リザードマンの使者が来るって話です。
レイタロウさん、割と暴君寄りな件について。
「……全く、親父殿ときたら〝ゴブリンの村々を巡りその協力を取り付けてこい〟だと?
リザードマンの首領の息子ガビルは、順調に
自らの力を誇示するまでもなく、ゴブリン共は己に従う。
所詮は弱小部族。
……逆らう素振りを見せれば、躊躇うことなく暴力で従えるつもりである。
各村の戦士を掻き集め、その倉庫からありったけの食糧を持参させる。
そうして、ゴブリンだけでおよそ七千にものぼる軍隊を組織していった。
戦う意思の無い臆病者は、既に逃亡してしまっていたが。
「族長ども!この辺りにほかに村は無いのか!?」
その問いに、族長達が顔を見合わせた。
一人がおずおずと答える。
「いえ……村といいますか、一つの集落があるはずで御座います」
「?……どういうことだ!」
歯切れの悪いその言い方が、なんとも癇に障った。
そうして問い詰めると、おかしなことを言い始めたのだ。
「そ、その……牙狼に跨り駆けるゴブリン?の集団がおるので御座います」
意味が分からない。
牙狼族はかなり強い魔物で、それも集団で活動する。
平原の支配者とも言われ、リザードマンでさえ平原では一歩及ばない戦闘力を有するのだ。
それが下等なゴブリンに従うなど、あり得る話ではない。
更にふざけたことを族長達は言い出す。
そのゴブリン達は人間とさほど変わらない背格好で、知能も相当に高かったとか。
そのゴブリン達はスライムを崇め奉っているとか。
そのゴブリン達の頂点には黒黒とした輝きを放つリザードマンが君臨しているとか、色々だ。
「(馬鹿にしておるのか!?……いや、スライムのほうは与太話としても、リザードマンのほうは信じてやっても良いかもしれん。であれば、ある程度の実力の持ち主であると認めてやっても良いかもしれんな)」
兎にも角にも、確認する必要があった。
ゴブリンと牙狼族を従えるほどの強き同胞であるならば、身内の情に訴えかけてそのまま自陣営に抱き込むことも可能だろう。
上手く行けば、牙狼族を支配下に収めることが出来るかもしれない。
ガビルは、肥大化した己の野心に従い、行動を開始する。
聞いていた場所に村は無かった。
そのことに腹が立ったがぐっと我慢する。
牙狼族を手に入れるために、多少の我慢は必要であろう。
「ねぇねぇ。ガビル様はいつ首領になるの?」
「む?」
ふと、配下の一人からそんな質問が飛んできた。
道中、実の父親たる首領への愚痴を散々零していたために発生した疑問であった。
ここは謙虚に返さねばなるまい。
「いや、少々不遜なことを言ってしまったが、我輩など親父殿には遠く及ばんよ」
「今のガビル様ならきっと、全盛期の首領にも劣らねぇぜ」
「然り」
「え、いや、そんなことは……」
「だってガビル様
「うむ。その槍さばきにおいて右に出る者なし」
「あんた今立たないでいつ立つんだよ」
ガビルは、首領の支配下から解き放たれたことで自らの欲望を抑えることが出来なくなっていた。
配下達の期待の眼差しを一身に受け、思わず心が浮き足立ちかける。
「(えっなに?ひょっとして我輩ってば、けっこうイケてる……?)」
それでも、目的のために我慢する。
「……うむ、そうだな。親父殿も年だ。
ここで牙狼族を支配下に置ければ、ほかのリザードマンも自分に従うはずである。
強力な平原の支配者と湿地の王者が手を組めば、下等な豚共がいくら群れていたとしても恐れることはないのだ!
ガビルはそう信じて疑わない。
「「「 じゃあ……? 」」」
「うむ。……オークの軍勢の撃退をもって、リザードマンの首領の座を受け継ぐこととしよう」
豚共を平定し、自らがジュラの大森林の支配者となる。
そうすれば、ゲルミュッド様の配下として十分な活躍が出来ると言うもの。
その時を夢想すれば、多少の我慢も苦にならない。
「さっすがガビル様だぜ!」
「かっくいー!」
「至極当然」
「……ふふん!」
軍の本隊はシス湖方面へ移動させ、待機させている。
食糧に余裕があるワケではないので、さっさと行動を起こす必要があった。時間は掛けられないのだ。
移動の痕跡を発見したという部下の報告を受け、号令を下した。
自身を含め、十名の精鋭。
移動用の
目的の場所に近付くが、警戒などは全く行わない。
牙狼族は脅威だが、所詮ゴブリンに従っているのだ。
差し詰め群れの落ちこぼれだろう。
あるいは自らが鍛え直し、その本来の強さを取り戻してやると、そんなふうに息巻いていた。
……故に、彼には想像できなかった。
その先に、何者がいるのかを。
自らが森の支配者となり、敬愛するゲルミュッド様の役に立つことで頭がいっぱいになっていたのだから。
「……というのが、ガビルという男だ」
「馬鹿だな」
「恐れ知らずの馬鹿ですね」
「私よりも馬鹿ですね」
「身の丈に合わぬ野心を抱いておるようですな」
「まさかそのような情報すら把握できるとは、このリグルド恐れ入りましたぞ!」
俺、リムルさん、ベニマル、シオン、ハクロウ、リグルドの六人でとある映像を鑑賞していた。
別にネット○リックスを観ているワケではない。
まぁ観ようと思えば俺の記憶から抜き出す形で観ることも出来るけど、それよりある意味重要なモノだ。
それは今、町の入り口あたりで派手な登場の仕方をしてやろうと思案しているガビルの記憶である。
「……やはりリザードマンは、自分達の領域である湿地帯でオークの軍勢を迎え撃とうとしているようですね。敵がそっち方面に向かっているし、ほぼ間違いないでしょう」
「自分達のポテンシャルを引き出す上では最高の戦場なんだろうが、味方が一人でもオークに喰われればその
「『
リムルさんが問いかける。
しばし沈黙した後、俺は口を開いた。
「……確かに、この状況で
「「「「「 ……… 」」」」」
「それでもやる。オークロードも含めて、オークの全てを手中に収めてみせる」
「……それはオークロードに、ゲルドに同情したからですか?」
今度はベニマルが質問してきた。
……そうだな。ゲルドと、ゲルドが治めていた国の
「……飢える子供達に自らの腕を千切って分け与えた王がいた。その王はこう言ったのだ。大きくなれと」
「「「「「 ……… 」」」」」
「かの国を襲った飢饉は免れようのないものだった。それでも飢える国民のためを思って最善を尽くしてきたゲルドの王としての姿勢には、一定の理解を示す」
「「「「「 ……… 」」」」」
「だがそれでも、ゲルドは最後の最後で選択を誤ってしまった。魔王に与する
「「「「「 ……… 」」」」」
「俺にはどうしても許せないことがある。……他人の人生を弄び、はるか上から見下して嘲笑う外道の、その悪辣な所業がな……!」
「「「「「 ……… 」」」」」
「断固として認めない。ただ操られるだけの人形としての生も、悔いを残して無残に死ぬ最悪の運命も……その全てを、俺は破壊する」
「「「「「 ………ッ 」」」」」
「これは復讐劇だ。残酷な運命に凌辱され続けた者達が、天上にふんぞり返るクソ共を引きずり降ろし、その顔面に手痛い一発を叩き込むまでの、な」
生憎、記憶にはない。
だが初志は覚えている。
それは、身を焦がすほどの〝怒り〟だった。
全てを奪われた屈辱、憎悪が俺をここまで連れてきたと言っても過言ではない。
「レイタロウさん。あんたってヤツは……」
「……そして、全ての復讐を終えた後はこれでもかと幸せな余生を過ごしてやるのさ。ついでに周りにいる連中も幸せにする。これこそが生きるってことだ」
「……フッ、やはりレイタロウ様は違いますね」
「凄い……凄いです!これこそがレイタロウ様の王道、レイタロウ様の歩まれる覇道なのですね!」
「邪悪を打ち破らんとする破邪の精神をお持ちであったとは。……その規格外の実力から推し量るに、よほど強大な敵を相手取っていたのですな」
「うおぉぉぉぉぉレイタロウ様バンザァァァイ!!」
言っちゃ悪いが、これは俺の
敵への嫌がらせを兼ねた人助け……偽善でしかない。
それに配下まで巻き込んでしまったからこそ、俺は必ず全てのオークを助けてやらねばならないワケだ。
そして―――
「我が名はガビル!お前らにも我輩の配下となるチャンスをやろ……ゔぇ!!?」
「事情は全て理解している。その上でこう返そう。共闘以外の申し出に応じるつもりはない」
……オークだけではない。
この森に住まう全ての種族を守るくらいの気でなければ、魔王を名乗った意味がないのだ。
そこには勿論、リザードマンも含まれる。
「なっ……なっ……貴様ぁ!我輩に対して何たる無礼!あまりにも頭が高いぞ!!」
おっ、ビビり散らかすだけかと思いきや、プライドだけで持ち直したぞ?
……後ろにいる配下達は完全に及び腰だけど。
「……オークの軍勢二十万。それら全てはオークロードのユニークスキル『
「……『飢餓者』?」
「加えて、道中食い荒らした魔物の能力を群れ全体に還元することで戦力を着実に増強させている。……恐れを知らない二十万の軍勢が獲物を捕食しながら日増しに強くなっていくということだ」
「……?……??」
「敵も知らずに戦力だけを掻き集めていたのか……」
「な、何を言っておるか貴様ぁ!そ、そのくらい我輩でも分かっておるわぁ!!」
「ならば自分達の不利を理解しているはずだ。例え自分達に有利な湿地帯で戦いを挑もうと、味方の死に微塵も動揺を見せないオークの軍勢に押しつぶされ、リザードマンは生きたまま貪り食われる。ゴブリンがどれだけいたところで餌にしかならん」
「「「 ヒッ……!! 」」」
「挙げ句湿地帯でも不自由なく活動できるオークが発生する。そうなればどのみち戦線は崩壊し、良くてリザードマンの集落は壊滅するだろう」
「……ッ」
半信半疑と言ったところか。
ガビルの表情は、自らの無知を恥じ入るような、俺にばかり言葉尻を取られて悔しいような、そんな屈辱の色に染まっていた。
「先程配下になれと言ったが、その様子ではとても安心して指揮権を委ねることは出来ん。……それに、俺達は俺達で独自に対オーク戦を想定して動いている」
「何?」
「戦争はどう始め、どう終わらせるかが重要だってことだ。……ソウエイ」
「はっ。ここに」
ぬるっと音もなく現れたソウエイにビクつくガビル達。
「リザードマンの首領との交渉はどうなっている?」
「……え、親父殿?」
「若干難航しておりましたが、その武威を示してくれれば服従しても構わないとの言質を取ることが出来ました。それと、邪魔をしないとも」
「えっ、えっ?」
そっかそっか良かった〜。
リザードマンの集落にソウエイを送り、こちらの意図を伝えて共闘かあるいは邪魔をするなという警告が出来ればそれで良かったが、なんとか上手くいったようだ。
「よろしい。……リグルド!」
「はっ!」
「第一陣の兵士達に休息をとらせろ。武具の点検も行いつつ、明日の日の出とともに出立する!」
「了解いたしました!」
やれやれ、富国強兵を掲げて日頃から戦時の準備を整わせていた甲斐があったってもんだよぉ。
第一陣……即ちリグルを筆頭とした
ガビル達は、あまりの急展開に全く追いつけていないといった様子で呆然としていた。
しかし非情かな。状況はドンドンと動いていく。
「初めまして……〝魔王を名乗る者〟及びその従者たる皆様」
俺とガビル達の間に割って入るように強風が発生し、そこから一人の女性が現れた。
淡い緑色の美髪を流した、長身の美人さんであった。
……どなた?
「……紹介が遅れました。この方はジュラの大森林の管理者である
「突然の訪問となりすみません。私はドライアドのトレイニーと申します。どうぞお見知りおきください」
「……リザードマンの集落で首領を説得している時に突然現れ、現在に至ります」
「「「「 ド、ドライアド様……!? 」」」」
ソウエイ……なんでそんな涼しい顔で言うんだい。
それ、ちゃんと報告してくれないと分からないよホンマ。
ってか、この森の管理者だって?
つーことは、社長が直々にやってきたもんかぁ?
「はぁ……リザードマンの集落からここまでさぞ遠かったでしょう。お茶でも召し上がっていきますか?」
「ご親切にどうも。……ですがその前に、本題から話させてもらってもよろしいでしょうか?」
「オークロードを討伐しろと言うのならお断りですよ」
「「「「 っ!!? 」」」」
ガビル達の口が驚きのあまりあんぐりと開けられる。
まぁ無理もないが……。
「まぁ。まだ何も言ってないというのに……」
「皆の反応を推し量るに、ドライアドであるあなたが公衆の面前に顔を見せること自体珍しく、何らかの異常事態が起こっている予兆であると考えられる。で、今この森で起こってる異常事態と言えばオークロードくらいしか思い浮かばない。満たされることのない飢餓感に突き動かされる暴食の軍勢。この森を管理するあなたからしてみれば放っておけるはずもない」
「………」
「大方、ドライアドの力だけではオークロードに対抗することは出来ないのでしょう。だから俺を頼ってきたと」
「……その通りです。ドライアドはこの森で起こったことなら大抵は把握しておりますの。だからこそあなたを頼りにして参りました。リザードマンの説得に微力ながらお力添えしたのも、そのためです」
チラリと横を見やる。
ソウエイは静かに首肯していた。
「あなたは魔王を目指しながらも、ほかの魔王とは明らかに異なる動機で行動していらっしゃる。あなたが
……あ、もしかしてさっきの会話も聞かれてた?
やっべー恥ずかしー!
「レイタロウ……〝魔王を名乗る者〟よ。あなたに
無害化、ね。
つまりは
ズルいねこの姉ちゃん。
そう言えば俺が引き受けると思ってるよきっと。
「……了解した。その依頼、引き受けさせてもらおう」
まぁそうなんだけどね。
食糧問題どうしよう!?なんて思ってたしねぇ。
……考え無しとも言う。
トレイニーさん「まぁ!この
リムルさん「一皿まるまる食いやがった……」