ヨウム君が出立するって話です。
「それじゃあレイタロウの旦那。行ってくるぜ」
「……行ってこい。ヨウム君」
「ヒューヒュー!カッコいいぞヨウムー!」
「茶化すなよリムルの旦那……」
ごきげんよう、俺はレイタロウだよ。
現在俺はリムルさんとともに、立派な装備に身を包んだヨウム君と、そのヨウム君が率いる辺境調査団の面々の見送りに来ていた。
勿論俺達二人だけではない。
スライムボディーのリムルさんを抱えるシオンや、ヨウム君達に修行をつけた鬼教官(文字通り)のハクロウも駆けつけてくれている。
「佇まいに隙が無くなりましたな。……短期間じゃが真面目に修行した成果と言えましょう」
数週間前まで殆どゴロツキだったヨウム君達は、装備を整えハクロウに預けた結果〝英雄〟と呼ぶに相応しい一団に仕上がった。
傍らに控えさせているユニコーンと戯れる姿なんてまさに英雄様って感じである。
これなら
討伐とかではなく、さながら説得して無害化して救済したみたいな感じで伝わると尚良い。
……二十万の軍勢だとか魔王種に進化しただとか、具体的なヤバさは伝わっていないだろうしねぇ。
「ロンメルのヤツは一足先にファルムスに戻ってる。オークロードとの死闘を盛りに盛って報告するって張り切っていたよ。……まぁやってもいない死闘を盛るっていうのも気恥ずかしい話なんだが……」
「いいんだよ。Win-Winなんだから」
「うぃん……?」
ヨウム君達には今後、
彼らの名声が高まればそれだけ、協力した俺達の評価も上がるという寸法だ。
「なんだ、もう行くのか?」
「あ、ああ、ミリムさん」
そこにふらっと現れたミリムに、ちょいとビクついて答えるヨウム君。
余談となるが、俺との激闘を繰り広げたミリムの魔国内での人気は爆発的に急上昇していた。
リムルさんとシエル先生に頼んで録画してもらったバトルシーンを万人向けに編集してもらい、後日中央広場にて住民視聴会を催した結果だ。
夢オチエンドも含めてその反応は凄まじく、ミリム様のママになり隊とかレイタロウ様の奴隷になり隊とか色々な
「ワタシが稽古をつけてやったのだ!頑張るのだぞ!」
「オ、オス……」
まぁ結論から言って、ヨウム君は俺のみならずミリムにすら修行をつけてほしいと頭を下げていたらしい。
魔王だと事前に分かった上でだ。並みじゃない。
……で、結果はお察しである。
むしろ即死にしなかったことを褒めるべきだろう。
うん、ホントに成長したよヨウム君は。
「つーかミリム。お前一体どんな修行をつけたんだよ?」
「フッフッフ、よくぞ聞いてくれたリムルよ!このワタシに頭を下げたヨウムの度胸と覚悟を汲み、此奴が死なないギリギリの地獄を味わわせてやったのだ!まず火の海の中に飛び込ませて―――」
「ごめん、聞いた俺がバカだったわ」
「なぜなのだ!!?」
俺に全力以上の本気をぶつけきった経験が体に染み付いていたのか、以降のミリムは本当に手加減、というか威力制御が卓越になっていた。
相手の死線を見極める眼力が飛躍的に高まったと言うべきだろうか、例えばヨウム君はどこまで追い詰めても死なないのか、逆にここまでやるとコロッと死んでしまうというそういう境界線が鮮明に視えるようになったらしい。
スキルの位階はそのままに、
ついでに
「まぁまぁミリム。……実を言うとね、君のために作らせていたプレゼントがようやく出来上がったんだよ。製作工房に置いてあるから一緒に見に行くかい?」
「わぁぁぁ……行く!一緒に行くのだ!!」
そうして仲良く手を繋いでガルム達の働く工房へ足を運ぶ俺とミリム。
「ああして見るとマジで父娘にしか見えねぇな……」
「そうだねぇ……」
こうして、割と締まらない感じでヨウム一行は旅立っていったワケだ。
お見送りできなかったのはゴメンねぇ。
ところ変わって、此処は
天然の源泉から管を通して流しており、景観の良さと両立していることも相まって外国の旅商人からの評判も上々な保養場でもあった。
「しかし驚きましたよ。……魔王ミリムのみならず、魔王ギィ・クリムゾンや魔王フレイまで訪れていたとは」
「まぁな。来た時は俺だって驚いたよ。しかもミリムはここに住むとか言い出したしな」
……つーか
「ハハハ、気持ちは分かります。ここは実に居心地がいい」
「気に入ってもらえて何よりだ……で、フューズさんはいつまでここに居るんだよ?」
「いやぁ色々とあるんですよ。……決して魔王が滞在していたから気が抜けなかった分を取り返しているワケじゃないですよ?」
「はい、本音をいただきましたー」
まぁフューズさんも気の毒ではある。
宴会場で酒を楽しんでいたはずが、その両隣にはギィとフレイさんが居たワケだから、まるで生きた心地がしなかっただろう。
今や彼の黒髪と白髪の割合は2:8くらいになっている。
「てゆーか、ヨウム英雄化計画に協力してくれるっていう話はどうなったんだよ?」
「あ、それは問題ないですよ。既に手の者に伝えて仕込みは終わらせておりますから」
なるほど、仕事は早いと。
「……レイタロウ殿が正式に十大魔王に選出された時点で私の腹は決まりました。シズさんの命を救ってくださったことも含め、私はレイタロウ殿とリムル殿を信用いたします。……うん美味い!」
……まぁ信用してくれているのが一目で分かる満喫ぶりだよな。満喫しすぎとも言うけど。
「いやホントに、ブルムンド王国の近場にこのような保養場が出来たのは喜ばしいことです」
温泉上がり、和風な一室にて日本酒風の酒をグビッと
「……往復路の危険さえなければ通いつめるのですがね」
仕事帰りのスーパー銭湯かウチは?
……しかし、ふむ、往復路の危険か。
「……実を言うとだな、道はもう半分は出来てるんだ」
「……は?」
「うちの王様、レイタロウさんがな?……どうせ周辺国家とは仲良くする予定なんだから、街道敷設を前もって進めておけっつって、うちのガイガンオーク達に命令してな。町づくりと並行してもう半分は済ませちゃったんだよ」
「なっ……いや確かに、よくよく思い出せばブルムンド方面に街道が途中まで作られていた気がする。……まさか我々との交易を視野に入れて?」
「主にはそうだ。だがブルムンドだけじゃないぞ。四方から訪れる様々な国の人間達との交流の場として、この国を更に発展させたいと思っているんだ」
「そ、そんな大規模な国家事業を……!?」
「これでもまだ序の口さ。街道の敷設と同時に〝魔導列車〟っつー俺発案の乗り物の建造に取り掛かっている真っ最中でさ、これが実現すれば大量の荷物や人員を高速で輸送可能になるんだよ」
「……もしや、ブルムンドも一枚噛ませてもらえると?」
「レイタロウさんの描く絵図では、ドワルゴンやブルムンド、イングラシア、サリオン等の要所に魔導列車の拠点となる〝駅〟を点在させて、そこに各国の物資や特産品を積み込んで各地に分配する役割を持たせる予定なんだと。そんで、ブルムンドにはその物資の集積拠点になってもらいたいんだってさ」
「(そ、それほどまでの遠大な計画を……!?)し、して、我が国が負うべき負担は!?」
「レイタロウさん曰く、街道の敷設はうちが全部負担するんだって。代わりに街道の各所に設置する予定の宿屋の宿泊代等の利益はうちで全部独占させてもらうと。そんで魔導列車のほうだけど、これは近いうちに起こる
「いざこざ……?」
「天魔大戦だよ。名前くらいは聞いたことあるだろ?」
あ、フューズさんの頭がショートした。
しかし、様々な理不尽に晒されたことで耐性が出来たのか即座に再起動を果たす。
《告。個体名フューズはエクストラスキル『超速演算』を獲得しました》
こんな形で欲しくはなかっただろうな。
南無三。
「……分かりました。そこまでしていただけるのでしたらこのフューズ、持てる人脈を駆使してこの町の喧伝に尽力いたしましょう……!」
「お、おう、よろしくな」
ドワルゴンへの道もほぼ出来上がっているし、森の中はレイタロウさんの管理下だから、街道整備は当然こちらでやるつもりだったんだけど……。
「まーまーまーまー……」トクトクトク…
「おーっとっとっと……」
……なんだか思ってた以上に響いたようだな。
魔物の俺が普通のことを言ったから、物凄く善い魔物に見えたのかもしれん。
完全に酔い潰れて爆睡するフューズさん。
……ミリム並にチョロかったな。
「リムルぅ!
「わっ!!?……なんだミリムか」
ビックリした〜俺の独り言を聞かれたのかと思ったぜ。
「レイタロウがワタシのために作ってくれた〝ドラゴンナックル〟という
マジでシュシュっとジャブをかますんじゃありません。
とはいえ、実際にミリムの力が抑えられているのがよく分かる。
普段のミリムの力を〝百〟とするなら、ドラゴンナックルを付けた現在のミリムは〝二十五〟程度に力を抑制できている。
拘束器具として見ると、破格と言って良い。
「ワタシの
「……何を破壊したのかは後で聞くとして、その吸収されたエネルギーはどうやって処理するんだよ?行き場をなくして破裂したりしないのか?」
「よくぞ聞いてくれたのだ!このドラゴンナックルに吸収されたワタシのエネルギーは、幸運を呼び込む運気に変換されるのだ!普段はこのドラゴンナックルに溜められて、使いたい時に頭で唱えればワタシやワタシの周りにいる者に運気が分け与えられる仕組みとなっているのだ!」
「……この町を覆う〝四方の王の陣〟の結界システムを参考に作ってみたモノさ」
「お、レイタロウさん」
余剰分の
何とも素敵な仕組みだが、なるほど確かに、住民の幸福な感情を魔素に変換して存在を維持する〝四方の王の陣〟に似ているな。
「気に入ってくれたのなら何よりさぁ」
「ありがとうなのだレイタロウ!大好きなのだぁ!!」
やれやれ、ホントに父娘みたいだなこの二人。
ミリムにとってのレイタロウさんが父親なら、俺はホントに近所の
すると母親は……シュナってことか?
この三人が並ぶとマジでそうとしか思えない自分がいる。
「やれやれ……これから忙しくならなきゃいいけど」
……あれ、そう言えば何か忘れているような?
うぅ〜ん、何だったっけ?
シズさん「い、言い出しにくい。あの子達の安否を確かめてほしいだなんて……」