劇場版プロジェクトセカイ:PSS異伝『Lamenters』 作:唯尊
茶番劇、その2。『ミクがいないッ!』
バツミク『うぅ…、まさかあんなに生命が軽い世界があるだなんて……』
理雄「ご愁傷様……。いや、ちょっと待て。一歌はどうした?」
バツミク『あれ…?さっきまでそこに------』
理雄「------まさかあの窓から向こうに行ったのか!?マズイぞッ、あの世界の日本は死ぬほど治安悪いんだ!一日あたり4人が犯罪に巻き込まれて死んでんだぞッ!」
バツミク『アメリカの倍は死んでるじゃんッ!どんだけ治安悪いの!?』
理雄「仕方ないだろ!戦争で人心が荒れ果てた世界なんだからッ。それより早く助けないと------」
一方、ヴァンガード・ザ・ウロヴォロス。西暦2045年渋谷。
一歌「…………………」
通行人A「……なぁ、あの黒髪の女の子、電化製品店の前で何やってんだ?さっきからずっと天を仰いだまま身動き一つしないぞ?死に絶えたサンゴみたいに真っ白になって…」
通行人B「初音ミク関連のグッズ探していたら、何一つ残ってなくて絶望してんだと」
安全を確保した筈の収容現場が、戦闘終結から僅か数十分で激しい銃声と悲鳴が交錯する戦場へと変わった。
『おい、何が起きている!?』
『分からんッ!突然あちこちで味方が斃れて……ぐぁぁあ!』
戦闘に慣れていない一般のCクラス職員達は状況を理解するよりも先に虫ケラの如く虐殺されていく。現場慣れした戦術チームの兵士やフィールドエージェントは銃を構えたまま、この異常事態の原因を突き止めようと視線を巡らせるが、何も見えない。
「ぐげッ……!」
不可視の殺意が次々と同志を切り刻んでいく中、理雄の目の前にいた兵士が首から鮮血を噴き出し絶命。倒れると同時に銃を取り落とす。
A-1に銃を破壊された理雄は心の中で兵士に謝りながら、彼の得物を拾う。サプレッサーや赤外線レーザーサイトこそ見られないものの、ボルトをひいて標準的なHK416だ。チャージングハンドルを引いて薬室内とマガジンの装弾数を確認する。
「理雄、こっちだッ!」
悟の声に導かれるままに、武器を手にした理雄は仲間達と共に後退する。
「チクショウ!敵はどこだッ!?」
信孝が赤外線装置越しに周囲を見回すが、敵影を捕捉する事は叶わなかった。その間も激しい銃撃戦が各地で行われる。
『……せよ、---------ハチェットよりジュリエット1!応答せよ、聞こえるかッ!?』
戦闘の混乱で通信状況が不安定になっていたのか、無線機から響くノイズ混じりの声がようやく鮮明になって耳へと入る。慶三郎の声だ。
「ジュリエット1よりハチェット。感度良好、オクレ」
『一体どうなっている!?現在の状況を説明しろッ。ここからでは何も分からない!オクレ!」
どうやらCPにとっても完全に予想外の事態となっているらしく、普段から冷静沈着な慶三郎の声には焦りが感じられた。
「ジュリエット1よりハチェット、"モルフォ"発生、繰り返す------"モルフォ"発生ッ」
英牙が発した
「現場は限りなく最悪に近い…、幸いブラックラビットを乗せた護送車は離脱したようだが、アグイナルドの車両はまだ危険な状態にある!」
『ジュリエット1、敵の姿は確認できるか?此方にはリアルタイムでドローンからの映像が送られてくるが何も映らない!ただ職員達が勝手に斃れていく様子しか見えんッ!』
どうやら上空から見える戦場は、敵がいない中で味方が戦死していく異様な光景に映るらしい。
「クソッ……、アグイナルドの身柄を確保し、フィリピン部隊と共に安全な場所まで退避する。オクレ!」
『了解……。幸運を祈る、オワリ』
無線が切れると、各員に指示を飛ばす。
「急いで離脱するぞ!フィリピン部隊の連中を援護するッ。スモークを投げろッ」
安全ピンが抜かれ、
混乱する戦場のど真ん中に取り残され、立ち往生する護送車に取り付くと、鋼鉄のドアを力一杯に叩く。すぐに開け放たれた。
「
「
英牙の乱暴な英語に短髪の兵士が大声で応じる。昼間の訓練でコブラ酒を勧めてきた若き下士官、バヤニ・クルス上級曹長だ。年齢は英牙よりも下だと聞いている。
「
「
後部座席を見ると、手錠に繋がれたアグイナルドが座っていた。顔に恐怖を浮かべながら車外の様子が気になって仕方ないように見える。
「
「
「
バヤニが必死にエンジンキーを捻るが、何度やっても護送車のエンジンは掛からず、八つ当たりするようにハンドルを叩く。
「
「
英牙が「クソったれッ」と口の中で呟く。
「
運転席から「鍵を寄越せッ」とひったくると、後部座席を解錠しアグイナルドを引っ張りだす。同時に、彼が持っていたバックパックも回収する。
「早く出ろッ!」
「グッ…」
負傷した箇所は手当されているが、明らかに衰弱している。実際、車から降ろした瞬間に地面に膝を突いた。
「立てクソ野郎ッ、走るぞ!」
背中の服を掴んで無理矢理立たせる。手錠は掛けたままだ。
「移動するぞ、ついて来い!!」
「どこに向かうんです!?」
「ブラックラビットの連中が占拠していた小屋があるだろ!あそこまで後退だ!」
英牙を先頭に、ジュリエットとフィリピン部隊がアグイナルドを連れて移動を開始する。
「急げ!走るんだッ!!」
現時点で他の職員達の大半は死に絶えている。今回の作戦目的はアグイナルドを生きたまま捕縛する事にある。僅かに生き残っている者達には悪いが、彼らを助ける時間はない。見えない敵に囲まれてる以上、救出する手段がないのだ。残酷だが自分達が離脱するまでの間、囮になってもらうしかない。
「ハァ、ハァ、ハァ…!」
街灯なんて存在しない、完全な闇夜に包まれた道を進みながら、件のボロ小屋を目指す。距離的には1キロも離れて無い筈だ。
「ぐあッ…!?」
走り始めて10分後、アグイナルドが疲労のあまり前のめりに倒れる。
『おい何休んでんだ!立て!立たなきゃお前も死ぬぞッ』
『ク、ククク……』
アグイナルドは低く嗤うと、理雄の方を嘲るように見る。
「
間髪入れず、理雄の鉄拳が振り下ろされる。
「ぐッ…!」
口を切ったのか、それ以上は何も言わなかった。
「もういい黙れ!------天城さん、確かフィリピン支部の職員がジュラルミンケースを開けた直後に死傷者が発生しましたよねッ?」
このままだと追いつかれる。小屋に避難しても、対抗する方法が見つからなければ袋の鼠になるだけだ。せめて敵の正体と弱点を知る事ができれば……。
「あぁ、俺も宝珠みたいなヤツを見たな…。まさかアレが原因か?」
「田上さん曰く、コイツらはSCPに関する情報をある程度掴んでいる。ならどこかで実物のアノマリーを手にした可能性は考えられませんかッ?」
英牙は少し考える。その間に悠間が私見を述べた。
「確かに……、普通に考えて一般のテロ集団にすぎないアブ・サヤフがどこでSCP-2085の情報を得たのか……。他のセルが攻撃を受けた際、独自で調査したんだとしても、得た情報が正確かつ詳細がすぎる……。仮に財団の腐敗細胞か要注意団体から得たんだとしたら、ソイツらを経由して未収容のオブジェクトを入手できた事にも説明がつく」
もしそうだとしたら、アレはアグイナルドが兵器として購入したアノマリーの一種だろうか。2085のような異形を相手にする場合の切り札として、同じ異形の非対称戦力を必要としたのだろうか?
「なら、コントロールする手段も持ってる筈だ。爆薬だけ買って起爆装置は買わないなんて阿呆はいないだろうしな」
悟が鋭い視線をアグイナルドに向ける。
「だとしても、このドナート・ビランチャのなり損ないみたいな野郎が何かできるとは思えないぞ。つーか協力しないだろコレじゃ」
唾でも吐きたそうな表情をしているアグイナルドを指差し、信孝が溜息を吐く。
「それが出来るなら、とっくにやってるだろうしな……」
英牙がアグイナルドを冷たく一瞥すると、ホルスターからVP9拳銃を抜いてスライドを引き、初弾を
「
「…………」
「
無視される。
「
胸ぐらを掴んで引き寄せると、VP9の銃口を顎に突き当てる。
『尋問している時間はない、アレをどこで手に入れたのかは知らんし聞かん、とにかく今すぐだ、今すぐにアレを止めろ!』
アグイナルドは答えない。虚ろな目で此方を見てくるだけだ。
しびれを切らしたのか、英牙はアグイナルドのバックパックを取り出し、中に入っていた物を地面にぶちまける。懐中電灯、メモ帳、ペン、コンパス、軍用レーション、ペットボトルに入った飲料水、ハンディカムカメラが入っていた。
『この中に俺たちの仲間を斬り殺したヤツを止めるツールがあるんじゃないのか!?あるなら止めろッ、今、ここでだッ!』
『ハンッ、馬鹿が……』
ようやく口を開いたかと思えば、アグイナルドは鼻で笑いながら蔑むような視線を向けてくる。
『もう手遅れだ、アレが解き放たれた今、誰も助からない。俺も、お前たちもだ。可哀想に……残念だったな』
『……上等だ』
銃口をより強く押し付ける。
『どうした?
『どうだろうな、賢い選択をすれば多少はマシな未来があるかもしれないぞ?生きるか死ぬかはお前次第だ。お前が決めろ』
英牙の言葉に、アグイナルドは失笑する。
『冗談だろ?お前らがどこの誰かは知らんが、ロクな連中じゃないのは確かだ。そんな輩に捕まった所で、待っているのは良くて生き地獄だろう。悲惨な最期を迎えるくらいなら、今ここで一思いに殺された方が楽に死ねる』
『俺達の事なら、多少は知っているだろ』
『……………』
不意に、英牙の肩に手が置かれる。
「無駄だ隊長、コイツは何も喋らない。頭の中にあるのは俺達を殺す事だけだ。それより早く小屋まで行こう、考えるのはその後だ」
「…………」
「チッ…」と舌打ちし、VP9をホルスターに戻すと、両膝を突いていたアグイナルドを掴み上げる。
『休憩は終わりだ、行くぞ』
『やれやれ、まだ抗うつもりか?最期までみっともなく足掻く姿勢は同じ戦士として尊敬できるが、死ぬべき時は潔く死んだ方がいいぞ』
『死ぬべきだとしたらそれはお前だけだ。俺達じゃない』
理雄が口にした瞬間、アグイナルドは口を大きく開けて嘲笑する。
『呆れたな、この期に及んでまだ気付かないのか…』
憐れみと蔑みの混じった眼で此方を見遣る。
『俺達は同類だ。お前らの目を見れば分かる。俺もお前らも、同じモノ、同じ世界を見てきた
吐き捨てられた言葉に、全員が足を止めアグイナルドに視線を向ける。此方の反応を見て、愉快そうな表情になる。
『ハッ、やっぱりか。いい加減認めたらどうだ?俺もお前らも同じ穴の狢なんだよ』
『なんだとッ?』
バヤニが食ってかかる。
『これは迎えるべき死だよ。俺達みたいな人間にいつか必ず訪れる"非業の死"ってヤツだ。因果の道理から外れ、本来の寿命を迎える前に命を落とすんだ。惨めだよな』
『お前と一緒にするな……、一体何が同じだって言うんだッ。俺達とお前のどこが------」
『同じさ!この世を生きる人間は二種類しかいない。世界は希望に満ち溢れていて、いつかは自分の夢に手が届くと信じ込んでいる愚かなヤツと、夢を持つ事すらできない憐れなヤツだけだ!分かるか?所詮は幻想なんだッ、『希望』なんてのは、この世で最も無意味で無価値で存在が希薄なモノなんだッ!他の連中が蒙昧にもそれを信じている社会の中で、俺達だけがその事実を眼前に突きつけられ、その身で思い知らされたんだ!!』
気付けば、アグイナルドは血を吐くような勢いで憎悪を剥き出しにする。
『何故だ!何故俺達だけがこんな仕打ちを受けなければならない!?何も知らない連中が毎日を呑気に生きている姿を見るだけで、俺は死ぬほど憎んだし呪ったッ、人も、世界も、神でさえもだ!!』
その言葉に、全員の表情が凍りつく。ここにいる全員が、同じような過去を持ち、目の前の軽蔑すべきテロリストと同じ想いを抱えている事に気付いてしまったからだ。
『だから銃を手に取ったんだ!だから全てを壊そうとしたんだッ!お前らもそうだ、この世が憎いからこそ戦うんだろう?その憎悪に満ちた想いで、呪うような眼差しで、誰かに殺意をぶつける為に引き金を引く
『貴ッ様ァァァァァァァァァッ!!』
『よせ、止めろッ』
バヤニが掴みかかる中、英牙が割って入る。
『少し落ち着け、コイツが俺達を理解できる訳ないだろ、テキトーに言わせておけ』
『………』
『それより早く移動しないとヤツらに追いつかれる。急ぐぞ』
『……分かった』
バヤニが手を離すと、アグイナルドは俯いたままクツクツと笑っている。
『無駄だ、お前らが生き残れるものか……。お前らは光の中で偽りの平和を享受している連中と同じになったつもりでいる。本来見るべきモノに目を向けず、見て見ぬフリをしている。自分達が何者なのか……それを自覚すらしていないお前らが、どうやってこの窮地を脱するつもりだ…』
----------"見るべきモノ"…?
アグイナルドが口にしたその言葉に、理雄はある事に気付く。
最初に職員が倒れた時、職員は首を斬られて失血死した。つまり----------外部から物理的な攻撃を受けたという事だ。肉や血管に異常が起きた訳ではなく、念力で引きちぎられた訳でもない。
何より、自分は目撃している。斬られた職員の首から血の付いたナイフの軌跡を---------。
相手は
アグイナルドの持ち物の中で、"見る"行為に特化したツールは一つだけ。安物のハンディカムカメラを拾い上げると、モニターを広げて起動する。周囲を映してみるが、なんら異変は起こらない。ごく普通のカメラだ。
しかし、少し待っていると、やがてピチャピチャ…と水が跳ねる音が聞こえてくる。
「ッ…!来たッ」
全員が臨戦態勢を取り、それぞれの銃を構える。
「どうだ?何か見えるかッ?」
英牙に問われ、モニターを見つめる。
見えるのは、血の付いた足跡---------。それが徐々に此方へと近づいてくるのが分かる。
「クソッ、足跡は見えるのに姿だけが見えないッ」
悟が苦い表情のまま呟く。
だが、敵は確かに存在する。距離はあと50mもない。そして-------その姿がモニターに映る。
人型……身長180cm前後。体重は不明だが全体的に透明な人形にも見える。顔はない。ショッピングモールで見るマネキンか木偶人形が四足歩行の姿勢で急接近していた。手に持っているのは……刃渡り10cm程度のナイフ。
「12時の方向!距離残り15……10………すぐ目の前だッ!」
隣の龍一郎がモニターを覗き込み、飛び掛かってくる異形を確認する。
「------あぁ、クソッ!」
M110で2発発砲。7.62mm高貫通を喰らった目標は金切り声じみた悲鳴を最期に、沈黙した。
「……おい、どうなった?」
「動かなくなりました……」
幸い、通常の物理攻撃は効くようだ。
「よし!ジュリエット7、ジュリエット3にカメラを渡せ。急いで小屋まで向かうぞッ」
龍一郎にカメラを渡すと、残りの道具をバックパックに詰め込み直す。アグイナルドを引き摺りながら小屋を目指すと、例のボロ小屋が見えてくる。写真で見た時よりも大きく感じた。調査に赴いたフィリピン支部のハンヴィーが一台停まっており、傍に2名の職員が立っている。
『おい!緊急事態だッ。早く小屋に---------』
英牙が呼びかけるより先に、二人の頸動脈が切断される。
「クソッ!ジュリエット6!」
「殲滅するッ」
英牙の指示に素早く反応した信孝がMINIMIを構える。
「ドアの辺りを撃て!」
龍一郎がカメラを信孝の前に翳し敵の位置を指し示す。ハンヴィーのドアを狙いトリガーを引くと、強烈な反動が信孝の肩に掛かる。
放たれた弾丸は異形を切り裂き、一体残らず排除した。
「よし、全員小屋に入れ!ひとまず中で籠城す----------」
「理雄ッ!!」
龍一郎がカメラを此方に向けたまま叫ぶ。振り返った瞬間、胸部に受けた不可視の一撃が、理雄の呼吸を止めた。
「カハァ……!」
*
激痛に意識を刈り取られそうになりながら、浅く呼吸を繰り返し必死に酸素を取り込もうとする。
「援護しろッ!」
英牙が龍一郎と共に理雄の元まで近づくと、眼前の敵に発砲。ベストを掴んで小屋まで引き摺る。どうやらいつの間にか接近していた異形の攻撃を受けたらしく、目の前の揺れと耳鳴りが収まらない。ヘビー級ボクサーのストレートを真正面から喰らったような気分だった。
「おいッ、しっかりしろジュリエット7!今戦わなきゃ全員死ぬぞッ!!」
「うッ…」
英牙に呼びかけられながら小屋まで運び込まれると、銃把を握り直し、なんとか戦闘態勢に戻る。
「傷を見せろ!」
衛生兵の悠間がベストを剥がしてくる。下に来た戦闘シャツを捲り上げると、胸にソフトボール大のアザができていた。濃い黒紫色に変色している。
「大丈夫か!?この指は何本に見えるッ?」
「三本…」
「ここはどこだ?」
「フィリピン…」
「俺は宮崎よりイケてるか?」
瞬間、それまでぐったりしていた理雄が見た事もないくらい嬉々とした顔で頷く。
「------大丈夫そうだ」
「どう見てもラリってんだろッ!」
信孝が勢いよくツッコむが、龍一郎が「おいヤバいぞッ!」と叫ぶ。
「このモニターを見ろッ。とんでもない数が迫ってきてるッ!」
窓から外を映すカメラを覗き込んでみると、どこから湧いてきたのか、200体以上の異形が小屋を取り囲んでいた。
『ちょッ、なんだよこの数!?』
『マズイな、完全に包囲されてる…』
『外の連中は?フィリピン支部の仲間は全滅かッ?』
フィリピン部隊の面々も自分達が置かれた絶望的な状況に焦りを見せる。
「------クソッ」
悟が窓からHKを突き出し、龍一郎の補助を受けながら銃撃を加える。
「どうだ!?」
「全弾命中ッ、だが敵の数が多すぎてキリがない!」
「チクショウッ!アイツらの姿を確認できるのはそのカメラだけか!暗視装置も使い物にならないし……、コレじゃ俺のマシンガンで撃っても無駄弾バラ撒くだけだッ。クソッタレ」
「全員落ち着け!弾を節約しないとこの状況は乗り切れないぞッ!!」
英牙が檄を飛ばすと、無線で慶三郎を呼び出す。
「ジュリエット1からハチェット!聞こえるかッ!?」
『ハチェットよりジュリエット1。状況を知らせろ』
すぐに応答が返ってくる。
「敵の弱点を見つけたッ、通常攻撃は有効。だが多勢に無勢だ!このままだと押し潰されるッ。空爆で一気に噴き飛ばしてくれッ!」
『了解、直ちに
「この小屋だ」
一瞬、動揺した様な間が空く。
『……繰り返せ』
「この小屋の周りだ!そっちからは見えないだろうが敵は200体以上ッ、この小屋を完全に包囲している!!俺達だけじゃ勝てないッ!」
『ハチェットよりジュリエット1。危険すぎる。近くにいる君達も巻き込まれるぞッ』
「百も承知だッ!脱出は全部此方でやる。だから急いでやってくれ!今なら敵を全滅させられる!!」
『……了解、
「ジュリエット1了解!オワリッ!」
英牙が無線を切る。
「もうすぐミサイルの雨が降るぞッ、速やかにここから離脱だ!!」
「どうやって!?外のハンヴィーを使うのかッ?」
「アレじゃ全員は乗れない!」
信孝の考えを否定すると、理雄の方に視線を向ける。
「ジュリエット7、お前が退路を見つけろッ」
英牙の視線に、思わず息を呑む。
「お前の"目"が頼りだ!この包囲網を突破するには、お前の異能で敵陣の綻びを見つけるしかないッ、包囲陣の中で、一点突破できそうな場所は分かるかッ?」
「ッ……」
窓から外を見る。暗視装置は使わず、肉眼で世界を見据える。
集中しろ------、五感を研ぎ澄ませ。敵の姿を直接見る事は叶わなくとも、実体が存在する以上、痕跡や気配は必ず残る。
密林の奥に潜む脅威は、ジッと此方の出方を窺っている。森の住人たる動物や虫達は、自分達の住処に入ってきた異形を警戒しているのか、不自然に静まっている。
森はダメだ。敵は徐々に包囲陣を狭めながら接近してくる。他に強行突破できそうな場所は---------。
「……川だ」
「何ッ?」
「ここに来る途中、川が見えました!そこには奴等の気配が感じられないッ」
「確かか!?」
「間違いありません!もしかしたらアイツら、水に近寄れないんじゃ……」
英牙が暗視装置で川の方を見る。確かに、足跡や不自然な動きは確認できない。
「待てよ!待ち伏せの可能性があるんじゃないのかッ?」
悟が懸念を表明する。
「いや……、もうコレしかないッ。川を目指すぞ、見た時はそこまで深くなかった筈だ!」
レッグポーチからスモークグレネードを取り出すと、窓から投げる。染料の混じった赤い煙が発生し、無人機の攻撃目標を示す目印となる。
「よしッ、走れ!」
龍一郎を先頭に全員で川を目指す。アグイナルドが泳げるか心配だったが、辿り着いた川の水深が思った以上に浅く、走れるくらにいは余裕があった。
「そのまま進め!包囲網を突破するんだ!!」
刹那、ドローンのエンジン音が飛来し、続けて
轟音と衝撃、爆炎の熱を背後に感じながら、理雄達は異形が蠢く戦場を離脱した。
*
焚き火を囲みながら、今回の作戦に加わった仲間同士で互いを讃え合う。
「やれやれ、映画でも作れそうな壮絶な脱出劇だったな」
「今回の任務は孫にまで自慢したくなるが、口にしたら良くて財団の秘密刑務所行き、悪けりゃ終了処分か…」
信孝と龍一郎が互いに缶ビールで乾杯を交わす。
今回の件で、2085-Aは5体とも再収容。アグイナルドは無事に連行され、カメラを含む異常性アイテムの幾つかは回収された。あの正体不明のアノマリーの件を含めて、情報部は今後の調査に追われる事となるだろう。フィリピン支部の職員が50名以上殉職した事を考えると、あまり大っぴらには喜べないが、それでも為すべき任務は為し遂げた。そこは素直に誇りに思っていい。
「にしても、今回は理雄に色々と助けられたぜ。あのカメラの秘密を暴き、脱出経路まで見つけたんだからな」
「あぁ、本当によくやってくれたよ」
悟が笑顔を向けてくる。悠間もそれに同意しビールを捧げてくる。
ノンアルコールビールを手にする理雄が照れ臭さを感じていると、隣に英牙が座ってくる。
「お疲れ様です」
「あぁ、……綺麗な星空だな」
「……えぇ」
星空を見上げて、あまりの美しさに感嘆する。赤道に近い低緯度の為、日本では見えにくい『南十字星』や美しい星々が観察できる。
「少し前に、一歌達と一緒に夜の星空を見に行った事がありますけど……、こっちの星座も綺麗ですね」
「ついさっきまで殺し合いしてたのにな……、星ってのは、平和な世界から見ても、戦場から見ても、美しさは変わらないらしい」
二人して夜空を見上げていると、不意に向一が黙り込んでいる事に気付く。
「…………」
元々無口な男ではあるが、それにしたって静かすぎる。仲間の喧騒に入る様子はなく、手に持つビールを口にする事もない。焚き火の灯に当てられながら、なんだか思い詰めた表情をしている。
「コウ、どうした?もう酔ったのか?」
「………」
理雄が愛称で呼びかけるが、向一は無反応のままだ。
「…ジュリエット8、応答せよ」
「ッ…!」
コールサインで呼ぶと、やっと此方に反応を返す。
「大丈夫か?」
「す、すみません…。少し考え事を……」
「……何を考えていたんだ?」
気になったのか、英牙も尋ねる。やや間を空け、向一はゆっくりと口を開いた。
「……アグイナルドが口にした台詞が、どうしても頭から離れないんです。俺達が………破滅主義の慟哭者で、最期は悲惨な死を迎えるって」
向一の言葉に、二人して閉口する。
「これまで、酷いモノを散々見てきました。……自分達の戦場は、この世界の絶望の掃き溜めです。そこで生きる人間は大抵、まともな死に方はできない……。けれど、それでも自分達の戦いには意義があり、誇りを感じていました。人類を守る鉄壁の盾であり剣であると。でも、今回のアグイナルドみたいな人間を見て、なんだか……」
そこで、一旦言葉を切る。
「……とても、惨めな気分になったんです。これまでの生き様が、犠牲が、まるで何の意味もなかったようで------」
「やめろ」
英牙が強い口調で制止する。
「俺達とアイツは違う。俺達は確かに、この世の悍ましさを憎んでいる。それはある意味、世界の真実と同義だからな。ヴェールを捲った世界の景色は、どこまでも醜悪で最低だ。この仕事に就いてると、やり切れない気分になる事も多い。だが、俺達が諦めれば、いずれ世界は闇に呑まれる。俺達の世界は表からも崩壊を始めているが、この世界は違う。無辜の民と光を守る為に、俺達はこの先も戦い続ける。----------人類と、三大理念に栄光あれ。財団の勇者に祝福を」
「「「パナギアの勇者よ、誇り高くあれ」」」
全員が席から立ち、もう一度乾杯し酒を交わす。
この世界で見つけた想いを守る為に、戦うと誓った。星空の下で感傷を振り払っていると、理雄はふと思う。
この世界の真実を知らずに生きている一歌達は傍観者であり、自分も彼女達の平穏を許せないと心のどこかで思っているのだろうか?アグイナルドと同じように。
----------バカな、俺に限って有り得ない。
頭を振って思考を払う。彼女達を世界の闇から遠ざけたいと願っているのは他でもない自分自身だ。何も知らずに平和に生きるのは素晴らしい事であり、なんら責められる事ではない。むしろそれが普通なのだ。
----------今日死んだ財団職員の連中にも、同じ事が言えるのか?
誰かにそう言われた気がした。平穏を享受する生き方を拒んだのは自分達の意思だ。そうせざるを得なかった人間もいるだろうが、今更普通に暮らしてる一般人を恨んだり妬んだりする事はない。彼らのようにはなれないし、なりたいとも思わない。
だが、だとしたら自分達のこの想いは……苦しみは誰が受け取ってくれる?この希望の見えない世界で生きる自分達は、いつになったら救われる?
---------誰も、俺達の事は理解できない。誰一人として…。
そんな当たり前の事を、どうして今更考えているのか……、自分でも不思議に感じていた。
『------♪------♪……」
「ッ…!?」
咄嗟にスマホを取り出すと、画面を凝視する。
「なんだ……コレはッ?」
スマホの画面に走ったノイズは、歌声と共に消えていく。
「…どうかしたか?」
自分以外には聞こえなかったのか、信孝が怪訝そうな眼差しを向けてくる。
「い、いや…。なんでもない」
さっきのは一体何だったのだろうか?
疲労が招いた幻覚?気のせい?---------いずれにしろ、考える気分にはなれなかった。
ノンアルコールビールを呷り、無数に輝く星々を眺める。
どんな世界で生きていても、星の美しさは変わらない。今はそれが、少しだけ心の救いになってる気がした。
これにて、プロローグは終了となります。劇場版プロジェクトセカイ本編でいえば、この直後にオープニングに入るイメージでしょうか。
次回から本編:『Lamenters』に入ります。ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。引き続き、ご愛読の程をよろしくお願い致します。
唯尊