腕っこきの鍛冶師に会うって話です。
「(クソったれめ。何でこんなに忙しいんだ?)」
ドワーフの男カイジンは内心毒づいた。
「(……ったく、東の帝国が動くかもだと?そんな馬鹿な話があるかッ!)」
毒づきながらも、本音を零した。
そもそも、ここ三百年は平和な時代が続いたのだ。
帝国は豊かな国であり、どうしてわざわざ侵略を行う必要があるというのか。
……彼にはそこが分からない。
まぁ武具の製作を仕事としている彼らにとって、戦争が始まるというのは大儲けのチャンスではあるのだが……。
「(何でいきなりこんなに仕事が増えるんだよ!?)」
……これこそが、偽らざる心境なのだ。
しかも、彼を悩ませる問題が一つ。
「(あのクソ大臣め!!……しかし、どうしたものか)」
内心で大臣をボコボコにしつつ、頭を悩ませる。
期限は残り少ない。
断ったら信用に関わる。
出来ませんでしたでは済まない話なのだ。
今は知り合いからの連絡待ちだが、その結果次第ではお手上げとなる。
それなりに名の通った武具製作職人である彼であるが、出来ないこともある。
そう、材料が無くては何も作れないのだ。
そんな彼の前に、待ち望んでいた連絡が届いた。
「すまん。昨日連絡出来たら良かったのだが、それどころでは無かったのだ……」
そう言って、三人の男達が入って来た。
三人はドワーフ族の兄弟で、採掘業を任せていた者達だ。
長男のガルム。腕の良い防具職人である。
次男のドルド。細工の腕はドワーフ随一と有名な男だ。
三男のミルド。寡黙な男だが器用に何でもこなす。建築や芸術にも精通している。一種の天才だ。
本来なら一人ひとりが店を構えていてもおかしくないほどの逸材なのだが、如何せん不器用過ぎた。
自分の得意な分野以外の才能に恵まれなかったのだ。
だから余計にか、根回しや商売の出来る性格でもない。
それ故に、いい様に周囲に利用されてきた。
信頼していた者に任せていた店を乗っ取られる。
兄弟弟子に才能を妬まれ罠に嵌められる。
王への士官を蹴って国に睨まれる。
あまりにもどうしようもなくなって、幼馴染で三人の兄貴分だったカイジンへと頼って来たのだ。
もっと早く頼ってくれよ!とは思ったものの、今更である。
三人を自分の店で匿って、雇うことにしたのだ。
しかし、三人に任せる仕事はない。
カイジンの店は武具商店を経営しているが、武器以外は仕入れているのだ。
自分で武器は作っているので、その手伝いはこなしてもらうことにしたが、ここで防具や細工物を製作出来るからと仕入れをしなくなれば、無用のトラブルの元となる恐れがあった。
三人が落ち着くまでは現状のまま営業を続ける必要があったため、この三人に人夫を使っての鉱石や素材の収集を指揮させていたのだ。
三人から事情を聞くと、どうやら魔物が出現したらしい。
カイジンは頭を抱える。
ここは三人の無事を祝うべきところなのだ。
幸い怪我もなく済んだのだし。
「まぁお前達が無事で良かったよ!上手く逃げれたんだな?怪我が無くて良かった!」
そう声をかけた。
そう、体が無事ならまた鉱石を取りに行けばいい。
友の無事のほうが何倍も大事だと思った上でだ。
……すると、気まずそうに三人は顔を見合わせた。
そして、長男のガルムが口火を切る。
「いや、逃げ切れたワケではないんだ」
「うむ。実は、今でも昨日あったことが信じられんくらいなのだ……」
「………」
それから詳しく話を聞くこととなった。
全身真っ黒黒なリザードマンに治癒魔法を施してもらったおかげで一命を取り留めたという話を。
「(嘘だろう……と言いたいところだが、こいつらは下手な嘘もつけん不器用者ばかり。となると本当の話ということか。いや、しかし、にわかに信じられん。手をかざしただけで千切れかけた腕を元通りにするなど……)」
リザードマンの話も気になるが、それよりも昨日魔物が出た箇所で襲われた者がいるとなると、新たな人夫を雇うのは無理だろうと考え込む。
昨日まで雇っていた人夫は、昨日の内に辞めて逃げてしまっている。
自分達もかなりの怪我をしたようだし、文句も言えない。
本来なら、こういう時こそ自由組合へ依頼をすべきなのだが、それも無理だろう。
採取依頼はとっくに出しているが返事が来ない。
ほかの工房でも依頼を出しているので、物の流通が悪くなっている。
護衛の依頼を出すと割高になるし、彼らは依頼分しか働かない。
護衛依頼なら、護衛しかしないのだ。
まして、ランクB-を倒せる冒険者となると……。
「(……ダメだ、採算が合わないどころか破産しちまう。チッ、なんで鉱山の浅い地区に、そんな強力な魔物が湧くんだよ!)」
カイジンは、深い溜息をついた。
どうしたものか。期限は残り少ない。
無理をしてでも、自分も採取に向かうべきだろうか?
中々いい案が浮かばない。
時間だけは過ぎていくというのに……。
四人で顔を見合わせ、思案に暮れる。
……そんな時だった。
おかしな集団が現れたのは。
「兄貴いるかい?」
そう言いながら、隊長さん改めカイドウさんが店に入る。
会話しているうちに打ち解けて、名前を呼び合う仲にまでなったのだ。
いや〜それにしても、ゴブリンの村に比べて、ドワーフの国ってのはホントに文化的なんだねぇ。
武器作ってる国なんだから当然っちゃ当然だけど、武器や防具なんかで溢れかえってて思わず見入っちゃったよ。
薄ら光ってる剣なんかもあったし……。
で、紹介する店というのが、その光る剣を作っているカイドウさんの実の兄が経営している店なのだそう。
こじんまりとした、いかにも昭和の(遥か昔のニホンの年号)頑固親父が経営してそうな店だ。
……あっ、今更ながら緊張してきた。
「……お邪魔します」
「お邪魔しま〜す!」
「どうもッス!」
など言いながら、カイドウさんに続くように店に入る。
「……なんだカイドウか。悪いがいま忙しいんだ。急ぎでないなら日を改めてくれ」
店に入った途端、いかにもTHE・職人といった感じのぶっきらぼうな親父さんの声が響く。
次いで、複数の視線が俺達に向けられた。
「「「 あっ 」」」
昨日の三人組が、驚きの声を上げてこちらを見ていた。
身体的には元気そうだが、反面なんとも浮かない顔をしている。
「何だお前達、知り合いか?」
「カイジンさん。この方ですよ。昨日俺達を助けてくれたリザードマンって言うのは」
「そうそう。隊長さん、旦那の弟さんだったんですね」
「………」コクコク
「おお、今さっき話してたリザードマンか!昨日こいつらを助けてくれたそうだな。感謝する!」
「いえいえ、困っている人を助けるのは当たり前ですから」
お礼を言われてつけあがる……なんてことはせず、あくまで謙虚に礼を受け取った。
今回はあくまで交渉のために来たのだ。お調子者というイメージは極力持たれたくない。リムルさんやゴブタみたいな。
「それで、どうして今日はここへ?」
親父さんが聞いてきたため、カイドウさんが手短に状況を説明してくれた。
俺も少し補足して、会話はスムーズに進んでいった。
しかしまぁ三男のミルドって人は喋らんね。
あれで会話が通じるの?……不思議だ。
「話は分かった。……だがスマン。力になれそうもない。実はな、こっちもとある国から依頼を受けててな」
秘密だぞ?と言いながら、要所要所をぼかして話をしてくれた。
曰く、どこぞのバカが戦争を起こすかもしれないという恐怖感から、先走った国々が武具の注文を行っているんだそうな。
昨日の、回復薬の品薄にも通じる話だねぇ。
「でだ、鋼製の槍二百本は徹夜で用意できたんだがな、肝心の剣二十本がまだ一本しか出来ていないんだよ。材料がなくてな……」
項垂れつつも、愚痴をこぼす親父さん。
「まず引き受けなきゃ良かったのに」
カイドウさんがもっともなことを言った。
「俺だって最初は断ったさ。……そしたら、あのクソ大臣のベスターの野郎が〝王国でも名高いカイジンともあろうお人がコノ程度の仕事も出来ないのですかな?〟とかほざきやがったんだよ!しかも国王の前でだ!許せるか!?あのクソ野郎が!!」
……などと激怒しながら話してくれた。
多分だけど、そのベスターって人が材料を買い占めて作れなくしているんじゃないかなぁと思える。
「失礼。その素材が無くて作れないって、槍とは材料が違うんですか?」
「ああ。魔鉱石という特殊な鉱石が必要になる。槍はただの鋼の槍だったんだよ」
投げ捨てるような返事が返ってきた。
名うての達人も、素材がなければ只の人ってか。
……悔しいだろうなぁ。
もしかして大臣は、自分に泣きついてくるのを待っているんじゃないだろうな?
「しかもな、一本完成させるのに一日はかかる。流れ作業で効率化しても、二十本打つのに二週間は掛かるんだよ……」
期限は?とは、とても聞けなかった。
聞かずとも、その表情が絶望的だと物語っていたからだ。
「期限は五日後。その日までに王に届けなければならん。国で請け負い、各職人に割り当てが行われた仕事だ。出来なければ、職人の資格の剥奪も有り得るんだよ」
今日はもうダメそうだから、実質あと四日かぁ。
……ちょうどいい。ここで
「ちなみに、出来上がった剣は見せてもらうことは出来ますか?」
「おぉいいぞ。ちょっくら持ってみるか?」
そう言って、奥にしまってあった剣を一本引っ張り出して持たせてくれた親父さんことカイジンさん。
あくまで持論だが、武器の重さと硬さは、装備した者の命を守る〝保険〟となると考えている。
その点で言えば、この剣は余裕で及第点を超えていた。
軽くはあれど伽藍洞ではなく、芯が通った機能的な長剣であった。
刀身を軽く握り込みながら、よ〜く
「……見事な一振りだ。しかしこの剣、床に落ちている剣と何が違うんですか?」
「魔力を馴染ませやすい魔鋼を芯に使ってある。簡単に言うと使用者のイメージに沿って成長する剣なのさ」
「ほぉ……それは凄い。ちなみに魔鋼はどうやって?」
「魔鉱石っつー原石から魔鋼を抽出するんだがな、それの採取できる場所が曲者なんだ」
「と、言うと?」
「上位の、それも一際強力な魔物の付近からしか採取できないんだ。長い年月をかけて魔物の魔素を染み込ませた鉱石が突然変異を起こして魔鉱石に成る。だから必然的に流通量も限られるワケだな」
「……その魔物の基準とかってありますか?」
「最低でもBランク相当の魔物の生息地にしか魔鉱石は発生しないぞ。……それでもほんの僅かにでも魔鋼が含まれていれば御の字だが」
「そうなんスか!……じゃあ自分もBくらいッスかね?」
「「「 ……… 」」」
……こらこら、返答に困ることを言わないの。
俺だっていま初めて〝ランク〟を知ったんだから。
しかし、異世界でアルファベットを聞くとは思わなんだ。
ABC……上にSランクとかあったりして。っと、そうだ。
「……十七、十八、十九、二十と。ちゃんとあるな」
「ん?なに床の剣なんか数えてるんだ?」
「……カイジンさん。魔鋼っていうのは、掻い摘んで言えば魔素が染み込んだ鉱物って解釈でいいんですよね?」
「ん、まぁ大体そうだが―――ッ!!?」
刀身越しだが、適応は滞りなく完了した。
しかし、俺が作れるのは素材であって完成品ではない。
ただの
故に、発想の転換。
「そ、そんな鋼の剣を握り込んで何を……!!?」
既に普通の剣として完成された代物ゆえ、ただ魔素を染み込ませるだけでは効果が薄かっただろうが、適応によって魔素の染み込ませ方を把握することが出来たことも大きかった。
……んで、剣に魔素をガンガン注ぎまくったワケだが、特に問題なく終わった。
「カイジンさん。俺達の村に技術指導として来ませんか?よろしければそこの三人も」
「なっ……なっ……!」
「「「 ………ッ!!? 」」」
「勿論、無理強いはしません。……この一振りは出会いの記念として差し上げます」
そう言って、
「もし来ていただけるのであれば、残り十八本の鋼の剣を全て、魔鋼製の剣に仕立て上げましょう」
俺は出来る限り柔和な表情を浮かべ、選択を突き付けた。
前回の反省を活かし、今回はかなり控えめかつマイルドに笑顔を抑えている。
「「「「( え、笑顔が怖え……もし断ったら○すぞって意味の威嚇か……!? )」」」」
カイジンさん達は、俺が起こした奇跡を前に、完全に度肝を抜かされているようだった。
何はともあれ、順調な滑り出しである。
リムルさん「俺、いらない子……?」
ゴブタ「そんなことないッスよ!……多分」
リムルさん「うえ〜んゴブタのバカーッ!(泣)」