劇場版プロジェクトセカイ:PSS異伝『Lamenters』 作:唯尊
SCP-2085-Aのボディは、内骨格強化により常識からは考えられない程の耐久力を誇っている。従来の7.62mm×51mmNATO弾では歯が立たない。だが、現在ジュリエットとフィリピン部隊が装備しているM993炭化タングステン芯高貫通弾ならば---------。
「ジュリエット1よりジュリエット3、アスワン5と共にA-1を狙撃しろ。オクレ」
『了解、キツイのお見舞いしてやる』
高倍率の暗視スコープを覗き込み、龍一郎が狙撃態勢に入る。
「おい、いくら徹甲弾でも
「分かってる、いいから黙って風読みしてろ」
ひどく落ち着いた表情のまま、龍一郎は無線を取る。
『アスワン5、俺が合図するから同時に同じ場所を撃つぞ。狙うのは敵の左目だ』
『…了解』
悠間は驚きに目を見開く。確かにその方法なら、一番防御力が低い眼球を狙えば同時射撃で簡単に射抜く事が出来る。だが万が一、1ミリでも狙いがズレればこの距離だと致命的なミスとなる。たった1ミリでも400m先では取り返しがつかないほど目標を逸れて着弾するのだ。仮に命中しても眼球以外の部位では強靭な頭蓋に阻まれる可能性がある。故に、確実に仕留めるならば2発の銃弾を同時かつ同じ部位に撃ち込まなければならない。二流の狙撃手ではまず不可能な芸当だ。
---------まぁ、コイツは変態だから普通にやれるんだろうけど。
不思議と、彼が狙った獲物を外す光景なんて微塵も想像できない。少なくとも悠間は見た事がない。
「射距離420m、風は左から4m」
「……OK、捉えた」
スコープの中心にある
「スー……ハァァァァァ……」
息を深く吸い、ゆっくりと吐く。呼吸で静かにコンセントレーションを高めていく。
『アスワン5よりジュリエット3、此方の準備は完了だ。いつでも撃てる』
「了解、カウントダウンを始める。3…2…1……撃てッ」
龍一郎の合図で、二丁の狙撃銃が同時に火を噴く。ライフリングで高速回転を起こした高貫通弾が風を切り裂き、真っ直ぐ目標へと向かっていく。
狙い過たず、2発の弾丸はA-1の左眼球を貫いた。
「ッ……!」
声を上げる暇もなく、A-1はアグイナルドの襟首を掴んだまま倒れた。
「え------」
「は…?」
目の前の指揮官に何が起きたのか---------、突然の事に脳の理解が追いつかず、ブラックラビット達は暫し硬直する。
『狙撃両班、A-1を制圧』
「了解……突入A班、B班、やれッ」
英牙の命令が耳に入った瞬間、理雄を含む前衛の部隊が一斉に腕を振りかぶる。
---------特殊音響閃光弾。
既に安全ピンが抜かれ点火レバーが取り去られた8個以上の非殺傷兵器が敵集団の前に放られる。
「しまッ------!」
A-3が口にするも時既に遅し。強烈な閃光と180デシベル以上の大音量がブラックラビット達の視覚と聴覚を奪う。
「クソッ……、目をやられたァ!!」
A-2が
「やめろッ!味方に当たるッ」
唯一、直前に目と耳を手で守ったA-3がその場から飛び退くように離れるが、しかし、足が地面を蹴った瞬間を英牙は見逃さなかった。
サプレッサーを通じて消音されたHKの5.56x45mmNATO弾が膝裏のカーボンナノウィーブ筋肉繊維を貫通し、関節部の駆動系を破壊する。
「ガッ…!?」
姿勢を崩し地面に顔を沈める。コンマ数秒後、A-3の目の前に何かが転がされる。
理雄が投擲したDM51手榴弾だ。
「マズイ…ッ!」
慌てて投げ返そうと手榴弾に手を伸ばすが、指の先端が触れる直前で爆ぜる。破片として機能する約5,700個のスチール製散弾が炸薬による爆発で直径2、3ミリの破片となって周囲に飛散し相手を殺傷。手榴弾を掴もうとしていた腕が噴き飛ばされ、肘から下が失われる。同時に、強烈な爆風がA-3の脳髄を激しく揺らし、昏倒させる。
敵2名を制圧----------。
『狙撃班ジュリエット3、敵の機関銃を無力化する』
龍一郎がM110半自動狙撃銃をセミオートで2発連射。射手のコントロールが失われ、手当たり次第に弾丸を吐き出し続ける暴龍の銃身とバッテリーパックに命中。弾丸が突き刺さり、ミニガンの乱射が止まる。
「機関銃の無力化を確認ッ、突入A班前進!B班は援護!C班は密林に潜む敵狙撃手を確保だ。行くぞ!!」
英牙が動きを止めた残りのブラックラビット達に突撃し、理雄、悟、向一がそれに続く。移動しながらの連続射撃に敵は顔面や頸部といった急所を腕で防ぐが、それ以上の行動はできずにいる。
英牙達が前進している間、機関銃手の信孝が木々が生い茂る闇へと向かってMINIMIを撃ちまくる。瞬時に枝や葉が大量の弾丸によって噴き飛んでいく。熱画像で特定した敵のスナイパーを隠れた場所から炙り出しているのだ。
「チィッ…!」
狙い通り、銃弾の雨から逃れようと、A-5がM24狙撃銃を抱えたまま飛び出してくる。指揮官であるA-1を失った以上、この状況で仲間の援護は不可能だと判断したのか、そのまま神速のスピードで戦場から離脱しようと試みる。
しかし、敵をみすみす逃がす道理はなく、フィリピン部隊の機関銃手が銃撃。姿勢を低くしながらどうにか弾丸の嵐を潜り抜け、眼球インプラントが至近距離を通過する銃弾の軌跡を捉える。
このまま逃げ切るッ------!そう思った直後に、何処からか飛来した敵の狙撃弾が足の腱を撃ち抜く。
「なッ…!?」
姿勢を崩し移動速度が落ちた瞬間を見計らった様に、フィリピン部隊の兵士が閃光弾を投擲、刹那、炸裂した弾殻から閃光が溢れ出し、サーマルビジョンモードに切り替えていたA-5の視聴覚を破壊する。
反撃の隙を与えず、フィリピン部隊の隊員が疾風迅雷の速さでA-5に肉薄、一瞬でM24を取り上げ武装解除させると、続け様に正面からサバイバルナイフを首に突き立てる。
「グッ…!?」
すぐさまナイフを首から抜き、傷口を手で抑える。増強されたカーボンナノウィーブ筋肉繊維が刃を止め、血管を緊縛し出血を止めるが、意識が前方に向いた瞬間が命取りとなった。
背後から近付いた別の隊員がアサルトライフルの銃床でA-5の後頭部を強く打ち、脳にダメージを与える。ふらついた瞬間を狙って両足の膝裏にある脚部アクチュエーターを銃撃で粉砕、うつ伏せに倒すと、そのままレッグポーチから取り出した針を使わない圧力式注射器を首筋に押し当てる。
「や、やめッ------」
バシュッ、と財団が開発した特殊即効性麻酔が打ち込まれ、神経系を通じて体内のブレイン・コンピュータ・インタフェースが機能を停止。そのまま意識を刈り取られる。
邪魔な狙撃手を排除した今、残るは目の前の2体のみ。
「このッ……クソったれのゴキブリ野郎どもがッ!!」
閃光弾の攻撃からようやく回復したA-4が斃れたA-1のM240汎用機関銃を拾おうとするが、手に取るより先に向一のHK416が発砲、セミオートで発射された数発の弾丸が機関部を損傷させ、使用不能となる。
「ええいッ…!」
憤怒の形相で向一達の方を睨むと、太腿のホルスターからカスタムガバメント・クローンをドロウし、此方に銃撃しながら突貫してくる。
「撃ちまくれ!」
怯まずHKの激しい銃撃を喰らわせるが、A-4は腕で顔周りをガードし、急所への直撃を防ぎながら突っ込んでくる。体内の薬物腺から分泌された痛覚遮断物質や知覚認識増強剤、改変フェロモンなどの影響により、致命傷を負いかねない攻撃は的確に避け、それ以外の被弾による苦痛は脳の奥へと押しやっているのだ。
「止まらないぞッ!」
「足を狙え!!」
ジュリエットの射撃能力は正確だが、猪突猛進の勢いで急接近してくるA-4へ放たれた弾丸は足を掠めるくらいで、有効なダメージは与えられない。あまりにも速く、たった数秒で拳銃の有効射程距離まで踏み込まれ、強力な45口径弾が叩き込まれる。拳銃弾とはいえ、距離を詰められれば十分な制圧力を発揮し、照準をつける余裕がなくなる。
『俺に任せろ』
神算鬼謀の狙撃兵、蒼部龍一郎がA-5の足の甲を撃ち抜く。僅かに相手の動きが鈍る。
「今だ、仕留めろッ!」
英牙がドットサイトの照準を合わせるが、その前に弾切れを起こしたガバメントを投げつけてくる。HKを上げてガードしすぐさま構え直すが、その一瞬の隙に敵が忽然と姿を消す。
慌てて視線を巡らせると、直上に気配を感じ銃口を向ける。
「くたばれぇぇぇェェェェェェッ!!」
コンバットブーツの底に仕込んだブレードを展開、跳び蹴りの姿勢のまま英牙目掛けて降ってくる。
空中の敵に狙いを定め、撃ち落とそうとトリガーを引き絞る。
しかし、撃発は起こらず、肩への反動も無ければ排莢もされない。
---------弾切れ!?
最悪のタイミングでリロードの必要が出たが、マガジンを銃に叩き込む前に、相手のブレードが自身の頭蓋に突き刺さる方が早いと確信する。距離的に回避も間に合わない。
----------いいぜ、相手になってやるッ……!
決死の覚悟でHKのグリップとハンドガードを強く握り、落下の勢いが加わった重い一撃を全身の力で受け止める。
「ぐッ…!?」
体重の乗ったA-4の跳び蹴りを防いだ瞬間、信じられない程の衝撃と激痛が身体中を襲う。足腰で踏ん張った大地は陥没し、両腕が粉砕しそうになるのを歯を食いしばって耐える。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「くッ……、らぁああああああああああッ!!」
全身が悲鳴を上げる中、これまでの過酷な訓練と実戦で鍛え上げた筋力、精神力を総動員する。
この程度では負けない、例え内臓が悉く圧壊し、全ての骨が折れようとも、この程度の攻撃に負けてたまるかッ。
「せぁアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
咆哮と共にA-4を前方へと弾き飛ばす。
「なッ…!?」
まさかただの人間に押し負けるとは思いもしなかったのか、A-4が空中で驚愕の表情を浮かべる。
その僅かな時間の間に空のマガジンを抜き取り、タクティカルベストから取り出した新しい弾倉と素早く交換、ボルトキャッチを叩いて
慌てて空中で身を捻り体勢を整えると、着地して両腕を顔の前で交差しながら防御、撃ち込まれた30発の5.56mm弾を全て受け止める。
英牙が再装填してる間に再び接近戦を仕掛けようとするが、信孝のMINIMIがそれを阻む。
「ぐぁあああッ……」
絶え間なく浴びせられる弾丸に、強化された肉体も流石に限界が近づいていた。
「ッ…!ディオ!!」
その時、ようやく視力を取り戻したA-2が周囲の惨状を前に狼狽えながらも、追い詰められたA-4の援護へと向かう。
「このッ……、よくも皆んなを!」
使い物にならなくなったミニガンを放り捨て、腰から抜いたダガーナイフで斬りかかるが、いつの間にか死角に回り込んだ向一が銃床を振り下ろしてナイフを叩き落とし、そのままA-2の片足を踏み付け固定、肩口から体当たりをかます。
「ガッ…!」
体重106kgの向一が放った一撃は足首を固定されているせいで衝撃を後方に逃がせず、もろにダメージを受け、脳と全身を揺さぶられながら吹き飛ばされる。
「こ、このッ……!……うッ!?」
すぐさま立ち上がろうとするが、途中で力が抜けた様に膝を突く。地面に倒された瞬間に踏みつけられていた足首の関節が脱臼していたのだ。
その隙を突くように、悟のコンバットブーツが跳ね上げられ、顔面を捉える。骨が砕ける音と共にA-2が仰向けに倒れると、喉元を足で抑え、口に銃口を突っ込む。
「眠れ」
悟の短い宣告を最後に、A-2の視界がブラックアウト。後頭部から弾丸が抜け、脳に深刻なダメージを受けた事により、活動を完全に停止した。
残るは一体、A-4のみ----------。
「ハァ、ハァ、ハァ……チクショウッ…!」
攻撃を受けすぎたのか、既に満身創痍の状態と化している。痛覚遮断物質も尽きたのか、表情は苦痛で歪んでおり、憎悪の眼差しで此方を睨み据える。
「財団のブタどもめ………ぶっ殺してやるッ!!」
最後の力を振り絞って両腕からブレードを伸ばし飛び掛かって来る。しかし、目の前の英牙に集中しすぎたのか、背後から接近する理雄の存在に気付いていない。
「ッ…!」
寸前で気配を察知し、ブレードを後方へ横薙ぎに払う。ダッキングで躱され、低く沈んだ体勢から銃床で顎を打ち上げられ、後ろへ数歩たたらを踏む。
「オオオオオオオオオオオオッ…!!」
再び踏み込むが、突き込んだ右のブレードが振り払われた銃床に粉砕され、返す力で左のブレードもへし折られ木っ端微塵となる。
武器を失い呆然とした表情のA-2、その顔面に銃口を突きつける。
「終わりだ」
眼球に銃弾を撃ち込まれ、脳髄を破壊。後ろへ倒れ沈黙する。うつ伏せにすると麻酔薬を打ち、フレックスカフで手足を拘束する。
これで全員を無力化した。後は----------。
気が抜けた瞬間、背後から感じた殺意にゾッとする。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
獣じみた咆哮と共にM240の残骸が振り下ろされる。すんでの所で回避すると、地面に叩きつけられた12.5kgの鋼鉄の塊がバラバラになる。
「フーッ…!フーッ…!」
荒い息を吐きながら、A-1が立っていた。左眼球は喪失し、右眼球は出血と共に眼窩から飛び出している。
バカな……生きていられる傷じゃない。
だがこの時、理雄を含め全員が失念していた。サイバネティクスの恩恵を最大限に受けた2085-Aの肉体は条理の外にある
「死ねぇぇぇェェェェェェェェェェェェッ!!」
渾身の右ストレートが打ち込まれ、咄嗟にHKで受け止める。直撃と同時にレシーバーがひしゃげ、銃が砕け散る。
「ガハッ…!」
後方に吹き飛ばされ、地面を何度も転がる。
「理雄!」
英牙達が援護しようとするが、A-1が抜いたFNファイブセブンの弾幕を前に動きが止められる。
その隙に理雄に向かって突撃し、弾切れを起こすと同時にファイブセブンを捨て、接近戦に移る。
「だぁぁぁアアアアアアアアッ!!」
「くッ…!」
強烈なパンチを連続で繰り出され、顔面をガードしながらそれに耐える。一撃一撃が重い爆速のラッシュに姿勢を崩され、そのまま足払いで後ろに倒される。
無防備な状態を狙って上からブレードを振り下ろしてくるが、首の動きで回避し、地面に刃が突き刺さる。もう片方のブレードが振りかぶられる直前に足の裏で相手の肩を押しストッピング、すぐさま腿のホルスターからVP9を抜いて額に照準、連続で発砲する。強烈な9ミリの連打にA-1はひっくり返った。
理雄が足の勢いを使って立ち上がった瞬間、視力を失った代わりに増強された知覚で此方の位置を把握したのか、再び飛び掛かってくる。
タックルを受け止めた瞬間、身体を低く沈め、相手の腹を足で蹴り上げながら後方へと投げ飛ばす。柔道の巴投げだ。
「カハッ…!」
肺から空気が搾り出される音と共に、理雄は残り少ないVP9の弾倉をタクティカルリロード、スライドストップを落として構え直し銃撃。
跳ね起きたA-1が全弾回避し、肉薄してくる。
膝の関節から新たにブレードを展開し、ジャンプする勢いで膝蹴りを繰り出す。横に跳んで回避。
休む間もなくハイキックを放たれ、両腕でガード。VP9を取り落とし、骨が軋む音がする。向こうが掴み掛かってくるとカウンターで肘打ちを喰らわせ、頭を抱えながら膝蹴りをお見舞いする。腕で防がれる。
襟首と袖口を掴んで払腰を極めぶん投げると、そのまま寝技に持ち込もうとするが、腕を掴まれたまま出鱈目な力で放り投げられる。
敵との距離が近いせいで、周りの仲間も迂闊に発砲できず、援護が不可能だった。
フィジカルに圧倒的な差がある。距離を取ろうにも隙を見せた瞬間に此方の生命を絶たれると確信していた。
---------落ち着け、動きはバケモノじみているが、脳を損傷しているなら運動能力は落ちている筈だ。
ましてや両眼を失っているとなれば、相手の動きを完全に見切るのは難しい筈……。
その時、自身から数メートル進んだ場所に、先程の戦闘で殺されたアブ・サヤフの兵士が骸となって転がっていた。彼が使っていたM16アサルトライフルもだ。
---------持久戦は不利だ、一気に決めるッ。
地を蹴り前に走り出すと、A-1も此方に向かってくる。足元のM16を拾った瞬間、足からスライディングし倒れ込むような姿勢で真下から相手の顎を狙い、引き金を引いた。
顎をアッパーカットで打ち上げられた様に銃弾が頭頂部へと
「ァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
腰の回転を使って銃床を振り払うと、渾身の一撃が炸裂し、それがトドメとなった。
もんどり打って倒れたA-1は、今度こそ意識を手放した。
*
フィリピンの現地当局に偽装した財団フィリピン支部のパトカーや護送車が集まる中、救急車の傍で医療班から治療を受けるジュリエットチームの姿があった。
「イテテ……クソッ、眼球へ2発だぞ?脳味噌をぐちゃぐちゃにされても生きてるって…、どうなってんだよ…」
「SCP相手にそんなコト言っても仕方がないだろ、むしろ、頑丈なぶん手加減しなくて済んだんだ……ウッ…!……楽な任務だったさ、比較的な…」
今回の作戦で負傷した理雄と英牙。理雄は肋骨にヒビが入り、英牙は足のくるぶしと膝の関節を痛めたが、あれだけ激しい接近戦を繰り広げておきながらこの程度で済んだのは、幸運と考えるべきかもしれない。実際、他のメンバーの怪我は擦り傷程度だった。
包帯を巻き終え、救命士から「安静にするように」と言いつけられ解放される。
今回、収容違反を起こした2085-Aは全て生きたまま確保された(あんな状態でも暫くすれば全回復するというのだから、本当に呆れてしまう)。脱走時に職員を殺害した件もあって、身柄はそれまで管理していた居住研究部門を離れ、
アグイナルドも無事確保され、連行された。これからハードな尋問が待っている。
「アブ・サヤフを相手にしてる時、重火器の大半を消耗させる予定だったが、敵が思った以上に重武装で焦ったな…」
「この辺りのテロリスト狩りで相当な戦利品を得たんだろうな、にしても無反動砲をあんな風に撃ちまくるとは……、やっぱり滅茶苦茶な連中だよ、アノマリーって…」
悟と龍一郎が揃って嘆息する。
「だが、俺達は味方を誰一人死なせる事なく目標を生捕りにした。コレは勝利だよ。俺達とフィリピン部隊のな」
英牙が勝利を宣言し、ようやく落ち着いた雰囲気が訪れる。
『おい、このジュラルミンケースはなんだ?』
声が聞こえた方に視線を向けると、警官の格好をしたフィリピン支部の職員が破壊されたアブ・サヤフのトラックを調査していた。どうやら荷台に積まれていた物を検分している様子だった。
『幾つも積まれているぞ、アブ・サヤフの武器か?』
『X線で確かめた限り爆発物ではない様だが……、開けてみないと見当もつかない』
二人のフィリピン人職員が慎重にケースを開く。
『………宝石?いや、宝珠か…?』
『なんでこんな物を……』
赤や緑、青といった輝きを持つ、おおよそ戦場には似つかわしくない創芸品を前に、二人は首を傾げる。
しかし、その直後---------、風切り音と共に職員の一人が首から血を噴き出し倒れる。
『え……?』
隣の同僚が、突然の事に動けずにいると、英牙は咄嗟に叫んだ。
『離れろォォォォォォォォォォォォッ!!』
叫びが届くより先に、現場に踏み込んでいた職員達が瞬く間に斃れていく。目には見えない何者かの攻撃を受け、喉を切り裂かれ絶命する。
「クソッ、全員戦闘準備だ!戦闘準備ッ!」
「い、一体何が…」
「知るかッ、それより装備を着けて武器を取れ!まだ終わっちゃいないぞッ!」
英牙の怒鳴り声に、治療を受けるため上半身裸になっていた理雄は服を着直し、タクティカルベストを装着する。
自分達が何に攻撃されているのかも判明しないまま、再び戦闘の火蓋が切って落とされる。