リムルさんが人型になったって話です。
ちなみに、『智慧之王』による『変質者』を用いてのスキルの統廃合は現在進行形で進んでいるものとする。
ジュラの大森林の真っ只中に造られた魔物の町の、とあるテントの中。
そこで、シズさんやレイタロウさんとともにカバル達の口喧嘩を一頻り見物していた俺ことリムル。
中々面白かったが、ようやく冷静さを取り戻し、荷物の支度に取り掛かり始めたようだ。
「帰るのか?」
「あぁ。ギルマスにこの森の調査結果と……それにシズさんのことも報告しなきゃならんからな」
ギルマス……ギルドマスターの略かな?
「ギルドがあるのか?」
「おうよ。自由組合つってな、殆どの冒険者が所属してるんだ。勿論、ここのことは悪いようには報告しないぜ」
「リムルさんのことはギルマスに伝えとくね」
冒険者組合とかじゃないんだ。
……まぁ名前なんてどっちでもいいか。
それにしてもこいつら、やっぱり冒険者だったんだな。
冒険者にしては危機意識が足りてない気がするけど、それだけ悪運が強いってことなんだろうな。
「レイタロウの旦那もリムルの旦那も、何か困ったことがあれば頼るといいでやすよ」
「おぅ。そうさせてもらうよ」
「……達者で」
「皆、元気でね」
「気を付けてね」
俺に続くようにレイタロウさんやシズさん二人が別れの言葉を口にする。
……すると、何か大事なことを思い出したのかカバルは立ち止まり、踵を返して俺の膝に収まるシズさん二人に視線を合わせた。
そんなカバルに合わせるようにエレンもギドも膝を曲げてシズさんと視線を合わせる。
そして……。
「「「 シズさん、ありがとうございました!! 」」」
一斉に頭を下げて、感謝の言葉を述べていく。
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」
「ありがとう……お姉ちゃんみたいって思ってました」
こいつら……ホントに良いヤツらだなぁ。
曲がりなりにもシズさんを助けられて良かったって、心の底から思えるぜ。
「「 私のほうこそ……ありがとう 」」
なんかレイタロウさん、目の端に涙を溜めてるし、あぁ見えて人間臭いところがあるんだな。
超然としすぎて共感しにくかったけれど、今ならレイタロウさんを〝人間〟として見れるかもしれない。
本当に、シズさんの旅仲間が彼らで良かった。
「それはそうと、お前らの装備ボロッボロだな」
「リムルさんひどっ!!」
だって事実だし。
……さて、こんな装備でまた森の中を
シズさんの不安を取り除く意味でも、こいつらの装備の面倒くらいは見てやらにゃあならんな。
「「「 ……え、え? 」」」
「「 皆、似合ってるよ! 」」
それで至急、カイジンに用意させたってワケ。
エレンには
「これって……」
「餞別だよ。ウチの職人の力作だ」
「紹介しよう。カイジンにガルムだ」
「力作っつってもまだ試作品だけどな」
「着心地はどうだい?」
「ちょっ、このローブ何なんですか!!?……軽い上に頑丈、っていうかメッチャ丈夫ぅ!」
「うぉ―――っ!!憧れの甲殻鱗鎧!!ガ、ガルム師の作品じゃねーか!家宝にします!!」
「うぇ!?いいですかい!あっしには勿体無いような作品。牙狼の毛皮まで使用されてやすね!……って、カイジンってあの伝説の鍛冶師の!?」
なんというか、大はしゃぎだった。
どうやら俺やレイタロウさんが思っていた以上にカイジン達は有名だったようだ。
まぁ渡したのは、試しに作ったヤツなんだけど。
それ試作品なんだけど……とは言い出せなかった。
あんなに喜んでいるのだから水を差すこともないだろう。
……連中には言わないほうが良いな。
試作品でも性能は良いんだから、カイジン達が作ったモノなんだから良いに決まってる!
良い土産を渡せたと満足することにした。
「人間国宝、いやドワーフ国宝かぁ……」
「ん、レイタロウさん?」
「あっ、いやいや、何でもないよ?」
シズさんとの別れの寂しさを吹き飛ばすほどの大はしゃぎを見せつけた後、彼らは去って行った。
その逞しさは、俺自身も見習わなければなるまいよ。
<<< 翌日 >>>
……さて、この一週間、何もシズさんの看病だけに時間を費やしていたワケではないことを言っておこう。
眠り込んではいたが、容態に悪化の兆候は見られなかったため、レイタロウさんと交替しながら俺は俺で時間を有効的に使っていたのだ。
じゃあ何をしていたのかって?
そりゃあ勿論、新たに発現したスキルと、抜け殻になったシズさんの体を捕食して得た人間形態の検証だよ。
「リムル様。おはようございます」
「おぅ。おはよう」
可愛らしいスライムから可愛らしい中性的な子供に擬態していても、
どうやら俺が直接名付けた魔物であれば、どれだけ姿形が変わっていようとも理解るようで、ドワーフ達はネタバレをするまで終始戸惑っていたと記憶している。
そして、これが一番大事なことなのだが……。
とんでもない大
これじゃあ(女を性的に貪るという願いが籠もった)『捕食者』になった意味がないのよ……。
あっでも、今は確か『
『暴食之王』……こいつは完全に『捕食者』の完全上位互換に相当する
先生と言うのは、ユニークスキル『大賢者』から進化した究極能力『
この『智慧之王』というのが凄く便利で、まさに知らないことは何もないと言わんばかりの博識ぶりに、レイタロウさんとともに先生という敬称で呼ばせてもらっている。
その『暴食之王』の力と先生の
……なんか〝真なる魔王〟ってヤツになっちゃったけど、言葉の響きは嫌いじゃないし、シズさんを助ける過程で得た力なら、今後も有効的に使わせてもらうつもりだ。
そして、その力を万全に使いこなすため、秘密の特訓場所に足を運んでいる真っ最中なのだ。
ランガに跨りながら建設途中の町並みを見やる。
俺の要望通り、上下水管道の設置もつつがなく進んでいるようだし、建物の数自体は少ないながらも中々様になってきているじゃないの。
思っていた以上にリグルドの統率力が高かったワケだけども……。
「リムル様。おでかけですかな?」
「あぁ。ちょっと封印の洞窟までな」
最近ゴブリン・キングに格上げしたせいか、ますます筋骨隆々で毛深いゴリラになっていた。
これでもし、レイタロウさんの頭頂部あたりの棘を武器に加工したヤツをくれてやったら、それはもはや服を着たキン○コ○グである。
……まぁ俺も、人のことが言えないくらい怪獣然としてるんだけどね。
「そうだ。ゴブリン・ロード達は役に立っているか?」
「勿論ですとも!」
ルグルド、レグルド、ログルド、リリナに、それぞれ司法・立法・行政・生産物管理の長に就任してもらい、与えられた知識に基づいてその辣腕を振るってもらっている。
まぁまだ名ばかりの役職だけど、細かいことは追々決めていけばいいさ。
ちなみに、俺が名付けた魔物の殆どは、すぐにでも戦闘員として駆り出せるほどの戦闘能力を備えているが、敢えて生産職と戦闘職をキッチリ分け、その職業に専念させておいたほうが良いとのレイタロウさんの言葉もあり、現在その割り振りをリグルドに押し付けているところだ。
こういうのを兵農分離っつったっけ?
戦争をするような事態にならなければそれに越したことはないが、それでもせっかく作り出した糧を奪われるような事態になっては元も子もない。
……俺は、自分が元人間だから人間が好きだと思っていたが、どうやらそれは正確ではなかったみたいだ。
俺は、俺のことを好きでいてくれる人が好きなのだ。
シズさんやカバル達、リグルドやリグルを筆頭としたゴブリン達、
皆が俺を頼って好きでいてくれるからこそ、俺も皆を頼って好きになって、それでこんなところでまちづくりをする段階にまで来てしまったのだ。
俺は恵まれている。幸せ者だ。心からそう思う。
……だからこそ、この幸せを奪おうとする悪いヤツらに負けないための強さを、俺自身が心の底から渇望しなければならないのだ。
奪われるくらいなら奪ってやる。
……いや、
「……ところでリムル様。今日もお食事は必要ないのでありますか?」
「ん?あぁ。どうせスライムの体じゃ味がしな―――」
……………ん!?
そうだよなんで忘れてたんだ!バカか俺は!?
せっかく人に擬態できるようになったのに……!
美味しいご飯を食べていないじゃないか!!
「……待て。今日から俺も一緒に飯を食うことにする」
「なんと!……では今夜は宴会ですな。ご馳走を用意するようリリナに申し付けておきましょう」
「うむ。頼んだぞ」
ひゃっほ――――――!!
メニューは何だろう!?
やっぱ肉かな!?……肉だよな!!
白米も欲しいけど稲がないからな〜!
今度探してみるか!
俺はさっさと秘密の特訓を終わらせるべく、封印の洞窟めがけてランガを走らせた。
「……っと、ようリグル!」
「リムル様!」
「周辺警備兼食料調達ご苦労さん!今夜は宴会の予定だ。美味しそうな獲物を頼むよ!」
フフン、俺のために頑張ってくれたまえ!
「今日はリムル様も食べるッスか?」
「応よ!なんせこの体には味覚があるからな!」
「ほほー。いっぱい食べたらおっぱいも育つッスかね?」
「フンッ!!!」
「げぼふがはッッッ!!?」
あまりにも無礼なことを抜かす
だがしかし、ゴブタのタフネスもここ数日のうちに劇的に向上していたのか、手加減に手加減を重ねた五トンキックをその場から一歩も動くことなく耐え抜き、腹を抱えて痛みに悶えながらも意識を手放すことなく俺を恨めしげに見上げていた。
「ひ、ひどいッス、リムル、さまぁ……!」
「では、特上の牛鹿をご用意いたしましょう」
「おぅ。頼むな」
リグルも慣れたもので、そんなゴブタを無視しながら俺との話を淡々と進めていってくれた。
「お任せください。最近は森の奥から移動してくる魔獣が多いので獲物は豊富なんです」
「……何かあったのか?」
「いえ、たまにですが環境の変化などで魔獣の移動がありますからね。大したことはないと思うのですが。警備態勢は強化しております」
……どうにも胸騒ぎがするな。
日常の些細な変化にこそ、要警戒をするべきか。
「ランガ、警備隊に同行してくれ。もしもの時は彼らを頼む」
「はっ!」
「しかしリムル様、お出かけなのでは……?」
「いいよ。もうすぐそこだ」
「ですが……」
「遠慮はいらぬ。我を連れて行けリグル殿」
おー、カッコいいぞランガ。
……その尻尾ブンブンが無ければもっとな。
「じゃあ俺は洞窟にいるから、何かあったら……」
「あっ!すみません忘れていました。森の巡回中に拾ったのですが、シズ殿にお返ししたほうがよろしいかと」
そう言ってリグルが差し出したのは、シズさんがずっと装着していた特徴的な仮面。
いつの間にか無くしてしまったとシズさんが寂しそうに言っていた〝抗魔の仮面〟だろう。
「探してたんだ。……ありがとな」
リグルから仮面を預かった俺は、シズさんに手渡すよりも先に封印の洞窟を目指して歩を進めた。
封印の洞窟へは、それほど時間をかけずに到着した。
門の先を潜り、
「確かこの辺りで待ち合わせだったはず……」
そこは、封印の洞窟の中でも比較的開けた空間。
ちょっとした大きな水溜まりがある以外は、これといった特徴のない広さだけの場所であった。
にしても居ないなぁ。後から来るのか?
「……来たか。時間ちょうどだ」
「っ〜〜〜、急に〝瞬間移動〟して来ないでくれよレイタロウさん……!」
俺の目の前に唐突に姿を現したのは、待ち合わせ相手であるレイタロウさん本人。
ビックリした〜勘弁してよホントに……。
「俺はずっと、この位置で君を待っていたよ?」
「……へぇ?」
「簡単に保護色を使って、後は気配を絶って待っていたけれど、気付かなかったかぁ……」
「おいおい、嘘でしょ……?」
……嘘だよね?
ってことは、俺ずっと目の前にいた待ち人に気付かなかったバカってことになるじゃん!
「……フッ、今日の特訓の内容が決まったねぇ」
「い、嫌な予感……!」
「俺がOKと言うまで気配遮断を辞めちゃダメってルールを追加して、早速実戦稽古に入るかぁ!」
「いやぁ、いやぁ、いやぁぁだぁぁぁぁ!!」
脱兎のごとく逃げる俺。
……なんて言ってる場合じゃねえ!逃げるんだよぉぉ!
「夢空間 展開」
俺はバカだった。
逃げ道なんて最初から無いと言うのに……。
うあぁぁぁぁやってやんよぉぉぉぉぉぁ(泣)
明らかに体重が軽そうな人間形態のリムルさんに、身体特性によって〝重さ〟が加えられました。
これから先、リムルさんにはドンドン強くなってもらいたいと思います。