原作でのペルソナ5主人公のデフォルトネームの一つである(アニメ版などで採用されています)雨宮蓮の名前を持つ本作主人公。
原作との違いは女性であること。
そして獅童正義との戦闘力差が象と蟻くらいある上に、頭も回った事です。
序、獅童正義
夜道で禿頭の男が女性に絡んでいた。上物のスーツを着ているその男は隣に車を停め、明らかに酒に酔っており、しかも欲望に目をぎらつかせて。女性の腕をつかんでいた。女性も女性で大声でも出せば良いのに、そのまま禿頭の男に好き勝手にされているばかりである。
それどころか、男は酒臭い息を吐きながら恫喝していた。
背丈は平均的な男性より少し高いくらいか。禿頭の割にあごひげを生やしていて、相応に筋肉質の男だった。目つきは異常に鋭く、眼鏡の奥には傲慢極まりない目がぎらついている。
「さっさと車に乗れ! 貴様のキャリアを台無しにしてやっても良いんだぞ!」
「止めてください! 私には婚約者が」
「だったらその婚約者をぶち殺してやろうか!」
唾を飛ばして喚き散らす男。
此処は本当に現在日本か。
盛り場の近くとは言え、ちょっとばかり愚かしすぎる。
私は、無言で男の手をつかんでいた。
酒臭い息を吐きながら、男はスジ者同然の声を挙げながら、よろめきながら振り返る。女性は男が手を放したので、さっと逃れていた。
「何だおまえ……っ!?」
私を見て、それだけで男は黙った。
私は近くの学校の制服を着ている。ちょっとばかり部活が遅くなったので、この時間になったのだ。
ちなみに部活のメンバーは全員グロッキーになって先に帰宅している。
顧問も流石に遅くならないようにと言って先に帰った。
いつものことだ。
私も学校に取り残されるのは面倒だったので、ギリギリで学校を出た。
まあ、部活に打ち込んでいるというよりも。
体力が有り余っているので、こうして発散しているだけだが。
私の背丈は男とあまり変わらない。
ただ、禿頭の男と決定的に違うものがある。
私は女で。
そしてつかんだだけで分かったが、実力が天地の差だと言うことだ。
恐らくだが、男も護身術くらいは学んでいる筈で。
一瞬でそれを理解したはずである。
故に、恫喝をやめて、一瞬黙ったが。
しかしながら、再び酒の勢いか、怒鳴りつけようとしてきた。
その瞬間。
私は、男の手を、いきなり自分の胸に押し当て。
つかませていた。
ぎょっとした禿頭の男の前で、私は息を全力で吸い込むと。
辺りの人間が気絶しかねない。大音量で絶叫していた。
「きゃあああああああああ! 痴漢! 襲われる!」
声は完全に爆風と成ってあたりを蹂躙し、側でオロオロしていた女はすっころんで真っ青に。
ついでに近くでワンワン吠えていた犬が、一瞬で恐怖に黙り込む。
辺りの家の電気がつき。
なんだなんだと人が出てくる。
盛り場近くとは言え、この辺りには住宅も多い。
そして出てきた人達の中には、スマホをさっと構えて、禿頭の男が私の胸をつかんでいる様子を撮影し始める者もいた。
それも複数。
男が大慌てして、私の体から手を離そうとするが。
万全の状態だったらともかく、酒の勢いで女をホテルに連れ込もうとする……しかも酔っ払い運転で……な有様である。
ついでにそもそも私と男では、格闘戦の技量が違いすぎる。
これでも私は、全国区で優勝経験がある。
この男は精々お座敷拳法をかじった程度だろう。
「痴漢だ!」
「すげえ! 胸をわしづかみにしてるぞ! てか胸でけえ!」
「いやっ! 離してっ!」
「え、お、ちょ……!」
あまりの事態に、禿頭の男が困惑しつつ、どうしたら良いのだろうと左右を見回す。
此奴は格好からして名士なのだろうが、残念ながらあまりの事態に自慢にしている(つもりなのだろう)頭も回らないようだ。
そして、撮影がされているのを充分に確認した私は。
倒れ込むフリをしながら。
男を巴投げしていた。
凄まじい勢いで空中に吹っ飛ぶ禿頭の男。
え、とか。
あ、とか。
そんな声とともに遙か空に舞い上がった男は、三回転半をしながら。弧を描いて飛び。それを群衆のスマホが動画に納め。
そして、ゴミ捨て場に頭から墜落したのである。
その姿は、高名な推理小説で、湖に突き刺さった死体のように。見事なYの字を描いて、両足が空中に突き出されていた。
一瞬、シーンと誰もが黙り込んだ後。
誰かがおおーと感動の声を上げて、拍手し始めた。
スマホカメラの砲列がYの字に足を開いたままゴミ捨て場に突き刺さっている男を撮影し続けている。
程なく警察が来た。
警察が来ると、私は即座に声を張り上げる。
「痴漢です! それどころか、この人をホテルに連れ込もうとしていたし、飲酒運転までしようとしていました!」
「え、その……」
「証拠なら、その辺の人達が動画に撮っています!」
「……ア、ハイ」
警官達が、まだYの字に足を開いて逆さにゴミ捨て場に突き刺さっている禿頭の男を引っ張り出す。
その顔を見て、警官が青ざめたが。
男は完全に目を回していて。
警察はそそくさと男を連れて去って行ったのだった。
不自然だが、全てスマホで多数の群衆が動画に納めており。
そしてこの動画はSNSや動画投稿サイトに投稿され。一晩で合計1000万再生。更には、数日で世界中に拡散され。
一億再生をあっという間に超えたのだった。
数日後。
私はテレビの記者会見を見た。
家に帰ってきてから、風呂を浴びた後である。
記者会見に出ているのは、あの禿頭の腐れ酔っ払いだった。獅童正義というらしい。まあどうでもいい。
獅童正義はあの傲慢そうな目はどこへやら。
いきなり平身低頭に謝罪を始めていた。
なんでも此奴は現役の閣僚で都知事経験者らしいのだが。
ここ数日で凄まじい勢いで「痴漢動画」が拡散し。消そうにも消そうにもその先から再アップされ。
それどころか海外でも大拡散され、「日本のハゲ痴漢成敗される」とか、「ハゲ男が女性を襲って投げ飛ばされる」だとかの題で出回り。
挙げ句コラ画像とかまで作られ始める大人気ぶりだ。
しかもYの字にゴミ捨て場に突き刺さった様子は「漫画のようだ」と大爆笑を呼んだようであり。
その権威は地に墜ち、それどころかマントル層までめり込んだと言える。
しかも私は上手に顔がうつらないように立ち回った。
さて、どうするんだろうな此奴は。
そういえば、禿頭に包帯を巻いている。
どうやら、あのとき頭を強打したらしかった。
まあゴミ袋がクッションになったし、死ぬことはないだろう。ポテチをつまみながら、私は風呂上がりの体をクーラーで冷やす。
「私は許されざる罪を犯しました! 最近連発している精神暴走事件! あれらは私が全て影で画策していたことなのです!」
精神暴走事件。
なんだかいきなり色々な人が変な行動を始めた結果、大事件になるろくでもない事件である。
ただ被害が凄まじく、地下鉄が脱線したり、バスが逆走して大事故を起こしたりと、死者だけで数十人くらい出ているはずだ。
それをこのハゲ野郎、自分の仕業と言い切ったのか。
ポテチをつまみながら、続きを見る。
カメラの砲列が、禿頭を照らしている。
そんな中、獅童とやらは、側に身なりの良いスーツ姿の少年を連れてきていた。少年は確か、どこかで見たことがある。
二代目少年探偵とか言われている、明智吾郎という奴だ。
テレビなんかでも露出が目立つ男だが。
それを側で、禿頭の男は頭を下げさせる。
明智は真っ青になったり真っ赤になったりしながら。
どうしたら良いのか分からない様子で、凄まじい形相をしていた。
「私は認知訶学というものを悪用し、この明智に……私の息子に、精神暴走事件を実施させていました! その結果、数多の尊い命が失われてしまったのです! その中には、認知訶学の研究をしていた学者までいました! その上、その死を偽装するために、まだ幼い子供に罪を着せるような真似まで……っ! 私は許されざる大罪人です! しかも私は……信じがたいことに、自分が総理になるために、それをやったのです! ただ欲望のためだったのです!」
どんどんと机を叩くと、獅童とやらが大泣きし始める。
鼻水も滅茶苦茶垂れ流している。
私はポテチがまずくなると思いながら、続きを見る。
「それだけではありません! 私は気にくわないという理由だけで、多くの官僚や政治家のスキャンダルを手下にしていたマスコミにでっち上げさせ、潰してきました! それに拡散されている動画であるように、私は飲酒運転を日常的に行い、それどころか秘書官や目についた公務員などの女性を手当たり次第に……性的嫌がらせを行い、関係まで強要していました! あの日も勇敢な女子学生がとめてくれなければ、凶行を……また……うぉおおっ! わ、私は! 人間と呼ぶに値しない! 悪魔だ! 悪魔のような男なのです! 私は日本の恥だ、は、恥……おおおおおおっ!」
周りの偉そうな議員達が慌てているが、獅童は涙をだらだら流しながら更に叫ぶ。
私はこれより出頭し、法の裁きを受けると。
そして、明智の頭をつかむと、一緒に深々と土下座していた。
「これより私は、極悪人として、大量殺人をさせてしまった息子とともに罪を償います! また、現役の閣僚としての座も、勿論議員としての地位も、返上させていただきます!」
しばらくぼんやり見ていたが。
まあ面白かったかな。
そう思って、私はテレビを切ると。
後は適当に体を動かしてから、寝る事にした。
どこかの青い部屋。
其処では、鼻の長い……それもとがった鼻が三十㎝は伸びていて、しかも巨大なぎょろ目をギラつかせた謎の男が、テーブルにつき。
側には、青い服を着た双子の幼子……それも両者ともにおしゃれな眼帯をつけている……が侍っていた。
鼻の長い男は、大きくため息をついていた。
「まさかゲームのキングが、このような形でいきなり落ちるとはな……。 頭を強打するだけで正気に戻るとは、想定外だ」
「これではそもそも囚人を更生させるどころではないのではありませんか。 囚人がそもそもいないのでは、更生どころではありません」
「そうです! 主、如何なさいますか!」
双子の幼子は、片方は荒々しく、片方は穏やかに言う。
鼻の長い男は、大きくため息をついていた。
「とりあえず次のキングを用意するとして、ともかく囚人が追い詰められるように手を回そう。 欲望を拗らせ、学び舎を好き放題に蹂躙している者がいたな」
「はい。 鴨志田卓という男です」
「うむ……そやつのところに、囚人が出向くようにせよ。 あの強烈な性格だ。 どうせすぐに激突することになるだろう」
いや、そもそも囚人すらいないのだが。
それでも鼻の長い男は、計画にこだわっている。
双子は困惑した様子で鼻の長い男を見やると、頷いていた。
私に両親から話が来る。
東京にしばらく住むらしい。
それで、秀尽学園とやらに行くことにしてほしいそうだ。
両親は私にほとんど興味がなく、学校で好成績を収めようが、実戦武道の全国大会で優勝しようが、どうでもいいようだった。
私としてはまだ未成年であるということもある。
はっきりいって親の意思に背くことも出来ないし、転校するしかない。
学校でさっさと手続きだけ済ませると、呆れる教師の前から、親はいなくなる。
両親ともに仕事に逃げているだけだ。
これでもし私があの獅童とか言う酔っ払いハゲに言いがかりでもつけられていたら、平気で見捨てていただろう事は間違いない。
そう断言するほど、しょうもない親だ。
教師もその様子を見て、ある程度事情を察したのだろう。
転校の手続きを粛々としてくれた。
それから、引っ越しの準備をする。
元々学校としても部活動にもあまり興味はなく、学年トップの成績の私がいなくなってもどうでもいいらしい。
それこそ何もかもどうでもいい。
そういう無気力極まりない学校だ。
部活のメンバーもしかり。
全国大会優勝の実績を作った私を尊敬どころか煙たがっており、いなくなることはそれで嬉しいらしい。
クラスメイトも、他の女子よりかなり長身である私が怖いのか、近寄ってくる気配がない。
どうでもいいことだが。
特に感慨なく学校を転校して。
秀尽学園とやらに通うべく、東京に行くだけだ。
両親は家の鍵だけ渡して、後は自分で全て済ませろといって。それっきりである。こんな調子で、小学生の頃から鍵っ子だったので。もはや慣れっこだ。黙々と荷造りをして、新しい住居に向かう。
東京は今時だから、当然行ったことがある。
鏡を見る。
一応美人ではあるらしい。
女子にもてた時期もあったが。私が実戦武道で地元のチンピラをまとめて畳んで交番に放り込む事件があってから、誰も近づかなくなった。
まあそんなだから、あまり容姿を整えるのにも興味がない。
ともかく空になった家を出ると、黙々と東京行きの電車に乗る。荷物も最小限だし、地元にもなんら思い入れはない。
電車で二時間ほど揺られて、それで東京駅に着くと。
更にそこから、路線図を見ながら複数の地下鉄や電車を乗り換えて、新しい家に。一軒家ではなくアパートの上、前の家より狭い。その上。あまり周囲の治安も良くはなさそうだった。
それでも、まあ良いか。
荷ほどきをして、淡々と準備をしていく。
それから、秀尽学園について調べてみた。
ろくでもない噂しかない学校だ。
一応都内でも進学校として知られているらしく、バレー部は特に強豪として知られているらしい。
バレー部の顧問は、オリンピックで金メダルを取った鴨志田という男で。
此奴については、一度試合を見たことがある。
190㎝を軽く超える長身の大男で、周囲から見ても頭一つ大きい巨漢。海外の選手と比べても劣らないフィジカルで、国内競技時代はオポジット(チームの攻撃を担うメインアタッカー)として名をはせていたらしい。
だが数年前にテレビ番組に出てきた時は萎縮していて、それ以降は音沙汰なく。いつの間にか、都内の学校の教師に収まっていた。
バレーの金メダルは日本がほしくてもどうにもならなかった部門で、それをとる立役者となった人物だったのに。
この凋落ぶりは如何したものか。
実際、メダル取得時の他の面子は、あらかた国内で有名なチームの監督をしていたり、。後進の育成をしたりでオリンピックに関わっている。
試合も一応見てみる。
バレーにはそれなりの興味があるからだ。全国などの大会には出たことはないが、これは私が怖がられていたからである。ほとんどの部活から声を掛けられることはなかった。球技大会などに出た時、バレー部を滅茶苦茶に蹂躙したことはあるが。別にどうでもいい程度の話だ。ローカル部活のバレー部に勝っても自慢にもならない。
全盛期の鴨志田は確かに強い。
跳躍力もあるし、長身から繰り出される破壊力抜群のスパイクは確かにとめられる選手はほとんどいなかったのも頷ける。
ただそれでも、鴨志田一人で勝てるわけでもないし。
世界レベルで言うと、もっと上のオポジットは同じオリンピックにも何名かいたようである。
日本チームは鴨志田が強かったから金メダルを取れたのではなく、セッター(トスを上げて攻撃をコントロールする司令塔)が有能だったことや。レシーブが各自得意で、相手の猛烈な攻撃をしのいで確実にアタッカーにつなげていたことが勝利の要因であったように思う。
ちなみにセッターだった人物は、それ以降ずっとオリンピック強化チームの専属コーチをして、国際大会でも結果を出している。
鴨志田だけが、どうしてかおかしな事に。母校らしいが、秀尽とかいう一進学校の教師をしているのだ。
どうも妙だな。
ともかく、不審に思っても仕方がないか。
学校に出る準備はしておく。
いずれにしても、まだまだ親の経済的支援がないと生活は難しいのである。自分に一切興味を見せない屑親であってもだ。
高校を出たらさっさと就職して、それで独立したいところだが。
それも難しいだろうな。
私はそう、現実的なことを考えていた。
獅童正義、いきなりゲームから陥落……っ!明智も連座……っ!
というわけで、いきなりヤルダバオトちゃんの計画が破綻してしまいました。それでも当初の計画にこだわるヤルダバオトちゃん。
やめておけばいいのに。