シオンの手料理から逃れるぞ!って話です。
……。
………。
…………。
……………まただ。
眠る必要がない体になって久しいが、最近意識を手放すと必ず彼らの夢を見る。
元気いっぱいに駆け回る五人の子供達。
あまりにも鮮明で、見てきたような光景。
でもこれは、俺の記憶じゃない。
これは……シズさんの記憶だ。
『……イングラシア』
「「 大丈夫?……スライムさん 」」
「……イングラシアに行かなきゃだな」
俺の顔を覗き込む二人のシズさんを見て、スライムさんこと
今まで後回しにしてしまったが、今度こそしっかりと向き合わなくちゃいけないな。
「……いやー。でもまさか、飯を喰って意識を失うとは思わなかったよ」
「つ、
「お水いる?」
「あ、ありがとうッス。シズさん……」
ドワルゴンから帰国して数日が経った。
現在俺とゴブタは、夜遊びの罰としてシオンの手作り料理をいただいている真っ最中だ。
でもおかしいなぁ〜?
俺ってばメチャクチャ進化を重ねて強くなったはずなんだけど、なんでシオンの手料理を喰って気絶するんだろ?
俺、
「シュナ様に漏らしたのはゴブゾウなのに、なんで自分まで……!」
「馬鹿野郎!お前がヤツを教育してなかったせいだろうが!」
「さぁさぁ!ドンドンおかわりしてください!」
……それはそうとシエル先生。
イングラシア王国って、何処にあるか分かる?
《解。
ブルムンド王国と言えば……フューズとあの三馬鹿が所属する国だったっけ?
《はい。その通りです
……うん、決めた。
今日だ、今日出発しよう。そうしよう。
決してシオンの手料理から逃れたいから今日出発することを決めたワケではないのだ。
「ご馳走さん」
「リムル様!おかわりありますよ!?」
「あー大丈夫!もう腹いっぱい!……それよりレイタロウさんと幹部の皆を会議室に集めてくれよ」
「?……はい、分かりました」
……ふぅー、ギリギリおかわり回避できたぜ!
ベニマルやリグルドなどの主要な幹部が会議室に集まり始め、室内は何とも賑やかな雰囲気を醸しだしていた。
レイタロウ様ではなくリムル様から話を切り出すとは随分珍しいと言って不思議がる者さえいる。
まぁそうだろうな。
いつもあの人の独断専行で話が劇的に進んでいたからな。
「……待たせたな」ボロボロ…
「お待たせいたしました」ツヤツヤ
そして、レイタロウさんとシュナが室内に入った時点で、主要なメンバーは全員揃うこととなった。
……なんかレイタロウさんが若干
シュナのお腹が昨日見た時と比べて劇的に膨らんでいるように見えるのも、絶対気の所為だ。
この数日の間に何があった!?
……などという野暮な質問はしない。
俺はクールなスライムだからな。
「……今日皆に集まってもらったのはほかでもない。俺は一外交官として、人間の国に行こうと思う」
これは前々からレイタロウさんに言われていたことだ。
俺は、外交部門のトップとして人間の国々を周り、俺達の国は人間に対して友好的であるという宣伝をしなければならないのだ。
「ドワルゴンとは違い、魔物を受け入れてくれるとは限らないからな。今回は人間に化けてコッソリ潜入するつもりだ」
だからこそ今回は大所帯ではなく、俺を中心とした超少数精鋭で旅をするつもりでいる。
……それを口にする前に、俺から見て左手側の席に座るリグルドが苦々しい表情で苦言を呈してきた。
「お話は分かりました。……ですが、リムル様がお一人で旅立たれるというのは流石に……」
「左様じゃな。万が一もあり得ますぞ」
「コッソリと言っても一人旅じゃないぞ。影に潜んだランガは連れて行くし、それに―――」
「……俺の分身体を一体、リムル様との連絡役に回しておく。何かあれば皆にもすぐ知らせよう」
分身を得意とするソウエイを連絡役にすれば、情報伝達の面で困ることはないだろう。
それに、もしものことがあれば……。
「……レイタロウさんやミリムほどじゃないが、俺もそこそこ強くなったと自負しているからな。今なら剣術だけでもガゼル王に引けを取らないぞ」
「おぉ……!」
「流石ですリムル様!」
「左様ですな。リムル様はまこと成長なされた」
ま、何かあればすぐに戦線離脱できるように準備は整えているし、不覚を取られない限りは大丈夫だろ。
「ということだから安心してほしい。……案内役も頼むつもりだしな」
「案内役?」
「あぁ。今ゴブタに―――」
「……あー、少しいいか?リムルさん」
おっと、今までダンマリだったレイタロウさんが急に手を挙げてきたぞ?
「なんじゃらホイ?」
「まずは悪いな。話の腰を折ってしまって」
「いいよいいよ。それより何か話があるんだろ?」
「うん。その人間の国ってのはブルムンド王国を経由するんだったよねぇ?」
「そうだよ」
「……リムルさんから呼び出しがあったから
何とも気怠そうな態度で話を続けるレイタロウさん。
一体
「ゴブタには悪いことをしてしまったが、あらかじめカバル達への依頼は済ませてある。……依頼内容はズバリ、リムルさんの案内役だ」
「おお、仕事が早いな。ありがとよレイタロウさん」
「なぁに、お安い御用だよ。……連中も恩を売って美味しいモノにありつきたがっていたからね。あと、いつでも出立できるように準備も整えさせたよ」
カバルやエレン、ギドとの四人旅。
……ぶっちゃけ心配だ。
何ならシズさんも心配していたが、こればかりはどうしようもないだろう。
俺をスライムと知ってなお友好的に接してくれるブルムンド関係者なんて片手で数えるほどしかいないからだ。
「人間の国に入るのに我ら魔物が付き添っては、かえって余計な騒動を起こしかねませんし……」
「……こればかりは致し方ないか」
どうやら皆、納得してくれたようだ。
不安を覚えつつも全員が首肯し、俺のコッソリ旅が許可される。
「くれぐれもご注意くださいね?」
「ああ、分かってるよ」
「リムル様にもしものことがあれば我らは……ッ」
「十分気を付けるよ……」
やれやれ、俺もしかして子供扱いされてる?
この国の王じゃあるまいし、たかだか序列二位のスライムが外出するくらいで皆大げさだな……。
「頼んだぞソウエイ」
「無論だ」
「……あともう一ついいかな?」
「「「「 っ、はっ! 」」」」
ん、どうしたのレイタロウさん?
俺にまだ何かやらせるおつもり?
「ガビル、ベスター。……例のアレを」
「はっ!承知いたしましたぞ!」
「かしこまりました」
あれ、あれあれ、二人とも会議室から出てどしたん?
……あ、戻ってきた。
さっきまで手ぶらだったはずが、二人の両手には俺の顔が彫られた薬瓶が握られていた。
「手ぶらで送り出すには勿体ないと思ってね。どうせならもう一つ、リムルさんに仕事を頼んでおきたいんだよ」
「回復薬の販路拡大、だな?」
「そ。……ベスター、説明よろしく」
「承知いたしました。……では僭越ながら、私のほうで簡単に説明をさせていただきます」
ベスターの説明を聞き、俺はたまらず感動を覚えた。
ガビル達
そして、ガゼル王との交渉でウチから
曰く、彼らが開発チームに加わるのなら、少なくとも一日三本の完全回復薬作成は固いとのこと。
ここで復習しておこう。
シエル先生曰く、欠損した部位すら再生可能な万能薬だ。
これを特定の状況で二十分の一に薄めたものが
どんな大怪我も治癒することが可能だが、欠損した部位の再生は出来ない。
そして、完全回復薬を百分の一に薄めたものが
怪我をある程度治癒する効果があり、冒険者の持つ回復薬といえば通常こちらを指す。
……そんなことを考えていると、リグルドの隣に座っていたカイジンからある指摘が成された。
「完全回復薬を売るのは難しいぜ、リムルの旦那。その薬は性能が良すぎるんだよ。気軽に使用できるもんじゃねぇし、妥当な値段を付けたら冒険者には手の出ねぇ金額だ」
ふむ……現実はRPGのようにはいかない、か。
体力を全回復させるアイテムなんて、物語終盤にでもなれば必須レベルになるのにな。
「下位回復薬は冒険者にとって最も馴染みのある回復薬だ。今更どこぞの特産品だと周知させるのは難しいだろう」
逆に、一番効力が薄い下位回復薬を売り込んでも、それを特産品として売り込むには苦しいワケだ。
そうなれば、一番妥当なラインはやはり……。
「となると、特産品として一番有力なのが上位回復薬。こいつは駆け出しが買うような代物じゃねえ。ベテランの冒険者が万一に備えて持つような薬だ」
ベスターが左手に持っていた上位回復薬を指差したカイジンは、言いたいことを言い終えたと言わんばかりにその視線をレイタロウさんに移す。
暗に話を振られたレイタロウさんは、特に気負った様子もなく口を開いた。
「……必然的に、ターゲット層は経済的に余裕があるそこそこの金持ちということになる。そこでリムルさんには、
「……分かった。是非とも任されてもらうぜ」
俺もそこはかとなく考えていたことなんだよね。
いいさ、命令ということでなら遠慮なく実行できるぜ。
行く行くは規模を十倍にも百倍にもして、国庫を潤せるように頑張るぞ!
「「 スライムさん!……私も同行していいかな? 」」
「え、シズさん……?」
次回、シズさんも同行するってよ。
乞うご期待……!