レイタロウさんと対峙するって話です。
翌朝、ヒナタ一行は再び旅路へとついた。
ゆっくりと休んで体調は万全。
ジュラの大森林の困難な悪路に挑むにも、十分な英気を養えている。養えていたが……。
その気合は始まって直ぐに霧散することとなった。
「……いやいや、何ですこの道?」
フリッツの声が虚しく木霊する。
「ジュラの大森林と言えば魔物と野盗が跋扈する超危険な悪路だったじゃないですか!?」
「退屈になるほど快調だな」
「いやいや、それ以前にこの道ですよ!イングラシアの王都並に舗装された石畳!休憩所ごとに設置された水飲み場!一定区間ごとにある宿屋!魔都までの距離を示した距離標!更にそれらを懇切丁寧に教えてくれる巡回の警備兵(魔物)!快適すぎておかしいでしょコレ!?ねぇヒナタ様ぁ!!」
「……少し考えたいの。今は話しかけないでフリッツ」
あまりの快適ぶりに思わずふざけるなと言いたくなるが、グッと堪えて我慢する。
そして、今なら
ヒナタは思い出す。
イングラシア王国にある彼女お気に入りの喫茶店で、ユウキとは定期的に情報交換を行っていた。
その際に、後に自分を圧倒し打ち負かしたリムルに関する話も聞けたのだ。
『まぁ
『へぇ……』フゥフゥ…
『あぁ後ね、あの人はどうやら国のトップじゃないらしいんだよ。序列二位。トップに君臨している王様の命令で、あれこれ外交を頑張っているんだってさ』
あの時は軽く聞き流していたが、今ならば分かる。
「(確かに……生きることにシビアなこの世界で、快適さにまで気を回すのはよほど余裕がなければ出来ないでしょうね)」
ヒナタが考え込む間にも、アルノー達はそれぞれの率直な意見を出し合う。
「……ファルムスを経由する街道は衰退するだろうな」
「うむ。魔物だけでなく盗賊や馬車の故障、それに怪我・病気……不慮の事態にこれほど備えた街道はほかでは見たことが無い。宿場もあって野宿せずに済むし、皆こちらを選ぶだろう」
「正直な話、下手な領主よりも治世に力を注いでいる印象だ。魔王というよりまるで良き王のような」
「今となっては〝神敵〟認定をしなくて良かったとさえ考えてしまいます」
「あとは魔王レイタロウがヒナタ様と大人しく話し合いをしてくれればいいんですがね……」
「(今日の夕方には魔都リムルに着く。おそらくそこで彼と初めて顔を合わせることになるわね)……やはり誠心誠意こちらの事情を説明するしかないわね。それでも一騎打ちを望むというのなら受けて立つしかないけど」
その時ふと、ヒナタは疑問を抱く。
魔王レイタロウの人物像を考察できるほどの材料を持ち合わせているワケではなかったが、何故今更一騎打ちを望むのか、それをする必要性が魔王レイタロウ側に無いようにヒナタには思えた。
既に戦力的な優位性は示されており、極端な話、序列二位であるリムルに負けるようでは尚更魔王レイタロウに勝てるはずも無いのだ。
それなのに一騎打ちを申し込む。
ヒナタにはレイタロウが、二度目の決定的な敗北と屈辱を与えて悦に浸ろうとする……そんな低俗な考えを持つような人物には思えなかったのだ。
「……皆も覚悟はしておいてね。戦いになっても絶対手出ししないように」
「ですが……」
「アルノー、これは命令よ。これ以上魔王レイタロウと敵対する意味はない。私がケジメをつけたら後は友好的に話を進め―――」
『―――様、――…ヒナタ様!!』
魔法による、緊急の連絡が入る。
途切れ途切れで、必死さを感じさせる伝達。
声の主は、ヒナタの腹心ニコラウス・シュペルタス枢機卿からだった。
『ニコラウス?何か緊急の用?』
『――…やっと繋……―――…ナタ様、聞こえ―――か?〝三武仙〟がファルムスの――……参戦し―……』
『ちょっと聞こえづらいのだけど。三武仙が参戦?まさか
『〝七曜〟に気を付けて―――……』ブツッ
最後にそれだけを言い残し、ニコラウスの反応が消えた。
何かあったのは間違いない、とヒナタは確信する。
「(……七曜)」
「魔法通話ですか?何か緊急事態が……」
「待機して。確認するわ」
ヒナタは魔法通話で法皇ルイを呼び出す。
『ルイ、聞こえる?』
『ヒナタか、聞こえている。何かね?通信の法術が荒いようだが』
『余裕がないのよ。単直に聞くけど
『何だと?……私はそんな命令は出していない。内政干渉になるため内乱に手は出さないと君が会議で告げていたと記憶しておるが』
『えぇそうね。だから聞いているのよ』
反発されることもあるが、ヒナタの命令は絶対である。
一度受諾した命令に反してまで〝三武仙〟が勝手な行動を取るとは思えなかった。
『分かった。それでは私も―――……』バツンッ
「っ……」
鈍い痛みが脳に走り、ヒナタはルイとの魔法通話が中断されたことに気付く。
何らかの力場が周囲を覆い、魔法の発動を阻害したのだ。
と同時に、大気を震わすような大規模な戦闘の気配。
「なっ、この気配は……レナードか!?」
ヒナタの様子を見守っていたアルノーが、突然の事態に驚きの声を上げた。
「(戦闘!?まさかこれも七曜の……)考えている場合じゃないわね。行くぞ!!」
何かあったのは明白。
それが良いものであるはずもなく、魔王レイタロウとの交渉を前に事態の悪化は避けられない。
焦燥に駆られつつも、ヒナタは戦場へと向けて全速力で駆け出したのだった。
ハハハ、御機嫌よう。
俺は
「……うん、これはちょっと予想外だねぇ」
「そうですか?これは日頃の訓練の賜物ですよ」
隣に並び立つベニマルの言葉に、俺は乾いた笑いでしか返事が出来ないよ……。
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「な、何なんだコイツら!?攻撃が効かないぞ!?」
「さっきから何をブツブツ言って……うぎゃぁぁ!?」
まず、現在に至るまでの過程から話すとしよう。
ヒナタ・サカグチが何者かと連絡を取っていることを察知し、その通信を妨害した俺氏。
それ以上何か話されても都合が悪いからね。
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「ダメだぁ!!斬っても斬っても刃が通らない!!」
「諦めるなぁ!!ここを突破し、魔王レイタロウの首を討ち取るの……へぶげぇ!!?」
んで、それと同時に町の四方へ散開しようとしていた聖騎士団百騎めがけてシオンの部隊がぶつかり、これを阻止したとの報告を受けた。
俺としちゃあ、それだけで百点満点をあげてもいいくらいには上出来な仕事ぶりだったため、建前は援軍として、本音ではシオン達を労うためにリムルさんやベニマル、ソウエイ、
「声が小さいぞ貴様らッ!!もっと偉大にッ、もっと雄大に猛り狂えッッ!!!」
「「「 はいッ!!! 」」」
「うわぁぁぁぁ!!?来るんじゃねぇぇぇ!!!」
「なんで神聖魔法が効かないのよぉぉぉ!!?」
シオンはメチャクチャ張り切っていたけど、正直なところ対魔物戦に特化している
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「ひ、ひぃぃぃ!!もうダメだぁぁぁ!!?」
「来ないでぇ!!あっち行ってぇぇ!!」
いやー、驚いたよね。
何が驚いたって、そりゃアンタ、あのゴリゴリ武闘派のシオンが後方で腕を組み、指示を飛ばしていたことさ。
予定通りだけど予想外ではあった。
どうせ皆と一緒に突っ込むんだろう?と思ってたから。
「ベニマルや。あのドッドッドッて、もしかして……」
「あぁ。アレはレイタロウ様の心音から着想を得てシオンが取り入れた独自の身体強化術ですよ。飛び抜けた戦闘の才を持たない者達でも本気で声を張り上げれば不思議と力が漲ってくるとか」
いわゆるウォークライ、
要はエイエイオー!!しながら戦ってるってことだ。
「俺の心音を真似る必要あったかぁ……?」
「勿論ありますよ。もっとも身近に最強の存在がいるんですから、その強さにあやかり自らを自己強化することが〝
掛け声はともかく、強化手段としては最適だったワケだ。
平時ではBランクそこそこだった部隊員達も総じてAランクオーバーに強くなっており、同じAランクオーバーでも下位の実力しかない聖騎士と互角以上に渡り合えている。
……いや、
「俺が教えた武術も研鑽を怠っていないようだな」
「はい。今や我が軍の中核を成す戦闘術です」
例えば、ゴブゾウ(レッ○キング似)を見てみよう。
一人の聖騎士が突き出した速く鋭い
防がれるとは思っていなかったのか、大きく前のめりに体勢を崩した聖騎士の横っ面に、長い尻尾による渾身の一振りを叩き込んで失神させた。
ゴブア(エレキン○似)はもっと凄い。
ベニマル直轄の
頭の角を回転させながら発電し、鍔迫りあった相手をことごとく感電させていく。
剣の腕前も達者なもので、聖騎士の動きがあらかじめ分かっているかのように立ち回り、常に機先を制している。
……気付けば、百はいたであろう聖騎士が十名も立ってはいなかった。
地面に倒れ伏している連中は重傷を負いながらも生かされており、シオンが俺の命令を忠実に守っていることがしっかりと示されていた。
「勝負ありだな。これ以上の戦闘に意味などない。君もそうは思わないかね?……ヒナタ・サカグチ」
「……そうね。魔王レイタロウ」
後ろを見やると、馬から降りたヒナタ・サカグチが同意するように小さく頷いていた。
彼女の後ろには四人の部下も控えており、それぞれが例外なく得物に手を掛けてこちらを睨んでいた。
「……言うまでもないと思うが、ここは俺の領土だ。軍事行動を取った時点で君達に害意ありと判断できる。先制攻撃を許すほど俺は甘くはないのだよ」
チラリとシオン達のいる方向を見る。
どうやら残った聖騎士達で
「……それが当然でしょうね。けれど何故レナード、ウチの副官が命令違反をしたのか私にも分からないのよ」
「……レイヒムを介して俺の伝言は受け取ったな?」
「ええ」
「その答えがこれとはな」
白々しいと自嘲しつつ、俺はヒナタの出方を窺った。
「えぇそうね。少し違うけど、それを言っても信じてはくれないでしょう?」
「信じてもいい。……が、その前に、あの集団に投降を呼びかけることが条件だ」
「それは……」
「何を言う!この状況でこちらの戦力を投降させられるワケがないだろう!!ヒナタ様を呼び出した貴様が何もしないと誰が保証できるのだ!?」
俺の言葉に憤慨したように、若い騎士がそう叫ぶ。
それを言っちゃうと最初から話し合いをする気なんてなかったみたいに受け取れるんだけど……。
「今この状況で口を開いていいのはレイタロウさんとヒナタだけだろ?……大人しくしとけよ、オッサン」
俺の前に躍り出たリムルさんが若い騎士を制止する。
けどオッサン呼びは悪手だと思うよリムルさん?
ピクッ…「俺はオッサンじゃ、ねぇ!!」
ほらぁ、仕返しと言わんばかりに剣を振られて……。
「……はっ?」
「欠伸が出るな」チャキン
……まぁリムルさんは抜刀術の腕前も凄いからね。
多分あの若い騎士、アルノーっつったっけ?……彼じゃリムルさんの剣閃を目で追えなかったんじゃないかな?
一秒の間に百回もの斬撃を
もしそこに剣身があったならば、位置的にリムルさんの素っ首を刎ね飛ばせていたかもしれない。
……リムルさんが無抵抗であるという前提はつくけどね。
「う、そだろ……!?」
「邪魔されたくないからな。残りの三人も俺が一人で可愛がってやるよ」
リムルさんの実力なら十分お釣りが出るだろうな。
ただ、それに承服しかねる人達もいるワケで……。
「それはナシですわ。リムル様」
「そうだぜリムルの旦那。十大聖人と戦える絶好の機会を取られちゃ堪らねえや」
「ここは是非とも頼ってもらいたいですね、リムル様」
「右に同じく」
アルビスさんやスフィアちゃんはやる気十分。
ベニマルやソウエイも既に臨戦モードに移行している。
「リムルさん、ベニマルは周囲の警戒に当たれ。ほか三人は好きにして良し」
「おぅ」
「「「「 ハッ!! 」」」」
それぞれに周囲の警戒や〝十大聖人〟の相手を任せ、今度こそ俺はヒナタ・サカグチの居るほうへ向き直る。
彼女もようやくその気になってくれたようで、布に包んだ聖剣を取り出してくれた。
「……では、始めるとしよう」
こうして俺は、ヒナタ・サカグチと対峙したのである。
本作オリ展開が近々来るかも……?