思いが折り重なるって話です。
グーテンターク、お日柄が宜しいようで……。
俺はレイタロウ。
ジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、
「くれぐれも善良な民間人を傷付けないように気を付けるんだぞ、ディアブロ」
「はっ、この身命に賭けて必ずや最高の成果を挙げてまいります」
現在、ソファーに深々と腰掛けながらファルムスへ向かうディアブロを見送っている最中なの。
そして、俺の励ましの言葉を受けたディアブロは優雅に一礼をしながら一瞬で姿を消した。
……やれやれ、これでファルムスのほうは大丈夫だなぁ。
「敵に三万の援軍がいる、それを踏まえてこちらの援軍を選抜します」
「援軍の件についてはベニマルに任せよう。頼んだぞ」
「はい、任せてください」
なんて頼りになる男なんだ、素敵!
俺の代理という名目で実質的に軍の指揮権を握っており、気付けば色んな軍団を大量に編成していた傑物がベニマルである。
例えば、近々ゴブタが軍団長に据え置かれる予定の
もはや軍事に関連することでベニマルの右に出る者はいないだろう。俺も含めて。
……あれ、これってもしかして、俺いらなくね?
「……それで?ファルムスのほうはディアブロに任せるとして、ヒナタのほうはどうするんだよ?」
「どうするも何も……戦闘になることを想定して厳戒態勢を敷くに決まってるじゃない、リムルさん」
「ヒナタ、俺に怒ってないかなぁ?」
「そりゃボコボコに叩きのめして拉致っちゃったからね。多少は怒ってるでしょ」
俺と同じソファーに座るリムルさんが、あまりにも今更すぎる話題を取り上げて勝手にビクビクしていた。
今度はリムルさんじゃなくて俺が矢面に立つ番だし、そんなにビビらなくてもいい気もするけど……。
「ヒナタは俺が相手をするよ。そこでリムルさんには取り巻きの二、三人を相手してほしいけど……」
「……カリオンさんを二、三人相手取るようなもんかぁ。キツいような、そうでもないような」
「ゴホンゴホンッ、うむ、ようやく我の出番だな!」
「「 違います 」」
「わ、我だって久方ぶりに暴れたいぞぉ!?」
俺とリムルさんのダブル否定にしょぼくれるヴェルドラさんであったが、何を思いついたのかリムルさんはそっとヴェルドラさんに耳打ちし、その機嫌をあっという間に直してみせたようだ。
……なんか最終防衛ラインって聞こえた気がするぉ。
「フッ、仕方あるまい。任されてやろう」
「……上手いもんだね、リムルさん」
「単純で良かった」
ヴェルドラさんが出れば、まず負けることはない。
……が、それは流石にマズいのだ。
西方聖教会、と言うよりルミナスが暴風竜を敵視しているワケだし、その後の話し合いの可能性を完膚なきまでに潰してしまうかもしれないしなぁ。
そしてその時だった。ソウエイが若干慌てた様子で俺に声をかけてきたのだ。
「レイタロウ様、緊急事態です」
「どうしたソウエイ?」
「
「ヒナタ達に?それとも新手か?」
「新手です。イングラシアから百騎の人馬が出陣したとのことです」
えーと、イングラシアからこっちに近付く百騎程度の武装した人間達は……あ、コイツらだな多分。
「諸君、その百騎はヒナタ・サカグチとは
「「「「 ッ!!? 」」」」
皆一様に驚きを露わにする中、いの一番に名乗りを上げたのはシオンだった。
「レイタロウ様!どうかここは私めにお任せください!!精強たる我が部隊〝
紫兵衆。
構成員数僅か百名程度の少数部隊であり、その部隊長を務めるのがシオンである。
怪獣由来の頑強な肉体を宿しているが、それはほかの軍団にも言えることである。
この部隊最大の持ち味にして恐ろしいところは、目標めがけてひたすらに突撃できる恐れ知らずな点にある。
「……ベニマル、戦力の編成・配置を決めるぞ」
「はっ」
「融和を望む以上、なるべく
本当は〝四方の王の陣〟を使ったほうが一番手っ取り早いんだけどね。
より穏便に済ませるためにもまずは話し合いを
「目指すは完全勝利、それ以外に望むものはない。今回も君達の働きに期待する」
「「「「 ハッ!! 」」」」
ヒナタ・サカグチ。
リムルさんと同じ異世界出身の日本人、か……。
早く会って話をしてみたいものだ。
一方その頃、ヒナタは順調に
ルベリオスからイングラシアへは『転移門』で一瞬だったが、そこからは普通の旅だ。
替えの馬も無いため、休み休みの旅であった。
「……あなた達、何をしているの?」
後方から馬が駆ける音がしたので振り向くと、そこにはアルノー、バッカス、リティス、フリッツの、四名の隊長達が並んでいた。
「それはこっちのセリフですよ、ヒナタ様。一人で抜け駆けですか?」
「馬鹿なの?話し合いに行くのに抜け駆けも何もない」
「またまた。そんな決戦に赴くような出で立ちで言われても説得力がありませんよ?」
「……相手は魔王よ?元を辿れば私が彼の配下を襲撃したことに端を発しているの。だからこれは私の責任。あなた達は即刻国に帰りなさい」
「大丈夫ですよ。留守番はレナードとギャルドがしっかりやってくれます」
「私達はヒナタ様の犠牲の上に立ちたいなどと思いません。そもそもあの伝言も一人で来いとは言われてなかったじゃないですか」
「栄光は貴女の下でこそ輝くのです」
「……ハァ」
口々にそんなことを言って聞かない部下達にヒナタのほうが根負けし、じゃあ好きになさいと言って同行を認めることとなった。
十日の行程を終えてブルムンド王国に入ったヒナタ一行。
冬の寒さと非常食のみという厳しい旅路は、それだけでヒナタ達の心身を疲弊させ、その体力を容易く奪い去るに十分なものであった。
馬を馬屋に預けてきたフリッツは開口一番、こう漏らす。
「……しかし、この街も発展しましたね」
「そうね」
「武器防具もやたら質の良いのが出回ってやがるぜ」
そう、この町には聖騎士である自分達に支給されている武器や防具には流石に及ぼないものの、一般的な小国で出回るにはあまりに過分で上品質なもので溢れていた。
屋台の数もこれまた多い。
冬の間は店を閉める者が多い中、これは極めて珍しい。
「
フリッツがヒナタの顔色を伺うように、そう問いかける。
この国と
それ以外に理由が思い当たらなかった。
「魔王と取り引きして発展するなんて、敬虔なルミナス教徒なら忌避感があるはずですが、ヒナタ様はどう思われますか……ってヒナタ様!!?」
気付けば、ヒナタは長い列の最後尾に並んでいた。
これには堪らずフリッツ達も駆け寄っていく。
「ちょ、ちょっと、何並んでんですか!?」
「食事よ。気になる
「え?」
ヒナタが指差す方向を見上げると、そこには確かにのぼり旗と、
「「「「 ら、らーめん?……って何? 」」」」
「いらっしゃいませ〜」
店のドアを開けると同時に、元気な声が響き渡る。
壁に掛けられたメニュー表を見て、ヒナタは少しだけ懐かしい気持ちとなった。
「ご注文はお決まりですか?」
「ラーメンを、とんこつコッテリで頼む。あと餃子とライスを追加で」
「かしこまりました!ほかの方はどういたしましょう?」
「あ、じゃあ同じものを……」
「わ、私も……」
「うむ」
「自分もそれで」
アルノー達はラーメンがどんなものか分からないので、右に倣えと言わんばかりにヒナタと同じものを注文した。
……そうして、ちょっとの間に運ばれてくる料理。
「お待たせしました〜!」
ヒナタにとっては懐かしい、アルノー達からすれば初めて見る、紛うことなきラーメンであった。
「見たことない料理だな……」
「このスプーン?で食べるのか?」
ヒナタは髪をかき上げスープに入らないようにすると、手元の割り箸を手に取りパチリと割る。
アルノー達も彼女に倣うように割り箸を割っていく。
「いただきます―――ッッ」
「まさか毒ですか!?」
「ヒナタ様!!」
「……静かに。黙って食べなさい」
騒ぐ部下達を一喝し、ヒナタは麺をレンゲに乗せて、小さく息を吹きかけた。
何度も何度も……。
「「「「( 猫舌だったんだ…… )」」」」
十分に冷やかした麺とスープを乗せたレンゲを口に運び、ゆっくりと咀嚼していく。
麺によく絡む濃厚なスープ。
コシも良く、味も良い。
極上の一杯であった。
もう二度と味わえないと思っていた懐かしい味わいが、見事に再現されている。
「向こうの人じゃないとこれは作れないでしょうね」ボソッ
「?」
「あ、旨ッ」
「熱ッ、え、なんだこれ!?旨ッ、味が複雑すぎる!!」
「えっ嘘、こんな食べ物があったなんて……ッ」
「こっちの
アルノー達は絶賛する。
昨日までが携行食だっただけに、余計に美味しく感じられた。
「お客さん達お目が高いですね。実はラーメンも餃子も先週から売り出したばかりなんですよ。ここら一帯を仕切るミョルマイル様がね、魔王様から直接商品を卸してもらったんですって!」
「つまり魔物との取り引きの結果、これが新商品に……」
「この悪魔的な旨さが……教義に……」
「「「( でも、ヒナタ様も食ってるし…… )」」」
「いやいや、これは調査にもなりますし、それは一旦忘れて食べましょうよ!」スッ…
皿に残る最後の餃子に箸を伸ばすフリッツ。
……その箸を、ヒナタの持つ箸が弾いた。
「ひっ……ヒナタ様」
「フリッツ。それは最後に食べようと残しておいた私の獲物だ」
「(魔物を前にした時と同じくらい目がマジだ……!!)」
そして悲しきことに、その餃子を最後に店の在庫は切れてしまったようだ。
諸行無常。
「さて、お腹も満たされたことだし、先に宿に戻ってる。あぁそうそう、スープまで飲むと太るわよ」
その一言に動きを止めたのはリティスだった。
「え、でもヒナタ様も……」
「私は太らない体質なの。……ご馳走さま、とても美味しかったわよ」
「ありがとうございます。またどうぞ〜」
「むむっ、ズルいです……」
リティスの恨みがましい視線を軽く受け流しつつ、手早く会計を済まして外に出たヒナタ。
外は変わらず活気に満ちている。
「(前に来た時は閑散とした町だったのに、イングラシアやルベリオスほどではないにしても、人通りも多く活気に満ちた印象になった。
映画を鑑賞する趣味を持たない彼女であっても、そのあまりにも捻りのない〝
人間の愚かさによって生み出された悲劇の怪物。
人間に対する怒りを燃やし、負けはすれどけして死なない恐るべき怪物。
日本が誇る、特撮怪獣映画界の頂点に君臨する怪物。
映画にさほど興味を持たない彼女であっても、ソレを把握しているくらいには有名な存在であった。
「(例え七曜の思惑が絡んでいなくとも、戦いになる可能性はある。最悪、リムルより強いかもしれない
極めつけは、レイタロウという
推し量るに令太郎か、もしくは礼太郎か……。
「……でも、不思議と早く会って話をしてみたいのよね」
魔王と聖騎士……相反する両者の思いが奇しくも折り重なるに至った。
邂逅までは時間の問題であった。
ラーゼン「……悪魔的に美味い」ラーメンチュルチュル…