転移したらスライムと一緒だった件:REY   作:びよんど

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シズさん(inイフリート)を救うって話です。


爆炎の支配者

 

 

さて、人けのない場所までシズさんともども〝瞬間移動〟できたのは良かったけれど。

 

 

「ハナ…レテ……オサエキレナイ……ワタシカラ…ハナレテ……!!」

 

 

案の定、シズさんの体から物凄いレベルの殺意と炎熱が放出されている。取り敢えず距離は取ろうか。

 

……うーん、助けてとお願いされたからには助けるけれども、どうやったら丸く収まるだろうか?

 

見た感じ、彼女の中で燻っていた力が肉体の主導権を握ろうとしているって認識でよろし?

 

あークソ、こういう時にリムルさんの『大賢者』がいれば楽なんだけどなぁ。……あっそうだった。

 

 

レイタロウさんとシズさんが居なくなった!?どこに―――ってうわっ!!?」

 

「悪いねリムルさん。急ぎの案件だから簡潔に纏めるよ。シズさんの暴走を収めるために『大賢者』の智恵を借りたい」

 

 

リムルさんを右の掌に収まるように取り寄せ、簡潔に用件だけを話した。

 

リムルさんは、この前経験したことがある〝瞬間移動〟についてアレコレ詮索することはなく、シズさんの様子を見て即座に状況を把握してくれた。

 

 

「……『大賢者』、シズさんを助ける策を考えてくれ」

《了。まずは個体名シズエ・イザワと同化しているイフリートを無力化する必要があります》

 

「無力化?……消滅させちゃダメなのか?」

 

《解。イフリートとの同化が彼女を延命させていると推測。消滅させた場合、衰弱死する可能性があります。それでも実行しますか?》

 

「「 するワケないじゃん!! 」」

 

 

『大賢者』ちゃんよぉ。君がボケを言えるだなんて思わなかったぜ?

 

でもナシだな。助けたと思ったらトドメを刺したじゃ笑い話にもならねえや。

 

リムルさんにイフリートだけ捕食してもらおうかとも思ったけど、これもナシだな。

 

……やれやれ、俺の頭に一つだけ案が浮かんでいるけど、これが果たして成功するかどうか。

 

 

「……そんな顔しなくたって、必ず助けるさ。俺ぁ約束は守る男だからねぇ」

 

「俺もな。だから……任せろ」

 

「……オ…ネガ…イ……」

 

 

勝利条件はイフリートの制圧とシズさんの救出。

 

そして、この世界に来て初めての、リムルさんとのタッグ戦の幕開けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚えている光景は、降り注ぐ炎。

 

掴んでいた母親の手はあまりにも軽い。

 

その先を見るのが怖かった。

 

近くで爆弾が炸裂し、辺りを火の海に変えている。

 

どこへ逃げればいいのか?

 

周囲を炎に囲まれて……井沢静江(わたし)は絶望とともに途方に暮れる。

 

その時、強烈な光が自分を包むのを感じた。

 

 

『(あぁ……ここで私は死ぬの……?)』

 

 

当時四歳だった私にも理解できた。

 

頼るべき親戚も無く、母親と二人暮らし。

 

父親は戦争へ駆り出され、顔も覚えていなかった。

 

幸せだとも不幸だとも感じない。

 

日々それが日常であり、そういうモノと受け止めるしか無かったから……。

 

炎に包まれ死にゆく運命であった私に……。

 

 

〝生きたいか?生を望むならば我が声に応えよ!〟

 

 

頭に声が響いた。

 

生きたいか、だって?……そんなの分からない。

 

だけど、それでも……自分を庇って手だけになってしまった母親を見て、私は―――

 

 

『………………生きたい!』

 

《確認しました。召喚者の求めに応えます。……成功しました》

 

 

そして、炎に怯えることなく生きたい!

 

 

《確認しました。エクストラスキル『炎熱操作』を獲得。……成功しました》

 

 

 

 

 

次に目覚めたのは、魔物の巣窟。

 

目の前には美しき〝魔王〟

 

長い金髪(プラチナブロンド)に青い瞳。整った顔立ちに切れ長の眼。透き通るように白い肌。

 

それは、女性と見紛うばかりに美しい美丈夫。

 

 

レオン・クロムウェル

 

 

それは、人間の魔王。その二つ名は〝金髪の悪魔〟

 

 

『あぁ……また失敗だ』

 

 

彼はそう呟き、私への興味をすぐに失った。

 

だからこそ、全身に大火傷を負って死にかけている私を殺すことはしなかった。

 

どうでもいい存在だったから。

 

それが悔しかった。

 

今でも思い出すあの美しい顔。

 

そして、興味無さげに見下された絶望を。

 

あの時の私には、彼に縋るしか生きる術が無かったというのに。

 

結局、彼女を助けたのは魔王の気まぐれ。

 

 

『まて……』

 

 

何かを思いだし、魔王は呟いた。

 

それがとても不気味で……。

 

 

『た、たすけて……』

 

 

縋るように、魔王に手を伸ばす。

 

彼なら、天使の様に美しい。

 

彼なら、自分の苦しみを癒してくれるのでは?

 

そう思えたのに……。

 

 

『ゴミかと思ったが、コレは炎への適正がありそうだ』

 

 

そう言って、召喚術式〝炎の巨人(イフリート)〟を起動する。

 

詠唱も行わず、容易く。

 

召喚した炎の巨人に無造作に命じる。

 

 

『お前に肉体を授けよう。使いこなせ!』

 

 

それは私のことを、人間として見ていない証拠。

 

悔しさは、憎しみへと転じた。

 

これが、この心に刻まれた呪縛(トラウマ)

 

……だけど、この憑依によって死から逃れることが出来たのも、また真実なのだ。

 

 

 

 

 

それから、どれほどの時が経ったのか……。

 

私は、炎の魔人として魔王の城に君臨する。

 

魔王の側近の、上位魔人として。

 

 

コツン コツン コツン

 

 

城に、静かな音が木霊した。

 

既に魔王は逃げている。この城は放棄されたのだ。

 

私は殿(しんがり)。……つまりは捨石。

 

魔王は、最後まで私を道具として扱った。

 

そこに一切の感情を挟むことなく。

 

やって来たのは〝勇者〟

 

長い黒髪を後頭部で一纏めにし、身を包むのは、濃黒に統一された軽装備。

 

魔王に劣らぬ美しい美貌。

 

違う点は〝勇者〟が少女であったこと。

 

見た瞬間に直感した。

 

 

『(次元が……違う!)』

 

 

その心理が炎の巨人(イフリート)の意識を抑えたのか、ほんの少し自我が戻る。

 

そして、勇者と目が合った。

 

 

『た……たすけ……』

 

 

虫のいい話だろう。

 

こんな……魔人となった自分の言葉を、信じてくれるワケないはずのに。

 

……なのに。

 

 

『もう大丈夫だよ。頑張ったね!』

 

 

酷く優しく、慈愛に満ちた、今にも泣きそうな微笑みを、浮かべていたと思う。

 

この世界に来て初めて、私は安堵とともに勇者に縋って泣いたのだ。

 

 

 

 

 

それから私は、勇者に保護されることとなった。

 

〝抗魔の仮面〟で炎の巨人を押さえ込み、同時に火傷の跡を隠す。

 

全身をローブで隠し、勇者に付き従う。

 

いつしか〝爆炎の支配者〟の二つ名で呼ばれるようになっていた。

 

……けど、勇者は旅立った。

 

私を残して……。

 

その理由は分からない。

 

おそらく、勇者には勇者の、譲れぬ思いがあったと思う。

 

私にある()()と同様の。

 

いつかは私も旅立つつもりだ。

 

……あの魔王を殺すために。

 

私を生かし、そして捨てた魔王レオン・クロムウェル。

……彼は今や、私の生きる目標となっていた。

 

だから、私には勇者の行動を咎める資格はない。

 

ただ、勇者の笑顔を見たことが無かった点が、唯一の心残りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?何か手はあるのかレイタロウさん?」

 

「勿論。だがまずは、シズさんを隔離しなくちゃならん」

 

「……見るからにヤバそうなヤツに取り込まれちまったな。半端な拘束は意味がないかも」

 

 

シズさんはすっかり炎の中に飲み込まれ、そのシズさんを核にしたであろうイフリートが俺達を睨んでいた。

 

そこに知性はあまり感じられず、どこか機械的な印象を受けた。

 

 

「……いやいや、拘束するんじゃなくて隔離するんだよ。こういうふうにね」

 

 

すると、レイタロウさんはおもむろに両手指を独特な形で重ね合わせた。

 

あれ、どこかで見たことが……閻魔天印?

 

 

夢空間 展開

 

 

そう唱えた瞬間、視界に映る世界の全てが白黒(モノクロ)に塗りつぶされた。

 

レイタロウさんはもとより、俺の水色のボディーやイフリートの体も、全てが白か黒の二色に統一される。

 

 

《告。基軸世界の造形を忠実に再現した、異次元の基軸世界が構築されました。個体名リムル=テンペストに系統不明のエネルギー供給が開始されました。構築された異次元世界の維持に必要なエネルギーは、個体名レイタロウのエネルギーだけで賄われています。詳細不明。意味不明》

 

 

ヤケクソ気味な『大賢者』の説明が耳に入るが、どうにも頭に入ってこなかった。それどころじゃなかった。

 

 

『レ、レイタロウさん……これって?』

 

『見ての通り、ここは精神同士が交わる異空間。俺は便宜上〝夢空間〟と呼んでいるけどね』

 

『いや知らんがな』

 

『俺による、俺のためだけの空間と考えてもらえばそれでいいよ。それと、気付いているか?』

 

『ん?……そういえば凄い力が漲ってくるな』

 

『俺の『気』を少しだけ流しておいたよ。それで『捕食者』の効果が高まればいいけど……』

 

 

『捕食者』……なるほどな。

 

既存の『捕食者』では、良くてイフリートだけを取り込んでシズさんの命を危険に晒す可能性もある。

 

だがもし、レイタロウさんの力によってその効果を少しでも高められれば、上手いこと助けられるかもしれない!

 

 

『よし!上手いことやってくれ『大賢者』―――』

《告。魔王への進化(ハーベストフェスティバル)が開始されました。身体組成が再構成され、新たな種族へ進化します 》

 

 

……は、ハーベストフェスティバル?

 

 

《確認しました。種族:粘性生物(スライム)から怪粘性精神体(モンスタースライム)への転生……成功しました。

 全ての身体能力が大幅に上昇しました。

 物質体(マテリアル・ボディー)より精神体(スピリチュアル・ボディー)への変換が自在に可能になりました。

 固有スキルは『分解吸収、無限再生』です》

 

 

ちょ、ちょい待ち。

 

何なの急に……?

 

 

《続けて耐性の再獲得及び新たな獲得を実行します。

 物理攻撃無効、自然影響無効、状態異常無効、精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性……再構築され、以上の耐性を獲得しました。

 なお、常用スキルとして『魔力感知』『熱源感知』『音波探知』『超嗅覚』『魔王覇気』が備わりました。

 なお、身体特性として『重力制御』『■■■■』が備わりました。

 以上で、進化を完了します 》

 

 

ご、ごめんなさいねイフリートさん。待たせちゃって。

 

ようやく終わったみたいなんで、そろそろ相手をさせてもらうよ……。

 

 

《告。続けて、ユニークスキル『大賢者』の進化を試みます……成功しました。

 ユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』が、究極能力『智慧之王(ラファエル)』へと進化しました 。

 続けて、ユニークスキル『捕食者』の進化を試みます……成功しました。

 ユニークスキル『捕食者』が、究極能力『暴食之王(ベルゼビュート)』へと進化しました》

 

 

お、俺にはもう何が何だか……。

 

取り敢えず、シズさんを救える算段は出来たのか?

 

 

《解。個体名レイタロウの補助を受けることで個体名シズエ・イザワの自我と記憶を()()()()()()()()()イフリートに移植することが可能です。その際の肉体の主導権は個体名シズエ・イザワにあり、イフリートの意識が復活することは決してありません》

 

 

……色々言いたいことはあるけど、シズさんが助かるなら何だってやってやる!

 

 

『レイタロウさん、アシスト任せた!』

 

『任された。行け!リムルさん!』

 

『……シズさんを返してもらうぜ。捕食!!』

 

 

さっきから微動だにしないイフリートめがけ、俺はスライムボディーを目いっぱい広げて包み込み、捕食した。

 

抵抗らしきものは―――無い。

 

どうやら成功したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その子供は、父親と母親に虐待されていた。

 

殴られ、蹴られ、叩かれ、切られ、拘束され……。

 

肉体的な苦痛のみに留まらず、暴言や無視、風呂桶に溜められた水に顔から突っ込まれ溺死寸前まで追い込まれたり、火の付いたライターで皮膚を炙られたりしていた。

 

父親と母親は、ゲラゲラと邪悪に嗤っている。

 

家の中は凄惨を極めており、血で汚れていない箇所を見つけるほうが困難だった。

 

……違う、これは、私の記憶じゃない。

 

 

●ね!!お前生きてる価値無し!!

 

はい●〜ね!●〜ね!●〜ね!

 

『『 ギャハハハハハハハ!!! 』』

 

 

っ、やめなさい!!

 

伸ばしたその手は子供に近付き―――すり抜けた。

 

思わず体勢を崩し、前のめりに倒れ込む。

 

ちょうど子供と視線が重なる格好となる。

 

その子供の目は、死んでいた。

 

……否。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『『 ギャハハハハハハハ!!! 』』

 

 

……許せない。

 

なぜ、子供相手にここまで残虐になれるの?

 

なぜ、既に死んでいる子供に唾を吐けるの?

 

あなた達は、それでも親なの―――

 

 

『『 ギャハハハハハハハ!!! 』』

 

 

……私は、一体何を見せられてるの?

 

誰かの記憶?それとも夢?

 

なぜ、なぜ、あの二人には―――()()()()の?

 

 

ドッ

 

 

……怖い。

 

今、後ろを振り向けば、私はきっと、後悔する。

 

 

ドッドッ

 

 

私の後ろには、死んだ子供しかいなかったはず。

 

なのに何で、()()()()()()()の……!?

 

 

ドッドッドッ

 

 

……怖い。怖い怖い。

 

あの時……炎に包まれた時以上に、怖い!

 

 

ドッドッドッドッ

 

 

突然、世界が白く染まりだす。

 

私の後ろで、白く濁った光の奔流が巻き起こる。

 

 

ドッドッドッドッドッ

 

 

たまらず後ろを振り返る。

 

そこには―――

 

 

ドッドッドッドッドッドッ

 

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が立っていた。

 

その表情は怒りと憎悪によって歪みきっており、その口元から凄まじいほどの白濁の光を放っている。

 

白濁の光に肉体のほうが耐えきれないのか、体中の至るところから骨や肉が引きちぎれる音が響き、そのあまりの熱量に炭化している様子が見て取れる。

 

それでも止まらなかった。

 

これが殺すということ。これが憎悪ということ。

 

これに比べたら、私の憎しみなど可愛いものだと心の底から思い知らされた。

 

そして、その時は訪れる。

 

臨界に達したのだ。

 

 

 

 

……事ここに至って、これが一体誰の記憶であるのかを理解した。

 

世界が白濁に染まる。

 

私の中の〝(憎悪)〟が焼き殺される。

 

 

 

 

 

あの子供は、レ―――――――――……

 




シズさんは、レイタロウさんの原点とも言える忌まわしい記憶に触れてしまいました。ついでにイフリートも。

ちなみに、夢空間は文字通りレイタロウさんの夢の中の出来事だと思ってください。

現実では一瞬しか時間が流れていません。
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