呑兵衛の相手って大変!って話です。
……やぁ皆、元気してるぅ?
俺はちょっと元気ないかも……。
「タハァァァァうめぇぇぇぇ!!」
「ははは……豪快に飲むねぇ……」
「そりゃあレイタロウ!!……こんな旨え酒を前にしてお前、シラフで居られるかってんだぁ!!」
臭え。カリオンの息の酒臭さよ。
隣に座る俺の気持ちにもなってもらいたいもんだ。
「ああ幸せ……♡」
魔王カリオン率いるユーラザニア御一行を我が国に招き入れたその日の夜、新築した迎賓館で歓迎の宴を催したのだが……エラく酒の受けが良かった。
三獣士の一人に数えられているアルビスさんが
「おい誰だ樽ごと渡したのは!?」
「え、マズかったッスか?」
「お前かぁぁぁ!!」
「グッハァァァァ!!?」
リムルさんのアッパーカットがゴブタの顎に炸裂する。
……スライムボディーのままアッパーカットを繰り出すとは、リムルさんも随分器用になったもんだ。
「おいアルビス!テメー俺様の分の酒まで飲んでんじゃねーぞゴラァ!!?」
「違いますー。この樽十個はゴブタ殿が私めに用意してくれたモノですー。カリオン様と言えど渡しませぬー」
「テメーおいこら!俺様は魔王だぞぉ!寄越せぇ!」
「なんのぉ!戦争ですわぁ!!」
あーあーあー。身内で戦争始めちゃったよぉ。
飲み水でならいざ知らず、酒で戦争起こすバカは流石に初めて見るなぁ。
そして意外なまでのアルビスさんの善戦ぶりよ。
カリオンの猛撃をひらりひらりと
舞い上がってんな。色んな意味で。
「スフィアさん。上司と同僚を止めたほうがいいんじゃないかって、ええ――――――ッ!!?」
リムルさんの絶叫が室内に響く。
シオンから腹パンを貰いながらも、回復薬のおかげであっという間に快復したスフィアちゃんが〝虎〟の姿で酒をちびちび舐めてるからね。しょうがないよねぇ。
というか、これ完全に虎車を引いてた虎そのものだねぇ。
「この姿って他人に見せていいもんなのか?」
「特段見せてはいけないものではないのですが……
猿の獣人であるエンリオさんが、何とも恥ずかしそうに現在のスフィアちゃんをそう評する。
「ぺろぺろぺろぺろ……おかわりあるか?」
「はい。少々お待ちを」
まぁそれだけ心を許してくれている証左でもあるしねぇ。
酒はどれだけ飲んでもいいけど、せめて飲まれないように気を付けてねと心の中で祈るのみだ。
それはそうとカリオン、いい加減諦めなさい。
もうアルビスさんに殆ど飲まれてるゾイ。
「あぁ……気付けばリンゴの
リムルさんの悲嘆の声が虚しく室内に木霊する。
……そういえばそうだねぇ。
一応、在庫全部持ってこさせたはずだけど、中身の入った樽を見つけるのが難しいくらいに空の樽がそこかしこに量産されていた。
ちなみに、カリオンはそんな空になった樽に抱きつきながら爆睡している。
やれやれ、皆飲み過ぎだよぉ!
「あまり、量は造れませんの?」
「あ、すまんすまん。客人に振る舞うのがメインだから気にしないでくれ」
「果物はまだ試験的にしか作ってなくて、殆どが森からの恵みに頼っているのが現状なんだ。……酒はあくまで嗜好品なのでな、全員に行き渡らせるのはまだ数年先の話なんだよ」
独裁者気質な俺があれこれ急進的に物事を進めたとして、それに追い付けないモノもあることだろう。
食関連などがその最たるものだ。
特に甘くて美味しい果物を作ろうとしてもそう簡単に出来るはずもなく、努力を重ねているがどうしても壁にぶち当たってしまう。
だが、食を疎かにするようでは豊かな国とは言えない。
食に関係する予算は、これからも多めに付けていくつもりである。
「……では良い考えがございます。我がユーラザニアの果物をこちらに回すよう手配いたしましょう」
「えっ、いいのか―――」
「「 ………(ΦωΦ) 」」
「……なるほど」
それで酒を作ってこちらにも寄越せ、と。
アルビスさんとスフィアちゃんの欲望が詰まったジト目から、なんかもう色々と悟ってしまった。
「……で、割合は?」
「細かいことは任せる!オレは美味い酒が飲めればそれでいい」
そんなこと言うと9.9:0.1くらいの割合にしちゃうぞぉ?
まぁ冗談はさておき、雑務はこちらに丸投げか。
物々交換となると妥当なラインが難しいなぁ……。
うん、専門家に任せよう。そうしよう。
「ゴブタ。商人詰め所にいる代表を呼んできてくれ。その腹踊りが終わってからでいいから」
「は、はいッス!」
「レ、レイタロウ様、これは一体……!?」
彼は
俺やリムルさんが名付けたワケではないが、中々に優秀な商人であるため、この国で商売することを許している。
「ユーラザニアから果物類の輸出を提案してもらったもんで、君には是非ともその見極めをしてもらいたい」
「えぇ!!?」
「うちとユーラザニアの双方が損しないように交渉を纏めてくれればそれでいい。頼んだぞコビー君」
「えぇぇぇぇぇぇ!!?」
案外、交渉なんて酒の席で纏まるものなのかもね。
他国との交流、その始まりとしては中々上出来だ。
「……それでは、我が配下達を頼んだぞ」
「おぅ。俺様の配下も宜しくな」
使節団の到着から数日が経ち、カリオン達は
そして、この数日で色々な口約束を交わした上で正式な調印を執り行い、盟約を結ぶに至ったワケだ。
主には二つ。
一つ目はお互いがお互いに戦争を吹っ掛けないという不戦協定。
そして二つ目が果物類の輸入と酒類の輸出、その他品目の輸出入諸々と言ったところか。
特に二つ目に関しては、コビーが粘り強く交渉を重ねてくれたおかげで中々旨味のある内容に仕上がっていた。
提供された果物類を
本来ユーラザニア側が魔国連邦に支払うべき酒類の代金は
……
ぶっちゃけ俺には殆ど分からん。
この手の交渉事など全くしたことが無かった故に。
でもコビーがメッチャ頑張ってユーラザニア側と交渉していたのはよ〜く伝わった。
今後次第だが、取り敢えずはこれでいいだろう。
そしてこれが一番大事なことだが……。
互いの国から数十人規模の配下を出し合って使節団を編成し、文化や技術の違いを体感してそれを習得することを目的とした遠征計画をやってみないかと俺のほうからカリオンへ提案してみたのだ。
カリオンは、それはもうノリノリで了承してくれた。
……魔国連邦の技術を盗み見る絶好の機会だと声高に言っていたが。
こちらから出す使節団の団長はリグル、副団長を生産部門トップのリリナに任せることにした。
「湯が出るのはどういう仕組みなんだろう?」
「それは刻印魔法ってヤツさ。こうして魔晶石を内蔵させた蛇口のハンドルに熱の魔法を刻印することで……魔力を持つ者が捻れば水がお湯になるってワケさ」
「おぉ、流石ドワーフの職人……!!」
「(本当はリムルの旦那の案だけど……)」
正確に言うと『
素材なんかは俺がその都度〝創造〟することで補填しているから、お金は全くかかっていない。つまりゼロ円!
「グルーシス。お前さん……ほかのヤツらみたく工房とか見学しなくていいのか?」
「俺はいいんだよ。レイタロウ様のお役に立つようにってフォビオ様の命令だからな」
「グルーシスさん見回り行くッスよー」
「おぅ。今行く」
工房の見学や技術研修は部下に丸投げし、彼自身は優れた戦闘能力をもって国境警備などの要職に就いている。
ついでに、ヨウム君とも剣を交わし合った間柄だ。
だからか妙に仲も良い。
「どれ、俺も手伝っ―――」ポンッ
「おぬしは剣の修行じゃ」
「……はい」
哀れ、ヨウム君はハクロウに捕まってしまった!
ヨウム君の 目の前が真っ白に 染まった!
更に数日後、こちらから送った使節団も帰ってきた。
会議室内で意気揚々とリグルが報告を行っていく。
「獣人達の強さは流石の一言です。一兵卒に至るまで徹底的に鍛え上げられていました」
「ふむ……やはりカリオンの影響力が大きいようだな」
国家運営をする上で、一番とまではいかずとも大事にしなければならないことがある。
それは人民からの支持。
要は〝この王様になら支配されてもいい!〟という圧倒的なカリスマを有するということだ。
俺の場合、歴史上の独裁者みたく国家の意思決定を俺個人で下しつつも、それら全てが住民の利益と幸福に繋がるよう配慮しながら立ち回ることでどうにかこうにか支持を盤石なものとしている。
おそらくカリオンも似たようなものだろう。
この王様のもとで働きたい、強くなりたい、死んでも構わないと、そう思わせた時点でカリオンの勝利である。
「そのためか王宮には贅が凝らされ、一般市民の住居は質素なものでした。……ですが悪い意味ではなく、住民がそれを望んでいるようです」
「ほぅ……」
魔物の唯一絶対の
残酷と思う反面、随分と分かりやすい連中だと感じた。
「それからお土産を貰ったのですが……是非レイタロウ様とリムル様に召し上がっていただきたいとのことです」
そう言って卓に並べられたのは、甘い芳香を漂わせる色とりどりの果物類。
リンゴやメロン、マンゴーらしきモノまである。
隣に座るリムルさんは、手近にあったリンゴを手に取りガブリと
「……甘い!」
「でしょう?」
俺も試食してみるべく、フォークを手に取ってマンゴーの果肉の一部を器用に切り取って掬い取り、口に運ぶ。
「……素晴らしい美味さだ」
「だな!……ホントに素晴らしい品質だ。これって天然物なのか?」
「何代にも渡って改良を重ねたそうです」
「それは……凄いな。これで作られた酒はさぞ美味しくなることだろう」
元いた世界と比べても遜色ないレベルじゃないか?
う〜ん美味い!
「リリナ」
「はい。生産管理部門から次回の使節団に加わる者を選出いたします。是非ともこの素晴らしい技術を我が国にも取り入れましょう!」
「使節団派遣に掛かる経費を早急に再計算せよ。これは年単位の一大プロジェクトとなるからな。金や物資に一切糸目はつけん」
「はっ!ありがとうございます!」
よしよし。
これで果物を安定して生産することが出来れば、それを目当てに色んな旅商人や自由人がこの国に金を落としていきやすくなる。
甘味の需要と供給が一体となれば、それだけでウチは更に豊かな国となるだろうねぇ。
「うむ、その働きに期待する。……では、俺とリムルさんはドワルゴンへ行く準備をするから、後の取り決めは君に頼んだぞ。リグルド」
「はっ!このリグルドに万事お任せください!」
リグルドの自信に満ちた返事に鷹揚に頷き、俺とリムルさんはその場を後にする。
正直なところ、
ドワルゴンに国賓として赴かなくちゃいけないし、何よりブルムンドとの正式な国交樹立を果たさねばならない。
……そして、それらのタスクを
ブルムンドとの外交をリムル一人に任せるってよ。
その思惑とは如何に!?