森の騒乱編開幕って話です。
大鬼族
ジュラの大森林の奥深くまで届く木漏れ日に優しく照らされながらも、俺ことレイタロウとリムルさんは、武装した六人組の
……ヤダよこの地獄みたいな空気!
「そのぅ、せめてこっちの話を聞いてほしいんですが」
「黙れ!邪悪な魔人に使役される魔物の言い分など聞く耳持たん!」
どうしよう、マジで泣きそうなんだけど。
も、もうちょっと心のゆとりという奴をですね……?
「レイタロウ様!リムル様!ご無事ですか!?」
「「 あっリグル 」」
……
駆け付けたゴブリンと嵐牙狼達はオーガを威嚇するように包囲網を敷いていた。
「面目ありません。強大な
「むしろナイスタイミングだリグル。これだけの精鋭達が揃えば、流石に連中も怯むだろ……」
「チッ、やはり伏兵を忍ばせていたか!これだから邪悪な魔人など信用ならんのだ!」
あっ、とうとう抜刀しちゃったよ。あの赤い
ほかの四人も武器を構えちゃったし、こりゃあもう乱暴をするしかないぞぉ……?
「……レイタロウさん。こうなったらもうどうしようもないよ」
「リムルさん……」
「おいお前ら!事情は知らんが失礼したな。話し合いに応じる気はあるか!?」
リムルさんの言葉。それは即ち最後通告だ。
これで引かないようなら、手足をへし折ってでも頭を冷やしてもらう必要がある。
それでも引かないならその時は……その時だ。
チョロっと動きや身のこなしを見てみたが素人連中ではなさそうだし、死なせるには惜しい連中だ。
「戯言を。散っていった同胞の無念、その億分の一でも貴様の首で贖ってもらうぞ!」
「っ、リムル様!ここは我らが……!」
「……あー、いいよいいよ。全員俺が相手をしてやる」
「「「「 っ!!? 」」」」
リムルさんの思わぬ発言に、オーガを含めたその場にいた一同が驚きを露わにする。
一方は、こんな小柄な魔人が一人で我らを相手取るだと?と怒りとともに困惑し、もう一方は、我らの片割れの主がついに戦うぞ!と興奮していた。
一応、それとなく尋ねてみる。
「リムルさん。助太刀はいらないかい?」
「いらない。もしヤバくなったら助けてね?」
「うん、いいよぉ。総員、その場で待機!!リムルさんと
「「「「 はっ!! 」」」」
リグル達は数歩後退する。
反対に、リムルさんが一歩進み出た。
装備の類は、それこそ仮面くらいしかない。
だが、負ける気もしなかった。
「……フッ、真勇か蛮勇か、その度胸に敬意を払い、正々堂々受けて立ってやろう。行け!」
その言葉を合図に、六人いるうちの半分のオーガが突撃してきた。
一番槍を務めたのは、黒い
裂帛の気迫とともにハンマーみたいなものを振り下ろす。
「うおぉぉぉ!!!」
威力はまあまあ。軌道は読みやすい。そして何より、攻めに転じた瞬間に致命的な隙を晒してしまった。
一瞬罠を疑ったが、そこから即座に追撃する様子もない。
……この黒い作務衣を来たおじさん、素人だな。
半身をズラして攻撃を避けたリムルさんの敵じゃない。
「力任せか……顔面がら空きだぜ?」
「ブグッ!!?」
でもそこはリムルさん。
トドメを刺すのではなく、瞬間的に『重力制御』を行使することで重みの増した平手を顔面に叩き込み、大きく吹っ飛ばす程度に済ませてあげた。
地面を数度バウンドし、気絶したことを確認する。
まずは一人。……っと、そうしている間にももう一人が迫ってきたゾイ?
「……フンッ!!」
紫髪の巨乳美女がリムルさんの背後を取り、メイスのような武器で頭部の破壊を狙う。
威力と速度はかなりのもの。軌道は直線的だが、不意を突くことも厭わないその冷徹さは、戦士としてなら及第点をあげられるだろう。
……が、やはりと言うべきか。
リムルさんのほうが一枚上手であった。
「でかい。……じゃなくて、俺は美女は殴らない主義でね」
「っ!?」
紫髪の美女が横一閃に振るったメイスの一撃を利用するように横薙ぎにぶん投げ、地面に叩きつけてしまった。
柔道で言うところの〝横車〟って言うんだったかコレ。
……あれ、俺そんな技教えたっけ?
ともあれ、紫髪の美女は地面に伸びてしまっている。
これで二人。
「なっ……!!?」
「確か刀って……側面からの衝撃には弱いんだよな?」
陰気そうな雰囲気を漂わせる青髪の青年の不意打ち。
それはリムルさんの顔面を狙った刺突であったが、それをなんと
スキルを使った様子はなく、であればアレは、リムルさんの純然たる技量の賜物と言えよう。
……いやいや、そんな神業を実戦で運用しようとかマジで凄いなリムルさん。
「逃さねぇよ」
「ッ!?」
事ここに及んで不利を悟ったのか、青髪の青年は距離を取るために後方へ引き下がろうとした。
……が、どういうワケか中空で静止し、身動き一つ取れなくなってしまった。
ネタバラシをすると、リムルさんはこの短い攻防の最中、辺り一帯に粘鋼糸を張り巡らせて誘い込むように立ち回っていたのだ。
まぁ張り巡らせると言っても、目には見えない細かな糸を間隔を空けながら点在させていたが、そのどれか一本にでも絡まると連動して周囲の糸も纏わりつく仕掛けになっているようだ。
青髪の青年は、まさに蓑虫のごとく指先一つ動かせない状況に追いやられた。
これで三人。残り半分か。
「……そこのオーガの巫女姫さん。俺に状態異常の魔法をかけようとしてるらしいけど無駄だからな?」
「っ!!」
……あー、道理でリムルさんの周りを、毛色の異なる魔素が漂っていたワケだ。
差し詰め、無力化を図ろうとしたのかな?
「……ブラックスパイダーの『粘糸・鋼糸』以外にスキルを使った様子はありませんな。不意打ちへの反応速度を見るに『魔力感知』は持っておるでしょう。だが特筆すべきは技量の高さ。あの者達を無傷で制圧するなど尋常ではありませぬ。ご油断召されるな若」
凄いなあの爺さん。
リムルさんが洞窟で捕食した魔物の名前とスキルを一発で当ててきやがったね。
……手の内を明かしすぎると不利になるな。
どうするリムルさん?
「なぁ。ここら辺にしないか?そろそろ俺達の言い分を聞いてほしいんだが」
「黙れ。邪悪な魔人め!」
彼我の実力差を見せつけた上で戦意喪失させる作戦は失敗か。中々思い通りにはいかんね。
「えーと、だからな……」
「確かに貴様は強い。だからこそ確信が深まった。やはり貴様は奴らの仲間だ」
刀を握る手が僅かに震えている。
それは……怒り、屈辱、恐怖の感情が綯い交ぜになった混沌としたモノだった。
「たかが
「オーク?おい、さっきから何を……」
「黙れ!全ては貴様ら魔人の仕業なのだろうがッ!!」
「待てよ。それは誤解―――」
俺やリムルさんでなかったら、こうはいかなかったかもしれない。
リムルさんの背後にて、その素っ首を断ち切らんと振るわれた一振りの刀を―――
「急所狙いの一撃が来ることは
「……ありえん!」
……
それも刃先ではなく、反対の峰の部分をつまんでだ。
『未来攻撃予測』……凄く便利だねぇ。
「取り敢えず没収だ」
「ぐっ……!」
峰の部分をつまんで止められるだけの握力によって強引に爺さんの刀を奪い取るリムルさん。
自慢の得物を奪われては、あの爺さんも為す術がない。
……
無力化できて良かった良かった。
これで四人。残りは二人だ。
「……もういいだろ。俺一人に遊ばれてるようじゃ、これはもはや戦いとすら呼べないぞ?」
「くっ……まだ俺がいる!勝負だ邪悪な魔人め!」
「やれやれ、しょうがねぇな……」
赤い
「行くぞま―――」
赤い
そうして表面化したのは―――〝
そこに、普段のあっけらかんなリムルさんはいなかった。
自らに逆らう愚か者どもを威圧のみで
黄金の輝光を放つ
「「「 なっ、なっ、なっ……!!? 」」」
後ろに控えていた桃髪の娘っこの顔から急速に色が抜け落ちていく。
リムルさんの近くにいた
「お前らを殺すのに二秒もあれば十分すぎる」
「「「 ……ッ 」」」
「そもそもの話、お前らに嫌がらせをするにせよ滅ぼすにせよ、わざわざオークを引っ張り出すなんて手間をかける必要があるかぁ?」
「「 た、確かに…… 」」
呆然としながらも、辛うじて
ようやくオーガ達が話を聞く気になったことにすっかり気を良くしたリムルさんは、魔王覇気をさっさと引っ込めた上でニコニコ笑いながら話を続ける。
「それにな、この仮面はシズっていう女性の持ち物なんだよ。どこかに置き忘れちゃったこの仮面を俺が拾って、それを送り届ける途中でばったりお前らと出くわしちゃったワケ!」
「お、お兄様。……あの仮面には抗魔の力が備わっているように見受けられます」
「しかし、あの時の魔人は妖気を隠してはおらなんだ」
「それに……このお方の力はあまりにも圧倒的すぎます。比喩でも誇張でもなく、天にまでこのお方の妖気が届いておりました」
「天にッ!?……で、あれば、わざわざオークを飼い慣らすまでもなく、我らを簡単に滅ぼすことが出来ると?」
……なんか話が変な方向にねじ曲がりそうだなぁ。
「ですがお兄様。我らはいまだ息を繋いでおります。これほどの力の持ち主が嘘をつく意味も理由もないとは思いませぬか?」
「この者は違うと、そういうことか?」
「……少なくとも、話し合う気がないのであれば、我らなど路傍の石のごとく蹴散らされていたことでしょう」
桃髪の娘っこナイス!
話を上手い具合に持っていってくれたねぇ!
「ようやく話し合う気になってくれたようだな!」
「……結局何者なんだ、お前は?」
「俺?俺はスライムだよ。スライムのリムル」
「スライムだと?馬鹿な、いくら何でも―――うぉ!?」
スライムであることを証明するため、人型からあっという間に元の姿に戻ったリムルさん。
……なんか一回り以上も大きくなってるし、三対の金色に光る角を生やしているけどねぇ。
「レ、レイタロウ様。ひとまず終わったんスかね?」
「……フッ、ゴブタはそう思うか?」
「え"っ、もしかしてまだ何かあるんスか!?」
「むしろこれは前触れだ」
悪い勘ってのは、外れてほしい時に限って当たるもんだ。
俺の場合、その勘が人一倍優れている自信がある。
だからこれは予言……いや、確信だ。
この森に、怒涛の勢いで〝天災〟が襲来してくるだろう。
災害レベル【竜】以上は確実。
下手をすれば―――【神】もあり得る。
語尾に〝のだ!〟が付く気がする。
……何この天災?
フラグ?が建ちましたね。
案外早く来るかも……?