魔物と聖騎士が激突するって話です。
『レナードよ』
『こ、これは七曜の皆様……』
それは、大司教レイヒムが殺害されるという凄惨な事件が発生した直後、通路で
『知らせたいことがある。貴様、秘密は守れるか?』
『は?……はっ』
そこでレナードは、恐るべき真実を告げられたのだ。
『実はな、ヒナタと魔王ヴァレンタインが繋がっておったのだ』
『っ〜〜〜!!?』
『我らがヴァレンタインを始末したのだが』
『
それを聞き、レナードの頭は真っ白になる。
憧れのヒナタが魔王ヴァレンタインと繋がっていた。
だとすれば、自作自演でレナードを騙していたということになる。
『バカな!ヒナタ様は誰よりも熱心なルミナス教の信徒です!我々を騙しているとでも言うのですか!?そんなもの信じられるワケ―――』
『レナードか?……何してるんだ、そんなところで』
そこに
『……仕方あるまい、そなたにも聞いてもらおう』
たまたま居合わせてしまった以上、ギャルドにも無理やり話を聞いてもらわねばならない。
……そう言わんばかりに、七曜は再度事情を説明した。
『なるほどな……』
『!?信じるのかギャルド!?』
七曜の説明を受けて得心したと言わんばかりに頷いたギャルドを見て、レナードは激しく狼狽する。
『いや、俺はヒナタ様の実力なら魔王ヴァレンタインの討伐は可能だと思っていた。正直、なぜ討伐に出向かないのかと気になっていたのだ。……お前もそうは思わなかったか、レナード?』
『そ、それは……ッ』
ヒナタの実力ならば魔王ヴァレンタインを討伐できる。
……それは間違いないとレナードは確信していた。
彼女には彼女の思惑があるのだろうが……。
困惑するレナードに更なる追い打ちをかけるように七曜の話は続く。
『まぁ落ち着け。我らも確信しているワケではないのだ。ヴァレンタインの言葉以外に証拠は無いからな。……だが、ハッキリさせる方法がないでもない』
思わせぶりな七曜の言葉に、レナードはまんまと食いついてしまった。
『そ、その方法とは!?』
七曜は沈黙する。
そして、重々しく口を開いた。
『魔王レイタロウを討つのだ』
『ッ〜〜〜!!』
『ヴァレンタイン亡き今、ヒナタは魔王レイタロウに取り入ろうとしている……』
『それが我らの見解よ』
『もしもそれが正しければ、ヒナタは全力でそれを阻止しに来るだろう』
それを聞き、流石のレナードも動揺した。
『し、しかし、邪竜ヴェルドラが……』
『狼狽えるな』
『落ち着いて考えてみよ』
『邪竜は本当に復活したのか?全てが狂言であったとは思えぬか?』
そう問われてレナードも思い至る。
邪竜の復活は、法皇とヒナタしか確認していないのだと。
『では、ヴェルドラは復活していないと?』
『その可能性が高い』
『レイヒムも、ヴェルドラを目撃しなかったそうだ』
『下手をすれば、法皇様もヒナタに唆されておるだけやもしれぬのだよ』
そう断言され、レナードの心にも疑念が渦巻き始める。
『しかし危険な賭けですね。ヒナタ様が魔王レイタロウの下へ出向いている今、やるなら急がねばなるない。……どうする、レナード?』
ギャルドの一言が大きな後押しとなったのだろう。
レナードの表情から迷いが消え、曇りなき眼で真っ直ぐに七曜を見据えた。
『……行きます。その役目、この私にお任せを!』
全てはヒナタを救い出すため。
ヒナタを救い出せるのは自分しかいないという絶対的な自負を胸に抱き、ヒナタの言いつけを破ったのである。
……が、しかし。
その自負は、ジュラの大森林に侵入を果たし、大規模に〝
「(何たる、ことだ……ッ)」
レナードは、目の前に広がる
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「うあぁぁぁ!!?く、来るなぁぁぁ!!?」
「逃げるな貴様ら!戦列を立て直して応戦しろぉ!!」
ギャルドが必死になって聖騎士達に檄を飛ばすが、彼らの殆どは恐怖のあまり及び腰になっている。
そんな聖騎士達を真正面から食い破らんと、およそ百体はいる軍服姿の魔物達が突撃を仕掛けていく。
……独特の口癖を口ずさみながら。
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「こ、コイツら全然怯まない……グギャッ!!?」
「
聖騎士達が破れかぶれに攻撃を仕掛けていく。
剣で斬りかかったり、神聖魔法を乱射するなどして懸命に応戦し続けた。
指揮系統がほぼ機能していない状況下にありながらも、聖騎士達は何とか連携して戦っていたのである。
「(甘く見ていたつもりは無かった。単純に、この魔物達は我々以上に統率の取れた戦闘集団だったのだ!!)」
ある聖騎士が、一体の魔物に斬りかかる。
斬りかかられたその魔物は、手に持っていた鎖鎌によって剣閃を華麗にズラし、勢いそのままに聖騎士の体勢を大きく崩してのけた。
その際に、ガラ空きになった横っ面に長大な尻尾を叩きつけることで、
ある聖騎士が、一体の魔物に
その魔物は別の聖騎士と鍔迫り合っている最中であり、到底避ける暇は無かった……はずだった。
撃ち出された霊子聖砲が魔物に炸裂する直前、
雷撃が飛んできた箇所を凝視すると、景色に溶け込んではいるが僅かに人型の空間の歪みが確認できた。
伏兵すら潜んでいるとなると、混乱は必至である。
一人の聖騎士に対し、向こうは常に二人以上で相手をし、確実にこちらを無力化していることが見て取れる。
「(何よりこの魔物達、恐れを知らないのか!?全く怯むことなく突き進んできている……ッ)」
「「「 ドッ ドッ ドッ 」」」
「ッ〜〜〜、コイツらを囲い込むように
ギャルドの怒号が戦場を木霊した刹那、悪夢のような存在たる
地面が爆発したように抉れ、辺りに土煙が舞い上がった。
「こいつは大物だぜ……ッ」
ギャルドが緊張したように槍を抜き構える。
レナードも頷き返す。
「(魔王レイタロウ……いや、一配下がこれほどの
見慣れぬ異国風の
だが、何よりも目を引くのが、その背中から生えたる大きく長い昆虫のような二対の
「我が名はシオン。レイタロウ様の配下にして、リムル様の専属秘書だ」
シオンと名乗ったその魔物は、尊大な口調のままにレナード達にこう言ってのけた。
「さてお前達、レイタロウ様はこうおっしゃった。〝服従〟か〝死〟を選択せよと。この意味が理解できたのならさっさと武装を解き、私の軍門に降るがいい!!」
レナードは視線だけを動かして周囲を確認する。
もはやマトモに動ける聖騎士は、自分やギャルドを除いて十人も残ってはいなかった。
「……理解できたとも、その上で答えはこうだ」
レナードは近くにいた聖騎士達に指示を飛ばす。
散開、と。
「目標に対して
シオンは軽く舌打ちをする。
これだけ数を減らされてもまだ戦意が残っているのかと。
「
「似たようなものだがな、ハズレだ」
ギャルドの予想をアッサリ否定するシオン。
……どこか誇らしげなのはたぶん気の所為だろう。
「いま周囲を警戒しているベニマルは〝
「
「お前達の神になど興味はない。それより質問に答えるがいい」
その発言が、レナードの逆鱗に触れた。
「汚らわしい邪悪なる魔物め……。神を冒涜する愚かな考え、その身ごとこの世から抹消してやる!!」
激昂したレナードがそう叫ぶなり、聖騎士達に
レナードの命令を受けて、一斉に攻撃に移る聖騎士達。
四方から降り注ぐ聖なる光弾が、シオンに襲いかかった。
が、しかし……。
「……ドッ!!」
一瞬だけだがシオンの体が揺れ動き、直後、凄まじい衝撃波がレナード達と
「ガハ……ッ(な、にが、どう、して……!!?)」
「グハッ!!?」
「ほぺぇ!!」
「ブフォ!?」
何とも間抜けな声を上げながら続々と地面に落下していく聖騎士達。
ギリギリで何とか受け身が間に合ったレナードとギャルドを除いて、立ち上がれる者は誰もいない。
「何をされたのか分かっていなさそうだから、私が優しく教えてやろう!」
尊大な態度でこちらを見下ろす翅の生えた悪鬼……シオンが、聞いてもいないのに一方的に説明を行っていく。
「私がやったことは単純。低空を旋回し、その時に生じた衝撃波をお前達にぶつけただけだ。その衝撃波に私のスキルを上乗せして目障りな結界を
「「 ッ〜〜〜!!? 」」
「私の寛大さに感謝するといい!!」
あまりにもレベルが違いすぎる。
スキルを上乗せしたからと言って、衝撃波で〝
「(おそらく、自らの望む結果を付与するスキルがあるのだろう。銘打つなら〝確定結果〟と言ったところか)」
「私はな、料理が得意なんだ!」
「……?……??」
「ありえん……こんな化物がなんで……!?」
シオンの料理発言に困惑しつつも、レナードは周囲に転がっている聖騎士達の様子を見てようやく決心した。
「……降伏する。部下達には寛大な処遇を期待したい」
「心配はいらないぞ。レイタロウ様はお優しいからな。だから本当はお前達の主とも、レイタロウ様は話し合いを望んでおられたのに。……見てみろ」
シオンが顎でクイッとある方向を示す。
見ればそこには、ヒナタと、漆黒の肌と巨大な体躯が特徴的な魔人……魔王レイタロウが対峙していた。
対話の雰囲気ではなく、そこには戦いを前にした静謐な空気が漂っていた。
「(……いや、ヒナタ様が本当に魔王レイタロウに取り入ろうとしていたならば、二人が戦う理由は無い。そして七曜の老師の懸念が杞憂ならば、ヒナタ様も魔王レイタロウも、互いに争いは望んでいない……ッ)」
レナードはそう思い至ると、一気に顔を青褪めさせた。
「では何故……なぜ二人は戦おうとしているんだ?」
「何をワケの分からないことを言っている?お前達が軍を率いて仕掛けて来たから、戦わざるを得なくなったんだろう?」
「ッ……!!(私はヒナタ様の潔白を証明するために
自分が部隊を動かしたことでヒナタの邪魔をする結果となったのだと気付いたレナード。
しかし、その時には全てが遅かった。
「だ、駄目だヒナタ様ッ、私のせいで交渉が……ッ」
全てを悟ったレナードの目の前で、ヒナタと魔王レイタロウが激突する。