シズさんも加えて冒険するぜ!って話です。
俺ことリムルの外遊に関する会議が終わり、あらかじめレイタロウさんの〝瞬間移動〟によって連れてこられていたカバル達とも簡単な話し合いを済ませ、その日はお開きとなった。
明日の早朝、日の出とともに出発だ。
……そして、そこにはシズさんも含まれる。
「……ごめんねスライムさん。無理を言っちゃって」
「え、何が?」
その日の夜、ワイワイガヤガヤと賑やかな食堂にて牛鹿のシチューを口いっぱいに頬張りながらその美味さを堪能していると、隣にちょこんと座るシズさんからふと謝罪の言葉が漏れ出てきた。
分からない人のために改めて説明すると、現在のシズさんは炎の上位精霊イフリートの肉体を得て転生した、紛れもない元人間の精霊である。
レイタロウさんとともに半ばヤケクソ気味に手を尽くした結果としてそうなっており、副作用なのかどうかは知らないが、肉体が双子の小人みたいに分裂して小型化してしまったものの、精神・魂魄共に悪影響は見られなかった。
まさに奇跡とも言えるだろう。
「商売のためとはいえ、あなたはこれからとっても危ない橋を渡ろうとしている。魔物であるあなたが人間の国に足を運ぶということはそういうことなの」
「……そうだな。多分そうなんだろうな」
「全ては、私のワガママのために……」
「シズさんだけのワガママじゃないよ」
「「 っ…… 」」
シズさんのお願いはあくまでキッカケに過ぎないからな。
そこからドンドン話を広げていったのは俺達、というかレイタロウさんだし、俺はここ最近の忙しさでそのことを忘れかけていたし……。
「リスクを承知の上で俺達は人間の国に行くんだ。これはもうシズさんだけの問題じゃないからさ」
「そうよそうよぅ!」パリパリッ
「俺達仲間じゃねーかシズさん!」サクボリッ
「水臭いことは無しでやすよ!」バリバリッ
「「 っ、皆……! 」」
いつの間にか背後に回り込んでいたエレン達が口々にポテチを頬張りながらシズさんを励ます。
っていうかポテチを食いながら言うことじゃねーだろ。
「あれ、シズさん泣いてるぅ?」
「……ポテチの欠片が目に入ったんだよ!もう!」
「「「 アハハハー! 」」」
報酬の前払いとして、それぞれ薄塩、コンソメ、チーズ味のポテチ(大袋)をレイタロウさんから渡されていたが、このペースだとあっという間になくなりそうだな。
やれやれ、どうしようもない連中だ。
……だけど、こいつらとの冒険を楽しみにしている自分もまた居るんだ。
そして、その日は訪れた。
「よし、と……」
俺のトレードマークとも言える青色のコートを身に纏い、その上から白い
クロベエ力作の無銘の刀もしっかりと腰に提げる。
おっと、忘れちゃならないのが抗魔の仮面だ。
魔力の扱いと人間への擬態に長けてきたという自信はあるが、スキルによって呆気なく見破られる可能性も大いにあり得る。
その点、抗魔の仮面を被っていれば俺が
……そうシエル先生が結論付けてくれたワケだ。
「行ってらっしゃい。リムルさん」
「おぅ。行ってくるぜレイタロウさん、皆」
見送りにわざわざ来てくれたレイタロウさんと、俺を心配して集まってくれた幹部やら住民やらで町の入り口はごった返していた。
「「「「 リムル様ぁ!! 」」」」
「「「「 行ってらっしゃいませ!! 」」」」
「……早く行ったほうがいいよ。あんまりまごついてるとシオンが付いてくるかも」
「そ、それは……そうだな、早く行こう」
付いてこられて手料理を振る舞われたら、それこそ外遊しに行く意味が無くなるな。
さっさと行こう、そうしよう。
思い立ったが吉日と言わんばかりに、カバル達の立っている方向に視線を向ける。
三人とも、準備万端といった様子であった。
「よろしくな、三人とも」
「旦那は俺達に付いてきてくれればいいぜ!」
「ど―――んと任せちゃってよねぇ」
「あっしの本領発揮でやすね!」
フッ、頼もしい限りだ。
……トラブル体質でなければ、な。
「それはそうとシズさん。俺の胃袋の中はどんな感じだ?窮屈か?それとも……」
『うぅん、いたって快適だよ。むしろスライムさんのほうこそ大丈夫?私を取り込んで具合悪くない?』
「俺?俺は別に何ともないよ。むしろ元気ハツラツ!」
シエル先生が俺の胃袋の中の住環境を整えてくれたらしいけど、俺じゃどんな感じか分からないしね。
ってか、俺の胃袋って部屋かなんかなの……?
「……シズさんを食べちゃったけど、大丈夫なのぉ?」
「食べたんじゃなくて外界から隔離しただけさ。俺が取り込んでいる間はシズさんの身の安全は保証するよ」
「大丈夫だってエレン!あのリムルの旦那だぜ!?」
「そうそう、そこいらの有象無象なんかよりよっぽど信用に置けやすよ!」
「ちょ、私は別に疑ってなんかいないわよぅ!」
「……そろそろ出発するけどいいか?」
カバル達を催促しつつ、俺は俺で初めて行く人間の国に思いを馳せていた。
いやー、楽しみだなぁ。
「なぁ。ひょっとして―――迷ったのか?」
「「「 ギクッ!!! 」」」
進むこと数時間。
スライムの体は疲れ知らずだし、森の中を歩くのは色んな発見があって楽しいが……。
どうやら俺達は、迷ってしまったらしい。
だって同じ鳥の巣を何度も目撃してるんだもん。
流石の俺でも気付くわ。
『ハハハ……ちょっと危なっかしいよね』
うん、シズさんの苦労が偲ばれるな……。
「すんませんすんません……!!」
「いーよ。少し戻れば工事作業員用の現場宿舎があるから、今夜はそこに泊めてもらおう」
そう言って踵を返し、ゲルド達が普段寝泊まりしているログハウスを目指して歩を進めた。
レイタロウさんが強力に纏め上げている
何せ単純に広いんだぜ、この森。
東京ドーム何個分に相当するんだよってくらい広いんだから、そりゃあ手付かずな場所もあるワケで……。
「……悪いなゲルド二世。寝床の空きはあるか?」
「ええ。皆リムル様のご来駕に喜んでおります」
「ハハハ……」
本当は寄る予定じゃなかったんだけど、案内役が人間だから彼らのペースにも合わせなきゃならない。
俺相手に
「……なんであんなところで迷ったんだろ」ショボーン…
「ちょっと自信喪失だよねぇ……」
「あっしなんて道に関してはプロなんでやすよ?……お二人以上にショックでやす……」
「まぁそう落ち込むなよ。誰にだって失敗の一つや二つくらいあるだろ?」
『そうだよ。気持ちを入れ替えなきゃ!』
「「「 そうだけど……ハァァァァ 」」」
俺に頼られていたばかりに、迷子になったことがよっぽど堪えてしまったのだろう。
普段は遠慮なくガツガツ食っているであろう美味しそうな料理に、一向に手を伸ばすことなく意気消沈していた。
「もしやこれが原因ではないか?」
そこに救いの手を差し伸べたのは、ゲルド二世であった。
おもむろに大袋を取って、中に入っていた
「周囲に幻覚作用をもたらす花だ。こいつのせいでオレ達の工程にも若干の遅れが出た」
「あ―――ッ、幻妖花!!薬の原料にもなるすっごい貴重な花なんですよぅ!」
……オッケー、シエル先生。
幻妖花を原料にした薬の効能を教えて。
《はい!お任せください
幻覚剤……〈催眠系魔法〉の触媒に使用。そのまま服用すると幻覚症状に陥る。高い中毒性が有ります。
幻惑の香水……〈催眠系魔法〉の効果の補強(威力30%上昇)、〈催眠系魔法〉への
……ふーん、なるほどね。
「樹木の伐採の前に採取したものが倉庫にまとめてある。欲しければ持っていって構わん」
「「「 あ、ありがとうご――― 」」」
「一人につき十株ずつな」
「「「 ……そ、そんなぁ!!? 」」」
四の五の言うんじゃねえ。
三人いれば三十株で、十分利益が取れるだろ。
……俺のほうはさりげなく五十株も貰っておいたが、序列二位の特権を振りかざしてブーイングをかますカバル達を無理やり黙らせてやった。
さぁ〜てと、胃袋で解析解析ぃ!
そして翌朝。
カバル達をログハウスの前に整列させ、これから俺がやろうとすることを告げた。
「こっから先は幻妖花に惑わされないためにも、進路上の森は喰ってくことにする!」
「「「 ……喰う? 」」」
「キレイに伐採していくワケじゃないから、後の整備は頼んだぞ。ゲルド二世」
「御意」
そうして俺は、進路を妨げるように生い茂っている森林を前にして、自分のスキルを発動させる。
「旦那、森を喰うってどういう―――ッ!!?」
カバルの言葉には、今は敢えて耳を貸さない。
口で教えるより、見てもらったほうが早いからだ。
……俺の足元より、蛇のように
足元より伸びたる影は瞬く間に進路上にある森の
そうすると、あら不思議。
影を喪失した森の木々が片っ端から消失していき、まるで最初から森など無かったと言わんばかりに綺麗な更地が出来上がった。
「これは……思ったよりキレイに伐採できたな」
「お見事にございます。リムル様」
ゲルド二世の褒め言葉もそこそこに、カバル達を見やる。
……三人とも、完全に呆けてしまっていた。
「ほら、呆けてないで行くぞ?」
「あ、お、おぅ!」
「(レ、レイタロウさんもだけどぉ……!)」
「(リムルの旦那も大概ヤバくないでやすか……!?)」
こうして、俺を先頭に旅は再開されたのだった。
ある時は、
「なんで魔物の巣をつっつくんだよカバル!!」
「す、すまん、つい出来心で……!」
「フンッ!!」
「え、えぇぇぇ!!?ワンパン……!!?」
「……群れが壊滅したでやすね」
またある時は、急峻な崖を命綱無しで下ったり……。
「いやぁ!いやぁ!絶対離さないでリムルさんンンン!」
「離さないから早く下れ!後がつっかえてるんだよ!」
「いやぁぁぁ下見えたぁぁぁ!!?」
「ったく……ホラよ」
「「「 ……え、浮いてる? 」」」
またある時は、仲間に勧誘されたり……。
「リムルさん!ずっと一緒に冒険しましょうよ!」
「エレンの浄化魔法をすぐに習得するどころか本人よりも使いこなしてるし、マジで旦那にはウチのパーティーに入って欲しいぜ」
「寝ずの番もしてくれるし、あっしは楽が出来て、まさにウィンウィンってヤツでやすね!」
「ギド、お前はもうちょっと働け」
嬉しい申し出だったが、今は俺も責任のある立場だ。
統治関係はレイタロウさんに丸投げしているとはいえ、俺にも任されている仕事が山のようにある。
……でも遠い将来、
そういえば、
俺が隠居を考える頃、
……………。
……ミリムもこんな感じだったのかもしれない。
「……リムルの旦那、どうしたんだ?」
「っ……」
「もうすぐブルムンド王国だぜ?」
「……ああ」
大事な友人を作っても先立たれてしまうのならば、俺なら孤独を選ぶだろうか?
……分からない。
慌てて答えを出す必要もないか。
「いま行くよ」
今の俺には、その問いに答えるだけの経験が足りていないのだから。
遠目に町が映り込む。
到着、ブルムンド王国だ。
しばらくリムル視点で物語が進みます。