劇場版プロジェクトセカイ:PSS異伝『Lamenters』 作:唯尊
星が降り注ぐ夜空の下---------人気のない夜の校舎の教室に星乃一歌の姿はあった。
『…違う'"私"を見た?』
おとがいに指を当て不思議そうに首を傾げるのは、見慣れぬ高校のブレザーを着用した初音ミクであった。赤いメッシュと安全ピンの髪留め、ウェーブの掛かったツインテールは、普段街中で目にするミクとは随分と印象が異なる。
ここは『教室のセカイ』---------一歌をはじめとした4人の幼馴染達の想いが生んだ不思議な空間。バーチャルシンガーの彼女はこの『セカイ』の住人であり、一歌達『Leo/need』の音楽の先輩であった。
「うん、今日CDショップで…」
普段着姿の一歌が、中学や高校でよく見られる椅子に腰を下ろし、バーチャルシンガーの3人と対談していた。
『広告とかじゃなくて?』
「ううん、違った。私の声に反応してたし」
『そっかー……』
ミクは暫し思考を巡らせていると、やがて一歌と視線を合わせる。
『もしかしたら、"想いの持ち主"に会いに行っていたのかもしれないね』
"想いの持ち主"………一歌達にとって馴染みのあるフレーズだった。
「私達……みたいな…?」
『セカイはここだけじゃないからなー』
横から口を挟んでくるのは、教室の机に腰掛けた小柄な金髪の少年、鏡音レンだった。その隣の窓際には巡音ルカが立っている。
『想いの数だけ、"セカイ"があるんだ』
「他のセカイか〜…、どんなセカイなんだろう…!」
一歌は希望に満ちた眼差しで興味と期待を露わにする。
『それは分からないけど、このセカイと同じで誰かの強い想いで出来てる筈よ』
ルカが口にした直後、教室の扉が開き天馬咲希が入室してくる。
「やっほー!」
夜でも変わらず元気な姿で大きく手を振る咲希に対し、ルカが『こんばんは』と返し、レンが控えめに手を振り返す。
「猫ちゃん居たよ!いっちゃん!」
嬉しそうに報告してくる咲希。
「探してた猫?」
「そう!あの後ばったり!でもすぐ逃げられちゃって……。たまたま近くに居たりゅーちゃんが捕まえてくれたけど、煮干しは食べてくれなかったよ〜…」
すぐ様残念がる咲希、相変わらずテンションの上下が激しい幼馴染である。
「りゅーちゃん……あぁ、リューダの事?」
「うん!帰り道で会ったんだ!あと、前々から『りゅーちゃん』って呼ばれるの嫌がられてると思ってたけど、今日会った時に『むしろ嬉しい』って言ってもらえたの!」
「そうなんだ……、良かったね、そう言って貰えて。きっとその猫ともまた会えるし、その時はきっと煮干し食べてくれるよ」
一歌に励まされると、咲希は「だよね!煮干し持ち歩かなきゃ!」と落ち込みモードから瞬時に復活する。
「……毎日?」
一応聞いてみた。
「うん、毎日ッ!」
ドヤ顔で言いながら両手を腰に当て、フフンッと薄い胸を張った。
---------こういう所、やっぱり司さんに似ているな…。
「それに、『滴水穿石』とか、『雨垂れ石を穿つ』とも言うしね!」
「それ、この間の授業で理雄先生が言ってた故事成語だよね?確か、中国の『漢書』って歴史書が由来で------」
「うん!『小さな努力でも根気よく続ければ最後には成功する』---------諦めずにアプローチし続ければ、いつか猫ちゃんとも仲良くなれるよ!」
最近の咲希は、理雄の日頃の言動に結構な影響を受けている。以前、司のモノマネなんかはよくしていたが、いつからか理雄の口癖や何気ない日常での仕草まで真似する様になっていた。『無視して踏み越える』とか、『楽だったのは昨日まで』なんかはよく耳にする。
「あ、そうだ!理雄先生の事で思い出した!」
いかにも『たった今思い出しました』とでも言わんばかりに両掌をパンッと合わせる。
「いっちゃん、理雄先生と連絡取れる?心配になって電話しようと思ったんだけど、繋がらなくて…」
ここ数日間、姿も見せなければ連絡に関して何の音沙汰もない高校教師に対し、咲希も不安がってる様子だった。
「あぁ、えっと……多分大丈夫だと思うよ」
そこで、一歌はCDショップで目撃した
一通りの説明を終えた後、案の定、咲希も驚いていた。
「フィリピンッ!?どおりで携帯が通じない訳だよ……」
日本とフィリピンじゃ現地の電波状況によっては繋がらない場合があると聞く。
「あ、でもメールなら通じるかも」
稜稀の端末が通じていたのだ。自分達のでも可能な筈だ------。そう思ってポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリで理雄のアカウントにメールを打ち込んで送信すると、不意に廊下から奇妙なエフェクトと共に光が溢れ、輝きが一点に集束した直後、その中から望月穂波が姿を現し、遅れて日野森志歩がベースの入ったギターケースを持ち、セカイへとやって来る。
「皆んな、お待たせー!」
「なんの話してたの?」
教室に入って来た穂波と志歩を出迎えながら、咲希が「聞いて聞いて!」と近寄り、先程の一歌から聞いた話を二人にも伝える。
「えぇ!?フィリピンにッ?」
「いつの間に……、っていうかソレならソレで事前に言うとかメールするとか、そういうのあってもいいと思うんだけど」
穂波が驚愕し、志歩が仏頂面で不満を口にする。
「まぁまぁ、理雄先生も忙しいんだろうし……、次のライブには来てくれるそうだから、本番で私達の演奏を届けようよ」
一歌が自身のスマホを翳しながら、『心配させて悪い、次のLeo/needのライブまでには仕事を片付けられそうだから、その時までには帰国する』との返信があった。
「……まぁ、チケット買ってもらってる訳だし、いつだって最高の演奏をするけど…。さ、練習始めるよ」
志歩は唇を尖らせながらも、練習の準備に入る。
「よーーっし!今日も頑張ろーッ!」
咲希が気合いを入れ、メンバー全員がそれぞれの楽器を取り出し、チューニングや細かな調整を行う。
それらが済むと、いよいよ演奏の態勢に入る。ミク達が少し離れた位置から少女達を笑顔で見守る。
『------皆んな、頑張って』
穂波がドラム、咲希がキーボード、志歩がベースを担当し、一歌がギター&ボーカルを務める。
彼女達はLeo/need------。かつて、バラバラになっていた幼馴染同士が、絆の力ですれ違いを乗り越え結成された4人組のバンドユニット。
無数の流星が降り注ぎ、高潔に輝く夜空の"セカイ"で、彼女達は歌う。
この想いが誰かに、どうかきっと届きますように---------。そう祈りながら、一歌の脳裏にある人物の姿が過った。
どんな時も諦めず、己の想いを貫くその強さに、自分は救われた。諦めずに想いを伝えろと、大切な人の想いを受け止めろと、彼が言ってくれた。離れ離れになった絆を再び結びつける勇気と手段を教えてくれたのは、あの極黒の青年だった----------。
----------この想いが、理雄先生にも届きますように。
それぞれの本当の想いを胸に、4人の演奏がセカイに響いた-----------。
*
数時間後----------、フィリピン共和国・某所。
高校教師兼、SCP財団機動部隊員の志熊理雄は、
「------ダメだ!完全に包囲されてるッ!」
「退路も寸断された…、撤退しようにもコレじゃ無理だぞッ」
「外にいたフィリピン支部の連中は全滅したのかッ?」
薄れゆく意識の中、仲間達が必死に状況を打開しようと叫んでるのが聞こえてくる。
「おいッ、しっかりしろジュリエット7!今戦わなきゃ全員死ぬぞッ!!」
分隊長の天城英牙の怒声が脳内に響く中、震えたままの手でHK416の
闇夜に包まれた密林の中、立て籠ったボロ小屋の中には自分の他、ジュリエットチームの初雪を除いた6人及び、フィリピン支部の機動部隊の6人、そして今回の任務の最重要目標であり生捕りに成功した男の計13人が敵の猛攻に晒されていた。
「------クソッ」
一瞬の隙を突いて、悟が窓からHKの光学照準器で捉えた敵に銃撃を加える。銃口の先端に取り付けられた
「どうだ!?」
「命中!目標沈黙ッ。だが敵の数が多過ぎるッ!」
安物のハンディカムカメラを構えた龍一郎が絶叫する。
「チクショウッ!暗視装置は使い物にならねぇし、敵の姿さえ見えれば!!」
信孝がMINIMI軽機関銃を構えながら苛立たしげに怒鳴る。
「全員落ち着け!弾を節約しないとこの状況は乗り切れないぞッ!!」
英牙の怒号が飛ぶ中、建物の外からは異類異形の群れが悲鳴にも似た叫び声を上げながら迫って来る。
味方には夥しい数の犠牲者が出ており、敵の数は不明、その姿形すら肉眼では捉えられない---------。
絶体絶命の状況の中で、理雄はギリッ…と歯を食いしばる。
---------クソッタレッ、何故だ、何故こんな事になった……ッ!!
茶番劇、その1。『他の世界にも歌を届けたい!』
劇場版プロジェクトセカイ、本編終了後------。
バツミク『この世界だけじゃなくて、理雄の世界にも私の歌を届けたい!この『セカイ』の窓から向こうを見てくるよ!』
理雄「……好きにしろ、止めないから…」
---------ガチャリ(行き先『ヴァンガード・ザ・ウロヴォロス』)。
数日後---------。
バツミク『…ゔおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ』
一歌「ぎゃああああ!ミクがゲロ吐いて失神したーッ!!」
理雄「そのままだと窒息死するからうつ伏せにしてやれ…」
完。