俺の話を聞けえ〜♪って話です。
一夜明けて、今日は二国間の友好宣言の式典である。
武装国家ドワルゴンの王ガゼル・ドワルゴと横並びに立つのは、ジュラ・スターモンズ連邦国の国王を務める俺ことレイタロウ・スターモンズ。
両者が対等な関係であることを強調するように、威風堂々な態度を崩さないように心がける。
既に書面上では友好国なワケだが、国民に向けて俺達は仲良しだよぉということをアピールする場であるワケだ。
つまり、俺はいま
……落ち着け落ち着け。
何も必要以上に気を張る必要はない。
この程度の人だかり、元いた世界に比べれば少なく可愛らしいものだ。
しかし、こういう時に限って思い出すなぁ……。
元いた世界での、俺を取り囲むファンの皆の表情。
その顔には、歓喜や好奇、感謝、羨望、好意等々……。
……色んな感情が出力されていた。
しかし、昔と今とではまるで状況が異なる。
かつての俺は〝王〟と呼ばれていたが、今の俺は自ら〝王〟を名乗ってこの場に立っている。
成り行きなどでは決してない、俺自身が選び取った修羅の道なのだ。
上等。
俺にとって、これは日常の延長に過ぎない。
一つ違うのは、これが俺の意志で選んだ王道であること。
覚悟を決めて選んだ覇道であること。
ならば、気負う必要すらない。
「……お初にお目にかかる、ドワルゴンの住民達よ。
ジュラ・スターモンズ連邦国、略して
ジュラの大森林全域を治める盟主として、そして、人間と魔物が制約なく交われる〝人魔共栄〟を掲げる者として、その橋渡しとなる国家を築き上げるべく日々邁進させてもらっている。
ここドワルゴンは、まさに我が国が理想とする〝人魔共栄〟を成し得た国家であり、私の目標そのものだ。
こうして友誼を得ることが出来たのは我が国にとっての幸運であり、先駆者たるガゼル王と、彼が治めるこの国から学び、そこに我が国ならではの特色も併せた、種族で差別されることのない、誰もが笑い合える理想の国を作り上げていきたいと思っている。
この見た目から連想されるとおり、我が国には魔物が多数所属している。……しかし、他者を思いやり、慈しみ、困っている者には手を差し伸べる、その心根はこの場にいる誰とも何ら変わるところはない。
君達の認識を正すものではなく、むしろその認識こそ本来持って然るべきものであることは重々承知している。
……だが、ここで敢えて〝王〟としての立場を排し、一個人として君達に願うことがあるとするならば、我々という〝未知〟をただ恐れ忌み嫌うのではなく、一歩、いや、半歩歩み寄って少しでも間近に感じてもらいたいのだ。
そこに在る未知は果たして脅威足りうるのか?
その鉤爪は人を傷付けるためにあるのか?
その目は獰猛と侮蔑、悪意に染まりきっているのか?
その口は人を喰らうために開かれたのか?
……分からない、分かりたくない、そのような〝未知〟に対する恐怖こそが排斥を生み、差別を生み、埋めがたい軋轢を生んでしまっているのが現実だ。
だからこその半歩。
どちらか一方が少しでも譲歩し、手を差し伸べるまではいかずとも、温かい言葉を一つでもかけてくれたなら、我々はその誠意に必ず応える。応えてみせる。
そうして互いが半歩歩み寄れば、それは確かな〝一歩〟となる。たかが一歩、されど一歩の歩み寄りが、共栄という名の小さな火となり、やがてそれは周囲へと燃え広がって〝人魔共栄〟という名の大火となる。
……〝人魔共栄〟と謳うとおり、これは魔物である我々が一方的に歩み寄ったからといって実現するものではない。どちらか一方の意思を無視した歩み寄りなど、恐怖と疑心しか生みかねないからだ。
だからこそ、私は今ここで、君達に半歩歩み寄りたいと思う。この巨躯と強面を間近に感じて恐れを抱くか、それとも半歩歩み寄ってくれるか……。
私は決して焦らない。君達の意思に、期待を込めて委ねるとしよう。
……この言葉が紛れもない私の本心であることをここに誓い、私の挨拶と代えさせていただく」
そこかしこから拍手が響き渡る。
拍手を送る観衆の表情に、侮蔑の色は見られない。
見た感じ、反応は上々といったところか。
……うん、点数を付けるなら大体八十点は固いんじゃなかろうか?
何とか乗り切れた気がするゾイ!
「
「さい……ですか」
「民相手に必要以上に
「……はい」
「相手のほうから来るのを待っているようでは統治者としてはまだまだだ。素晴らしいものとは自然にやってくるのではなく、自ら掴み取りに行くものなのだからな」
ガゼル王の辛辣な批評を受けてガックシ肩を落とす。
いやー、あれでも結構改稿に改稿を重ねた自信作だったんだけどなぁ……。
最初の原案はリムルさんが作ってくれたんだけど、それのあまりの短さと謙りっぷりに、これは流石に一国王として無いわぁと思って内容を増量し、昨日のシオンの言葉に触発されて二度目の改稿をしたのにぃ……。
厳しいぜホント。
これが心からの忠言であると分かるからこそ辛いのよ。
「……次回以降に活かすとしよう」
「精々励め。風格は立派なのだから、後は経験だけだ」
なんかエールをもらえた気がするので、今回はこれで良しとしよう。
それに、これからとっても大事な用事がある。
……この旅の中で溜まりに溜まったシュナの欲求を満たさねばならないのだ。
これは、夫である俺の責務にして特権である。
……むふ、むふふ、むほほほほ……。
いやぁ〜たまりませんなぁ〜この瞬間!
さてさて、ドワーフの国と言えば忘れてはならない場所があるんだよなぁ〜♪
俺のスライムボディーがいつにも増して震えまくるぜ!
「リムル様リムル様……!」
「っ、ゴブタ……!」
待ち合わせ場所にてゴブタとその部下である男衆が音もなく近付いてきた。
よしよし、誰にも
「女子に気付かれずにここまで来れただろうな?」
「勿論ッスよ!」
よぉ〜しよしよし!
首尾は上々だぁ!
「いざ約束の地へ!」
「はいッス!」
夜の蝶の軌跡に
「「「「 いらっしゃ〜い!! 」」」」
「待ってたわよスライムさ〜ん!」
Foooooooooooooooooooooooooo!!!
来ました
夜の蝶舞う蠱惑の園!
その魅惑で俺の心を絡め取ってぇ〜!!
「お姉ちゃん達元気だった〜?」
「もちろんよー」
「ねぇねぇ〜だっこしてい〜い?」
「バブ……どうぞどうぞ!」
「スライムさんご一行いらっしゃいました〜!」
なにボーッと突っ立ってるんだよゴブタぁ!?
早くお姉ちゃんをゲッチュしないと、ぜぇ〜んぶ俺に取られるぜぇぇぇぇぇ!!?
「相変わらず可愛い♡」
「ちょっと大きくなった〜?」
「この角がプニプニして面白〜い!」
「随分ご無沙汰だったじゃない。……私達のこと忘れちゃったのかと思った!」
「まさかぁ!お姉ちゃん達のことはずぅ〜と頭の中にあったよぉ〜?」
「「「「 キャー可愛いー!! 」」」」
「ぐへ、ぐへへへへ……」
楽園は変わらず此処にあったのだ。
俺は今、それを強く確信している。
……それはそうとゴブタ、硬直してないで早く来いよ!
「いらっしゃいボウヤ達。……君もスライムさんのお友達?」
「好きです」
「「「「 オォ―――ッ!! 」」」」
「あら、ありがとう」
ゴブタって、時々凄いよな。
……あっさり
「お席へどうぞ、スライムさん」
そう言って声をかけてくれたのは、以前ベスターに困らされていたこの店の
「お連れさん達はもう出来上がってるわよ」
「お、リムル殿!」
「よう旦那。さきにおっ始めてるぜ」
ママの指差すほうを見やると、そこには既にカイジンやその弟のカイドウさん、ドワーフ三兄弟が席に座ってお姉ちゃん達から酌をしてもらっていた。
てかズルいぞお前ら!
抜け駆けしてんじゃねー!!
「やっぱり
「人型はお気に召さなかったか?」
「そういうワケじゃねえが……どうにも一致しなくてな。昨日正体をお披露目された時なんてメチャクチャ驚いたからな。しかし今夜はありがとうよ。俺まで招待してもらって」
「いーのいーの。カイドウさんには世話になったしな。それに今夜の代金は全部レイタロウさんが払ってくれたからさ。本人は所用で来れないけど、その分楽しまねば」
「え、マジで?」
マジマジ。
どうやらカイジンのほうにあらかじめ金を渡していたらしいけど、名目としては街角アンケート的なものだ。
今日の演説はどのくらい受けが良かったのか、新王レイタロウさんの評判の是非はどうなのかとか色々聞いてくるように言われているんだよねー。
「だからさ、今夜はゆっくり兄弟で語り合ってくれよ」
「何言ってんだ旦那!こんな場所で野郎と話してどーする!?」
「そうだぞリムル殿!お姉ちゃん達に失礼ってもんだ!!」
「あ、はい」
似てないと思ってたけど、やっぱ似てるわこの兄弟。
豪快に酒を
「キャー!ゴブタちゃんすごーい!」
「そッスかー?全然余裕ッスよー!」
ゴブタはゴブタで何やってんだ?
椅子をひっくり返して脚に掴まって逆立ちとか、お前は一体どこの曲芸師だよ。
その時だった。
最初にゴブタ達に声をかけた妙齢のお姉様が、逆立ちしているゴブタの脚の上に酒の入ったグラスを置いてしまったのだ。
「あちょ、これは流石に危ないッスよ……!」
「……そのグラス、とっても高価なものなの。だから落としちゃダメよ。もしも割ってしまったら……そうね。ゴブタちゃんの体で支払ってもらおうかな」ペロッ
「ッ〜〜〜!!!」ブシ―――ッ パリンッ!! ガタンッ!!!
ゴブタ……この助平め。
もしかしなくてもお前、叡智な妄想を膨らませたんだろ?
目鼻耳から血を噴き出しおってからに……。
あーやだやだ、こういう助平がいるから客の質の低下が嘆かれるんだよね!
もっとこう……紳士に振る舞わなくちゃ!
「キャー!?ゴブタちゃーん!?」
「ちょっとしっかり!!冗談だからね!?」
「誰か布巾……!」
とはいえ、これ以上長居するとゴブタが失血死しそうだ。
用事はさっさと済ませるとしよう。
「ママさんちょっといーい?」
「なぁにスライムさん?」
ぺっぺと吐き出したるはリンゴの
「これ、よければお店に置いてみてくれない?」
「まぁこれは……」
「ウチで作った新商品。……ガゼル王にも卸すからあんまり沢山は渡せないんだけどね。お得意様限定で出してみてよ」
「あらまぁ!……でもいいの?」
「一人一杯のサービスで幾らまでなら出せるかリサーチしてほしいんだ」
「あらあら、スライムさんは
そりゃあね、俺は
あれやこれを売り込んで外貨を獲得するのも、俺の業務の一つなワケなのよ。ホンット大変!
「……あっそうだ。今日のレイタロウさんの、ウチの王様の演説どうだった?」
「……そうねぇ。私は好感を覚えたかな?」
「それってどんな?」
「種族で差別されない、誰もが笑い合える国ってところで引き込まれて、お互いに半歩歩み寄れば一歩になるっていうところに思わず納得しちゃったわ」
「うんうん」
「……私も長く生きてきて、色んなことがあったわぁ。とても嬉しかったこと、とても悲しかったこと、悔いのない選択をしたこともあれば、悔いしか残らなかった過去もあって、それはもう色々よ?」
「……そっか」
「昔、私のほうから手を差し伸べれば救えたかもしれない子もいて……そんな時、半歩歩み寄るっていう彼の言葉を聞いてハッとしちゃったわ。なんでそんな当たり前のことに思い至らなかったんだろうって」
「それは……辛いことを話させちゃったね」
「うぅん、そんなことは無いわ。……そういう当たり前のことを教えてくれる誠実さが、人を惹きつける魅力だと思うの。その点、彼は満点だったわ」
……ちょっとしんみりしちゃったな。
若干センチメンタルな気分になっていると、ママさんは手ずから作ってくれたカクテルみたいなものを差し出し、笑顔でこう答えてくれた。
「私も見てみたいわ。人や魔物や…エルフ、そんな垣根のない皆で笑い合える国を」
……この場にレイタロウさんがいないのが惜しまれる。
そういう言葉は、俺なんかよりも彼に言って聞かせてほしいものだ。
「……ありがとさん」
レイタロウさんの代わりにお礼は言っておく。
そして、この言葉をレイタロウさんに繋がせてもらおう。
「おいおい、しっかりしてくれよアニキ。……いくらなんでも飲みしゅぎだじぇ〜〜〜ヒック!!」
「おみゃえこしょ〜〜〜ヒック!!」
ったく、この酔っ払いドワーフどもめ……!
まるでゾンビの行軍みたいになってんぞ。
「ほらゴブタ!お前もしゃんとしろ!毒耐性持ちなんだから気合いで何とかしろぉ!!」
「ちょっと……貧血で無理ッス……」
ったくよー!
どいつもこいつも、これが極秘(主に女子連中に対して)の作戦である自覚が足りてないんじゃないのか!?
これからこっそり宿に帰るってのに、これじゃあバレちゃうかもだろぉ!!?
「お手伝いしましょうか?」
「ああ、すみませ―――シオン!!?」
何ということでしょう。
そこには、如何にも私怒ってます!と言わんばかりにプンプン頬を膨らませて仁王立ちするシオンの姿が。
手には剛力丸が握られている。
お、おおお、おおおお俺のスライムボディーがいつにも増して震えまくるぜ(震え)
「シ、シ、シ、シオンさん!?……なぜここに!?」
「何故って、ゴブゾウが全て教えてくれましたので」
「なっ、ゴブゾウお前、どうして……!?」
「出がけにどこに行くか聞かれたで、お答えしたダス」
何してくれてんだお前えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?
「酷いですリムル様……置いていくなんてあんまりです!」
「い、いやだって、女の子が行って楽しい場所か分からないしさ。……ね?」
「でも黙って行くなんて酷いです!」
「うっ……」
それを言われると何も言えねえ。
……これ、0:10くらいで俺が悪いね。
どうしよう、どうしよう……。
ここで言い訳をすれば逆効果だ……。
ここは……言葉
「すみませんでした!もうしません!!」
スライムの可愛さで情に訴えかけて!
キュン…「やっぱりです!シュナ様の言うとおりでした!」
「え、何が?」
「リムル様は十中八九頭を下げて自らの非を詫びます。それは即ち、私の手料理を朝昼晩一週間食べ続ける覚悟があるということだと仰られていたのです!」
「へぇ……えっ!!?」
なっ……なっ……!!?
「カイジンにお金を渡して送り出したレイタロウ様も、今はシュナ様と二人っきりでおりますよ。確か……〝レイタロウ様との間に十人子供を設けるまでは絶対許しません〟と仰っていたような?」
は、ははは……何だよそれ……。
まるっきり天国と地獄が分けられちまったじゃねーか。
思えば俺が演説の原案を出した時……。
短すぎる。
情に訴えかけすぎる。
って、ボロクソに酷評していたな……。
レイタロウさん、あんたの指摘は正しかったよ……。
「あの……三日に負かりませんかね?」
「私の手料理一週間コースを楽しんでください!」
「はい……」
シュナ「今夜は寝かしませんよ……?」
レイタロウ「……ウッ」