ちょっと話を遡るって話です。
招待された者、挑発された者
<<< 武装国家ドワルゴン >>>
「王よ。本当に赴かれるのですか?」
「……逆に、余以外の誰に行かせるというのだ」
ドワーフの王ガゼル・ドワルゴは、今しがた暗部より受けた報告を思い起こしながら、そう答える。
カイジン達を引き連れて去って行った黒き
「暗部の監視を容易く掻い潜って姿を消したかの魔物は、あろうことか
ガゼル王は、手元に置いていた件の水晶に魔力を流し、その中に閉じ込められていた風景を映し出した。
異形の姿を堂々と晒す
これだけでも冗談か?と思いかけたが、更に続きを見るとあまりの凄まじさに思わず驚愕を露わにしてしまう。
「お、王よ。これは真なのですか……!?」
「……嘘か真か、その真偽を確かめる間もなく暗部はこの水晶を渡され、引き返されたのだ。これ以上の詮索は御法度であると警告されてな。故に、余が直接赴く必要があるのだ」
水晶に映る風景を全て事実であると仮定した場合、あの黒き魔物は単体で
・
・そのオークロードの誕生には魔王クレイマンが深く関わっていて、全ては『魔王誕生計画』を成功させて傀儡となる新魔王を生み出すことにあったこと。
・そして、恐るべきオークロードは
軍勢を抜きにしたオークロードの脅威度は
最悪、
・迫りくるオークの軍勢二十万を
・魔王種にまで進化したオーク・ディザスターを真正面から圧倒し続け、事も無げに鎮圧してしまった。
・そして、新たに〝名付け〟を行うことで存在そのものを大きく上書きし、オーク・ディザスターの脅威を完全に取り除いた上で、あろうことか二十万の軍勢ごと自らの支配下に置く。
・トドメに、あろうことか現役の魔王であるクレイマンに正々堂々と殺害予告をしてのけた。
……魔王をも恐れぬこれら数々の蛮行を、あの黒き魔物はたった一人で完遂してしまったのだ。
そして、映像は終盤に差し掛かる。
・オークという有用な労働力を得たことで魔物の町の建設は大きく後押しされ、町どころか国の規模にまで発展しており、ひいてはガゼル王直々に足を運んでもらい、正式に国家として承認してもらいたいとのこと。
・ちなみに魔王になる予定。
・ジュラ・
ブツンと、ここで映像は途切れた。
「……暗部曰く、この水晶を寄越してきた青黒い髪色の鬼人一人で余の
「そんなッ!?あり得ませぬ!!」
「暗部が嘘を言うもんかい。……とはいえ、嘘であってほしいもんだが、どちらにせよ捨て置けないね」
「……どうなさるおつもりですか。王よ」
ガゼル王は瞑目し、状況を整理する。
現在、森の魔物の活性化による被害は思いのほか少ない。
暴風竜ヴェルドラが存在していた時期より若干増えたのは確かだが、多い年と比べたら差異は無かった。
最低でも、この倍以上の被害が出ると予想されていたのだ。
森の治安を維持する要因があるのは間違いない。
そして、それはおそらく例の黒き魔物が関係している。
あっという間に終わったオークの軍勢騒動。
もしオーク達が進軍を続けて町へと雪崩れ込んでいたら、被害の規模は想像を絶する。
その矛先が自分達へ向かなかったという保障は無い。
事は運が良かったで済む問題ではないのだ。
「決まっておろう。……故にこそ、余自らが見極めねばならぬのだ」
至急会う必要がある。彼の判断は早かった。
敵にまわすのは絶対に避けねばならない。
幸いにも、自分達にはドワーフの協力者がついている。
国外追放の件には触れず、上手く交渉を進めるべきだ。
いや、それよりも確実な手を打つほうが良いかも知れぬ。
そうしてガゼル王は決断を下し、行動を開始する。
『追記。このたび私レイタロウとシュナは結婚することとなりました。式は今からちょうど十日後となります。ガゼル王も是非お越しください』
「……む、結婚?」
水晶に突然映った文字群を目で追い、ガゼル王は軽く混乱したとさ。
<<< 傀儡国ジスターヴ >>>
「(っ〜〜〜忌々しい、なんと忌々しい下痢……じゃなかった、なんと忌々しい黒トカゲだ!おのれぇ……!)」
大陸の東端にある魔王領ジスターヴ。
そこの国主にして、十大魔王の一人に数えられる
創造主である先代魔王に頭脳面を強化された特製の
胃袋に直接毒物を仕込まれれば、仮に死ぬことはなくとも壮絶な苦しみを味わい続ける羽目になる。
最初の腹痛が始まってからおよそ三ヶ月。
今となってはだいぶ症状も収まってきたが、ふと激情に駆られるとまたしても腹痛が起こり、肛門がゆるゆるになってしまう。
余談となるが、いつの間にか『猛毒耐性』と『内容物耐性』を獲得していた。なのに何で苦しいままなの?
「(ふぅぅぅふぅぅぅ……ようやく落ち着いてきた)」
備え付けの紙でおケツを優しく拭き拭きし、クレイマンは今にも引き裂けそうなおケツを労るように便座からそっと離れた。
……おケツを拭いた紙が真っ赤に染まっていたのは、見なかったことにした。
「(糞ッ!……こんな惨めな思いをする羽目になったのも、元はと言えば全部あの黒トカゲのせいなのだ!)」
あの日、襲い来る腹痛と下痢を必死で我慢しながら優雅にゲルミュッドの持つ水晶を介して事の成り行きを見守っていたクレイマン。
オークロードの潜在能力は目を見張るものがあり、それは即ちゲルミュッド企画の『魔王誕生計画』が成功を収める可能性が極めて高くなったことを意味する。
だがしかし、それもこれも全て、一人の黒トカゲ……レイタロウの登場によってあっという間にひっくり返されてしまったのだ。
「(そして、言うに事欠いて、この私に直接、宣戦布告をしてきた!……おかげで少し漏らしてしまったじゃないか!糞ッ!糞ッ!)」
ゲルミュッド視点で堂々と宣戦布告をしてきたレイタロウに怒りと恐怖を覚えたクレイマンは、早速魔王への挑戦だとしてほかの魔王を動かすべく働きかけ続けた。
そして三ヶ月後、つまり今日、ようやく自分の呼びかけに応じてくれた三人の魔王との話し合いに持ち込むことが出来たのだ。
会場は自らの居城の談話室。
そこに彼彼女らを待たせているのだ。一時間以上も。
「(あの二人ならともかく、
談話室の扉の前で立ち止まり、額の汗を拭い、呼吸を落ち着かせ、柔和な表情を形作る。
これでいい。これでいいはずだ。
傍らに控えていたメイドに、扉を開けさせる。
「お待たせしました。少々所要があり、解決に手間取ってしまいましたが……ぁ?」
談話室に入った直後、ある違和感を覚えたクレイマン。
普段からワガママっ子な
「お、来たかクレイマン。……大丈夫か?」
「あらクレイマン。……もう少しゆっくり来ても良かったのよ?」
……否、ただじっとしていたワケではない。
魔王としては新参のその二人を侍らせるように中央にドカッと座っていた
「フレイ!オーク共が面白いくらいにバッタバッタと吹っ飛んでいくぞ!此奴はいったい何者なのだろうな!?」
「その場面が本当に好きなのねぇ。というか、終わりあたりにちゃんと名前が記されてるじゃない」
「レイタロウ・スターモンズ……此奴もしかして異世界人とやらか!?」
「読み的にはそうじゃねーのか?……しかしまぁ、オークロード相手に一方的たぁ、とんでもねぇ野郎だな」
「ビンタにビンタ、大声と来て、仕舞いには腹に一発だ!ワタシには分かる、此奴はワタシの次くらいには強いのだ!ワタシが支配するに相応しい!」
「やれやれ……」
「全くもう……」
状況が全く飲み込めない。あの三人は何を話している?
というか、あの水晶は一体何なのだ?
……これは、問いたださなければなるまい。
「……ミリム。さっきから一体何を見ているのですか?」
「おぉクレイマン!お前
「「 あっ…… 」」
「え……?」
な に を い っ て い る の か わ か ら な い。
何故彼女……ミリム・ナーヴァが自分のお腹事情を把握しているのか。
「な、何を行って……」
「
そう言ってミリムが突き出してきた水晶の映像を目にし、クレイマンは途轍もない腹痛に襲われた。
そこには、自分が
「なっ、なっ、なっ……!?」
「これだけでは終わらぬぞ!」
クレイマンにとっての地獄はまだまだ終わらない。
オークロード率いるオークの軍勢がジュラの大森林の湿地帯に到達し、計画はいよいよ大詰めを迎える……そんなタイミングに横合いから一人の黒き魔物が現れ、瞬く間に軍勢を蹂躙。
オークロードは
殺さず生け捕りにされたばかりか、なんと二十万相当もいるオークごと支配下に置いてしまうというクレイマンからしてみればとんでもない大暴挙をやらかしたのだ。
仕舞いにはあの宣戦布告。
……そして、クレイマンに毒を盛って下痢ピーに追いやっていることもサラッと自白しやがった。
「っ〜〜〜!!(あンの糞トカゲェェェ!!!)」
「いやぁハッハッハ!ワタシ達の悪巧みがここまで大ごとになるとは思いもしなかったぞ!」
「はっ?大ごと……」
待てよと今一度状況を整理する。
この場に三人の魔王がいるのはいいとして、何故か三人とも事情を知っていそうな顔つきであった。
その瞬間、クレイマンの脳裏に最悪の可能性が過る。
「フレイ、カリオン……その水晶は一体どこから?」
「「 どこって……自室から 」」
「じ、自室?……つまり自分の領土にあったと?」
「気が付いたらな」
「名前も書かれてないから捨てようとも思ったけど、捨てずに取っておいて良かったわ」
待て待て待て。
それだと、その流れだと……!
「ワタシは普段からそこら辺を行ったり来たりしているから分からんが、二人の話から察するにほかの魔王の元にもその水晶が送り届けられておるのだろうな」
「ハァァァァァァァ!!?」
ミリムの言ったことが本当なら、これはもはや魔王としての自分の顔に糞便を塗りつけられたようなもの。
もはや宣戦布告に留まらない。
明確な敵対行動と言って差し支えなかった。
「こ、これはもはや魔王に対する明確な敵対行為です!厳正に対処しなければ魔王の沽券に関わります!!」
「……何を言っておる?これは魔王に対してではなく、
「なっ、何を言って……!?」
「お前、自分で言ってて恥ずかしくないのか?……ここまで徹底的にコケにされているのに、いざ武力行使にはほかの魔王の力を借り受けたいと?」
「っ……」
ミリムに痛いところを突かれ、思わず押し黙ってしまう。
よくよく思い起こしてみれば、あの黒トカゲが明確に挑発してきた相手は自分しかいなかった。
侮辱に対する報復は徹底的にやらねばならない。
しかし、元はと言えば自分の責任で行われていた計画によって引き起こされた事故のようなものなのだ。
自分のケツを自分で拭けないようなヤツなど、魔王以前の問題である。
これはもはや理屈の問題ではなく、メンツの問題なのだ。
「お前一人で制裁を下すのが筋であろう。そこにワタシ達を巻き込むような恥知らずなことはすまい?」
「ミ、ミリム。あなたも一枚噛んでいたでしょ―――」
「あ"ぁん?」
「いえなんでもありません申し訳ありませんでした」
怒れる最古の魔王の相手など御免被る。
憤りを覚えつつも、不承不承従うしかなかった。
「分かってくれたのなら良し!なぁに安心するのだ!ジュラの大森林の不可侵条約はワタシ含めたこの場にいる三人で撤廃しておいたぞ!」
「え、そうなんですか?」
「おぅ。暴風竜が消えたからな。反対する理由もねぇ」
「私も。元々私の領土とあの森は接しているし、色々と面倒だったのよね」
「これでいつでも攻め込めるな!ハッハッハ!」
いつでも攻め込めるワケがない。
取り敢えず、信頼できる密偵を遣わしてあの黒トカゲの内情を探らせる必要がある。
水晶が映し出していた風景の端に、オークともリザードマンとも違う第三者がいたことは分かっている。
もしそれらが黒トカゲの配下ないしは仲間であった場合、その戦力を慎重に見極める必要がある。
腹立たしい限りだが、迂闊には動けないのだ。
「ま、その前にワタシが支配下に置くかもしれぬがな!もう行くぞ!またな!」
「……は?」
「俺も行くぜ。配下から調査に向かうヤツを選ばにゃならねぇ」
「ちょ、ちょっと……」
「私もお邪魔するわ。あるいは彼に押し付けてみるのも有りね……」
「あ、あの……」
あっという間にひとりぼっちとなったクレイマン。
怒りと困惑によるストレスがMAXに達したその時……。
「何だよもォォォォォォまたかよォォォォォォ……!!」
最近、便器の部品に名前を付けることがマイブームになりつつあるクレイマンの雄叫びが城内に響き渡った。
色んな意味で汚い声だった。
汚くなって申し訳ありません……。
次回、オークロード戦後の三ヶ月間に起こったことを書いていきたいと思います。