シオンの手料理を皆に振る舞うって話です。
我ながらとんでもない無茶振りを口にしたもんだと内心後悔の念に蝕まれていた。
……あ、どうも。俺はレイタロウと言いやす。
ジュラの大森林の中央にポツンと立つ名も無き町の町長にして、自称魔王となった男でございやす。
「どうぞ冷めないうちに召し上がってください!レイタロウ様!リムル様!」
俺がオークの処遇を早口で決めてから一日経つ。
……いや、言いたいことは山々あるんだけどさ。
一つだけ、お願いしてもいいですか?
「「( オッケー『
……時は少しばかり遡る。
「おはようございます!レイタロウ様!」
「レイタロウさん、こんちわ〜」
「こんにちは。リムルさん、シオン」
時はお昼時。
お腹は空かないものの、何か適当に詰めておこうと思い、食堂として利用しているログハウスに足を運んでいる途中で偶然リムルさんとシオンに出くわしたのだ。
ちなみに、リムルさんはスライムボディーとなってシオンに運ばれていた。
「そっちもお昼か?」
「まぁな。今日のお昼はシオンがご馳走してくれるんだって」
「ほぉ……シオンは料理も出来たのか」
「エッヘンです!」
どういうワケかシオンはリムルさんに惚れ込んでおり、リムルさんの専属秘書という立場を与えてやったらそれはもう跳ね上がるほど喜んでおった。
そうかぁ……秘書業も出来て料理もこなせるのかぁ。
羨ましいと思わないワケではないが、俺の専属秘書的な立場にはシュナが収まっているからなぁ……。
シュナが悪いワケじゃないよ決して。
……でもシオンには秘書としての知的さがある気がするんだよなぁ。
意外と直情的なところも可愛いと思っていたり……。
「じゃあ、俺の分も作ってもらおうかな」
「っ〜、かしこまりました!腕によりをかけますね!」
ハッハッハ、そんな無邪気に喜びおってからに〜。
意外と子供っぽいところもあるんだな〜シオンは。
「「 ご武運を。レイタロウ様、リムル様 」」
「ん、あぁベニマルにハクロウもいたのか。君達も一緒にどうだ?」
「「 っ!!?(……気付かれたッ!?) 」」
「よ〜しシオン。二人分追加だ」
「はい!かしこまりました!!」
「「( そんな……殺生な……! )」」
ハッハッハ、物陰に隠れて気配を隠した程度じゃ俺の認識を逃れることは出来ないゾ?
気配を隠すなら
「……しかし、随分アッサリ受け入れてくれたよな皆」
「海賊王……じゃなくて魔王に俺はなる!的な発言のことか?」
「そうそう。皆よく迷いなく肯定してくれたなぁと」
反対意見が挙がることも覚悟していたのだが、オークロードを含めたオークの軍勢の引き抜きや俺が魔王になるという宣言に、誰も異論を挟むことなく了解の意を示してしまったのだ。
「……急とは言え、レイタロウ様は私どもにもそのことを教えてくださいましたから。それが驚きでもあり嬉しくもあったのです。魔王になられると宣言された主をお支えできること、光栄に思います」
「オークどもへの憎悪を割りきれていない自分もおりますが、この町でもっとも強きお方の命令に従うのは臣下として当然のこと」
「しかしながら、普通に斬るより生け捕りにすることのほうがよほど至難を極めるというもの。いやはや、我らが主は随分と無茶を言いなさりますな」
「そのほうが単純で分かりやすいだろう?……まっ、第一は君達の命だ。無力化が無理そうだったら最悪殺しても構わない」
夢はでっかく全員生け捕り!
……は流石に現実的ではないため、二十万のうちのおよそ八割を降伏させることが出来れば結果としては上々だ。
ちなみに、オークの軍勢の半数は女子供や老人といった戦力にならない者で構成されている。
どうやらオークという種族そのものが生き残りをかけて大移動している状況にあるらしく、道中で出くわした魔物や力尽きて脱落した者を
……悍ましいな『
このスキルをどうにかすることが
いや、
そのためには皆の力も必要だ。
「……あぁそうだ。食堂に行く前にシュナのところに寄っていくかぁ」
「おぉそうだな」
「「「 はっ! 」」」
「ふへぇ。綺麗なもんだなぁ」
「これが絹糸で織った反物ってヤツかい?シュナちゃん」
「はい。原料の
「な、なるほど。防御力も期待できるってことかい。シュナちゃんの体の中で出来た糸……」
「こ、これ染色液のるかな。俺色にシュナちゃんを……」
ガルムとドルド、そしてシュナの元気な声が外側からも聞こえてくる。
意外なことに、この世界にも絹製品はあったようだ。
麻のような素材の服は見かけていた。最初会った時のゴブリン達のボロボロの衣服も麻系統である。
まぁ植生が全く同じでは無いから厳密には違うかも知れないが、認識は麻で間違っていないだろう。
そして絹。
これは、オーガ達の里付近に生息する
あらかじめ繭を見つけて、回収を行っていたそうだ。
「凄いな。もう絹織物が出来るようになったのか」
「レイタロウ様!リムル様。いらして下さったのですね!」
「シュナが忙しそうにしていると聞いてな。今はどんな具合だ?」
「はい。カイジン様が作って下さった織り機はとても使いやすいです」
「それは良かった。きっと彼も喜ぶだろう」
「はい!レイタロウ様!」
シュナは進化したことで
そこに内包されている能力の一つ『真理究明』によって様々な試みをごく短期間のうちに進めることが出来るとのこと。
試しに俺の〝夢空間〟の術理を教えてあげたら、すぐにモノにしてしまったのだから驚きだ。
まぁそれはさておき、シュナは織姫とも呼ばれるほど織物が得意らしいので、ガルムとドルドに引き合わせることにしたのだ。
ガルムは絹製品で日常の衣服や装備の下着品を。
ドルドは染色や着物等の高級衣類の作成を。
シュナと共同でそれぞれに開発してくれないかとお願いしたところ、快く引き受けてくれた次第だ。
ちなみに、繭の回収は
近いうちに幼虫の状態で捕獲し、町で飼育する施設を設けたいと思っている。
蚕の養殖なんて詳しくないから試行錯誤になるだろうが、上手くいったら着心地の良い着物なんて作ってもらうのもいいかもしれない。
「レイタロウ様。リムル様。そろそろ参りましょう。お昼ご飯が冷めてしまいます」
「ん、そうだな……」
「あー、早く食いてー!」
「……シオン、秘書のお仕事はちゃんと出来ているのですか?」
「勿論ですシュナ様!」
……あら、なんか急に気温が下がった?
ちょ、ちょっとだけ寒気が……。
「……うふふ、私がレイタロウ様のお世話をしてもいいのですよ?」ゴゴゴ…
「いいえ、それには及びません。レイタロウ様もリムル様も、私がキチンとお世話いたします」ゴゴゴ…
女同士の静かで苛烈な戦いかぁ……。
あまり干渉したくないけど、放っておいたら何をしでかすか分かったもんじゃないなぁ……。
シュナが俺の右手を引っ張って、シオンはリムルさんを持ちながら俺の左手を引っ張っている。
誰か助けてくれー!
「……えぇと、シュナさん?頼みがあるんだけど?」
「あっはいリムル様!」
間を取り持ってくれたのはリムルさんだった。
瞬く間にスライムから人型へと変身する。
「いよっと、俺の服も作ってくれるか?……ホラ、普段着とか色々欲しいんだよ!こういうの」
そう言って、木の板に色んなデザインの服を描き連ねていくリムルさん。
「お任せくださいリムル様。きっと素晴らしい服を用意してご覧にいれます。……それはそうとレイタロウ様?」
「ん、はい?」
「レイタロウ様はどのような服をご要望でしょうか?」
「俺は……そうだな。魔王になるんだから、王者の風格を漂わせながらも、機能性を兼ね備えた服が欲しいな」
「はい!お任せくださいレイタロウ様!必ずや、この身命に賭けましても、レイタロウ様に相応しい服をお作りいたします!」フンス!
「あ、あぁ。頼んだぞ」
この場はなんとか収まったみたいだ。良かった……のか?
リムルさんがメチャクチャ複雑そうにしてるけど……。
シュナ……もしかしなくても、そういうことだよなぁ。
「ガルムにドルドも頼んだぞ」
「おうよ!任せな!」
「どさくさに紛れてお尻触ったりするなよぉ?」
「「 し、し、しねぇし!! 」」ギクッ!!
どうだか……などと思いながらその場を後にしようとしたその時。
「じゃあ行くか。せっかくのシオンの手料理が冷めちゃうからな」
「えっ……?」
リムルさんの言葉に、酷く怯えた声を漏らすシュナ。
……いや、まさかだよね?
「ではシュナ様、失礼します」
待て、今の『えっ……?』は一体何なんだ?
頼む、その答えを誰か教えておくれ……!
シオン……君、そんな出来る女みたいな見た目しておいて、まさかのお約束的なアレなのか……!?
頼む!俺の思い違いであってくれぇ……!
……隣のリムルさんもそんな顔をしていた。
そして冒頭に至る。
結論から言ってダメだった。
シオンは、ポンコツな女の子だった。
そして、料理が壊滅的に下手くそであった。
「ささっ、どうぞ召し上がってください!」
違うな。これはもう、下手くその次元じゃない。
一周回って命を生み出してる。
……この世の穢れを併せ孕んだ、という前置きが付くが。
シミュラクラ現象超えてんゾ!?
つーかもう特級呪物でしょこれ。宿○の指超えてるよ。
百分の一ケ○ヌンノスって言われても信じるよ俺。
「ベニマルもハクロウも、召し上がってください!」
「「 ………くっ 」」
ごめんね二人とも。
そんなオークに○される女騎士みたいな表情をさせるつもりはこれっぽっちもなかったんだよホントだよ?
てゆーか二人とも、こんなことになると分かっていたのなら早くに教えてくれても良かったのにぃ……!
「あー、腹減ったッス〜」
「どうぞ冷めないうちに召し上がってください!レイタロウ様!リムル様!」
「「( オッケー『
俺とリムルさんの心は一つになった。
それは即ち、先生に解決方法を聞くというものだった。
《解。個体名レイタロウが所在を把握した人物達の胃袋に
え"っ!!?何その素敵鬼畜な方法!?
《続けて、個体名リムル=テンペストはスプーンで内容物を掬い、個体名シオンの気を逸らした上で視覚を閉ざし、右斜め後方にスプーンを突き出せば命は助かります》
こ、こうなったらやるしかねぇ……!
「「 ……… 」」コクッ
リムルさんと目配せする。
その目は生への渇望に漲っていた。
「あーっ、あれなんだシオンー(゜o゜)」
「えっ、なんですか?」クルッ
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉやってやんよぉぉぉぉぉ!!
皿に盛られた内容物。鍋にたくさん入っている内容物。
その全てをッ……
中毒死しないように弱毒化した上で……!!
全員に届けッ! この想いッッ!!!
「……シオン」
「は、はい……」
「俺達のために料理を作ってくれたこと、嬉しく思うぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「だがな、君は肝心なことを忘れている」
「か、肝心なこと……?」
「自分で自分の料理の味見をしてないだろう?」
「……………………………………あっ」
「……そのせいで、ゴブタという替えの効かない大事な存在を喪うことになってしまったんだ」
「ゴブタ。アーメン。お前の勇姿は忘れない」
「まだ死んでないッス……」
「今後、人に出す飲食物を作る時はベニマルの許可を得てからにするように。自分の舌で味を確かめることも決して忘れるな!」
「え"っ!!?」
「はい……」ショボン…
恨めしげなベニマルの視線を軽く受け流し、俺とリムルさんは厳かにその場を後にした。
チラッと厨房の中を見渡したが、鍋の中にはシオンが作った内容物は一滴も残ってはいなかった。
曲がりなりにも料理。あれでも料理だ。
良かった良かった。どうやら転送は成功したようだ。
どこかに廃棄するなんて勿体ない。
ならば誰かに食べてもらい、ウ○コとともに恨みつらみをトイレに流してもらったほうが賢明だ。
「レイタロウ様。リムル様。よろしいでしょうか?」
そんな時だった。
リグルドが困り顔を浮かべながら近付いてきたのだ。
「どうしたリグルド。問題か?」
「それが……
……例のガビルっていうお調子者が来たのかな?
やれやれ、もう一波乱ありそうだなぁ……。
余談となりますが、指定された全員の胃袋にシオンの手料理は無事送り届けられました。
弱毒化はしていますが、ヤバめの腹痛・下痢に一週間は苦しめられることになるでしょう。