オーク・ディザスターと戦うって話です。
……戦いに、なるのかなぁ?
「……オレの名はゲルド。
……うん。かな〜り厄介なことになっちゃったなぁ。
あっどうも、日の光に照らされて黒光りする俺の名はレイタロウと言いやす。
うっかりゲルミュッドという名のエサを献上してしまったことでゲルドをオーク・ディザスターとかいう魔王種へと進化させてしまったマヌケでもあるよ。
「!……我らが父王よ」
「王よ……」
「魔王ゲルド様……」
ゲルドの傍らに控えていたオーク達が一斉に
紛れもなく暴君の部類に入るだろうが、あれもまた、魔王としての一つの在り方ではある。
「レイタロウ様!」
ん、ベニマル達。どしたの急に?
「どうした。何か異常でもあったか?」
「今この場以上の異常などありません!」
あらら、シオンに言われちゃ世話ないなぁ。
「どうぞお下がりください!ここは我らが……」
「こらこら、勝手に話を進めるな。そもそも君達には防衛を命じていたはずなんだが、もしかして職務放棄か?」
「……いま戦えるオークどもはそこにおる数十名しかおりませぬ。残りは地に這い蹲っておるか生け捕りにしておりますゆえ、こうやって駆け付けた次第に御座います」
「どうやらそのようだな。リグル達
「我輩も来ておりますぞレイタロウ殿!」
「……で、なんでガビルもいる?」
「申し訳ありません。言っても聞かず……」
……まぁいいか。観客は多いほうがいい。
っと、リムルさんにも伝言を送らねば……。
「よっ」
「うおっ。……いつの間に降りてきてたのリムルさん」
《解。オークの軍勢は事実上崩壊したと推定し、残る脅威である
「まぁそういうこと。……でも、居ても居なくてもやることは変わらないんだろ?」
そんなの……当然じゃないか。
「命令。君達は全員待機だ」
「なっ、それでは……!」
「君達じゃ殺しかねんだろう?……そういうのは望んじゃいないんだよ」
「っ……」
「すまんな。俺は世界一
「……承知いたしました。どうかご武運を」
「そんな……ベニマル様!」
歯噛みしながらもどうにか聞き入れてくれたベニマル。
悪いね皆、この埋め合わせは必ずするからさ。
そんなふうに考えながら、俺は歩を進めた。
行く先は当然、ゲルドの元である。
「(なんだ?……全く
一方ゲルドは、困惑とともに失望の念を抱いていた。
自らに歩み寄るように近付いてきた黒き
その身から、微塵の
これでは、自らの更なる進化の足しにもならないだろう。
「(……何でもいい。今はとにかく腹が減った)」
がしかし、大柄故に食い甲斐自体はある。
ぶつ切りにして解体し、そのトカゲ肉を食らってやる。
そう結論付け、右手に握っていた
まずは、その素っ首を切り落として―――
「やれやれ、危ないな」
「……ッ!!?」
……何故、首を刎ね飛ばせない?
直後、右手首を激痛が襲う。
バッと見やると、自分の右手首を強引にへし折ったであろう黒きリザードマンの左拳が。
「せっかく
「なっ貴様―――」
いったい、なにをされた?
わからない。わからない。
この空気を引き裂く音。頬を伝う激痛。
地面を跳ねるように転がされる我が身。
オレは……オレは……。
頬を打ち叩かれた、のか……?
「っ、王よ!」
「ゲルド様ぁ!」
「魔王様ぁ!」
配下の者達が駆け寄ってくるが、何も聞こえない。
立ち上がろうとしても、足が痙攣して動かない。
汗が、とまらない。
「……終わりか?」
「っ〜〜〜!!」
駄目だ。立ち上がらなければ。
立ち上がって、立ち向かわなければならない。
〝敵〟は、目の前の黒きリザードマン。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
折れた手首を無理やりくっつけ、オレは再び立ち向かう。
自慢の得物を拾い、今度は侮ることなく本気の一撃を叩き込む。
ヤツは、動かない。
これでヤツの脳天を砕き割れる……!
「……何かしたか?」
「馬鹿なッ……!!?」
ヤツの頭から生えていた白く鋭い鱗……それに得物を絡め取られ、首を軽く捻るだけで簡単に真っ二つにされてしまった。
「二発目」
「ぐっ―――」
今度は右頬を引っ叩かれる。
いとも容易く宙を旋回し、地面を無様に転がされる。
両頬を激痛が襲い、脳みそは平衡感覚を失っていた。
「……終わりにしよう。君じゃ俺に勝てない」
「っ、ま、だだ……!!」
駄目だ。立ち上がらなければ。
立ち上がって、立ち向かわなければならない。
〝敵〟は、目の前の黒きリザードマン?
……いや。
「
『腐食』の力を
触れた箇所から腐り溶け落ち、そして死ぬ!
終わるのは貴様だ!!
「
ば、かな、そんな、ばか、な……!!?
あり得るのか、こんな馬鹿げたことが……!!
声だけで、大音声だけで、混沌喰を消し飛ばし―――
「ぐっ…はっ……!!」
「「「 魔王様ぁぁ!!? 」」」
……声が我が身を突き抜け、直後、凄まじい激痛と衝撃にごく僅かとはいえ気を飛ばしてしまった。
顔面から盛大に地面に激突する。
「三発目。……ようやく終わったか」
「っ、っ、っ〜〜〜、っ〜〜〜、っ〜〜〜!!」
「いや、まだ立つんかい……」
駄目だ。立ち上がらなければ。
立ち上がって、立ち向かわなければならない。
〝敵〟は、本当に目の前の、黒きリザードマン……?
……いや、そんなことはもうどうでもいい。
「王よ!どうか私をお食べください!」
「私もお食べを!どうか、どうか……!」
「い" ら" ぬ"」
「「 えっ? 」」
認めよう。ヤツはエサでもなければ敵でもない。
……むしろオレがエサなのだ。
改めて理解した。……己の矮小さを。
初めて理解した。……真の頂点捕食者を。
ヤツは、ヤツこそが、この森における真の支配者。
それと同時に直感した。
ヤツは、リザードマンなどでは、決して無い。
そんなちっぽけな種族よりも遥かに
それはおそらく……。
「……かみ」
「はっ?」
「オレは、ここで倒れるワケにはいかないのダ……!」
ゲルミュッド様はオレに、食事と名を与えてくれた。
そして、
オレが喰えば、能力の支配下にある者は餓死しない。
飢える仲間を、救えるのだと……。
邪悪な企みの駒にされていることは重々承知していた。
だが、ゲルミュッド様だけが、オレに、オークに、手を差し伸べてくれたのだ。
それに賭けるしかなかった。
そして、ほかの魔物を食い荒らし、あろうことかゲルミュッド様すらも喰ってしまった。
もう、後には退けないのだ。
「皆が飢えることのないように、オレがこの世全ての飢えを引き受けてみせよう!!」
「……そうか」
かみは、ただまっすぐに、オレを見据えていた。
その目には、怒りや憎しみはなく……。
僅かな哀れみと、敬意が籠もっていた気がした。
「ならば俺は、君達オークを救おう。……抗いようのない不幸がこの世にのさばっていることを知ったのなら、理不尽なまでの幸せがあるということも思い知らせてやる」
「理不尽なまでの、幸せだと……?」
「俺の配下となれ。ゲルド」
「っ!!?」
な、にを、言っている……?
オレを、こんなオレを、配下にだと……?
「俺の配下、ひいては民となった者は、俺から全てを奪われ、同時に全てを与えられる」
「ふざけた、ことを……!」
「君達オークから全ての飢えを奪い去り、腹いっぱいの食べ物を与えよう。勿論対価として労働力を提供してもらうが、この言葉に二言はない」
飢えを、奪い去る、だと……!?
そんなことが、あり得るのか……!?
かみの目に、曇りはなかった。
「今一度言う。俺の配下となれ。さすれば一族千年の繁栄を約束する」
「なぜ、なぜ、オレ達を……」
「俺が君達を欲しいと思ったから。それ以外の理由は思いつかんな!ハッハッハ」
駄目だ。これは罠だ。抵抗せねば。
抵抗して、立ち向かわなければ。
……何に?
〝敵〟は……。
〝敵〟は…………。
「目を覚ませ。ここにはもう〝
「っ!!?」
気付いたら、既に懐に潜り込まれていた。
かみが、その拳を握り固める。
「まずは生まれ変われ。……
「なっ―――」
かみの拳は深々とオレの腹に突き刺さる。
不思議と痛みは感じなかった。
そして、オレは……。
一度目の生を終えた。
たった今、
つーかアレだ、俺が名付けをしたもんだから、多分きっと凄まじいことになる。
助けて『
《了。個体名ゲルドの進化に干渉します……成功しました。続けて、個体名ゲルドが発現させるスキルに干渉し、その性質を変化させますか?》
そんなん〝YES〟に決まってらぁ!!
頼むよ〜進化して『渇望之王』とかだったらマジで泣くからねぇ!?
《告。個体名ゲルドは
確認しました。種族:
全ての身体能力が大幅に上昇しました。
固有スキルは『無限再生、以心伝心』です。
なお、身体特性として『生体武装』『自己改造』が備わりました。
続けて、ユニークスキル『
続けて、ユニークスキル『
ユニークスキル『
以上で、進化を完了します》
……名付け親の更新などという超荒業を無事成功させ、ようやっと一息つくことができたぉ……。
しかしホントに上手くいくとは思わなんだ。
『
「レイタロウさん……」
「俺の勝ちだ。……今はただ眠れ。ゲルド」
静寂に包まれたその場所で、俺は勝利を宣言した。
「「「「 レイタロウ様バンザーイ!バンザーイ!!バンザーイ!! 」」」」
「「「「 お、おぉぉおぉぉ……! 」」」」
その瞬間、一方からは歓声が、もう一方からは悲嘆の嘆きがそれぞれ発生する。
こうして、オークの侵攻を難なく阻止することが出来たワケだ。
「ぁ、ぁぁ、王よ、父よ。……そのお姿は、ようやく、ようやく解放されたのですね……ッ」
俺の腕の中で安らかに寝息を立てるゲルドを見つめていた一人のオークが、涙をポロポロと流しながらその無事を喜んでいるように見えた。
まぁそれはさておき、そろそろ
「流石はレイタロウ様。見事依頼を果たして下さいましたね」
「……いいタイミングだな。トレイニーさん」
来たな。強かな姉ちゃんめ。
さぁ!ちゃんと依頼はこなしたぞ。
今度はそっちが報酬を渡す番だ。あくしろよ。
「……森の管理者の権限において、事態の収束に向けた話し合いを行います。日時は明日早朝、場所はここより少し南西、森よりの広場。参加を希望する種族は、一族の意見をまとめ代表を選んでおくように。以上です。それから異論はないと思いますが、議長は〝魔王を名乗る者〟レイタロウとします!」
よしよし、ここまでは計画通りだな。
しかしホントに疲れたぜ。
けど、今が序の口だってことくらいは重々承知している。
何せこれから先、現役の魔王を相手取らなきゃならないからねぇ。
……そして、翌日。
後に〝ジュラの森大同盟〟成立として歴史に刻まれる、重要な会談が行われることとなる。
ゲルド、ガイガンレクスになっちゃった(タハァー)
これで通算四人目の真なる魔王……こんな序盤なのにぶっ壊れすぎぃ!