スライムと友達になったって話です。
ネタバレになりますが、普通は90日以上かかるのを、
反面、
挿絵付きです。
何が出来る?俺はこれが出来る。
『み、認められるかぁー!!!』
「認めないも何も……見たままだからねぇ」
『そんな……俺が可愛らしいスライムに……?』
「うん」
『うあぁぁぁぁ!』
現実を受け入れたほうが気持ちが楽になるよ。
……とはいえ、か。
通り魔に刺されて死んだと思ったら人間からスライムになっているんだもんなぁ。
俺でも動揺はしそう。てか泣きそう。
「……それを考えると、俺は依然とさほど姿が変わってなくて安心だよぉ」
『そうなのか?』
「うん。っていうか、俺の姿はまだ見えてないの?」
『いや、努力はしてるんだけどさ。レイタロウさんと会話できてるだけで、ぶっちゃけな〜んにも見えないんだよ。自分がどこを歩いているのかもサッパリでさぁ』
「俺達は今、地底湖の
天井にゴリゴリとモヒカンをぶつけながら、スライムの彼との会話で聞き捨てならない単語が飛び出てきたことを思い起こす。
スライムの彼……三上悟さんは、日本出身であるらしい。
日本。……はるか昔、小さな島国でありながら大国の圧に屈することなく繁栄していた国家であると歴史の授業で教わった記憶がある。
でも確か、世界戦争の影響によって幾つもの自然災害が発生し、現在の日本は海の底に沈んでいるはずだ。
じゃあ悟さんが嘘をついているかと問われると、彼の放つお気楽……と言うか間抜けな雰囲気からそうとも言い切れないと判断するしかなかった。
まぁ多分ここ異世界だし、俺の知る日本とは根本から違う別の日本から来た可能性も無きにしもあらずだし、これ以上考えても詮無きことだ。
今はとにかく、現状の把握が先決。
……あと出来れば飲水と食糧も確保しておきたい。
「悟さん。お腹は空いているかい?」
『んにゃ?……そういえば全然お腹が空かないなぁ』
人とは全く異なる生物になったからなのか……。
よほどエネルギー効率に優れているか、そもそもエネルギーを外部から取り込む必要がないのか、悟さんはこれまで空腹を訴えたりはしなかった。
……そういうのが、割と危険な状態とも言える。
「……いざって時に空腹で倒れたら事だ。運が良いのか悪いのか、俺達の足元には無数の雑草が生い茂っている。今日はこれを食べよう」
『ざっ、雑草!?……まぁ贅沢は言えないか』
人間的な習慣を欠かすことになると、最初それが小さな綻びであったとしても、そこから〝心〟が傾き、均衡を大きく崩し、やがて致命的な欠陥……怪人化に繋がってしまう可能性も十分あり得る。
悟さんの心はいまだ人間のはず。
……せめて食事の確保だけはしておかねば。
クソ、こんな時に魔法のウエストポーチがあれば……。
『はむっ……あっクソ……こう…こうか?……よ〜しよしよし……やったぜっ!』
よくよく見てみれば俺、真っ裸なんだよねぇ……。
あーホントにイヤになるぜ全くぅ!
それはそうと悟さんだ。
雑草を食うのに悪戦苦闘していたようだが、コツでも掴んだのか体全体で雑草に伸し掛かり、溶解液で溶かしながら吸収を始めていた。
……言い出しっぺの俺が食わないでどうすんだよって話だよなぁ。
見るからに雑草だけど、ここは男らしく思いっきり口の中に放り込んで飲み込んだ。噛んだりはしない。
苦み自体はあるけど、奥底に仄かな甘みもある。
エグみなどは殆どない。……これ結構イケるなぁ!
天ぷらにして食べてもイケそうだねコレ。
幾つか持ち帰れないかしら?
……あれ、
もしかしてこの雑草って―――
「悟さん。……この雑草、ただの雑草じゃないぞ」
『え、そうなの?』
「この雑草……僅かながらに治癒の効能がある。
『そんな不確かな表現じゃ流石に分かりづらいなぁ……』
《提案。『捕食者』によって解析が可能です。より確実な方法として『大賢者』の並列演算をリンクさせることも可能です。リンクさせますか? 》
「『 うおっ!? 』」
いきなり聞こえてきた声にビクつく俺と悟さん。
『そ、そう言えば、死の間際に俺の頭の中で響いていた声だったような……?』
「……それって具体的には?」
『さっき言った捕食者だとか大賢者だとか痛覚が無くなるだとか……思えば俺の死に際の言葉がまんま反映されていたような気がする』
「……転生特典みたいなものかぁ。ならこの声の主は一体何者なんだ?」
《解。ユニークスキル『大賢者』の効果です 》
「『 おっマジか 』」
俺の問いかけに応じてくれるなんて……随分親切だねぇ。
でもちょっと機械的な印象が抜けないな。
……非常に出来のいい高性能AIって言ったところかな?
なら、今のうちに疑問に答えてもらおうかな。
「大賢者、悟さんの現在のスペックを……俺と悟さんだけが閲覧できるようにしてくれ」
《解。表示いたします》
おぉ。頭の中に文字群が流れ込んでくる。
《解。ユニークスキル『捕食者』の効果……
捕食:対象を体内に取り込む。ただし、対象に意識が存在する場合、成功の確率は大幅に減少する。
効果の対象は、有機物・無機物に限らず、スキル・魔法にも及ぶ。
解析:取り込んだ対象を解析・研究する。作成可能アイテムを創造する。
物質がそろっている場合、コピーを作成する事も可能である。
術式の解析に成功すると、対象のスキル・魔法の習得が可能である。
胃袋:捕食対象を収納する。また、解析により作成された物質の保管も可能。
胃袋に収納されると時間効果が及ばない。
擬態:取り込んだ対象を再現し、同等の能力を行使可能。
ただし、情報の解析に成功した対象に限る。
隔離:解析の及ばない有害な効果を収納する。無害化を行い、魔力に還元する。
……以上の5つが主な能力です 》
ほうほう、なるほど?
《解。ユニークスキル『大賢者』の効果……
思考加速:通常の千倍に知覚速度を上昇させる。
解析鑑定:対象の解析及び、鑑定を行う。
並列演算:解析したい事象を思考と切り離して演算を行う。
詠唱破棄:魔法等を行使する際、呪文の詠唱を必要としない。
森羅万象:この世界の、隠蔽されていない事象の全てを網羅する。
……以上の5つが主な能力です 》
つまりはアレか、食べれば食べるほど足し算のように強くなれる能力ってことか。どこの蟻の王?
それによくよく聞いてると、スキルや
そこに加えての大賢者。
この説明を鵜呑みにした場合、大賢者はまさしく高性能なAIということになる。
……とんでもないチートじゃないですかやだぁ。
『森羅万象……それって全ての知識が労せず手に入るってことか?』
《解。正確には、モンスター〝スライム〟が触れた情報に対して、知りえる事柄に対してのみ情報開示が可能》
それにしたって凄い能力だよ。
『詠唱破棄ってことは、当然この世界に存在するってことだよな?……魔法』
《肯定。魔法の存在は確認済みです》
『な、ならさ。俺もいま使えるかな?……魔法』
《解。現時点では不可能です》
『分かってたよコンチクショウ!!』
「……話が脱線しすぎたな。大賢者、悟さんが取り込んだ分の雑草を解析してくれ。無論、君の提案通りにな」
《解。了解いたしました》
ん……おおおお。
頭の中に情報が流れ込んでくるぅぅぅ。
《解析が終了しました……
ヒポクテ草:傷薬の原材料。魔素の濃厚な場所にしか繁殖しない。草の汁と魔素を融合させると回復薬になる。葉をすり潰し、魔素と融合させると傷を塞ぐ軟膏になる》
「へぇ……そりゃまた」
『凄い!……なら万が一に備えて、ここら辺にある雑草全部取り込んどかないと!』
「それはよしたほうがいいよ」
『えっなんで?』
「ここら辺……どういうワケか俺達二人を除いて生物の気配が全く感じられないんだけど、その雑草を糧に生きる生物がいないとも限らないからね。食物連鎖って奴さ」
『あぁそうか……うっかりうっかり』
「節度をもって採取すればいいんだよぉ。そうすればまた生えてきてくれる」
こんな美味しい雑草、絶滅させるなんて惜しいからねぇ。
『でもさぁ…モシャモシャ…ただでさえ身一つでさぁ…モシャモシャ…こんなよく分からない場所にさぁ…モシャモシャ…いるワケだからさぁ…モシャモシャ…ちょっとくらい多めに取ってもさぁ……あっ』ポチャン!
「まぁそれもそうだね。多めに取る分には問題ないと思うよ……あっ」
あっ……悟さん水の中に落ちちゃった。
ヤバいヤバい、スライムって水の中でも大丈夫なのか!?
「悟さん!!」ジャボン!!
即座に頭から地底湖の中にダイブする。
水の中に入っても、瞬膜を展開すれば俺の目は地上にいる時と変わらず健在だ。
肺呼吸からエラ呼吸に切り替えたため、いちいち息継ぎをする必要もない。
暗闇にもすっかり適応し、真っ昼間の屋外のように水の中の世界が明瞭に見渡せる。
……おっ、いたいた。
「怪我はないか。悟さん?」
『わわわ……俺死ぬの?窒息死しちゃうのぉぉ!?』
「落ち着け落ち着け。普通に話せてる時点で窒息はしていないはずだよ?」
《解。スライムの身体は魔素のみで動いています。酸素は必要ではないため、呼吸は行っておりません 》
『……そう言えば、全然息苦しくないや』
ようやく落ち着いてくれてホッと一安心。
……さてと、そんじゃあ地上に上がりますか。
悟さんのまんまるボディを掴もうと手を伸ばす。
『あっ。ちょっと待って。……いま凄いこと閃いたかも』
「ん、凄いこと?」
『水を大量に捕食して、ウォータージェット推進のように吐き出して移動するってのはどう?』
「どうって言われても……今それをする必要があるぅ?」
『魔法が使えないと分かった以上、そういう緊急脱出手段はあったほうがいいと思うんだ。それにウォーターカッターよろしく敵をスパッと切断できるかもしれないし、やる意味はある!』
なんやなんや、急に前のめりになるやん。
……まぁそうだね。手札は一枚でも多いに越したことはないからね。
有言実行。……いち早く実践に移った悟さんは、それはもう吸水ポンプよろしく地底湖の水を物凄い勢いで吸い上げていった。
明らかに水深が目減りしてる。……容量は大丈夫かしら?
「大賢者、あと何%まで吸い込める?」
《解。『捕食者』の胃袋は10%に到達しました》
……〝胃袋〟に入れた端から〝隔離〟して魔力に還元すれば枯らせられるんじゃね?とは言うまいよ。
ただでさえ環境破壊もいいところなんだから、これ以上入れ知恵してもねぇ……。
「悟さん。もうそのくらいでいいんじゃない?」
『おっとそうだな。これを一気に放出して……』シュパッ!
あ、どっか行っちゃった。
まさにウォータージェットよろしく恐ろしい速度で水中を突き抜け、やがて水の中から抜け出し暗闇の向こうに消えてしまった。
……っと、いけねぇ。このままじゃ見失っちゃう!
「いやはや、世話の焼ける……!」
上を目指して水中で一気に加速する。
その際、地底湖全体を激しく揺るがしてしまったが、些細な問題だろう。
今の俺は水中から顔を出したシャチそのもの。
捕らえた獲物は絶対に離さないぜ……なんてね。
水中から脱出した俺は、足元に極小の『気』を纏わせて水の上に着地する。
物理法則に従って再び水の中に沈むなんてことはなく、どこぞのチャクラを操る忍者みたいに水の上に立った俺は、悟さんがぶっ飛んでいった方向めがけて駆け出した。
……それが、この洞窟に封印された存在との邂逅になろうとは、この時の俺は思いもしなかったのである。
次回、ヴェルドラさん登場回です。
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