魔物に名前を与えるって話です。
人を〝お前〟呼びするほうがリムル、人を〝君〟呼びするほうがオリ主。
一人称が同じ〝俺〟なので、こうやって区別したほうが分かりやすいかな〜と。
前回からのあらすじ。
夜、日の光に代わって月明かりが森を照らす時間帯。
静謐を湛える夜の闇を切り裂くように現れたのは、残酷なる孤高の狩人・牙狼族。
哀れ、そんな彼らの眼に止まってしまった次なる獲物は、最弱の魔物とも称されるゴブリンの村であった。
質でも量でも、あらゆる面でゴブリンを上回る牙狼族。
ゴブリンきっての強者も誇りを胸に散って逝った。
ゴブリン達は、己の最期を悟ったのだ。
……その二体が、現れるまでは。
嵐を呼ぶスライム リムル=テンペスト
猛る覇王 レイタロウ
両名の活躍……特に、レイタロウの咆哮一つで牙狼族は途端に統率と戦意を失い、無条件降伏と絶対の服従をレイタロウに誓うに至っている。
かくして、ゴブリン村の戦いは呆気なく幕を閉じた。
……否、ここから全てが始まるのだ。
両雄を頂点に据えた、魔物達の栄光の時代が―――
……ンなワケあるかい。
……ンなワケないと言いたかったけど。
本当に大変なのは、戦闘そのものよりもその後の後始末なのだと改めて思い知らされ、俺はリムルさんとともに溜息をついた。
え?……何に溜息をついてるかって?
家をぶっ壊してまで柵を作るように命じたこと?
……それは特に問題じゃなかった。
後で説明するが、俺は近辺の森の木を片っ端から『気』で操って簡易的な寝床を作ることに成功している。
こうね、木の根元あたりに、いい感じの空洞を作った、エルフとかが住み着いてそうなちょっと神秘的な大樹をね、作ったんですよ。フフフ……(/////////)
そんなちょっとロマンチックなツリーハウスをいくつか作り上げ、家なき子と化したゴブリン達とワンコ達を住まわせることにした。
ちな、ワンコ達は襲撃時から一匹たりとも欠けることなく揃っており、大体百匹くらいはいる。
揃いも揃って人懐っこく、聞き分けの良い忠犬であるため、ワンコ関連の騒動は襲撃時以降なくなったワケだ。
じゃあ何に溜息をついてるかって?
……そんなの、決まってるじゃない。
「レイタロウ様、バンザ〜イ!!」
「「「「 バンザ〜イ!! 」」」」
「リムル様、バンザ〜イ!!」
「「「「 バンザ〜イ!! 」」」」
「御二方に栄光あれ!!」
「「「「 栄光あれ! 栄光あれ!! 」」」」
「「 はぁ…… 」」
これだよ。昨夜からこの騒ぎ。
老いも若いも、雄も雌も、ゴブリンもワンコも関係なく、俺達の姿を見かけた瞬間駆け寄って騒ぎ立てるのだ。
……落ち着けって言ってもこの有り様なんだからぁ。
でもなぁ、一応俺にも原因があるっぽいんだよなぁ。
俺が昨夜ワンコ達に浴びせかけた咆哮がゴブリン達にも少なくない影響を及ぼしたらしく、曰く、魂レベルで俺を上位者、あるいは主であると認めたらしい。
リムルさんは俺と同格ということになったが、あの雰囲気を見る限り、昨日とは完全に立場が逆転したのは言うまでもないだろう。
はぁ……見てみてよリムルさん。
俺を見る皆の目に、確かな〝信仰〟が芽生えておるぞな。
……結局俺は、どの世界に居てもこういう運命を辿ることになるのかもしれないねぇ。
「取り敢えず、全員並んでくれ」
「「「「 はいっ!リムル様! 」」」」
リムルさんがゴブリン達を整列させる。
ゴブリン達は、一体どこで練習したの?って突っ込みたくなるくらいの統率の取れた整列で応えてくれた。
「さてと、適当に村を整備していきたいが……」
ちなみに、村長はリムルさんの隣に控えていた。
何かと俺達の世話を見てくれる良い人で、現在俺に熱〜い視線を送ってきている内の一人である。
……ゴブリンの爺さんにそんな目で見られても嬉しくないけどねぇ。
俺の美的感覚はリムルさん同様、以前のままである。
まぁそれはともかくとして、これからの行動指針を打ち立てなくちゃならないワケだ。
「……これからお前達、ゴブリンと牙狼には、二人一組となって一緒に過ごしてもらうことになる。異論ある者は手を上げて意思を示してくれ」
リムルさんの言葉を受けた全員の反応を見る。
物音一つ立てずに、こちらを見つめている。
ペアとなることに、嫌そうなそぶりを見せる者はいない。
どうやら大丈夫そうだねぇ。
「よし、それじゃあ取り敢えず、二人一組になってくれ」
リムルさんがそう言った途端、ゴブリンと牙狼達が隣に座る者同士、視線を交わしあった。
そして―――
「グガ!(宜しくな!)」
「ガゥ!(おう、こちらこそ!)」
……という感じに二人一組になっていく。
昨日の敵は今日の友……意味は若干違うかもしれないが、概ねそういうことで納得してくれたのだろう。きっと。
……あれ、なんかちょっと引っかかるなぁ?
何だこの……小さな違和感は?
………………あっそうか。
名前が無いのか、彼らには?
そう言えば、ヴェルドラさんがリムルさんに名前を付けた時も、最初は名無しって言ってた気がするし、もしかすると魔物って……?
「村長、君の名前は?」
「いえ。魔物は普通、名前を持ちません」
やっぱりかぁ〜!
「村長。それじゃあ君達を呼ぶ時に不便だ。……俺達で名前を付けようと思うが、構わないか?」
「「「「 えっ!!? 」」」」
俺がそう言った途端、ザワリ!と周囲の空気が変わった。
し、心臓が高鳴っちゃった!……動悸的な意味で。
な、なんなの急に皆……?
「よ、宜しいのですか?」
恐る恐るといった感じで村長が問いかけてくる。
心なしか、興奮しているように見受けられる。
……何を興奮してるんだ?
「あ、あぁ。問題ないなら、名前をつけようと思うけど。大丈夫だよねぇリムルさん?」
「ん?……おぉ。名前が無いなんて可哀想だしな」
俺がそう言い終わった途端、固唾を呑んだようにこちらを見ていたゴブリン達から歓声が上がった。
一体全体どうしたんだろうねぇ……?
まさしく大☆興☆奮☆!!!……って感じだけど。
魔物にとって、そんなに名前って重要なのかねぇ?
少々訝しみながらも、俺達は早速名付けに取り掛かった。
まず最初に、村長。
亡き息子に付けられた名前を尋ねると、リグルという名前だったらしい。
ならばとリムルさんは、村長にリグル・ド=リグルドと名を与えた。
おそらく名前自体に意味はなく、語呂が良いからというだけの適当な理由で付けたと思われる。
「おぉ……感謝いたしますリムル様……(泣)」
その時だった。
俺と、今さっき名付けを行ったリムルさんの体から、透明度の高い水のようなモノが放出され、リグルドの体の中へ吸い込まれていくのを肉眼で視てしまった。
あれはリムルさんの〝魔素〟と俺の『気』
んで、俺の総エネルギー量の兆分の一が抵抗する間もなく消費されてしまったってワケか……。
多分、これこそが名付けのデメリットなんだろうねぇ。
でも大丈夫かなぁ……。
「……うっ、うぐぅぅぅ!!?」
兆分の一とはいえ、俺の『気』は膨大だぜ?
超大陸
「と、父さん!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫じゃ……体が熱くなっただけじゃ……」
などと余裕ぶっているが、体中から滝のような汗を流しながら心臓あたりを押さえている。
全然大丈夫じゃないのは分かってるんだからね?
「……進化の苦しみ、か」
「「「「 っ〜〜〜!!? 」」」」
「蛹から成虫に孵化するように、君の中で急速に巻き起こっているんだ。……暴力的な進化が」
「わ、私の中で―――ぐおおおぉぉぉ!!?」
名無しの村長ことリグルドは、あまりの激痛に地面を転がり回りながらも、歯を食いしばって必死に耐えていた。
体中から流れ落ちる汗は減るどころかますます増えていく一方で、傍から見ていると発汗だけで枯死してしまうのではないかと心配になってしまう。
「な、名付けをしただけでエラいことになってんだけど!?これ大丈夫なの?ねぇレイタロウさん!?」
「……大丈夫さ。死にやしないよ」
「えぇ!?だって……!」
リムルさんの気持ちはよーく分かるよ。
今のリグルドは、全身から汗を通り越して蒸気を噴き出してるし、皮膚はボコボコ波打ち、肉は蒸発と凝固を繰り返して忙しないし、骨は嫌な音を立てながら変形しているし、髪は抜け落ちては生えるしで、色々グロテスクなことになっている。
……でもね、よーく見てご覧?
その変化が徐々に落ち着くにしたがって、リグルドの姿が段々と露わになってくるじゃろ?
緑色の筋骨隆々な肉体。
その全身を覆う黒黒とした剛毛。
特に腕部の発達が著しい。
その姿はまるでゴリラみたいだ。
……そう、ゴリラみたい。
……ゴリラ。
……ゴ。
……。
「この目に映る、世界の全てが清々しい。……今はただ、リムル様とレイタロウ様に感謝を」
まんまゴリラじゃねーかよ(驚愕)
この時ばかりは、リムルさんと意見を一致させていたに違いない。
残りのゴブリン達と牙狼達の強い要望もあり、結局全員に名付けをすることとなった。
案の定、進化の苦しみに悶える彼らを横目に見やりながらリムルさんのいるほうへ顔を向けると、どういうワケか鳥の糞のように溶けてピクリとも動かなくなっていたが、あくまで余談である。
ゴブリン
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