死闘を終えて……っていう話です。
<<< 閑話③ 鍛えるヨウム >>>
「っ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」
「どうしたヨウム君。もう終わりかね?」
「まっ、まだまだぁ!!」
「その意気や良し。だが気合いだけで俺は倒せんぞ」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ぽへぇ」
日が昇りきらない早朝。
暗がりの湿り気が顔を濡らす、一見すると夜かどうかの区別がつかないそんな時間帯に、俺ことレイタロウと英雄(修行中)のヨウム君は顔を突き合わせ、剣と剣でぶつかり合っていた。
「立てるかヨウム君?……少し休憩を挟もうか」
「っ、まだまだ!俺はまだやれるぜレイタロウさん!」
「……やれやれ、稽古続行だな」
でも出来りゃ無理はしないでもらいたいんだけど……。
お客さん相手にそこまで強く言うのもどうかと思うから、敢えて言わないけどねぇ。
普段滅多に握らない剣(あらかじめ刃先を潰してある)を片手で握り、ヨウム君の出方を窺う。
……ぶっちゃけそれだけじゃあ暇なため、ミリムとの激闘を終えてから現在に至るまでの空白期間を独白で報告しておこうと思う。
「ハァァァァ!!」
「よっと」
ヨウム君が袈裟斬りに振り下ろした剣を剣で受け止め、拮抗するフリをする。
皆が映像越しに観てくれた魔王ミリム・ナーヴァと激闘。
あれの反響は俺が思っていた以上に凄まじいものだった。
カバル達やフューズさん、そしてヨウム君率いる辺境調査団の面々の畏怖の念が籠もったあの眼差しを生涯忘れることはないだろう。
『(絶対仲良くしなきゃ……!!ベルヤードや国王をぶん殴ってでも説得しなきゃ国が滅ぶ……!!)』
特にフューズさんには悪いことをしたと思ってるよぉ。
黒髪と白髪の割合が元の8:2から6:4になっちゃうくらい老け込んじゃったし、なんつーかもう悟りを開いちゃったよねあれ。
乾いた笑みを浮かべながら必死であれやこれやしている様は、何とも哀愁を漂わせた。
『『『 あのポテチとかいう揚げた芋、また食べに来てもいいですか!? 』』』
カバル達、というかあの三馬鹿は相変わらずだった。
どんだけポテチが好きになってんねん。
俺への恐怖心よりポテチが勝ってしまったようだった。
『なんかとんでもねぇことに巻き込まれちまったけど、今からでも断れ……何でもないですごめんなさい』
せっかく『ヨウム英雄化計画』と銘打ってあげたのに逃げ出そうとするもんだから、俺は誰もいない場所でシャドーボクシングを始めることにした。
別に他意はない。
突然ヨウム君達の目の前でシャドーボクシングをしたくなったからやっただけだ。
拳速を徐々に速めていき、拳が大気を破裂させる頃には、ヨウム君は改めて快く引き受けてくれた次第だ。
それで現在に至っているってワケ。
「ハァ、ハァ、ハァ、クッソ、いくら何でも強すぎだろ!?」
「伊達に鍛えちゃいないからな。……剣を持つのは久しぶりだけどねぇ」
地面に尻もちをついて息を荒げるヨウム君。
数日前と比べて動きに無駄が無くなり、体力の消耗も抑えられていると思う。
剣捌き一つとっても効果的かつ効率的で、それでいて型にハマった分かりやすい動きのみならず変則的な小技も差し込めている。
剣士として一皮剥けたと言えるだろう。
息を荒げているのは、まぁ仕方ない。
俺自身が相手の消耗を強いる立ち回りをしているばかりに疲労困憊しているだけで、決してヨウム君が未熟というワケではないのだ。
むしろ、よく数十分も食らいつけたもんだ。
「流石ハクロウの修行に食らいつけるだけのことはある。誇れ、君は強い」
「アンタやミリムさんには到底及ばねぇよ。……あの世界崩壊レベルの戦いを見させられた後だと尚更だ」
「あれはもう頂上決戦と言うか……我ながら比較対象にしちゃあいけないと思うよ」
「それは分かってるんだけどよ。あんなスゲー戦いを見せられて何も感じるなっていうのはおかしな話だぜ?」
ふむ、もしかしなくても暴れすぎたようだな。
最後のマジ体内放射(笑)で大陸そのものを地獄に変えたのが良くなかったのかもしれん。
辺境調査団のメンバーの、修行に対する入れ込み具合の凄まじさを見るに、最強同士の戦いが周囲に与える影響は甚大であると認識を改めざるを得ない。
「強い
「……フッ、そうかい」
「でもまぁあそこまで強くなるのは現実的じゃねえから、俺は俺なりに理想の英雄像を形にしていくつもりさ」
そのほうがいいね。
俺にしか出来ないことがあるように、ヨウム君にしか出来ないこともきっとある。
今はそれが分からなくとも、きっと君なら見つけられるはずさ。
「……あ、日の出」
「やれやれ、まーた
小高い丘の上から顔を覗かせる日の光に照らされて、俺達はまた昨日とは違う今日を迎える。
取り敢えず、おはようと言っておくかな。
<<< 閑話④ 懐くミリム >>>
「レイタローウ!フレイを連れてきたのだぁ!!褒めてくれなのだー!!」
「ちょ、ちょっとミリム……!!」
「……なぁんで直接連れてきちゃったの?」
ヨウム君の朝練に付き合い、食堂で朝食を食べ終わった俺は、腹ごなしついでに町の中を散策していた。
そしたら、急にミリムが目の前に舞い降りたのだ。
……背中に翼を生やした美女をお姫様抱っこして。
「フレイ様ぁぁ!」
「おのれ魔王ミリム!」
「フレイ様をお守りしろぉぉ!!」
「やめなさいあなた達!!ここで暴れることは女王たる私が禁ずるわ!!」
「「「 フ、フレイ様……!? 」」」
後から続々とやってきた
流石は魔王なだけはあるな……なんて感心している場合じゃねえぞ。
「取り敢えずミリム、フレイさんを降ろして差し上げて。んで、なんでこの国に連れてきたか説明して?」
「分かったのだ!」
……何とも無邪気で愛らしい笑顔を浮かべながら、褒めて褒めてと視線で訴えている。
ミリムとの
彼女相手にも十分勝てる見込みがあると判断したからこそ正々堂々引き受けたワケだけど、ぶっちゃけ俺が正式な魔王になるための賛同者(魔王三人の賛同があれば魔王になれるという決まり)になってくれればそれで目的は果たせたと言える。
けどミリムは……吹っ切れてしまった。
「俺を正式な十大魔王として認めるっていう署名が貰えればそれで良かったんだけど、なんで当のフレイさんを連れてきちゃったの君?」
「フレイにはお前に対する借りがあったのだ!ついでとはいえ目の上のたんこぶであったカリュブディスを滅殺してやったのだから、直接赴いて礼を言うのが筋であろう?」
「それで一国の女王を拉致……連れてきちゃったワケね。なんか余計に敵をつくった気分だよぉ」
「レイタロウにしてみれば木っ端のようなヤツらなのだ!それよりもワタシを褒めてほしいのだぁ!」
フレイさんをチラリと見やる。
俺vsミリムの戦いは、クレイマンを除いた全ての魔王に送りつけた水晶を通じてリアルタイムで配信するようリムルさんとシエル先生に命じておいた。
であれば、当然フレイさんも観ているワケで……。
「(……い、生きた心地がしない、早く帰りたい……!)」
メチャクチャ
てゆーか今にも泣きそうだ。
「……フレイさん」
ビクッ!!「なっ、何かしら?」
虚勢を張れるその精神力は素直に尊敬しやす。
「
「な、何のことかしら?ミリムの勝手なんて今に始まったことではないでしょう?……そ、それはそうとお邪魔したわね!あなたが魔王になる分には全く異論はないし、何ならサインでも何でもしてあげるから、そろそろお
女性に怯えられるって、思ってたより辛いね。
心に
「……あー、そうだね。本当はサインを貰えればそれで良かったんだ。それで貸し借りはチャラってことで」
「そ、そう言ってもらえると助かるわ……」
「なーなー!頭を撫でてほしいのだー!」
「はいはい、よく頑張ったねー。でも次からはちゃんと言うことを聞いてねー?」
「はいなのだ!」
あの激闘以来、ミリムは甘えん坊娘となってしまった。
誰に対しても、というワケではない。
俺限定でミリムはメチャクチャ甘えてくるようになってしまったのだ。
でもそれは男女の関係ではないだろう。多分だけど。
どちらかと言うとそれは、父娘のような関係であると俺個人としては思っている。
俺が何かしている時は決まってベッタリくっついており、全く離れようとしないしね。
でも流石に風呂に入っている時くらいは一人にしてくれと思うワケだけど、そう言うと泣いて駄々をこねるため、仕方なくシュナを加えて三人で入ることもあった。
「……ハッ、あのミリムをここまで飼い慣らしているとは驚いた。全く大した男だよお前は」
「お、ギィ。元気かー?」
「「「「 ギ、ギィ・クリムゾン!!? 」」」」
ハーピーの方々が俺の背後を凝視して、物凄く慌ただしくしておられる。
……まぁそりゃそうだよな。
この世にギィなんて名前の奴は一人しかいないし。
特徴的な艶のある赤髪を見れば一目瞭然か。
隣に青髪のメイドを従えているし。
「……思っていたより遅かったじゃないか」
「ほぅ?俺が来ることを予期していたと?」
「誰が来ても同じ……と言いたいところだが、
「……ハッ!随分と事情に精通しているようだなぁ!」
不法入国者が偉そうにするんじゃねえ。
……なぁんて口が裂けても言えない。
閉じない結界って奴は、良いヒトも悪いヒトも区別なく迎え入れちゃうのが数少ない欠点だよなぁ。
「なら、わざわざ回りくどい真似をする必要もねぇわな」
そう言って、あっという間に俺に肉薄したギィは、見る者が見れば虜にされそうな悪い笑みを浮かべて口を開く。
……この
「魔王を勝手に名乗り、その因果を背負うと決めたお前の目的は何だ?……ミリムを下してまで、お前は何のために突き進む?」
……なぁんだ、そんなことか。
「この町を作り上げた皆を余すことなく幸福に導くため、これじゃ不足かな?」
「足らん。大いに足らんな」
「これは何よりも優先される至上の目標なんだがな……」
そう睨まんといてよ。ふざけてなんかナイナイよ?
「……まぁ強いて言うなら目下の目標はいくつかあるぞ。その内の一つは―――」
「……ひとまずの目標はこんなところかな?」
……あり、ギィが固まっちゃったゾイ?
おーい、俺の声聞こえますかぁ?
「勝った!ワタシ達の勝利なのだ!!」
うおっ、何急に喜んでんのミリム?
俺何か変なこと言ったかなぁ……。
五百年周期で訪れる自然災害もとい人災なんて迷惑以外の何者でもないし、サクッと処理したいのは当然の心理のはずでしょ?
「クックック……ハッハッハ!!やはりお前はひと味もふた味も違うなぁ!!」
「ん、そう?」
「そうだとも。……ミリム、フレイ」
「お前の言いたいことは分かっているのだ!その上でワタシの答えは決まっておる!」
「……ふぅ、仕方ないわね」
え、え、何、何なの?
急に改まっちゃって……。
「魔王ギィ・クリムゾン」
「魔王ミリム・ナーヴァ!」
「……魔王フレイ」
「我ら魔王三名は、現時刻をもってレイタロウ・スターモンズを魔王として認める」
「ゎ…ぁ……」
※悲報 俺氏、怒涛の勢いで魔王になった件について。
ひ、光の速さどころの騒ぎじゃねーぞ!?
「書面にして残す必要はないな。俺とミリムが認めた男にケチを付ける馬鹿はおるまいよ」
「一人おるぞ。……其奴はまだ何も知らんだろうがな!」
まぁ早めに魔王になる分には都合がいい……のかな?
なんかしてやられた感が半端ないけどねぇ。
「それはそうと二人とも、うちにお泊まりしていくか?」
「ほぅ?良いのかい?」
「うちはいつだってフルオープンだからね。住民の不興を買わなければ誰でもお客さんさ。俺の魔王祝いってことで宴を始めるつもりだが、どうだ?」
「……いいぜ。面白そうだ」
「私はちょっと……」
「フレイも参加すると言っておるぞ!」
「ちょっとミリムぅぅ!?」
とはいえだ、俺はもう自称魔王では居られなくなった。
俺は……正真正銘の魔王だ。
レイタロウは、魔王を名乗る者から魔王へと進化した!
クレイマンは、またしても何も知らなかった!