ペガサスに跨ってガゼル王が来るって話です。
「「 その……ご結婚おめでとうございます。レイタロウ様 」」
「いやいや、こんなプライベートな場所で畏まらなくてもいいんだよ?……シズさん」
「そうだぜシズさん。俺達三人の仲じゃないの!」
「……フフッ、ごめんね?」
「いつもお世話になっているからつい、ね?」
おはヨッピー。俺はレイタロウだよ。
今は俺の自宅であるニホン家屋の中で、スライムボディーになっているリムルさんや双子の小人みたいになってしまったシズさんとともにお茶を啜りながらまったりとしている真っ最中なんだ。
配下の皆は結婚式(というより祝言みたいなもの)の準備でてんてこ舞いであり、現在シュナを筆頭とした服飾組は俺やシュナが着る紋付羽織袴や白無垢の仕立ての最終段階に入っているそうな。
何か手伝えることある?とは尋ねたものの、レイタロウ様の御手を煩わせるなど!と皆にやんわりとお断りを入れられ、仕方なくお茶を啜っている次第なワケ。
「「 ……ごめんなさい。レイタロウさん 」」
「何が?」
「私がレイタロウさんを意識して避けていたこと、流石に分かっていたよね……?」
「まぁ、ね」
「命の恩人に対してとても無礼なことをしていたことを、ずっと謝りたくて……」
「別に気にしてないよぉ?」
「「 えっ 」」
それを言うんだったら、シズさんの体をメチャクチャに弄りまくって無理やり復活させた俺達のほうが謝らなくちゃならないワケだし、俺の見た目が怖いことは俺自身がよく分かっているつもりだ。
「どーせレイタロウさんが大体悪いんだろうし、避けるくらいで気にするほど繊細じゃないって!」
「グサッ、リムルさんの自覚のない悪口が俺の胸を深く抉ったゾイ。これはもうシオンの手料理で一週間持て成すしかないな……」
「わーわー!!ごめんヤメてーッ!?」
「「 プフッ、もう、二人ったら…… 」」
二人のシズさんが同時に相好を崩した。
やっぱりね、シズさんは笑顔がよく似合うぉ。
何故シズさんが俺を避けていたのか、理由は聞くまいよ。
多分リムルさんが言う通り、俺が原因だと思うから。
「……それで?ほかに何か用事があるんでしょ?」
「「 ……何故そう思うの? 」」
「なんとなくね、シズさんの意識が遠くに行ってる気がしたもんだから」
「「 そ、れは…… 」」
「シズさんには日頃から大変お世話になっているし、是非とも力になりたいんだ」
「俺も力になるぜ」
「「 レイタロウさん、スライムさん…… 」」
意を決してくれたシズさんは、自分の中に残っていた最後の心残りとも言うべき残酷な事実を打ち明けてくれた。
それは、この世界側の一方的な都合に巻き込まれた者達の理不尽な現実。
イングラシア王国に残してきた異世界出身の五人の子供達の、逃れることの出来ない死の運命であった。
シズさんの話を聞き終えた俺とリムルさんは現在、どんよりとした雰囲気を纏わせながら町中を歩いていた。
結婚式の準備を進める周囲の喧騒など耳に入らない。
「……あの時、シズさんと一緒に映っていた五人の子供達って、そういうことだったのか」
「あの時って、ドワーフの国でのことかい?」
「あぁ。……レイタロウさん」
「今はダメだ」
「っ……」
「
「俺じゃなくて『
「……あと数日待ってくれ。頼む」
「……っ、分かったよ」
シュナ達の頑張りによって、いつでも
『
そして、残り2%の失敗する確率を埋めるために、今回ガゼル王を招いて催されるこの結婚式が必要不可欠であると『智慧之王』先生は結論付けた。
……あまりにも性急すぎたことは認めよう。
だがしかし、これより先に待ち受ける
せっかく皆が作り上げたこの国を、
「レイタロウ様ー!リムル様ー!ご覧ください!ヒポクテ草の栽培に成功しまし―――ぐふぅ!?」
「ただの雑草じゃねーか!!」
「な、なんと!?これは失敬!……このガビル、少しばかり功を焦ってしまったようですな!」
「功を焦ったで済む話じゃないだろ!……ったく、気をつけてくれよ!大体あの高密度の魔素の中で雑草を育てるほうが難しいっての!」
こらこら、ガビルに当たらないの。
……それはそうと、人のいる国に行く場合、どうしてもお金が必要になってくるよなぁ。
今まではお金が無くとも森の恵みだけで全然やってこれたワケだけど、国を名乗る以上、諸外国ともそれなりに交流を持たねばならない。
故に、お金が一番重要になってくるのだ。
貧乏金無しなど、論外であるが故に。
どうやって外貨を獲得しようか、それこそヒポクテ草から抽出した回復薬でも売るか?
そんなことを考える俺であった。
そして、結婚式当日。
報せは突如として頭の中に響いた。
『レイタロウ様。北の空に武装集団を確認しました。その数およそ五百、一直線にこちらに向かってきております。おそらく例のガゼル王かと……』
「了解。俺が出迎える。配下をすぐに集合させろ。くれぐれもこちらから攻撃を仕掛けるなよ」
『承知』
瞬間移動を用い、あっという間に目的の地点に着く。
そして上空を見上げると……見えた。
羽の生えた白馬、ペガサスに乗って悠々とこちらへ降下してくる五百名前後の一団。
正直、オークの群れよりも遥かに厄介な集団だ。
そして、そんな彼らこそが……。
「……カイジンさん、どうだ?」
「噂程度には聞いていたが、おそらく間違いねぇ。ありゃあ王直轄の極秘部隊〝
「予定通りに来てくれたワケか……」
そうこうしている間に、天翔騎士団はペガサスを旋回させながらこちらめがけて降下していく。
そして、最初の一頭が地上に着地したと同時に、カイジンさんは片膝をついて
仕える主を変えても、敬意をもって接するべき相手であることには変わりないようだ。
「……お久しぶりでございます。ガゼル王よ」
「久しいなカイジン、それにリザードマン。余……いや、俺を覚えているか?」
忘れるワケがない。
この王の公明正大な裁決のおかげで事なきを得たワケなのだが、今回はそれが主題ではないだろう。
「王よ。こちらまで伺ったということは……」
「うむ。この俺に不敵にも結婚式への招待状を送りつけてきたそこのリザードマンの本性を見極めてやろうと思ってな。ならばと今日は王ではなく一私人として応じてやった次第よ。物々しいのは許せ」
うん、分かりますよ。
こうまでしなきゃ、迂闊に出歩けないですもんねぇ?
しかしちょっとマズいことになったなぁ。
カイジンさんの後に続いて大慌てで駆け付けたベニマル達が凄く殺気立ってる。
多分この王様は俺を挑発して手合わせに持ち込みたいんだろうけど、ベニマル達は俺が貶されたと思っているのかもしれない。
特にソウエイが笑っているのが怖い。
普段から冷静な分、怒ったら何をしでかすことやら……。
「あ―――……今は裁判中ではないし、こちらから話しかけても問題はないだろうか?」
「当然だ」
ガゼル王の後ろに控えていた護衛が背中の剣を抜こうとして、すぐ隣に控えていたもう一人の護衛に制止される。
……別に、声にスキルやら魔法を乗せているワケじゃないんだけどなぁ。
そして、ガゼル王に下がっているよう言い渡された護衛達はサッと二、三歩後ろに下がっていった。
「……では、名乗るとしよう」
「……っ!!?」
「俺は、ジュラの森大同盟の盟主にして魔王を名乗る者、そしてこのジュラ・スターモンズ連邦国の国王を務めるレイタロウという者だ。以後よろしく」
心臓を爆発的に脈動させながら相手を萎縮させ、同時に自己紹介を完全に済ませるスタイル。
その効果は如何ほどに……?
「……ほぅ、それほどの威容を放ちながらあくまで丸腰とはな。それとも、それが貴様の流儀か?」
「あまり警戒しないでもらいたいが」
「それを判断するのは俺だ」
あんまし効果はなかったようで。
そうして鞘から剣を抜き、その切っ先を俺に向ける。
「貴様を見極めるのに言葉など不要。……この剣一本で十分だ。この森の盟主を名乗る法螺吹きでは飽き足らず、あろうことか魔王まで名乗り出す愚か者に分というものを教えてやらねばなるまいしな」
それ以上煽ると、後ろのベニマル達がマジで暴れだしそうだから勘弁してほしいなぁ。
挑発には乗るから、取り敢えずお口をチャックして?
……あ、この風。
「我らが森の盟主に対し傲岸不遜ですよ。ドワーフ王」
「なんだって、
トレイニーさん登場ー!
……なんか二人増えてるけど、誤差の範囲だよね。
「やぁトレイニーさん。ご機嫌いかが?」
「ご無沙汰しておりますレイタロウ様。同盟締結の日以来ですわね」
「……ふはっ、ふはははは!!森の管理者が言うのであれば真実なのであろう!法螺吹き呼ばわりは謝罪するぞレイタロウよ!」
ひとしきり笑ったガゼル王だったが、その戦意は
「だが、貴様の人となりを知るのは別の話。いざ立ち合えぃ!!」
やっぱりね、こうなることはなんとなく分かっていたよ。
「まだ無礼を重ねると……!」
「いや、構わないよトレイニーさん」
「っ、レイタロウ様……」
「これがガゼル王のやり方だと言うのなら、俺もそれに合わせるまでだ。……それに、実力で認めさせるというのなら話は早い」
「……分かりました。では立会人は私が行いましょう」
そうして俺は丸腰で……否、この世に生を授かった瞬間にその身に宿していた天然の鈍器、つまり両の手を構え、戦闘体勢に移行した。
「あくまで剣を持たぬか」
「……剣とはそんなに不便なものか」
「―――始めっ!」
トレイニーさんの合図とともに、ガゼル王が駆け出した。
一方、ガゼル王とレイタロウが相対する場面を最前列で見つめていたカイジンは、内心強い不安に襲われていた。
それは、ガゼル王の実力への絶対的な信頼であり、同時にレイタロウの不明瞭な実力への懐疑心でもあった。
「レイタロウ様……」
「大丈夫ですシュナ様!レイタロウ様は必ず勝ちますとも!」
「(ガゼル王はその昔〝剣鬼〟と呼ばれる達人に教えを請い、その剣技をもって英雄王と謳われる御方。……生半可な拳技で勝てる相手じゃないぜ、旦那……!)」
立ち会いを務めるトレイニーの口が開かれる。
「―――始めっ!」
始まってしまった。
先手を取ったのは、ガゼル王。
魔王になると宣言するほどの魔物を放っておけるはずもなく、その剣筋には確かな殺意が乗せられていた。
レイタロウは、その場から全く動いていない。
「(クソッ、言わんこっちゃねぇ―――)……ッ!!?」
ガゼル王の首がポトリと地に落ちた。
カイジンは己の目を擦って再度確認する。
違う、ガゼル王の首は落ちていなかった。
ガゼル王の首は依然として胴体と繋がっており、その命脈もまた繋がっていた。
血すら流れ落ちていない。
だが、ガゼル王の足はパタリと止まってしまった。
顔面から、滝のような汗が流れ落ちている。
レイタロウは、その場から全く動いていない。
「……貴様、一体
「……剣が無ければ、人は斬れないか」
「答えろッ!!」
「フッ、あなたの流儀に合わせているだけのこと。俺は常に
「………ッ」
右脚がずり落ち、思わず尻餅をつくガゼル王。
配下が近寄るが、王はそれを手で制した。
それもそのはず、右脚は
ガゼル王に一切の身体的
強いて損傷を負っている箇所があるとするならば、それは
レイタロウは狙ってやっているワケではない。
ただ、ガゼル王に〝斬る〟イメージを照らし合わせているだけなのだから。
厳密にいえばそれは、ガゼル王の魂の自傷であった。
「……俺が元いた世界には名うての剣豪が何人かいてな。幸か不幸か、そいつらとは何百回も手合わせをする間柄だったんだ」
「一体何を……」
「……そう、何百回も手合わせをしていくうちにその剣筋を読み抜くことが出来るようになり、やがてその剣筋をイメージとして再現できるようになったワケだ。右手」
「ぐっ…ぅ……!!」
その場に居合わせていた全ての者の目が、ガゼル王の右手首が宙を舞う光景を捉える。
それが例え幻であったとしても、その魂魄に刻まれた激痛は拭い難く……。
「な、めるなぁぁ!!」
……それでもガゼル王は、
息を荒げながらも、それでも戦意は削がれていない。
武装国家ドワルゴンの王を務める者の自負が、怪獣王のもたらす理不尽を一瞬でも拒絶できた世紀の瞬間である。
「試しているのは俺だ!断じて貴様ではないぞ!」
「……そう言えばそうだったな」
「そんな
……その瞬間を目で追えた者はいなかった。
両手で剣を持って構えているガゼル王に近付く。
たったそれだけの動作を。
ベニマルどころか、ハクロウすらも。
「ガゼル王。一つお願いがある」
「っ……!!?」
「死んでくれるなよ」
右腕を弓弦のごとく引き絞るレイタロウ。
そんな極限の
……解放された。
「ば、馬鹿げてやがる……!」
カイジンさん、酷いなぁ。
「よもや、これほどとは……」
ベニマル、手ぇ貸そうか?
「ホッホ……レイタロウ様は竜種であらせられたか」
ハクロウ、遠回しに俺を貶してない?
「は、はゎゎゎ……凄すぎですぅ……!」
シオン、大丈夫かぁ?
「………( ゚д゚)」
シュナ、起きてるかー?
「……いやいや、ヤバいってこれ」
リムルさん、そんな引かないでよぉ……。
「……負けだ負け。邪悪だとか何だとか、そんな戯言をほざく以前の問題だ。ただし、式の後でいいから話し合いの場は設けてもらうぞ。絶対に!」
ガゼル王、なんか申し訳ないねぇ……ハハハ。
俺はガゼル王の背後にて広がる空を見渡す。
曇り空一つない晴天が広がっていた。
……さっきまで
「「「「 ………( ゚д゚) 」」」」
あ、天翔騎士団の皆さん、自力で立てますぅ?
パンチで天候を変えただけです。
……大したことじゃないですよ?