クレイマンは犠牲になったのだ。
古くから続く因縁……その犠牲にな。
残念、リベンジならず!!
初代ドワーフの英雄王グラン・ドワルゴが国を興してから千年。歴史と文化、そしてその技術を守り、発展させてきたドワーフ達の王国である。
現在の王ガゼル・ドワルゴは、初代より数えて三代目であるが、若き日の祖父に似た覇気を纏っている。
その彼もまた偉大な英雄であり、この地を公平に統治する賢王として名高い。
そんな賢王の治める地ドワルゴンは、自由貿易都市にして異種族間の交易の中心地である。
……ゆえに、絶対中立都市としての顔を持つ。
この都市内部での武力行為を、賢王が許すことはない。
東の帝国でさえ、武装国家ドワルゴンに表立って事を構えることを避けているというのは、冒険者の間では有名な話だ。
一度ドワーフと事を構えると二度目はない。そう言わしめるほど過酷に相手を蹂躙し尽くす。
……武装国家の名は、伊達ではないのだ。
重武装の歩兵の壁に守られた高火力の魔法兵団。
戦う相手は、歩兵の壁を突き崩すことも出来ずに魔法の火力による攻撃で全滅する。
この千年、不敗を誇るドワーフ軍の実力は有名であった。
その実力を裏付けるもの……それこそが、高い技術力で制作される装備品にある。
最先端の技術で作られた武具は、人の造りし武具を圧倒的に上回る。……それ故に人は、ドワーフ族とは争いではなく友誼を結ぶことを選んだのだ。
だからこそ、その支配下において魔物と遭遇したとしても、そこで争いを起こす愚を犯す者は少ないのだ。
人と魔物が交わる都。
……それは、この地上に於ける〝異質〟の一つなのだ。
最も、武力のための道具が溢れる都でありながら、平和を享受する国。
武器商人の本拠地が最も争いから程遠いというのは、ある意味皮肉なことであるのかもしれない。
……というワケで参りましたドワーフの国!
はい、パチパチパチパチ……。
「る、留守番ですか……?」
「デカい狼を引き連れた魔物の集団がワラワラと行ったら流石に悪目立ちするだろ?……まぁそれを言ったらレイタロウさんが目立ちまくってて意味ないかもだけど」
へっ、言ってくれるじゃないのリムルさん。
……まぁその通りだけども。
「だから、ここから先は俺とレイタロウさんと、案内のゴブタだけで行ってくる。リグル達は、俺達が戻ってくるまで森の入り口あたりで野宿していてくれ」
「……はい。かしこまりました」
そんな寂しそうな目で俺を見ないでおくれよ……。
俺だって辛い。本当だよ?
でもさぁ、見るからに強力そうな魔物が雁首揃えて国の玄関口に突っ立っていたら、誰だって訝しむし警戒して然るべきなのよぉ。
「ちょっと気の毒ッスね」
「「 まぁ仕方ないさ 」」
俺達は警戒されるためにドワーフの国に来たのではなく、友好的な交渉をするために来たのだ。
そこを履き違えないように気を付けないとねぇ。
「通ってよし。次!」
門の前には、長蛇の列が出来ていた。
天然の大洞窟を塞ぐように設えられた大門。
この大門が開くのは軍の出入りの際のみであり、月に一度の頻度であるそうだ。
残念ながら今日は閉まっている。
「結構しっかりチェックするんだな」
「だな。全く列が進まない」
「中に入った後は自由に動けるんスけどね」
「「 ふーん…… 」」
その下には、小さな出入り専用の扉が設置されており、行列が出来ていたのは左側の通路である。
推し量るに、右側は貴族などのお偉い方御用達の通路なのだろうと、左側の通路に並び、周囲を観察しながら俺はそう考えた。
「ま、魔物、なんだよな……?」
「魔人か?……にしては随分と野性味が強いが」
「昔オークを見たことがあるが、連中よりもずっと大きいぞ」
「人型にしてはかなり大柄だな……」
「スッゲー筋肉だ。まるで
その左側にしたって、フリーパスで出入りしている者もいれば、別室でチェックを受ける者など様々だった。
武装国家の名に恥じぬ、厳重な警備体勢だねぇ。
中に入ると比較的自由に活動できるらしいけど……しかしホントに凄い行列だ。
あの三日間の旅よりも、ここで待つほうが時間取られたりして……ハハハ、まさかね?
そんなバカなことを考えていた時―――
「おいおい、魔物がこんなところにいるぜ。……まだ中じゃないし、ここなら殺してもいいんじゃね?」
「なに偉そーに並んでるんだよ。生意気だなお前ら。殺されたくなきゃ、そこ譲れ。あと荷物全部置いてけ。それで今回は見逃してやるよ」
……はい、フラグ回収と。
テンプレなまでのチンピラ二人に目を付けられてしまったもんだ。コイツは困ったぞー。
ゴブタとリムルさんと俺を見て、いいカモに見えちゃったのかしら?
列に並ぶのを嫌った二人組の男に絡まれちゃった。
「おいおいゴブタ君。何か聞こえないかね?」
「はい、聞こえるッスね……(汗)」
「前来た時も絡まれたりしたのかね?」
「当然ッス!ここでボコボコにされて、コボルトの商人さん達に拾われたッス!……あそこで拾われなかったら俺、死んでたかもしれないッスね〜」
「……絡まれたんだ。じゃあ、しょうがないか?」
「弱い魔物の宿命みたいなもんなんスよ……」
絡まれたのね。しかも、当然のことだと。
先に言っておいて欲しかった……って、言ってたわ確か。
ゴブタは、悟ったような目をして項垂れていた。
俺の肩に乗っているリムルさんに慰められているが、今回の失敗を引き摺らないか心配だ。
「おい!雑魚い魔物のくせにこっち無視してんじゃねーよ!」
「ってゆ〜かぁ、そこの
……見てくれだけ、か。
ま、確かにね。
この肉体は単に、筋肉が肥大化しただけの、謂わば見てくれだけの代物に過ぎないけどね。
……それでも、君達の貧弱極まるそれよりは、性能も馬力も圧倒的に上なんだよ?
流石に傷付く……というより。
「リムルさん。ゴブタ。……ここは、俺に任せてもらえるか?」
「はい!勿論ッス!(震え)」
「……なるべく穏便にな?(汗)」
「ありがとう。じゃあ少しの間、目を瞑り、耳を塞いで、口を半開きにしておいてくれ。……くれぐれも、俺のほうを見ようとするなよ」
「?……なんか良くわかんないッスが了解ッス!」
……さてと、それじゃあ早速やりますかぁ。瞬殺。
その時、右側に立つ男の視線が僅かに動いたのを見逃さなかった。
視線の先の気配を感知すると……三人組がニヤニヤと笑いながら様子を伺っていることが伝わった。
目の前の二人組は剣士の男と軽装備の男。
……おそらく、この二人は先発部隊なんだろう。
三人組はと言うと、魔法使いか僧侶っぽいローブ姿が二人と、大柄な戦士が一人。
……こちらが本隊と言ったところかな。
推測するに、彼らは一つのパーティーなのだろう。
役回りとしては、二人が俺達を追い出して順番を確保し、追い出された俺達を三人でこっそり始末し、何食わぬ顔で二人に合流する。……そういうシナリオだろう。
弱い魔物が荷物を持っていたら殺して奪うことも出来るし、何とも常習性を感じさせる。……が、今回は相手が悪かったと言わざるを得ない。
「ちっ、だんまり決め込みやがって!さっさとどけって言ってんだ、ろ……?」ハァ…ハァ…
「おいお前死んだぞ?身包み置いてくなら命だけは助けてやろうと思っ、て……?」ハァ…ハァ…
「な、んだ、これ、息が、でき、ね……!?」
「ひぃ、ひぃ、ふっ、ふぅ、ひゅ……!!」
同じ人型生物なら心臓の位置も同じだろうと思ってたけど、初手で決まって良かったぜ。
まず、自分と相手の心拍数、もとい固有振動数をピッタリ合わせます。
そこまで出来たら、次は自分の脈拍を不規則的にコントロールしてみましょう。
そうするとアラ不思議、相手のほうが自分の脈拍に合わせて本来の動きとは違う動きを見せてくれます。
ちょっとヤバめの不整脈を起こしてくれるため、こっちに絡んでくるチンピラを事故を装って無力化する上でとても重宝している技なのだ。
よしよし、ぶっ倒れてくれたな。
……あ、仲間が来た。
「貴様ぁ!俺の仲間に何を、し、た……?」ハァ…ハァ…
「うぎゅっ!?ふへっ、ふぉ、ふっ、ふ……!」
「ぐ、ふぐぅ……!?」
「へ、へぶ、へべれ、けっ……」
お休みベイベー。
完全に気絶したらこっそり治しておいてあげるからねぇ。
それまで、夢の中でママのおっぱいでも吸ってな。
「レイタロウさんレイタロウさん」
「ん、どうしたのリムルさん?」
「足元、見てみ」
「足元?……………………あっ」
……元々この技は、俺の見た目にも気圧されない驚くべきバカ相手に開発した対暴徒鎮圧用の技であり、不整脈に陥らせて無力化し、後遺症なく治癒させるまでやって初めて完成するものなのだ。
だが、元いた世界で有名になっていくにつれて、俺に絡むようなバカはいなくなり、ここ最近はめっきり使う機会がなくなっていた。
故に失念していた。……出力調整を。
子供の頃、あんなにハマっていたゲームを大人になって久しぶりにやってみたものの、あんなに研ぎ澄ませていた感覚や勘がすっかり鈍ってしまったと落胆する、あの感じに似ているかもしれない。
俺の場合はやりすぎたと言うべきか。
「……やっべ」
白目を剥き、口から泡を吹かしている人や魔物が足元を埋め尽くしている。
今この場で平然としていられる者は、俺と、心臓がないリムルさんしかいない。
「ひ、ひふぅ、ま、マジで、死ぬ、ッス……!」
許せゴブタ。今すぐ治癒を施すぜ。
……目と耳塞いで口半開きは、意味なかったね。
ちな、今のゴブタなら二人だろうが五人だろうが瞬殺できるくらいには超絶強化されています。
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