ディアブロのチートっぷりを堪能するって話です。
ファルムス王国。
かの国の首都マリスにて、ファルムスの民の上流階級はやり場のない不満を口々に言い合っていた。
「そもそもだ、先王エドマリスが魔物恐ろしさに勝手に結んだ終戦協定だろう?」
「兄の尻拭いで賠償に応じねばならぬエドワルド王も気の毒に……」
「気の毒と言っても金の出処の大半は我らの税金だぞ?」
「腹の立つ話だ。新王にはもっと強く出ていただかないとならん」
安全な都市部に住む者達にとって、魔物に媚びへつらい、民の血税を喜んで差し出す先王エドマリスの姿は失望を抱くに十分なものであった。
……真実を知らないとは斯くも哀れであり、同時に幸福でもあるかもしれない。
「号外!!号外――!」
その時、号外を配りに町中を練り歩く売り子の姿が視界に飛び込んできた。
不満を口々に垂れていた者のうちの一人が売り子を呼び止め、号外を一部受け取った。
……そして、そこに書かれていた文章を見て驚愕する。
「なっ……先王エドマリスが英雄ヨウムと結託し賠償金を着服……!?」
「「「「 !!? 」」」」
「現在はニドル領に身を隠しているものの、新王エドワルドはその所在を突き止めており、二万の軍勢を引き連れ包囲するように陣を張っている……!?」
「おい!私にも一部寄越せ!」
次々と号外を受け取り、その詳細を読み取るごとに民の抱える不満は明確な怒りへと早変わりしていった。
「英雄ヨウムと言えば、最近台頭しだしたゴロツキの集団だろう」
「英雄などと烏滸がましい……」
辺境ではなく都市部に住む者達にとって、戦うことしか能がない英雄などそこまでありがたる存在ではない。
自分達の税で無駄飯を食わせるべきではない、そう主張する者までいる始末だ。
そんな疑惑の英雄ヨウムが先王エドマリスと結託して賠償金を着服していたなどと知らされれば、このような反応を示すのはもはや自明の理とすら言えた。
「私は新王への協力を申し出るぞ!」
「それがいい、私もそうしよう!」
次々に新王への協力を申し出る者が現れ、今やエドワルドの正当性を誰もが認めている。
そして新王エドワルドは、その民意を背景として軍を動かした次第だ。
このままではヨウムとエドマリスの二人は、無実の罪を着せられ処刑されることになるだろう。
当然だが、二人がそれに納得するワケがない。
この地で戦が起きるのは必然であった。
秘密結社〝
ダムラダは、五大老との密談を終えてファルムス王国にやって来ていた。その辺境にあるニドル領に。
金に汚いニドル・マイガム伯爵と懇意にしており、贈り物を欠かさなかった。
そのおかげもあってか、ニドル伯爵はダムラダのことを信用しきっている。
今回もまた、賄賂を少し贈っただけで子飼いの者を都市内部に導き入れてくれていた。
そして現在、その都市に先王エドマリスが匿われているとの情報も掴んでいる。
今回この地が台風の目となるのは間違いなかった。
新王エドワルドが二万の軍勢を引き連れ、隣接したエドマリス領に陣を張っている。これも確認済みである。
「……ふむ、
「ニドル伯爵の言い分では、新王エドワルドは
「詭弁だな。援軍の派遣は戦争も辞さないという魔王の意思表示だ」
部下の報告を受けながら状況を整理していく。
このニドル領にはヨウムの集めた五千の兵しかいなかったが、三日前から続々と援軍が到着している。
「(魔王レイタロウは英雄ヨウムを見捨てなかったか。甘いな、甘すぎる。しかもこれで聖人ヒナタの勝率が大きく上がってしまった。正直なところ戦力の分散などせず、ヒナタ・サカグチに集中してもらいたかったが……)」
よりにもよって援軍に駆け付けるのが、あのヒナタ・サカグチを負かしたとされるスライム、リムル=テンペストだと言うのだからとんでもない話だ。
それが本当なら、それこそもう一回ヒナタと戦って今度こそ討ち取ってほしいと願わずにはいられなかったが、信頼できる部下からの報告を受けて内心落胆したのは記憶に新しい。流石に間抜けすぎやしないか、と。
「……ままならないものだな」
「総帥の命はこの地で戦乱を起こさせること。それは既に達成したのでは?」
「あぁ気にするな。あわよくば、と考えていただけだ」
ダムラダとしては、これもまた想定内。
ヒナタを始末しておきたいというのは、ダムラダの個人的な希望でしかない。
彼女を利用するために嘘を吐いたのがバレた可能性が極めて高く、だから邪魔になる前に始末したかったのだ。
「(あの女は利用されたことを決して許さないだろう。今後西側諸国で活動するためにも
新王と英雄、その戦いの勝敗には興味が無かったダムラダだが、今後の利益に繋げるべく五大老との約束は果たさねばならない。
が、ここにきて計画に狂いが生じていた。
「調べによると、宮廷魔術師ラーゼンは件の悪魔に従っているとか」
「そのようだな。かの英雄の名声は東にも伝わっている。その実力もファルムス王家に対する忠誠心も(……てっきり旧王エドマリスに従っているものと思っていたが)」
聖人ヒナタを負かしたスライムまで参戦することから分かる通り、悪魔のほうも短期決戦を狙っているらしい。
新王の思惑と悪魔の動き、これは完全に食い違っている。
「それが事実だとしても、あのラーゼンが現代種や近代種程度の悪魔に敗れたとは考えられんな」
「現代種……?」
「なんだ知らないのか、勉強不足だぞ。……悪魔は長く生きるほど力が強大になる。種として保有
同じ
近代種までならばともかく、二、三百年も生きた近世種ともなれば
ましてや、千年近く生きた中世種の悪魔など、それこそ魔王の副官クラスの実力があると見て間違いない。
「身の程知らずが中世種以前の者を喚び出した結果、召喚者自身が滅ぼされることも珍しくない」
「ははぁ……」
「もっとも、人間の召喚に応じて従った例は中世種までしか記録にないがな」
「……なるほど」
「(しかし、魔人ラーゼンの実力ならば中世種にも劣らないはずだ。戦い敗れたのならば、それ以前の悪魔と考えたほうが自然だろう。古代種、先史種、或いは……ッ)」
「……ダムラダ様?」
「……笑えんな」
「ダムラダ様?」
「撤収する。観察者以外、全員でファルムスを出よ」
これ以上の深入りはあまりにも危険である。
ダムラダの本能がそう告げていた。
「は……ハッ、承知しました。では本国より呼んだ
「ああ、私が連れて行こう。ここを離れる前に、彼らを新王への手土産とする」
「……つまり悪魔についてはエドワルドに押し付けるのですね?」
「人聞きが悪いぞ。五大老との約束を果たすついでに新王に恩を売るのだ」
「しかし、そこまでの警戒が必要ですか?投資額を回収しきれていませんが―――」ジュポッ
「さて、な。考えすぎかもしれんが、私は自分の勘を信じるよ。損切りに失敗して命まで失うような愚は―――」
何の気なしに、後に続く部下を見やったダムラダ。
そして、しばし呆然とする。
「クフフ……帰る必要はありませんよ。もう、ね?」
「………………ッ!!?」
つい先程まで、ダムラダの視界は色彩豊かな情景を映し出していた。
が、しかし。
今ダムラダの視界に広がる光景は、黒に比重の置かれた人工的で殺風景な、現実世界を忠実になぞっただけの
そこに生命体は
一人はダムラダ自身。そしてもう一人は……。
執事服に身を包み、漆黒の髪色と金色に輝く瞳、黒く染まった強膜が特徴的な、限りなく人間の男性に近い容姿をした悪魔が、ダムラダの目の前に佇んでいた。
それは、嘲るように静かに微笑む。
「初めまして〝金〟のダムラダ様。私は
「ッ〜〜〜(な、何故ここに!?何故居場所がバレた!?見張りは一体何をしていた!!?いや、そんなことはどうでもいい!!此処はそもそも何なのだ!?)」
「……やれやれ、本来説明する義理などこれっぽっちもないのですが、何も知らずに死に絶えるのでは実に味気ないので、軽くお教えしましょう」
まるで、物覚えの悪い生徒に懇切丁寧に指導を施す教師のような言い草で、ディアブロと名乗った悪魔は一方的に話を進めた。
「私の主、レイタロウ様はこうおっしゃいました。あなたにはここで消えてもらいたいと」
「ッ〜〜、それが、出来るとでも?」
「えぇ勿論。むしろどう隠蔽しようか少し悩んだくらいなのですよ。あなたの顔は裏では知れ渡っていますから」
「フッ、ならば足掻かせてもら……ッ!!?」
構えを取ったダムラダであったが、その時、自分の両腕が
「生憎、私はとても忙しいのですよ。ですので、あくまで勝負ではなく
「なっ……ぁ……ッ!!?」
全くもって意味が分からない。
両腕ばかりか、右脚、左脚、下半身、上半身、と音もなく肉体が溶けて消失していく。
怖い。怖い。怖い。怖い。
意識がいまだ残っていることが、こんなにも痛く苦しく、そして恐ろしいだなんて。
「……最期に一つ、私の〝身体特性〟を開示しましょう」
「ぁ………ッ………ッ……!」
やがて喉が溶け、声もロクに発せない頭部だけの状態にまで追い詰められた段階で、悪魔は歪んだ笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。
「レイタロウ様に名を与えられた折、
「ッ……ッ……ッ………」
「微小化した酸素原子を皮膚の上から摂取させ、分子間結合に潜り込んで体内から急速に分解して差し上げました。なのでまもなく死にますが、じきにあなた
「ッ……………ッ………………」
「あなたの部下達や
「ゥ…ァ……――――――――――――」
こんな終わりがあってなるものか。
……そんな憤りを感じるよりも早く、ダムラダだったモノは残骸すら残さず溶けて消えた。
それに何か感慨を覚えるでもなく、ディアブロは次なる命令を遂行するために即座に思考を切り替えた。
「……さて、そろそろ
そう呟いたディアブロは、指パッチンとともに具現化させた仮想世界を崩壊させる。
……そして、世界に色彩が取り戻された頃には、もはやそこには誰も存在していなかった。
〝
ちなみに、リムルが援軍に駆け付けているという情報は真っ赤な