ミリムが控えめに騒ぐって話です。
それだけ四方の王の陣がヤバいということです。
「美味―――いッ!何なのだこれはッ!?」
「それはハチミツだよ。美味いでしょミリム?」
「美味い!もっと寄越すのだレイタロウぉ!!」
「しょうがないなぁ。あと一口だよぉ?」
パクッ…「美味――――――いッ!!」
「何なの、この駆け引き……」
まあまあ、そんな呆れた目で見ないでよリムルさん。
これはね、せっかく出来上がった町をぶち壊されないようにするための応急的な処置なんだよぉ?
蜂型の
……あ、紹介が遅れたねぇ。
俺はレイタロウ。現役の最古の魔王とのタイマンをセッティングした、命知らずな自称魔王だぉ。
今はランガの背に乗っているミリムにハチミツを餌付けしているところなの。
そのミリムの前には、呆れた様子でこちらの様子を窺う人間態のリムルさんが乗っている。
……んで、その周囲を取り囲むようにベニマル達が無言で歩いていた。
「なぁなぁ。お前は魔王になろうとしたりしないのか?」
重苦しい沈黙を破ったのは、やはりミリムであった。
お前と言うのは、彼女の前にいるリムルさんを指す。
「……しねーよ」
「え、だって魔王だぞ?格好いいだろ?憧れたりとかするだろ?」
「しねーって。そういう面倒事はレイタロウさんに押し付けるに限る」
「えぇぇ!?じゃあ何を楽しみに生きてるんだ!?」
「そりゃあ色々だよ。
「でも……魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」
「退屈なんじゃないか。それ?」
ギクッ!!!「っ〜〜〜!!?」
リムルさんって、たまに人を傷付けるよね。言葉で。
前世は全然異性にモテなかったって聞いたことあるけど、なんか理由が染み染みと分かるなぁ。
無自覚で言ってんのなら手の施しようがねぇ。
「おまっ、お前ぇぇ!?魔王になるより面白いことしてるんだろ!?ズルいぞ!ズルいズルいもう怒った!!」
「ちょま、やめっ、ツノ引っ張るなぁぁぁ!!?」
「ワタシも仲間に入れるのだッ!!」
「駄々っ子かよ!?」
しょうがないよリムルさん。受け入れな。
君は今日から
……それはそうとソウエイにハンドサインを送り、いち早くリグルドへ連絡するよう指示を送る。
「分かった分かった。俺達の町を案内してやるから」
「本当だな!?」
「ホントホント。……えーじゃあ、お前のことはミリムと呼ぶ。お前も俺のことはリムルと呼んだらいい」
「むっ……」
おや、呼び捨てされるのはプライドが許さないのか?
「いいけど……特別なのだぞ?ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王達だけなのだ。レイタロウもだぞ!」
「ありがとねぇ」
「はいはい、ありがとうよ。……じゃあ今日から俺達も友達だな!」
「と、ともだち……」
「ホラ、着いたぞ」
「……ようこそ、星々のように無数に燦然と輝く魔物達が暮らす楽園〝
……安直にスターモンズと決めたワケだけど、後付けにしてはかなり上出来じゃないか?
うんうん、共助と調和を国是に掲げる国の名前として、これ以上に最高なものもない!
「ゎ…ぁ……!!」
「取り敢えずこれだけは約束してくれ。まずウロチョロしないこと。それから俺の許可なく暴れないこと」
「うむ!わかったのだー!!!」
「って、おいぃぃぃ!!?」
「さぁ。お行きなさいリムルさん」
「ちょ、なんで俺が……!!」
「ミリムのお世話係になるか、シオンの手料理を腹いっぱい食べるか、好きなほうを選んでいいよ♡」
「喜んでぇぇぇ!!!」
うんうん、いまだかつてないワイルドなスピードで駆け出していくリムルさん。過去最高速度じゃないか?
冗談じゃねぇ、冗談じゃねぇぞぉぉぉ!!
こんな二択があってたまるかってんだ!!
「わははは!何だこれ面白いのだ!」ガコガコガコガコッ!!!
シオンの手料理を食うくらいなら、俺はどんな地獄にだって耐えてみせる。
けどこれは……想像以上に重労働だ。
兄貴の子供をレジャーランドに連れてった時くらいメチャクチャしんどい。
「リムル様ちょうど良かった。回復薬について相談が」
お前の相手は後回しだガビル!
俺はこの……正真正銘本物の魔王様のお守りを仰せつかっちまったんだよぉ!!
「お、
「む?……我輩はガビルと申す。この町は初めてかチビッ娘よ」
あ、馬鹿―――ッ!!
おまっ、お前、そんな、本物の魔王の頭をナデナデなんかしたら……!!
「……お前も、リムルと同じく
「え"っ(汗)」
「一度は許す。……二度はないと思え」
「えっ、あっ、はい」
……な、なんだ?
ミリムから物凄い殺意の波動が立ち込めたと思ったけど、なんとか矛を収めてくれた……のか?
「ガビルぅぅぅこの大バカ野郎ぉぉぉ!!」
スパァァァン!!!「あいった!!?……リ、リムル様!?もしかして我輩、また何かやらかしたのですかな!?」
「そうだよぉ!この娘はなぁ!ミリム・ナーヴァっつって、正真正銘の魔王なんだぞぉぉ!!?」
「な、なんと!?これはとんだ失礼を……!」
「フンッ、レイタロウとの約束と、
結界の力スゲー……なんて思う間もなく、ミリムはまた何処かへ走り去ってしまった。
とはいえ、これじゃあ埒が明かないな。
なるべく皆にもミリムの姿を周知してもらう必要がある。
「ガビル。なるべく多くの住民に中央広場に集まるよう伝えてくれ」
「は、はい。かしこまりました」
ガビルみたいに顔も知らずに地雷を踏み抜くヤツが現れるかもしれないしな。……特にゴブタとか。
<<< 中央広場 >>>
「
「えっそうか?」
「うむ!……だが結局はワタシが勝つがな!」
「……あのなぁ。怒ってもすぐにカッとなって殴ったりしたらダメだぞ?」
取り敢えず、ポテチ擬きで誘き寄せることでなんとかミリムを中央広場まで引っ張り出すことは出来た。
……幸い、当のミリムはいたって上機嫌のままだ。
「この国では自重する。だが、最初にガツンといかないと舐められるのだ!」
「ダメだって!……この町の者には俺がキチンと言い聞かせるから」
「そうか?……リムルがそう言うなら任せるのだ」
「そうしてくれ」
さて、そろそろ集まったかな?
……やれやれ、とんでもない仕事を任されたもんだよ。
これを前世基準に置き換えると、大企業の社長がお忍びで職場にやってきて、自社の社長から一人で接待よろしくって言われて絶望する副社長みたいな感じじゃん。
それも、派閥に属してない新興企業の、屈するか抗うかの瀬戸際を行き来しているヤベー状況。
いやいや、あり得ねえよそんなシチュ。
まぁしょうがねえ。
……任されたからにはしっかり消化せにゃならん。
ドルド作の〝魔イク〟を握って、俺は熱弁を振るった。
「えぇと、今日から新しい仲間が滞在することになった。客人という扱いなので、くれぐれも失礼のないように」
「リムル様の後ろにいるのってまさか……」
「え、本物?」
「……じゃ、本人から一言」
「うむ。……ミリム・ナーヴァだ。今日からここに住むことになった。よろしくな!」
っ、ちょ、ちょっと待てぇぇぇい!!?
ま、マジで住む気かこいつ!!?
「おい待て、そりゃどういう意味だ!?」
「そのままの意味だぞ?……私もここに住むことにしたのだ」
「待て待て、お前は今住んでいるところがあるんだろ?」
「大丈夫なのだ!たまに帰れば問題ない!」
こっちは問題大アリだよ!!
……唯一の救いは、住民の感触が悪くないことだ。
魔王の中でもミリムは人気者らしい。
〝四方の王の陣〟に変化がないってことは、つまりはそういうことだろう。
「うむ、ワタシとリムル、そしてレイタロウは友達だから何かあったらワタシを頼ってもいいのだ!」
「友達、か……」
どっかの竜を思い出すな。
……その竜は現在、どういうワケか
あそこには確か、ゼギオンとかいう
「えっと、そ、そうだな。友達というより……〝
「えっ?」
「えっ……俺も?」
これにはさりげなく群衆に紛れ込んでいたレイタロウさんも驚く……つーかあんたはこっち側だろうが。
「「 ……
「ち、違うのか……?」ウルウル…
「「 な、なーんてね!冗談だよ冗談!!俺達は
そう言いながら俺達三人は、組体操でいうところの〝扇〟を披露し、友好モードをアピールすることにした。
即興で合わせられるミリムスゲーと思いました(小並)
こうして最も危険な魔王が
「うま―――っ!!この
「まだおかわりあるからねぇ。食べたきゃどんどん食べていいよぉ」
「そうなのか!?……じゃ、おかわりなのだー!!」
夜も更けり、食堂として利用しているログハウスにてミリムを招いた
しかし、ミリムの想像以上の食べっぷりよ。
今日は俺の好きな固めの米だったけど、ミリムの口にも合ったようで一安心だ。
「こんな美味しいものハチミツ振りなのだ!」
「ハハ……今朝の話じゃねーか」
「ハチミツ……ミリム様が興味を持たれたあれは、蜂が集めた蜜だったのですか?」
「「 ギクッ 」」
「確かに。一瞬回復薬かと思ったが、そう言えば色が違ったな」
シオン……意外と目敏いじゃないの。
「……まぁね。ハチミツには薬効もあるから、回復薬という認識もあながち間違いじゃないよねぇ」
「へぇ……」ジィィィ…
「やらんぞ!これはワタシのものなのだ!」
「とりませんて……」
「砂糖っていう甘味料の代わりに用意したんだけどな、あんま多くは採れないし、抽出も今のところ俺にしか出来ない。……お披露目は量産の目処が立ってからと思ってたんだよ」
「シュナは俺の分のハチミツを舐めてみぃ」
「!……美味い、です」
シュナ以外の面々にもハチミツの入った皿を回していく。
皆一様に、その甘さを堪能していた。
……ミリム、君は自分の分があるでしょ。
ベニマルごめん。独り占めしてたのは謝るから、取り敢えず席に座りなぁ?
「お砂糖は高級品なので食べたことがありませんでしたが、このハチミツほど甘いものなのですか?」
「ああ。砂糖があれば料理の幅が広がって、甘いお菓子なんかも作れるようになるぞ」
「「「( 甘いお菓子……♡ )」」」
ここに、スイーツ同盟が結成された瞬間である。
何故分かるのかって?
……この場の空気が物語ってるんだよぉ。
「……なるほど、理解しました」
「え?」
「先程賞味させていただいたハチミツの解析は既に完了いたしました。明日から蜂型
「はいシュナ様!……このシオン、一命に代えましても砂糖を発見してご覧に入れます!」
「うむ!頼んだのだッ!」
君らいつの間にそんなに仲良くなったの。
……まぁいいか、女子も三人集まれば仲良しグループを築くものだし、シュナもいい息抜きになるだろう。
そうして晩飯を食い終わり、シュナ達にミリムのお風呂の世話を任せている間、俺達男衆はミリムの今後の取り扱いについて協議していた。
とはいえ議題は明白だ。主に二つ。
「魔王ミリムのお世話係はリムルさんに一任するが、これに異議のある者はいるかぁ?」
「はいはいは〜い!俺自身が異議を唱えるっつーか反対に一票でーす!!」
「「「「「 異議なし 」」」」」
「ホイ、賛成多数ということで、今後のミリムのお世話係はリムルさんに押し付け―――任せることにしましたぁ。皆拍手ぅ!!」パチパチパチパチ!!!
「「「「「 おめでとうございます!是非とも頑張ってくださいリムル様!! 」」」」」パチパチパチパチ!!!
「あ"ぁぁ"ぁ"ぁぁも"ぉぉ"ぉ"ぉぉぉ少数派の意見も取り入れろよぉぉぉぉぉぉ!!」
「対案もなしに反対するなんてあり得ないからね?」
一つ目の議題はすんなりと片付いた。
しかし、二つ目の議題が難航を極めた。
「危険過ぎます!魔王ミリムと戦うなど……!!」
「御身にもしものことがあれば、ジュラの森大同盟はおろか、この
「何卒、何卒お考え直しを……!」
今朝ミリムと約束した
これに関して、反対意見が続出してしまった。
まぁ当然っちゃ当然か。
最古にして最強の魔王であるミリム・ナーヴァの伝説は俺も耳にはしている。
会話の節々から垣間見える知的で狡猾な面からも分かる通り、ミリムを見た目そのまんまの少女と認識するのはあまりに危険だ。
一見単純に見えるのは、問題解決の糸口を最短経路で見つけ出しているからにほかならず、知能面はむしろ魔王の中で最上位に位置することだろう。
強さと賢さを兼ね備えた脅威の魔王、それがミリムだ。
「既に決めたことだ。……俺はミリムと戦う」
「「「 っ、レイタロウ様!! 」」」
「それが、
『裁定者』を使い、件のお客さんの動向を探る。
あと一日足らずで来るのが一組と、数日かけて来るのが二組おり、その中には知り合いの顔もある。
「ともかく!……ミリムとの勝負は必ず引き受ける。そして俺が勝ちを掴み取る。これは決定事項だ。皆には無理やりにでも納得してもらう」
「「「 っ〜〜〜!! 」」」
「……やれやれ、言って聞くなら苦労はしない、か」
「悪いねリムルさん。世話をかけるけど……」
「ホントだよ全く。……フッ、でもアレだろ?」
「何が?」
「なんだかんだ言いながら、最後にはレイタロウさんだけが平然と立ってるんだろうな。きっと」
……フッ、言うようになったじゃないのリムルさん。
少し感じていた緊張が和らいだよぉ。
「敵すらもいなくなった地平で、孤独に自らの強さを呪う魔王。……こういう言葉が似合いそうだな」
「後ろを振り返れば大勢の配下がついてきているってオチ付きでねぇ。……ハッハッハ、そりゃあいい」
……ふぅ、ようやっと腹が決まったな。
周囲を見渡せば、なんとも苦笑気味に俺を見つめる配下達の姿がある。
そうさ、俺は一人じゃない。
「時には君達を頼ることもあるかもしれん。だが今は、俺を信じてついてきてくれ。……必ず、必ず君達を更なる高みへと至らせてみせる」
「「「 ……はっ! 」」」
そうとも、俺は選んだんだ。
魔王という名の茨道をな……。
ミリム「この町を覆う透明な結界……ワタシ以外の有象無象では視認することも出来ぬだろうな。無理やり壊そうにも結界を維持する結界石はどういうワケかこの町の住民達の魂に紐づいておるし、その住民を傷付けようとすると猛烈に嫌な予感がするのだ。……ま、ワタシを舐め腐るような輩はおらんし、ほぼ問題はなかろう!」