東西の裏の支配者達の様子って話です。
<<< 閑話⑨ 闇に蠢く者達 >>>
北海に面した小国シルトロッゾ。
そこで、歴史を動かす密談が行われていた。
「……それでどうなった?」
「予定通りさね。ヒナタはこちらの動きに気付いていない」
暖炉の火に照らされた薄暗い談話室。
そこに集った者の内の一人から報告を求められた女性は、敬意の欠片もない口調で聖人ヒナタの名を口にする。
彼女は
今この場に座す者達に雇われている身でもあるのだ。
「それは重畳」
「フフフ……聖騎士団長殿は頭が切れるという噂だが」
「存外大したことはない」
口々にヒナタを嘲弄する中、談話室のほぼ中心を陣取っていた老人は険しい視線を一点に向ける。
……否、その険しい視線こそが、老人にとっての普段通りの目つきなのだ。
「しかし、貴殿達の嘘は見抜かれたと見える。……のぅ?ダムラダ殿」
「……フフフ、問題ありません。ヒナタ・サカグチからの信用は失いましたが、代わりにアナタ方西側諸国の支配者からの信用を得ましたので。特に……」
老人が見据えていた先に居た人物……ダムラダと呼ばれた男が不敵な笑みを浮かべながら老人に近付いていく。
「ロッゾ一族の首領、グランベル・ロッゾの信用をね」
「心にも無いことを。戦場を食い物にする武器商人が信用だと?……〝東〟の目的は西側諸国に混乱を起こし、武器を売ることであろうが」
「これはこれはお見通しとは、流石はグランベル翁です」
「否定せぬのか?」
「しても意味は無いでしょう?」
「抜かしよる。……まぁいい。当面の目的が一致するのであれば、利用し合うのは互いに有益であろう」
「えぇまさしく。暴風竜が魔王レイタロウに懐柔された今、東の帝国が
宗教とは斯くも厄介なものである。
信ずる神のために、或いはその身命を捧げて脅威に立ち向かう狂気を発揮するかもしれない。
「神ルミナスの御旗の下、西側諸国は脅威に対し一丸となってしまう。如何に東の帝国が強大でも落とすのは困難でしょう。……ですのでヒナタ・サカグチの排除、大いに賛成ですよ。我らにとっても西方聖教会は邪魔なのです」
「ほぅ?我らは眼中に無いと?」
「とんでもない、五大老の皆様方は利に聡い方々。帝国が西側を支配した後も、共に経済を支配しようではありませんか」
「……帝国を西に導けと申すのか?」
「悪くない話でしょう?」
老人、もといグランベルの訝しみの籠もった視線を受けながらも平然と返すダムラダ。
その胸中は〝確信〟の一色に染まっていた。
「帝国は強大ですよ。アナタ方の計らいが無ければ困難ではありますが、それでも不可能では無い。……それとも私共と敵対しますか?」
要は損失の大小の問題であり、東の帝国が勝利できるかどうかなど議論に値せぬ問題である。
傲岸極まる発言を飛ばしたダムラダであったが、突如その後頭部に固い何かが押し当てられる。
「武器商人風情が。グランベル様に対して無礼じゃないかい?」
それは、グレンダの手に握られた〝拳銃〟の感触だった。
「ふふふ、拳銃ですか。西側でも流通しているとは驚きです」
「へぇ、コイツを知っているのかい。その割にはえらく余裕じゃないか」
「当たり前ですよ。異世界人が西側にしかいないとでも?それに貴女の言う通り、私は武器商人風情です。ですのでちょっと詳しいんですよ」
スッと懐から黒い何かを取り出しグレンダに突きつける。
それは奇しくも、グレンダと同じ〝拳銃〟であった。
「既に量産に成功しているありふれた武器なんかは特にね」
「っ、貴様ぁ……!」
「あれを量産したというのか……?」
「魔物には通じずとも、人相手には無双の武器じゃぞ」
ダムラダの思わぬ返しに歯噛みするグレンダ。
と同時に、その場に居たグランベル以外の五大老が驚愕を露わにした。
「……控えよグレンダ」
そこにグランベルは待ったをかけた。
「魔王レイタロウに聖騎士団長ヒナタ・サカグチ。厄介な両者を抑え込むシナリオに、有能な手駒は多いほどいい。今は協力するほうが得だろう」
「は……ッ」
「ふっ……」
双方の矛先を収めさせたグランベルは、改めてダムラダとの話し合いを再開させる。
「魔王レイタロウは配下の悪魔を使い、ファルムスを落とそうとしておる。だが我らは
「なるほど目障りだと。私共としましても
だがしかし、とダムラダは疑問を呈する。
「……魔王のほうはともかく、そちらはなぜ聖人ヒナタを排除しようとするのです?グランベル翁の立場なら利用するほうが得策だと思えるのですが」
「なに、簡単な理屈よ。……あの女は強すぎる」
魔人ラーゼン。
そして、閃光の勇者マサユキ。
こうした英雄達と比べ、ヒナタ・サカグチの力はあまりにも際立っている。制御不能と言い換えても良い。
使い勝手の悪い、制御できない駒など不要なのだ。
「……貴殿もそう感じた故、我らを利用しようと考えたのだろう?違うか?ダムラダ殿」
「……恐ろしい御方だ。ではそちらはお任せするとしましょう」
グランベルの先々を見据えた智謀に、ダムラダは思わず感嘆の息を零した。
「悪魔退治は我々にお任せを。魔王レイタロウの配下の悪魔が音頭を取っているとのことですが、東には対悪魔の専門組織がございます。相手が
そう言い残し、ダムラダは部屋を後にした。
「……なんだい、あの陰湿なクソ商人は!舐めた態度を取って忌々しいったらないね!」
口汚くダムラダを罵倒するグレンダ。
それを諌めたのは、やはりグランベルであった。
「そう言うなグレンダ。あれでもあの者は最大の敬意を払っておったのだよ」
「ですがグランベル様……」
「お前は、あの者の本当の姿を知らぬのだ。横柄な態度はそれだけの地位にあるが故だ」
「本当の姿?」
「東の裏社会を牛耳る秘密結社〝
「へぇ、噂には聞いたことがあるよ
「(……だがダムラダよ、そう簡単にはいかぬかもしれぬぞ。何しろ貴様らが相手をする悪魔は、単なる
ファルムスが
そこで何があったのかは大司教レイヒムの証言しかないため判然としないが、グランベルの長年の勘が大音量で危険信号を発し続けているのだ。
「分かっておるな、グレンダ?」
「あぁ。奴が悪魔を討伐できれば良し。もしもの場合はアタイが
「それで良い。では行け」
「あいよ、任せな。……全てはロッゾの為に、そしてアタイの自由のために」
グレンダの去り際の言葉を聞き流しつつ、グランベルはずっと自分の膝の上に座って沈黙を貫いていた
「これで良いな、マリアベル?」
「ええ……えぇ御爺様。魔王レイタロウは聖人ヒナタを相手に手一杯。その隙にファルムスの内乱を鎮圧する。これで新王エドワルドは御爺様に頭が上がらなくなるのよ」
「その通りだよ、マリアベル。……我らロッゾが支配する箱庭に何人たりとも介入は許さん」
ロッゾ一族。
シルトロッゾ王国の王族でもあるその一族は、ファルムスやイングラシアのような大国まで枝葉を伸ばす、西側諸国に根を張る支配者の家系でもある。
そして、対魔物の互助組織として立ち上げられた評議会、
「世界はロッゾのために!」
「「「「 世界はロッゾのために! 」」」」
ここは世界の中心。
暗がりの中、彼らは世界の支配を目論む。
<<< 閑話10 夜魔の一時 >>>
神聖法皇国ルベリオス……の更に地下深く。
「あぁ……美しい」
神聖なる
その際、触れた箇所から皮膚が灼かれていく。
だが、柩に触れるたび肌を灼かれても、ルミナスにはそれすら至福だったのだ。
何故なら、柩の中の少女は大切な大切な……。
「ルミナス様」
その時、背後から聞き覚えのある男の声がかけられる。
せっかくの至福の時間を、と忌々しげに舌打ちするが、彼が用もないのに此処を訪れるワケがないと気を取り直して返事をした。
「……なんじゃ、ルイ」
「申し訳ございません。お耳に入れたき儀がございます」
「何があった?」
法皇役のルイが、本来は管轄外のこの場所にわざわざ足を運ぶ事態にただならぬものを感じたルミナス。
そして、その予感は的中してしまった。
「魔王レイタロウとの禍根を断つべく、ヒナタが独断で動きました。……ですがそこに、七曜の老師達の思惑が介入している疑いがございます」
ルイの説明に、ルミナスは内心頭を抱える。
「……全く、ヒナタめ」
ルミナスが愚痴を零した直後、傍らに控えていた老執事風の
「下らぬ雑事でルミナス様を煩わせおって。場を弁えず遠慮会釈もない男よ」
「すまないねギュンター。だが放置しておけばヒナタをも失いかねんのでね」
「人間の軽率な行動にかかずらうなどそれこそ下らぬ。警戒すべき魔王レイタロウと事を構えようとはな」
「そうならぬよう貴公の領分にまで進言に来たのだよ。ヒナタを殺されてはルミナス様が……」
「ルイよ、黙るがよい。……ギュンター、その方もだ」
「はっ……」
「申し訳ございません」
三公同士の縄張り争いは今に始まった話ではないが、そのうちの一人であるロイが死んだ今、役割分担すらも改める必要がありそうだとルミナスは心底ウンザリしていた。
そしてふと、
『ヒナタ・サカグチを解放する条件は、主に二つだ』
『……早う言え』
『
『(此奴、妾が何者であるかを理解しておるのか?いや、わざわざ妾の寝所に水晶球を寄越すほどの男じゃ。油断ならぬ)……して、二つ目は?』
『七曜の老師の生殺与奪の権利を移譲してもらいたい』
『ッ……』
『要は、俺の好きなタイミングであの老害共を潰しても文句を言うなということだ。この二つを呑んでく……』
『良かろう』
『え?』
『百年の不可侵条約を結び、七曜共の命運を明け渡してやる。そう言ったのじゃ』
『……決断が早くて助かる。………―――……――………ヒナタ・サカグチを君の寝所に移送した。後ほど確かめてみるといい』
「……さて、ゆっくりもしていられぬな。二人ともついて来るがよい」
「「 御意 」」
「(……待っていてね)」
魔王ルミナス・バレンタインは、法皇ルイと執事ギュンターを連れて外の世界に足を運ぶ。
勝手に
そして……。
自らの手で七曜の老師に引導を渡すため。
次回、聖魔激突するってよ。