散歩しに行くよって話です。
挿絵あります。
「……よろしいのですか?」
「あぁ。俺一人で征く。リムルさんには上空で待機してもらうが」
「お待ちくださいレイタロウ様!やはり危険に御座います!もしも御身に何かあれば……!」
おはよう皆。俺はレイタロウお兄さんだよ!
王様みたいな豪奢な白黒マントを風に靡かせながら、地平線を埋め尽くす無数の群れ……二十万にものぼる
プレーンタイプのモブなオークの中に、明らかに体躯の大きな強者感を漂わせるオークがちらほら見え隠れする。
……そして、その奥には一際体躯の大きい異様なオークがヨダレを垂らしながら佇んでいる。
奴こそが件の
『こちらリムル。言われた通りの位置についたぜ』
「こっちからよ〜く見えるよ。リムルさん」
リムルさんが所定の位置……湿地帯の上空を陣取るように黄金色の翼を展開させていた。
今は人間形態に擬態しており、いつの間にかシズさんから正式に譲り受けた抗魔の仮面を被って魔力の漏出を制限してもらっていた。
今回のリムルさんの役割は視界を介した映像記録。
つまりは戦場を俯瞰的に観察してもらい、その詳細を事細かに映像として記録してもらうと言うもの。
『それはそうと、オークが
「……フッ、シオンと同じことを言うね」
『何分、レイタロウさんがマトモに戦っている姿を見たことがなくってね。俺はあんたの全力を知らない』
そうだったっけ?……そうだったかもしんないな。
『俺ですら分からないんだ。ベニマル達じゃ尚更だろ?』
「……フッ、なら今日は無理そうだねぇ」
『えっ?』
らしくないと我ながら思う。
だがどうにも、その時だけは、気障ったらしく言い表したいと思ったのだ。
「それこそ、
『……マジで?』
「大マジさ。だから見ていてくれ。これが俺の―――」
……魔王へと至る道、だ。
「レ、レイタロウ様ぁ!!」
シオンの縋るような声を背に受け、昨日の今日でシュナ達が急ごしらえで作ってくれたマントを棚引かせながら俺は歩を進めた。
一方、先頭を歩くオーク達は歓喜の声を上げていた。
遠路はるばる
それはさながら散歩のよう。
「エサだ……エサが自分から来たぞぉ……!」
「ヒッヒ……こんがり焼き上がったトカゲだぁ!」
身の丈二メートルを軽く超える、大柄のリザードマン。
肌が露出している部分はほぼ黒色に染まっており、オーク達の目には既に火に焼かれて調理済みのトカゲにしか映らなかった。
「いい加減……生肉は飽きてきたんだ……」
「あぁもう!なんでもいい!食わせろ!!」
全ては、満たされぬ食欲を満たすため。
先頭を歩くオーク達の移動速度が格段に向上する。
それはやがて歩行から走行へと変わり、泥水に足元を掬われるのも厭わず、走行から転がるような移動方法へと変わる頃には、さながら一つの生物であるかのように悍ましい様相を呈していた。
「「「「 蹂躙せよ! 蹂躙せよ! 蹂躙せよ! 蹂躙せよ! 」」」」
これで、一時の飢えが満たされる。
これで、王の望みが僅かでも果たされる。
嗚呼、素晴らしきかな。
素晴らしズドンッ!!!
「なっ……なっ……なっ……!!?」
ガビルは内心、不信感を募らせていた。
ガビルからしてみれば、ぽっと出の得体の知れないリザードマンが急にリーダー面をして場を取り仕切るのだから面白くないのは当然だった。
がしかし、そのリザードマンがもたらしたオークロードの情報は、森の管理者たる
『
故にこそ、そんなオークロードをまさか無力化した上で自らの配下に収めようという、そのリザードマンの言葉を聞いた時には、我が耳を疑ったものだ。
無謀極まる。無知に過ぎる。
そんなこと、出来るワケがないのだ。
オークロードは災厄そのもの。
並の魔物が相手取っていい相手ではない。
死なねば治らん病にでも罹っているのか?
オークロード率いる軍勢に単身で乗り込むなど……。
そのリザードマンが連れてきた配下ともども、ただ後ろでじっと見ているしか無かった。
故に、目を剥いた。
「オ、オークどもが、宙を舞っている……!?」
あるオークが、口を大きく開けて襲いかかった。
……遥か彼方へ吹っ飛ばされる。
あるオークが、転倒させようと全身で乗っかかった。
……錐揉み回転しながら地面とキスをする。
あるオークが、大剣で袈裟斬りにしようとした。
……剣は砕け、例のごとくブッ飛ばされる。
あるオークが、鎖鎌で足首を拘束した。
……鎖鎌ごと体を引き摺られ、顔面を蹴り飛ばされる。
あるオークが、大盾でその前進を妨げようとした。
……逆に押されて転倒、顔を踏みつけられる。
数に任せて押し切ろうとした。
……蜘蛛の子を散らすように四方八方に吹っ飛ぶ。
何としてでも転倒させるべく、複数人でしがみついた。
……全く止められないどころか何人か吹っ飛ばされる。
進行を妨害せんと死ぬ気で突貫した。
……例外なくブッ飛ばされていく。
凄まじい爆発音とともに繰り広げられるこれら阿鼻叫喚の地獄絵図に、ガビルはおろかベニマル達ですら呆気にとられてしまっていた。
「あれだけいたオークどもが、最早半数も立てておらぬ。一体どのような秘術を……!?」
「レイタロウ様は一体、どのような能力を使って……?」
「お、面白いくらいに宙を舞ってます……!」
「これは……もしや……」
この中で唯一人、その実態に気付いた者がいた。
何を隠そうハクロウである。
「どうしたハクロウ。お前はあれの正体が何であるのか分かったのか?」
「……若。信じられぬでしょうが、よくお聞きくだされ。レイタロウ様は……
「な、何を戯けたことを……」
「強いて言えば歩いているだけじゃが、ただ歩いているだけでレイタロウ様は精強なオークの軍勢を鎧袖一触としておられるのですじゃ」
「……ハクロウは真似できるか?」
「生憎我が身は刃ゆえ、あのように肉体を一つの弾とすることは出来ませぬ」
「わ、私は出来ませんよベニマル様!」
散歩に行って帰ってくるように勝利を掴む。
さきの言葉はそういうことだったのかと、ベニマルは困惑とともに得心する。
「……もはやあの御方に出来ないことなど何もないのではないかと思い知らされるな。俺達は完全におんぶに抱っこだ」
「そう悲観することもありますまい。我らにもやるべきことが残っておりますぞ」
自らの無力に打ちひしがれるベニマルを諭すように、ハクロウが前方を指差す。
そこには、運よくレイタロウの轢き逃げ散歩アタックを免れたオーク数十匹がこちらめがけて猛スピードで迫る姿があった。
……酷く怯えた様子ではあったが。
「……そうだったな。あの御方にも出来ないことがある。あの御方の途轍もない願いを実現させるために、俺達は一本の刃となって尽くすのみ!」
即座に気持ちを切り替えたベニマルは、腰に提げた刀を抜刀し〝侍大将〟としての責務を全うせんとあらん限りの声を張り上げる。
「これより我らは、オークどもの侵略を拒絶する一個の防壁とならん!そして、この場にいる
「「「「 おぉぉおぉぉぉぉ!!! 」」」」
せ〜んろはつづく〜よ〜ど〜こま〜で〜も〜♪
「おい!誰でもいいからあれを止めろぉ!」
「お、俺達がですかぁ!?」
「無茶言うなって!!」
「つべこべ言ってないで早くし―――ぽへぇ」
「
クロビカリさんみたいにジョギング感覚で駆け出していたら死人が出ていたかもしれない。
故に
……虫の息が大多数を占めてるけど、後で治癒を施しておけば問題ないよね。ダイジョブダイジョブ〜。
「到着っと。……随分短い散歩だったな」
「っ、お下がりください
特に時間をかけず、あっという間にオークロードの懐まで来ることが出来た。
その周囲には近衛と思しき精鋭のオーク数名が控えていたが、ぶっちゃけ大した脅威ではない。
「ナんでモイい……腹が空イた……」
ヨダレをだらしなく垂らし、虚ろな目でひたすら空腹を訴えるその姿はあまりにも痛々しい。
チラリと後ろを見やると、十万近く(残りの十万は女子供や老人といった戦えない一般オークだったため除外)いたオークの九割が地に倒れ伏して動けないでいた。
『レイタロウさん!ヤツが来たぞ!』
リムルさんの声が脳内に響いた直後、俺とゲルドの間に挟まるように人型の何かが轟音とともに着地した。
ペストマスクを被った小柄な人物……ゲルミュッドだ。
「これは一体どういうことだ!?このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」
どうやら思い通りにならない現実を知って喚き散らしているようだが、いくら何でも介入のタイミングが遅すぎだと思います。
『
オークロード自ら配下を食べる素振りを見せたら、即座に妨害に移るつもりでいる。
どちらにせよ勝ち目はないよ。
……っていうか、若干やつれてる?
ちょっと臭いし。
「このノロマが!貴様がさっさと魔王に進化しておれば、わざわざ上位魔人であるこの俺様が出向く必要などなかったのだ!!」
「魔王に進化……とはどういうことカ?」
案の定と言うべきか、ゲルドのほうは何にも事情を把握していないようで、ますますゲルミュッドの苛立ちが募っているように感じられた。
「チッ、本当に愚鈍なヤツよ……おい貴様!!」
「ん、なんだ?」
「
うおっ、魔力の弾が絨毯爆撃のように四方八方から押し寄せてきよる。
ホイホイホホホイホホホイホイっと。
魔力弾を手の甲、手の平、指先で撫でるように受け流し、そのことごとくを丁寧に地面にはたき落とす。
この程度の弾幕攻撃、元いた世界で五十回くらいは体験済みだから対処なんてお茶の子さいさいよぉ。
「あの黒トカゲを喰えオークロード。どうやってかは知らんがオークの軍勢を薙ぎ倒せるだけの力を持ったヤツだ。貴様を魔王に進化させるだけの力はあ―――」
「勝手に食わすなよ。それと、俺を食うと腹を壊すぜ?」
「なっっっ貴様どうやって!!?」
この戦場を遠くから覗き見ていたクセに、肝心なところは何も見ていないのね。悲しくなるわ。
「ンなことはどうだっていい。……だがせっかくだ、そっちから来てくれたのなら是非とも
「でんご―――んッッッ!!?」
ゲルミュッドとの距離を一足飛びに詰め、片手でその
この期に及んでも、ゲルドの反応は鈍い。
食いすぎて胃もたれでも起こしていると勝手に判断し、ゲルミュッドに視点を移した。
俺の拘束を振りほどこうと必死で藻掻いているが、生憎そんな程度の力じゃビクともせんよ。
魔法を使って俺の顔面に集中砲火を浴びせることには成功したものの、残念、君が最初に撃ったあの魔法を介して君の魔力には〝適応〟できている。意味ないよ。
「ッ……ッァ……ァ……!!」
「初めまして、ゲルミュッドの視界を介してこの光景を見ているいずれかの魔王……いや、この場合クレイマンと呼んだほうがいいかな?」
クレイマンのスキルを乗っ取ってその反応を窺う。
……近くにいたピエロともどもビクッとしてました。
「俺はレイタロウ。このジュラの大森林の支配者にして、今しがた魔王を名乗った男だ。……まぁまだ正式には認められていないがね。それも時間の問題だろう」
え、現役の魔王相手に魔王を自称する奴が堂々と名乗りを上げていいのかって?
ダイジョブダイジョブ。新参の魔王もそうやって現役の魔王を打ち倒してその座を奪い取ってるからね。
俺はその新参の魔王のスキル越しに記憶を覗き見ているから、素晴らしき前例として大いに参考にさせてもらっていますよ。
「挨拶もそこそこに本題に入ろう。……クレイマン、君を殺そうと思う」
「ヒッ……!!」
ゲルミュッドとクレイマンの声がハモった瞬間である。
まぁそれはどうでもいい。
「勘違いのないように言っておくが、これは私怨とかではない。必要だと思ったから実行するだけだ。精々俺を魔王にさせるための踏み台として役立ってもらいたい」
ちゃんと名指しをして、そいつに明確な殺意を向けた上で宣戦布告を行うと。
これでほかの魔王が来たら鼻で笑ってやろっと。
「君は俺が直接殺す。それが同じ魔王を名乗る者としての礼儀というものだ。……そうそう、手土産に腹痛に効く万能薬を持ってくるとしよう。なぁに、そのくらいの情けはかけねばな」
ハッハッハ、顔真っ赤にして怒ってら。
挑発としては十分だろうねぇ。
「それでは、その日が来るまでごきげんよう」
……見せしめと言わんばかりにゲルミュッドの頚を砕き、一瞬のうちに絶命させる。
「「「 ……ッ 」」」
「ゲルミュッド……さマ……」
ただひたすらに、俺の言動を呆然と見つめていた精鋭のオーク達。
……その中で唯一人、ゲルドだけは亡骸と化したゲルミュッドを見つめていた。
「……全員降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「魔王……オレ……」
ゲルドが一歩、俺に近付く。
「オレは……ゲルミュッド様の……」
「……そう言えば、君の名付け親でもあったな。殺めたことを謝りはしないが、せめて丁重に葬るといい」
なんて言うか、ゲルドの考えって読めないんだよね。
たくさんの意識が濁流のようにごちゃ混ぜになっているというか、ユニークスキル越しに記憶は読めても、現在の思考回路を読むことが出来ないの。
まぁ流石に自分の名付け親を食ったりはしないだろ。
そう考え、ゲルミュッドの亡骸をゲルドに差し出す。
「……願いを……叶えルッ」
それが間違いだった。
あろうことかこのゲルド、自分の名付け親の腹を食いちぎってしまったのだ。
「わおっ!?」
これには堪らずゲルミュッドを放り投げてしまう俺。
引き千切られるゲルミュッドの体。
ウゲェ……マジで喰ってやがる。
そのまま解体され、貪り食われる。
何というか、流石に同情するレベルの最期だった。
つーかなんで名付け親を食ってるんだこいつ。本能か?
しかし、厄介なことになったよぉ。
《確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します》
世界の言葉とやらが頭の中に響く。
先生の声色と同じだが、似て非なるものだ。
それより、ゲルドの黄色く濁っていた目に光が宿り、知性の輝きが見て取れる。
本能のままに動いていたであろうオークロードが、自らの自我を獲得した瞬間であった。
先程までとは比べ物にならない
って、ヤバい!?
地面に触れた箇所からどんどん腐食していくぞ!?
「
俺の警告を受けてか、近くにいたオーク達は足早にゲルドの傍から離れていく。
しかし、こいつは少々厄介なことになったなぁ。
《……成功しました。個体名ゲルドは〝
「……オレの名はゲルド。
……こうなっちまったからにはしょうがねぇ。
是が非でも助かってもらうぞ。
それが
クレイマン「ムッキィィィィィィィィィィィィィヽ(`Д´#)ノ」
ラプラス「落ち着きぃや……」
クレイマン「……フグッ、お、お腹が、ぐる"じぃ……!」
ラプラス「言わんこっちゃない。早うトイレ行けや」