聖魔激突編の真骨頂が始まるよ!って話です。
ヒナタはふと、自らが真に忠誠を誓う神にして魔王であるルミナス・バレンタインの言葉を思い出していた。
それはイングラシアに赴く前、つまりはリムルを始末しようとルベリオスから出立しようとする前日にまで遡る。
『ヒナタよ、
弁えています、と伝えた。
……と同時に、疑問にも感じたのだ。
ルミナスの放つ雰囲気が、至って真剣であったことに。
故に尋ねた。
彼はそれほどまでの脅威なのですか、と……。
『……前にも話したことがあったかもしれぬが、妾の全力をもってしても敵わぬ魔王としてギィ・クリムゾンとミリム・ナーヴァが挙げられる。共に最古の魔王じゃ』
ミリム・ナーヴァ相手には善戦するが結局は勝てず、ギィに至ってはそもそも勝負が成立するか分からないと言っていた気がする。
自らの記憶を掘り起こしていると、ルミナスはいつになく神妙な面持ちでヒナタを見据えてこう言った。
『〝黒き怪物〟……レイタロウなる男は、それら最古の魔王を超越する実力者かもしれぬ。くれぐれも刺激せぬようにな、ヒナタ』
……ルミナスから授かり、私心のために無視した忠告。
それは巡り巡って
ヒナタにとって、最悪の形で。
「随分と脆い剣だ」
「ッ……」
七曜の老師より預かった
上から下へ刃を振り下ろす、その刹那のタイミングを狙って剣身の側面を
表情にこそ出さないものの、ヒナタの内心は驚愕に染まっていた。
「どうした、受けに回っているばかりじゃ勝てんぞ?」
「ッ〜〜!?」
驚愕に染まり切る間もなく追撃は続く。
『
根本から叩き折られた竜破聖剣の残骸で必死に
ヒナタを襲う攻撃の正体。
……それは〝黒き怪物〟こと魔王レイタロウの、漆黒に染まった巨拳による嵐のごとき連打であった。
十、百、千、万、億、兆、京―――……数えるのも億劫になるほどの連打がたった十数秒の間に実行される。
ヒナタの手に握られていた竜破聖剣は、衝撃によって原型を留めないレベルで粉々に砕け散っていた。
「ッ〜〜〜!!」
ヒナタのプライドを特に刺激したのが、彼の現在の戦闘スタイルである。
気を遣っているのか、はたまた嘗めてかかっているのか、先程からずっと左半身しか使っていないのだ。
こちらを攻撃する時も、逆にこちらから攻撃を仕掛ける時も、ことごとく左半身のみで対処されてしまう。
明らかな舐めプ。
……それなのに終始ヒナタが押されている。
悔しい、屈辱的だとヒナタは心の中で歯噛みする。
「隙あり」
「ぐっ……!?」
僅かに見せてしまった隙を突くようにレイタロウの左手がヒナタの衣服の襟元まで伸ばされ、ガッチリと掴まれてしまったと思ったのも束の間、彼女をそのまま力任せに遠くへぶん投げてしまったのだ。
まるで紙飛行機でも飛ばすかのような放り投げっぷりにしばし呆然としたヒナタであったが、即座に意識を取り戻し華麗に着地を決め込んだ。
終始優位に事を進めていたはずなのに、なぜ今更距離を取る必要があるのか?
……そんなことを考える間もなく、ヒナタは自らが保有するユニークスキル『
上位者に対する絶対優位。
……それが、ヒナタの切り札である『
その力は、対象の
使いこなせるかは別問題だが、相手の努力の結晶を奪い去るという意味では、凶悪無比で無慈悲な
対象がヒナタよりも格下であった場合、鑑定結果は《対象外》となり、結果的に相手の力を奪えないのだが、ヒナタの勝利は揺るがない。
対象がヒナタよりも格上であった場合、鑑定結果は《失敗》か《成功》となり、この鑑定結果が出た時点で相手は強敵であるということが分かる。
しかし《成功》していれば相手の能力や技能が丸見えとなっているワケだし《失敗》しても終わりではない。
どんな強敵であろうとも、繰り返せばそのうちに《成功》を収める。
要は油断なく時間を稼ぎ、その時を待つだけでいい。
……そうすれば、ヒナタの勝利は約束されるのだ。
このようにヒナタの『
「(……それでも極稀に、珍しい結果を示すことがある。ルミナス様や彼……リムルのように)」
……上述した二名に共通するのは、両者共に真なる魔王への覚醒を遂げていること。
存在の〝格〟が数段も引き上げられたことによる弊害か、この二名に『
では、レイタロウはどうなのか?
「(本当に、本当に理不尽。……こんなの、ルミナス様や彼でも出なかった)」
血よりも赤い瞳が、ヒナタを静かに見据える。
さしもの彼女もその身をブルッと震わした。
「(つまりあなたは、ルミナス様よりも遥か高みに至っているということね)」
色んな意味で戦いたくない相手だと内心愚痴りつつ、ヒナタは掌に残った竜破聖剣の残骸を放り捨てる。
こんなものでは勝負にならない、そう悟ったが故に。
そして虚空より現したるは、ルミナスより与えられた
そして纏うのは〝聖霊武装〟……それは、聖騎士達が着用する精霊武装の
勇者も用いたとされる西方聖教会秘蔵の対魔兵器であり、聖霊に愛される者にしか使用できない。
光がヒナタを包み込み、輝く
こうなった今、ヒナタはあらゆる制約から解き放たれて仙人級をも超越した真なる聖人へと至るのである。
「(戦いに勝利しなければ釈明すら許されないだなんて、あの時と状況は全く同じね……)」
かつてのリムルとの
「(私にもし勝機があるとすれば、それは彼の慢心から来る隙を突くことくらい。……勝利してこそ過ちを償えるというもの)」
果てしない絶望と一縷の希望、不退転の決意を胸に。
ヒナタは魔王レイタロウと再び激突した。
おはヨッピー、みんな元気にしてるかい?
俺はメチャクチャ元気だヨン。
ちゃんと歯磨きして朝飯食ってクソして寝ろよ?
お兄さんとの約束だからな?
……さて、茶番はこのくらいにしておくか。
俺はレイタロウ。
ジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、現在進行形でヒナタ・サカグチと
え、対等な真剣勝負じゃないのかって?
なるべく傷付けないように左半身しか使わず、確実に殺せるタイミングを十三回ほど見逃し、向こうが剣を使っているのに対しこちらは素手で戦っているのに終始優勢に事を進められている戦いを戦いとは呼びません。
良くてじゃれ合いだよこんなもん。ハハハ。
「おっと?」
俺の余裕ぶりを察してか、ヒナタは戦術を変えてきた。
攻撃に緩急をつけて錯覚を起こさせる戦術……いわゆるフェイントを織り交ぜてきたのだ。
彼女の動きは目に頼っておらず、その瞳は俺に据えられ、全周囲に張り巡らせた気配を察知するセンサーのような感覚にて、攻撃を感知しているものと思われる。
体の軸がブレることはなく、如何なる動作にも対応できるように自然な状態を保っている。
その動きに力みはなく、弛緩した状態から予備動作を見せずに様々な攻撃が繰り出されるのだ。
なるほど確かに、これを初見で見抜ける奴はそうはいないだろうねぇ。
「ここ」
「ッ……」
ただまぁ、俺には通用しないワケで……。
バックステップで距離を離したヒナタを見据える。
……より正確に言うと、彼女の筋繊維や骨格、血流の流れや臓器等の僅かな動作やクセを
そして、彼女がこちらに攻撃を仕掛けようと思考・選択する
「……え?」
「えいっ」
掌底をヒナタの眼前に突き付け、寸止めする。
勿論それで終わり……ではない。
掌底によって押し出し、破裂させた空気の壁をヒナタの顔面に叩きつける。
突然我が身を襲った衝撃波に、彼女はなすすべなく鼻血を撒き散らしながら頭部を
打撃の後に時間差で押し寄せる衝撃、これこそがフェイントという奴である。
が、流石は最強の聖騎士と呼ばれるだけのことはある。
吹き飛ばされた勢いを逆に利用し、見事な後方回転によってダメージの分散を図ることに成功したようだ。
「ッ、ハァ…ハァ……!!」
「随分と無茶をする。頸部へのダメージは完全に散らせていないようだが、そんな有り様でもまだ『思考加速』を万全に使えるのかな?」
「……
溢れ出る鼻血を拭いながら泣き言を漏らす彼女だったが、その瞳にはいまだ闘志が漲っているように感じられた。
冷静に、ヒナタはレイタロウと自分を比較する。
ただでさえ低かった自らの勝率がググンと下がった。
時間経過はそれだけ相手に利することになる。
……そう考えて早期決着を狙っていたのに、それでもなお届かない。次元が違いすぎる。
「(
この相手に勝利するには、殺さぬように手加減するなどという甘い考えを捨てるしかないとヒナタは悟った。
ならば答えは一つ。
……本来見せるべきではない奥義でもって、勝利を掴むしかない。
「次で終わりにしましょう。……私とあなたの戦いを」
「……いいだろう」
最強の聖騎士と最強の魔王。
両者の戦いの決着は、すぐそこまで迫っていた。
竜破聖剣「……え、出番もう終わり?」