』
「了解、ウィスキー2。狙撃して下さい。言っときますが、殺しちゃダメですよ。生け捕れって命令なんですから」
『百も承知よ。集中してるから話しかけないで』
以降、静かな時間が続く。実際はほんの数分にも満たないだろうが、現場の緊張が体感時間を大幅に遅くさせていた。
そして、バシュッ------というサプレッサー越しの乾いた銃声が無線から響いた。
PCの画面に、倒れるキムの姿が映る。成功した---------?
『あ…』
「え?なんですかッ?」
突然、無線からウィスキー2の焦った様な声がする。
『ゴメン……、当たっちゃいけない所に命中したかも…』
やらかした……、みたいな感じで報告してくる。なんだか嫌な予感がした。
「えっと、どこに当てました……?」
『……………………………首より上』
「…………」
瞬間、アニエスの顔から血の気が引いた。ウィスキー3が地面に倒れたキムの側まで駆け寄るが、その状態を見ること暫し、やがて諦めた様に溜息を吐く素振りを見せる。
『…こちらウィスキー3、目標の死亡を確認した。ひどい有様だよ?脳味噌がグチャグチャになってる』
最悪の報告を受けて、アニエスはガックリと項垂れた。なんて事だ、よりにもよって最重要目標を殺しちゃうなんて…。
『う、撃つ直前に横風が吹いたのよ!それで弾が逸れたんだから仕方ないでしょ!?』
『いい訳は見苦しいよヴァーリャ。いやまぁ、アナタはいつも見苦しいし面倒くさいけど……。その上射撃も下手とかどんだけ救いようないの…』
『なんですってぇッ!?』
無線越しに灯華とヴァーリャが喧嘩する中、アニエスが窘める。
「二人共そこまでです、作戦行動中ですよ?残念ですが、こうなったら情報源になりそうな人を確保するしかありません」
意識を切り替え、別行動中のウィスキー4へとチャンネルを変える。
*
四戸橋組のオフィスは、血の海と化していた。
血と硝煙の臭いに満たされたオフィス内で、ウィスキー4のコールサインを持つ
拳を一発振るうごとに、顔面から血が跳ね、タクティカルグローブを穿いた拳が赤黒く染まっていく。目の前の男が息をしなくなってから、既に50発以上は殴り込んでいるが、流石にもう十分だろうか?コイツの仲間らしき連中は背中に刀を突き刺されたり、全身が切り刻まれたりして絶命している。応援が来る様子もないし、さっきから銃声の一発も聞こえてこない。リューダとエイヴァが始末したのだろう。
取り敢えず、最後の一発をお見舞いして、殴るのをやめた。馬乗りの体勢から立ち上がると、そこでようやく無線が入ってる事に気付く。
『------4、ウィスキー4、聞こえてますか?応答して下さい』
自分のコールサインを口にするアニエスの声が耳に届いた。
「------あッ、ゴメン!殴るのに夢中で気付かなかった。ソッチはどう?成功した?」
『いえ、残念ながら失敗しました……。申し訳ないのですが、情報源を確保したいので、誰か一名連れて来れますか?」
「あ〜……、ゴメン。いま最後の一人を殺しちゃった所で…」
チラリと先程まで殴り殺していた男を見遣る。顔面が陥没しており、骨と脳味噌が飛び出していた。ヴァンガードの力は使っていないが、それでも少しやり過ぎただろうか?一応他に息がある奴がいないか確認してみるが、やはり皆死んでいる。
「うん……やっぱ生きてる奴いないわ…」
『そうですか……』
残念そうに呟くアニエスに対し、"ジューン"という愛称を持つ少女は申し訳ない気分になる。
「ホントにゴメン。役に立てなくて…」
『いいんです。元から最重要目標以外は排除する予定だったんですから…、貴女は悪くありません』
『------ねぇ、ウィスキー7と8は?あの二人って逃げ出した敵を始末するポジションでしょ?そっちなら一人くらい生かしてんじゃない?』
同じチャンネルに繋げたヴァーリャが問うてくる。そこに僅かな希望が見えた。
「あ!確かにあの二人ならもしかしたら------」
直後、ズダンッ!!と大きな銃声が轟く。消音装置を付けていない拳銃の発砲音だ。ジューンの居るオフィスからかなり近い。
『ちょっと!何よ今のは!?』
耳元で爆音を聞かされたヴァーリャが絶叫する。
「わ、私じゃないよ!今のは……」
その時、全員の無線に報告が入る。
『こちらウィスキー7、隠れていたチンピラが後ろから襲おうとして来たから撃ったわ。コレで敵の殲滅は完了よ』
「「「…………」」」
『……?どうかしたの?』
黙ってしまったチームの仲間に対し、ウィスキー7が首を傾げる。
『いえ……、まぁ予定とは違いますが、取り敢えず脅威は全て排除したので、コレで作戦は終了とします。ウィスキー6が脱出路を確保してるので、全員撤収の準備に取り掛かって下さい』
『ウィスキー7、了解』
『ウィスキー2、了解。こちらが先に撤収するわ。高層タワーの屋上って風が強くて寒いのよ…』
『うへぇ〜…、帰ったら絶対怒られるよ。初雪の説教が待ってるよ〜』
『今夜は反省会ですね…』
『わたし、明日は宮女で小テストあるのよ?漢字苦手だからヤバイのに…!』
『私が朝イチでお教えしますよ』
『ホント!?ありがとう助かるわ!やっぱりリューダって頼りになるわ!』
『あ〜〜疲れた〜、早く帰って寝たい。お風呂にも入りたい』
『あとお腹も減った…』
『こんな時間に食べたら太るわよ?』
『ぐッ…!』
『財団職員って楽しいわね〜…』
各々で撤退の準備を進める中、清掃会社のロゴが入った覆面ワンボックスカーの車内にて、PCに映る初音ミクが「私はもう必要なさそうだし、理雄達のセカイに戻るわね?』と挨拶して画面から姿を消す。
「ふぅ〜…」
アニエスが疲れた様に溜息を吐き、スマホを取り出して時刻を確認しようとした時---------。
「……ミク?」
『ッ!?』
一瞬、全体的に灰色っぽいコーデの初音ミクが自身のスマホから此方を見つめ、視線が合った瞬間に慌てて姿を消した様に見えたが……。
「……疲れてるな、わたし…」
スマホを放り出し、静かに目を閉じる。ワンボックスカーのエンジンが掛かると同時に、ふとこれまでの思いを馳せる---------。
生まれた瞬間から、わたし達には居場所が無かった。
元の世界は辛くて厳しい事ばかりで、誰もわたし達を受け入れてはくれなかった。
財団に拾われて以降、生きる為に今日もお仕事。ひどいモノを見たり、理不尽な思いをしたりなんて毎日の事だ。
それでも、今はやるべき事がある。未来は暗く閉ざされているけれど、成し遂げたい夢がわたし達にはある。
この世界で見つけた、わたし達の本当の想いを守る為に、いつだって全力を尽くして生き残ろう。
それがわたし達、