ヤベー奴がヤベー奴を解き放ったって話です。
その日、世界に激震が走った。
天災級モンスターである暴風竜ヴェルドラの
三百年前に封印されていたとはいえ、そこは天災級モンスター。
消滅と見せかけて、別の地方で新たな脅威として再誕していないとも限らない。
しかし、消滅の報告より二十日が経過するに到って、西方聖教会が暴風竜ヴェルドラの完全消滅を宣言したのである。
『ハッハッハ、どうしたリムルよ。その程度の〝水刃〟とやらでは我の鱗一つ剥がせんぞ?』
「クッソー!ツギコソハッ!!」ビュッ!!
「……随分仲良くなったもんだ」
ちなみに俺ことレイタロウは、少し離れた岩場に腰掛けて静かに観戦しているよ。
……戯れていると言うには、かなり物騒だねぇ。
小首を傾げるように頭の位置をズラした直後、リムルさんの放った水刃と呼ばれるウォーターカッターみたいな技が俺の頭のあった地点を通過し、後ろにあった岩場に深い深い傷跡を刻み込む。
常人が食らったら大怪我どころの騒ぎじゃ済まないな。
「チッ、コレデモ、クラエ!!」プシャァァァ!!
俺のことなど気にしていないリムルさんの攻勢は続く。
……っと、ここに至るまでの道程を説明しながら試合観戦したほうがいいかな?
そのほうが風情があっていいしねぇ。
『甘いわ!』
さっきの水刃と同様、ヒラリと身を捩ってソレの直撃を避けるヴェルドラさん。
ヴェルドラさんの後ろにあった岩場にソレが直撃し、ジュワーっと音を立てながらグロテスクに溶け落ちていく。
……ちなみに、今リムルさんが放ったソレは、元来リムルさんに備わっていた能力ではない。
ソレとは、最初に遭遇した巨大な黒蛇の能力のことだ。
こちらを見るなりいきなり威嚇してきたため、強烈な回転のかかった蹴りを黒蛇の頭部に炸裂させ、何もさせないまま仕留めることに成功したワケだけど、そこで突然リムルさん宛てに『大賢者』からアナウンスが入ったのだ。
要約すると、強くなりたくば喰らえ!……だった。
『クァ―――ハハハハ!どうしたリムル、狙いが単調になっておる……ぐえっ!?』
「ハッハッハ、ヒッカカッタナバ〜カ〜メ〜(笑)」
『クッ、これは……粘糸か!!?』
リムルさんがこっそりそこら中に張り巡らせた粘糸に面白いぐらい簡単に引っかかったヴェルドラさんを見つめながら、これまでの
リムルさんが捕食したもの、それは当然黒蛇だけに留まらない。
ムカデの化物や大きな蜘蛛、吸血蝙蝠、甲殻トカゲなどと言った多様性に富んだ凶悪な魔物を仕留め、そのたびにリムルさんに捕食させて戦力の増強を図っていたのだ。
「オラッ、麻痺ヲクラエ!!」プシュッ プシュッ
『あっ、ちょま、流石にそれは……ウギギギ!?』
麻痺毒をスプレーみたく噴射し、ヴェルドラさんを痺れさせるリムルさん。えげつないぜ。
『熱源感知、毒霧吐息』『麻痺吐息』『粘糸、鋼糸』『吸血、超音波』『身体装甲』……魔物だけでなくスキルすらも多様性に富んでおり、思わず俺もニッコリしたものだ。
……ニッコリしたら二人にドン引きされたけどね。
「レイタロウサ〜ン。勝ッタゾー!!」
「……そうだね。リムルさんの勝ちだ」
ヴェルドラさんの上で嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね回るリムルさんを見やり、今回の
『まっ待てレイタロウよ!我は傷一つ負っておらぬ。全く身動きは取れないが、我が本気を出せばこのくらい屁でもないわッ』
「身動きが取れないだけでも十分負けだよ。それに最初に取り決めたじゃない。リムルさんと
『ぐぬぬ……』
双方耐性をOFFにした上で、ヴェルドラさんは本気を出さないという縛りを科し、どちらかが戦闘不能になった時点で
今のところヴェルドラさんは20戦中12勝3敗5分と勝ち越しているが、ここ最近のリムルさんの成長ぶりに押されて三連敗してるって感じだな。
「にしてもリムルさん。あの蝙蝠を捕食してから随分と経つけど、発声が本当に上手になったねぇ」
「ヘヘン、ソレホドデモアルナ!」
ちなみに、蝙蝠型の魔物を捕食すれば超音波系統のスキルが手に入るかもと考察したのは、ほかでもないリムルさんだ。
超音波を発する器官を発生器官に転用できないかと考えたリムルさんの発想力には当時恐れ入ったものだ。
『フンだ!……我はもう寝る』ジュポンッ
明らかに不貞腐れた声色でそう言ったヴェルドラさんは、その体色を黒からリムルさんと同じ青に変色させ、直後ドロリと元のスライム状に戻ったかと思えば、リムルさんの体に吸い込まれるように一体化し、沈黙してしまった。
「……なんだかんだリムルさんの胃袋の中を気に入ってるのかな?」
「サァ、ドウナンダロウナ?」
ヴェルドラさんに胃袋の中に入ってみない?って提案した日のことを思い出すなぁ……。
普通に断られる可能性も考慮した上で、俺は俺なりにヴェルドラさんをこう説得したのだ。
『リムルさんを、俺達の手で強くしてみない?』
『えっレイタロウさん?何を言って……』
要は育成ゲーム的なノリだ。
今は最弱のスライムを、俺達の手でどれだけ強く聡く逞しく鍛え上げられるかの究極の暇つぶし。
俺が外部から、そしてヴェルドラさんが内部からリムルさんに刺激を与えることで、最悪独り立ちしてもやっていける程度の強さを早期に身に付けることが出来るだろうと考えたのだ。
え、俺をリムルさんに捕食させる案?
……考えてなかったワケじゃないけど、俺を食うと腹を下すだけじゃ済まない予感がしてさ、俺の中でお流れになっちゃったのよ。
『クアハハハハ!……面白い、ぜひやってくれ。リムルに我の全てを委ねる!』
『『 え、いいの? 』』
でもまさか、快諾されるとは思わなかったけどねぇ。
ヴェルドラさん曰く、また独りぼっちで暴れまわるよりも俺達の傍で楽しく馬鹿騒ぎをして適当にリムルさんを鍛え上げたほうが面白そうなんだって。
『……それに、リムルとともにお前を負かすというのも面白そうだ』
と同時に、ちょっと面倒なことになった。
ヴェルドラさん曰く、俺の今の強さは下手な魔王以上とのことで、そんな俺をリムルさんが超えるまでを当面の目標に据えることで話は纏まってしまった。
まぁそれはともかくとして、リムルさんの胃袋の中での生活は割と快適らしく、リムルさんと視覚を共有する形で外界の様子を観ながら、気まぐれに分裂(リムルさんのスライムボディーを二分割して片方に自分の自我を移している)して外界に干渉しているのが現状だ。
さっきみたいにリムルさんと戯れたりして、用が済んだらリムルさんの体に再び戻ってヒキニート生活を送ると。
このくらいの程々の関係性が良いのかもしれないね。
「……ヤレヤレ、面倒ナコトニナッチャッタナァ」
「でも悪くはないでしょ?……最低限自衛できるようになれば、色んな国や街を見て回れるんだからさ」
「俺達、明ラカニ人間ジャナイカラ門前払イヲ食ラウカモシレナイゾ?」
「……もしそうなったら、俺達で国を立ち上げるのも悪くないかもしれないな」
「ソレッテ面倒クサクネ?……俺ハコタツニ丸マッテゲームヲヤリナガラポテチガ食ベタイヨ」
「その夢を自分の立ち上げた国でやってみるのが、案外一番手っ取り早いかもしれないよぉ?」
「エー、ソウカー?」
アハハ〜と笑うリムルさんと横並びに歩きながらその場を後にする。
取り敢えず、この洞窟で目を引くような魔物は大体リムルさんの胃袋の中に収まってしまった。
もうそろそろ、洞窟の外に出てもいいかもしれないな。
それに―――この洞窟内部で危うく武装した人間と遭遇しそうになったのだ。
男二人に女が一人。……ギルドマスターとか口走ってたから、多分冒険者とかそういう類の輩なのだろう。
仮に敵対しても余裕で制圧できる自信はあるが、ここで人間と敵対するような真似はしたくなかったため、敢え無く身を潜めて通り過ぎるのを待ったという次第だ。
ここに引きこもっているよりかは、広い世界を見て回りたいと言うのが本音なんだけどね。
余談となるが、隠密
秘密の対価としてリムルさんにも伝授してあげたよ。
でもまさか、その隠密技術を粘糸にも纏わせられるとは思いもしなかったよ。
「あぁそれと……『気』って言うか魔素だっけ?がさっきからダダ漏れだよ。社会の窓を開けながら街中を歩いているようなもんだから気を付けなぁ?」
「エッマジデ!?……ウォォ恥ズカシイィィィ(/////////)」
案外リムルさんは、ごく短期間のうちに急成長を遂げる生粋の天才肌なのかもしれないねぇ……。
本人にやる気があるなら、武術を伝授するのもアリかもしれないなぁ……。
「……レイタロウサンハ、社会ノ窓ドコロカパンツモ履イテナイジャン。モシカシテ〝裸族〟……?」
「……リムルさんの出す糸って、絹糸とかも含まれる?」
《解。粘糸、鋼糸の派生に成功しました。絹糸を生成いたしますか? YES/NO》
「「 ……〝YES〟 」」
せめて、せめて
裸族は御免だぜ。……割とマジで。
???「エンジェル☆スタイィィィィィィル!!」
感想・評価いただけると幸いです。