ドラゴンさんとご対面って話です。
〝水を大量に捕食して、ウォータージェット推進のように吐き出して移動すればいいんじゃね?〟
可愛らしいスライムこと俺は、その結論に至った時点で居ても立っても居られず、即実行に移した。
何故かそうしたほうが良いと思ったため、当然である。
思いつき自体は良かったのだ。
……少なくとも、方向が違えば
運命に導かれるように一つの方向へ向けて動き出す。
取り敢えず、『捕食者』の胃袋が10%程度になるまで水を飲んだ。
「悟さん。もうそのくらいでいいんじゃない?」
『おっとそうだな。これを一気に放出して……』シュパッ!
そして一気に放出する。
開放感が半端なかった。
《スキル『水圧推進』を獲得しました 》
突然脳内に『大賢者』の声が響いた。
へ〜。やっぱり思った通り、スキルを獲得できたワケだ。
だが、今の俺にのんびりそれを検証する余裕はない!
ズグン!と、加速感が身体に掛かり、それこそ空を飛んでいるのかという勢いで身体が前方?(この場合は移動したいと思っていた方向だな)に撃ち出される。
ぶっちゃけ、目が見えなくて良かったかもしれない。
真っ暗な中を、身体がものすごい速さで移動している感覚だけが俺を襲う。
……訂正。
いやいや、見えたら見えたで恐怖が半端なかっただろうが……見えないのも激しく怖かった。
レジャーランドの暗がりの中のジェットコースターを体験したことがあれば、少しは共感してもらえるかもしれない。
生前?一度だけ体験した、ネズミが支配する楽園での体験がフィードバックされる。
最も、今回の場合は安全が全く保証されていないのだ。
ウォータージェット推進を思いついた自分を殴り倒したい。
思いついたら即実行?馬鹿か!
安全確認は基本だろうよ!!!
うあぁぁぁぁ助けてレイタロウさぁぁぁん!!
アばばばば…………。
恐怖で思考が上手く纏まらない。
いつまでこの加速感が続くのか……てか、どんだけ勢いよく水を打ち出したんだ俺。
そう思った矢先―――
激突、そして激痛は……襲って来なかった。
あれ?ダメージも受けていないような……あるいは、ダメージはあるが、痛みが無いだけなのか?
《解。痛覚無効耐性を獲得しているため、痛みは発生しません。物理攻撃耐性スキルによるダメージ軽減が適用されました。身体損傷率は7%です。モンスター〝スライム〟固有スキル『自己再生』が発動しました。ユニークスキル『捕食者』での補助を行いますか? YES/NO》
あっデジャヴ……じゃなかった、『大賢者』からのアナウンスか。
さっきも問われて最初は〝NO〟と突き返したけど、今回は〝YES〟で。
レイタロウさんがいないこの現状で、傷を負ったまま動けないと言うのが一番危ないからな。
瞬間、自分の身体の一部がごっそり減ったような感覚を覚え、次いで、徐々に元の体積へと戻ってくる感覚が体中を伝わった。
どうやら、ダメージを受けた部分をごっそり捕食し、解析と修復を行なったらしい。
なんて便利な身体なのか。
……今度、どれだけ減らしたら行動不能になるのか実験してみるか。
身体が何割か減っても活動に影響は無いようだし……。
と言っても、危険なことになる予感しかしないので、レイタロウさんが近くにいる時にしよう。
……うん、流石に俺も慎重になったのである。
今回は、そこそこの量のヒポクテ草があったワケなのだが、それらを回復薬にする間もなくウォータージェットをかましてしまったのだ。これはあまりにも慎重さに欠けていたと言わざるを得ない。
まぁ何にせよ、身体の10%程度の損傷と言えば十分重傷だと思うのだが、10分程度で回復可能なことが判明した。
今度ダメージを受けることがあったら(そりゃ無いほうがいいけど)回復薬を使ってみよう。
……で、ここはどんな場所なんだろう?
体の具合が元通りになったのを確認して、辺りの様子を伺ってみる。
ここらへんに危険なモンスターが居ないとも限らない。
水の上に出たようだし、水を渡れないモンスターが生息していても不思議ではない。
俺は慎重に行動を開始した。
……慎重と言うたびに危険な事態に陥っている気がするが、きっと気のせいだろう。
そう思ったのが悪かったのだろうか……。
『聞こえるか?小さき者よ』
何か聞こえた。……と言うか小さき者だと?
どう考えても俺のことだと思うけど……。
声というより、レイタロウさんと話している時みたいな心に意思が直接伝わった感じか。
……何しろ耳が無いもんで音も聞こえないのだ。
『おい!聞こえているだろう?返事をするが良い!』
聞こえてるよ!
だがしかし!……喉が無いから返事のしようもないのだ。
試しに、うっさいハゲ!と心で答えてみた。
まぁ聞こえるワケないだろうし大丈夫だろ。
しかし、どうやって返事したものか……。
『……ほ、ほほぅ!我のことをハゲ呼ばわりするか……いい度胸ではないか!!!久方ぶりの客人だと思って下手に出てやったが、どうやら死にたいらしいな!』
ヤバイ。聞こえてしまったみたい。
というか、心で思ったら返事出来るのかよ!
……そういやレイタロウさんともそうしてたよ!
先にそれを教えてくれれば、わざわざ相手を怒らせることもなかったのに。
しかも、相手がどういうヤツかもさっぱり分からないのだ。
どうしようもない。……お手上げ。
ここは素直に謝ることにしよう。
『すんません!返事の仕方も分からなかったもので、適当に思ったことを試しに言ってみただけです。本当に申し訳ない!ちなみに自分、目も見えない状態でして、貴方の姿すら見えてないのですよ』
……通じるか?
まぁ相手の姿も見えないのにハゲはないわな。
本当にハゲなら激怒しても当然だろう。
考えなしの発言(?)も控えよう。
『ふふふ。ふはは。ふはははははっ!!!』
突然の大爆笑。
基本を押さえた笑いの三段活用。お見事である。
怒りは解けたのか?
『面白い。実際、我の姿を見ての発言かと思ったが、目が見えないのか。スライム種は基本、思考もせず吸収・分裂・再生を繰り返すだけの低位モンスター。自らのテリトリーから外に出ることは滅多にない』
なんか語りだしたぞ?
怒りより興味が勝っている状態……か?
何にせよ、これは俺史上二人目の出会い。
俺の新しいスライム生の貴重な会話。
上手いこと友好的に進めたい。
そして色々教えてもらおう。
『……ふむ、姿が見えんことには始まらんな。よし、見えるように手助けしてやろう』
え"っ!?……この人もしかして良い人?
『ただし、条件がある』
『じょ、条件って……?』
『我の姿を見ても怯えるなよ』
え、そんなことでいいの……?
てっきり無理難題を吹っ掛けられると思ってたけど、この人もしかして寂しがり屋さんなのかな?
『あっはい。分かりました』
『よろしい。魔力感知と言うスキルがある。周囲の魔素を感知する簡単なものだ』
『魔素……?』
《解。この世界は魔素に覆われています。スライムの体は魔素を吸収して動いています》
はーん、そうなのか〜。
『体外の魔素の動きを感知するだけで獲得できる。これで〝視る〟ことも〝聴く〟ことも可能だ』
え〜なんか難しそうなんだけど。
……まぁいいや、やるだけやってみよ。
『まずは、体内の魔力で魔素を動かしてみろ』
これは何となく解る。
水を噴き出せたのもこれの応用だし。
『こうッスか?』
体内を巡らすように、魔素を動かしながら確認する。
『ふむ。思ったより流暢に出来るではないか。では、その動かしている魔素と体外の魔素、違いは解るか?』
これも簡単かも。
魔素を吸収して生きていると言われてから、意識して感じるようにしていたのが良かったかな。
『そりゃ解りますよ!それ食べて生きてるみたいだし?』
『クククッ。そこまで解るなら後は簡単だ。体外の魔素の動きを感じるだけだ』
そこが解らんのだが。
ともかく、言われた通りに体外の魔素を感じる。
魔素が
そうそう、『大賢者』起動っと!
《確認しました。エクストラスキル『魔力感知』を獲得……成功しました》
《エクストラスキル『魔力感知』を使用しますか? YES/NO 》
え、そんな簡単に獲得しちゃったの?
いや、そりゃあ勿論〝YES〟だけど。
流石は『大賢者』、頼もしすぎる!
エクストラスキル『魔力感知』を使用した瞬間、俺の脳内を情報が埋め尽くす。
人間であった頃には決して処理しきれなかったであろう、膨大な情報が。
一つ一つの小さな魔素を押し動かす、光や音の波。
その全てを把握し、認識出来る情報へと変換する。
人間であった頃は、視界は前方180度も無かったのだ。
それがいま全方位360度死角無しで
岩の陰や百メートル先の光景さえ、それに意識を向ければ認識することが出来る。
人間なら、この情報量に耐えられず脳が焼き切れて発狂したかもしれない。
しかし俺はスライム。
細胞の一つ一つが筋肉でもあり、脳細胞でもあるのだ!
なんだかんだ、なんとか耐えることが出来た。
そして―――
《エクストラスキル『魔力感知』にユニークスキル『大賢者』をリンクさせます……成功しました》
……視界がクリアになった。
俺を襲った、脳を焼き切るような感覚が無くなる。
そして、今まで出来なかったのが不思議なくらい、当たり前のように世界が視えた。
『大賢者』はずるい能力かも知れない。
チートと言っても過言ではないだろう。
他人が持っていたら反則だ!とクレームをつけるところだが、持っているのは俺だ。
何も問題は無かった。
「あ、いたいた。お〜い悟さ〜ん」
『あ、レイタロウさ―――』
背後から、この世界で最初に出会った人の声が聞こえる。
俺は反射的に後ろを向いて、その人に目を向けた。
そこには、マジもんの〝化け物〟がいた。
黒い鱗に全身を覆われた、頭頂部から背鰭みたいな鋭いモヒカンを生やす、長い尻尾を悠然と垂らした化け物。
いの一番に連想したのは、とある怪獣だった。
ギリギリ昭和世代な俺でもよく知っている。
それは、水爆によって住処を追われた悲劇の怪物。
それは、人間への怒りを原動力に暴れる怪物。
それは、人知の及ばぬ災厄を体現した怪物。
それは、敗れはすれど決して死なない不死身の怪物。
それは、全ての怪獣の頂点に君臨する王たる怪物。
見るからにそれは、人型に押し込められた―――
『……ゴ、ゴジラァァァァァァ!!?』
レイタロウさんの、予想を遥かに上回る邪悪な姿。
俺の心の叫びが、絶叫となって迸り出た。
『(……は?何アレ?我より強くね?)』
とんでもないネタバレをぶちかまします。
彼はヴェルドラさんより強いです。
感想・評価いただけると幸いです。