ブルムンドに到着したぜ!って話です。
小国ブルムンドの王都を進む。
町並みは古風だが、堅実な印象を受ける。
道行く人も明るい雰囲気を纏っていて、暗く落ち込んでいるという空気は見当たらなかった。
当初恐れられた魔物による被害が出なかったことが影響しているのだろう。
辺境にある国らしく、街中であっても武装した者達が歩いている。
ああいうのも
鑑定解析で視ると、武器防具の質の平均としては圧倒的に劣った性能のものが多い。
彼らの腕前もそれに比例してさほど強そうでは無かった。
しかし、久しぶりに感じる街中の空気は、俺の心を浮き立たせてくれる。
露店で売り出している炙り肉の串を買い、食べながら歩く。
何の肉か不明だが、意外に美味い。
「仮面のお嬢ちゃん、焼きたてのパンはいかが?」
……というか、鑑定すれば何の肉か
別のモノを鑑定するためだ。
それはタレ。
こういうタレなんかも研究の役に立つのだ。
ちょっとズルいが、食べたらレシピが理解るのである。
必要な材料なんかを心のメモに書き込んでおく。
「一個サービスしといたよ!」
……うん、ここは間違いなく良い国だ!
食糧の備蓄に余裕があるのが、まさにその証拠と言える。
「……夢で見た子供達に会うため?」
「あぁ。実際に存在する子供達だし、シズさんがずっと気にかけていたワケだしな。そのためにも俺はイングラシアに行かなくちゃならん」
「へぇ〜」
エレン達とともに適当な飯屋で昼食を摂りつつ、イングラシアとそこにいるであろう五人の子供達の存在について打ち明けることとした。
そんなに短い付き合いじゃないし、こいつらが信頼できる連中だってことは十分分かったからな。
ハーブの入った香り高い鶏肉スープを口に運び、ウチで食べるスープとの違いをゆっくりと噛みしめる。
「……あ、だったらぁ、うちのギルマスに紹介状書いてもらうといいかも」
「フューズに?」
「イングラシアには
「そうそう!」
「……そうなのシズさん?」
『うん、名前はユウキ・カグラザカ。二人で協力して自由組合の設立に携わったの。明るくてとても良い子だよ』
「ふーん」
シズさん相手にも上手く隠し通せているみたいだし、ユウキ・カグラザカは演技力に長けているようだな。
俺経由でレイタロウさんの策略が露呈するような事態は絶対に避けなければ。
「……んじゃ、午後はフューズんとこに案内してくれ」
「おぅ!」
……この鶏肉のスープ美味しいな。
帰ったら早速シュナに教えるとしよう。
「……あ、そうだ旦那。イングラシアに行くなら
「え、なんで?」
自由組合へ行く道中、カバルからそんな言葉を投げかけられる。
……なんで急に冒険者にならにゃならんのだ?
「ほら、冒険者って町の外での活動が殆どでしょう?自由組合と提携している国なら身元証明されるのよぅ」
ははぁ……つまり運転免許証みたいなものか。
ブルムンドにはこの三人の連れって扱いで一緒に入れたワケだけど、イングラシアは大国だっていうし、入国審査も厳しそうだ。
「んじゃ、一応取っとこうかな」
「そのほうがいいわよぅ!」
「そうと決まれば早く行こうぜ!」
あっという間に自由組合ブルムンド支部に到着した。
石造りの重厚そうな建物である。
そして、この世界では珍しく五階建てである。
……というか、三階以上の建物は初めて目にした。
ドワルゴンの国内では地下の大空間を利用していたので、三階までの建物がメインだったのだ。
魔法による採光窓が要所に設けられている。
だから心のどこかで、高層建築は無いのだろうと思い込んでいた。
まぁ五階程度で高層建築とは言わないかも知れないけど。
中へ入ると空調が調節されているらしく、快適な温度に保たれている。
俺には温度の影響はほぼ関係ないのだが、熱源感知で体感温度とかも分かるので、外気温との差が直ぐに分かったのだ。
どうやらこの建物には、魔法による温度調節機能が備わっているようだ。
……思いのほか最先端である。
異世界と侮って文明レベルは低いと思い込んでいたが、案外生前とは違った方向へと発展しているようだった。
魔王や魔物と言った存在が居なければ、あるいは魔法文明とも言うべき発展を見せていたのかもしれない。
だが逆に言えば、そういった発展が全て対魔物へと向けられているということになる。
魔王への遠慮?により、豊かな土地を譲っているという話だったので、力関係が逆転すれば魔物の国への逆侵攻もあり得るかもしれない。
そういう考えが、西方聖教会の主義主張であるとの話も聞いた。
今はまだ魔物側が強いのかもしれないが、今後どうなるかは分からない。
俺達が作り上げた国の権利を守るためにも、早い段階での対策は必要になると思う。
まぁそこら辺はレイタロウさんがどうにかするって言ってたし、俺は俺で来て良かったと思っている。
人間の町を見ること、この世界の人間を知ることは、今後の方針に大きな影響を及ぼす。
色々観察していこうと思ったのであった。
「冒険者登録?」
それはそうと、俺は今ある問題に直面していた。
冒険者になるべく受付のお姉さんに話しかけたまでは良かったが、そのお姉さんから〝この子大丈夫か?〟といった怪訝な目を向けられているのだ。
「その仮面……英雄に憧れるのは分かるけど、あなたにはまだ早いと思うわよ?」
ひょっとして俺、シズさんのコスプレだと思われてる?
こりゃ参ったな。
まさか見た目で
「まぁまぁそう言うなって。この人はこう見えて、俺ら三人が束になっても敵わねぇんだから」
「そうよぅ!」
「えっ!?」
「あの小っさい子がカバルさん達よりも……?」ヒソヒソ…
「ウッソだろ……」
「どう見てもガキなのに……」
「あっしらの客人に失礼な態度はやめてくれやすかねぇ?」
「「「「 す、すみません!! 」」」」
まさかまさかの新事実。
カバル達、意外と
……いや、もしかしてだけど、カバル達って人間の中では相当上澄みのほうなのか?
遠巻きにこちらを観察していた冒険者達の目には、カバル達に対する確かな畏敬の念が籠もっていた気がした。
ま、それならそれで話はスムーズに進むはずだ。
「し、失礼しました。それでは試験を許可します。こちらにお名前と希望される部門をご記入ください」
カバル達のネームバリュー、マジでスゲーな。
トントン拍子で話が進むぞ。
受付のお姉さんから差し出された用紙に、羽根ペンで名前を記入していく。
……意外と言っては失礼だが、あいつら結構信頼されているんだな。
ちょっと見直しちゃった―――
「こ、これは幻妖花!?それもこんなに沢山……!」
……あれは、ゲルド二世のとこから持っていったヤツ?
素材の買い取りとか言ってたけど……。
「スゲー……この間の魔物の素材もそうだけど、何処で見つけてくんだろうなぁ?」
「そらオメー、熟練冒険者の勘ってヤツだろ」
魔物の素材……そういえば、クロベエの工房から魔物の素材を持っていく姿を見た気がする。
お前ら、もしかして……。
「「「 ビクッ!!! 」」」
……なるほど、そうやって信頼を得ていたワケね。
まぁいいか、その信頼が巡り巡って俺のところに返ってきているんだから、特別に許してやるとするか。
「討伐部門……ねぇ君、本当にいいの?採取や探索部門にしておいたほうがいいんじゃないかしら」
「実地試験なんだろ?採取や探索じゃ時間がかかる」
「それはそうだけど……」
急ぐ旅ではないけど、そこまでのんびりと時間をかけるつもりもないんだよね。
弱い魔物なり魔人を瞬殺して最低ランクからスタートしたっていいんだ俺としては。
「……確かにな。討伐の実地試験なら隣の棟で出来る。一番お手軽で一番危険な試験だ」
コツコツと床を叩く音とともに声をかけられる。
振り返るとそこには、右脚がそのまま義足に取って代わられた、陰気な雰囲気を漂わせる男が佇んでいた。
コツコツと床を叩いていた音の正体は、どうやら義足のようである。
「……あんたは?」
「試験官のジーギスだ。受けるつもりなら付いてこい」
そうぶっきらぼうに言い捨て、ジーギスは杖をつきながら試験会場に向けて歩を進めた。
「しかしカバルどもの紹介ね。……ハッ、どれほどのもんか知らんがな」
……なんかお前ら、嫌われてねぇ?
そんなジェスチャーをカバル達に送ると、三人とも一斉に首を傾げて疑問符を頭いっぱいに浮かべていた。
俺には割と心当たりがあるんだけど……。
ジーギスに先導されてやって来た試験会場は、この自由組合の中でも一二を争うほどに広大な空間であり、その中心には円形の魔法陣が存在感を放っている。
カバル達のみならず、受付周辺で
あんましカッコ悪いところは見せられないな……。
「この中で戦うのが試験か?」
「そうだ。これは外に被害を出さないためのもの。受験者であるお前は、この円から一歩でも出たら失格とする」
「なるほど分かった。……で、相手は?」
……逃げだすとでも思ったのか、試験を受けようとする俺を睨みつけるジーギス。
そうとも、言葉で脅せないなら実力行使しかないわな。
「……ではEランクの試験を開始する。魔物に見事打ち勝ってみせよ」
魔物?
どこにもいないじゃん……って、魔法で召喚するのか。
「出でよ……
おぉ、俺の体格以上の犬が飛び出してきたぞ。
……でもなぁ、ランガと比べるとワンコサイズでしかないんだよなぁ……。
「(これであのガキの程度も知れる―――)はッ!!?」
「「「「 え、え"ぇ!!? 」」」」
「「「 うぇ―――い!! 」」」
まだ完全にモノにしているとは言い難いけど、この程度のワンコならレイタロウさんから教わった
一秒間に百発を超える斬撃を叩き込み、その一撃は原子をも寸断し、破壊力は戦術核にも匹敵する。
レイタロウさんがその剣技を実践してくれた時、近くにハクロウやヨウム、ゴブタも居たんだけど、満場一致で〝出来るはずもない〟と匙を投げたヤバい
で、その剣技をワンコ相手に叩き込んで細切れ肉にしてやったってワケ。
……
改めて、スキル無しでこれをやってのけたレイタロウさんの強さと恐ろしさを思い知らされることとなった。
「召喚魔法ってヤツか。……凄いな、初めて見たよ」
刀に纏わりついたワンコの血肉を振り払い、俺は軽い口調でジーギスに続きを促す。
「じゃ、次もよろしく」
ピクピク…「……いいだろう、次だ」
俺の態度にムキになったのか、さっきのワンコよりちょっとだけ強そうな魔物が召喚される。
「出でよ!!
性格の悪そうなゴブタ……は、いつものゴブタか。
ゴブタにダークな装備類を着けさせれば、あんな感じになるのだろうか?
「えい」
「ッ〜〜〜!!?」
いや、よしとこう。
そんなことをすると、ますますゴブタが増長しそうだ。
コイツみたいに、首をちょん切ってしまうかもしれん。
……あ、ジーギスの顔がなんか面白いことになってる。
「いや、すまん。なんか知り合いが煽ってきた時の顔に似てて、つい……」
「……飛び級だ」
「へ?」
「カバルらを倒したというその腕、最早疑ってはいない。このまま順々にランクを上げていくのも面倒だろう」
……なるほど、この男もそこまで馬鹿じゃないワケだ。
「どうだ、一気にBランクの試験を受けてみないか?」
「……いいねぇ」
飛び級とは随分夢がある。
Bランクってことは上から二番目ってことだよな?
……出来る出来ないに関わらず、挑戦してみて損はないだろう。
「おいおいジーギスさん!そりゃちっとやりすぎだ!」
「そうよぅ!いくら
「外野は黙ってろ!決めるのは受験者本人だ!」
……俺でもキツいって、もしかしてミリムレベル?
やっべー、一気に難易度ブチ上がりじゃねーか。
「ふん……だがまぁ逃げるチャンスはやろう。こいつの姿を見て勝てないと思ったら降参するがいい」
まぁ流石にミリムレベルは無いか。
しかし一体どんなヤツが来るのやら……。
「来いッ……
おぉ……まんまバフォメットみたいなテンプレな悪魔が出てきたぞ!?
しかし悪魔か。悪魔は初めて見るな。
「ギド!ギルマス呼んでこい!!」
「へい!」
ちょっと食べてその能力を奪ってみたいが、人前でそんなことをしたら大騒ぎだ。
……うぅ〜ん惜しい。
《解。
……え、そうなの?
っていうか、その口ぶり的にレイタロウさん、いつでも悪魔を召喚できるってことじゃん。
いつの間にそんなものを……?
「ハァ…ハァ……さ、さぁ決めろ。戦うか否か」
「……そんなの決まってる。魔法の連続行使でアンタはもう精神力が尽きかけてるだろ?」
「ふん……子供に見破られるとは情けないな」
……今は目の前の試験に集中したほうがいいな。
ジーギスの精神力が尽きかけているのは事実だし、ぶっ倒れてしまう前にサクッと瞬殺してやるとしよう。
「すぐ楽にしてやる。……試験を受けよう」
「よくぞ言った。……
ジーギスの命を受けて下位悪魔が突進を仕掛ける。
狙いは当然俺だ。
迫りくる下位悪魔に対し、俺は刀を……鞘に収めた。
「「「「 なっ!!? 」」」」
周囲から困惑の声が響き渡る。
刀で相対するものとばかり思っていたんだろうが、それはあくまで俺の戦闘スタイルの一つでしかない。
下位悪魔から左ストレートが繰り出される。
それは、俺の頭部に狙いを定めた一撃だった。
「リ、リムルさん……!」
そう心配すんなよエレン。
この程度の相手、レイタロウさんと比べるべくもねぇ。
さてと、取り敢えず右腕に、薄く広く
レイタロウさんが最初期に教えてくれたエネルギー操作技術の初歩中の初歩……身体強化術だ。
この世界だと〝気操法〟っつったか?
レイタロウさんが分かりやすく教えてくれたけど、魔素はピンピンに張られた一枚の紙で、闘気はそれを折った折り紙のようなもの。
要は使い手の発想力によって魔法も闘気も形を変えていくというワケだ。
そして、俺が何をイメージしながら闘気を纏っているかと言うと、それはズバリ〝水〟だ。
「「「「 なっ……!!? 」」」」
下位悪魔の左ストレートを流水のごとく受け流し、それと同時にガラ空きとなった胴体に激流のごとき右ストレートをねじ込む。
そうするとあら不思議、下位悪魔の肉体は胴体を起点に波紋のように波打ち、次第に大きく激しく揺さぶれ、仕舞いには大爆発を起こして盛大に血肉を撒き散らした。
まさに攻守一体。
俺にとって防御は、同時に攻撃の瞬間でもあるのだ。
「それでジーギスさん、Bランクは合格か?」
「……見事だ、おみそれしたよ。カバル達の紹介だから、インチキだと思い込んでいた。非礼をお詫びする」
「なんでだよ!」
「ひっどぉい!」
まぁそれはあいつらの日頃の行いのせいだろうな。
「今後、あなたの身分は
やれやれ、どうやら何事もなく穏当に済んだようだな。
……と思ったのも束の間、今度は見物していた冒険者からの質問攻めに遭う羽目になってしまった。
「スゲー!あんたカッコいいな!」
「さっきの何!?なんていう技なの!?」
「ちょっと仮面取って顔見せてくれよ!」
「俺達とパーティー組まないか!?」
「いやいや、ウチに来てくれよ!」
ちょ、ちょっと、俺別にそんな気はないんだって……。
ま、待って待って!仮面取ろうとしないでぇ!?
「討伐部門の試験だとぉ……?」
ビクッ。
な、何この殺気……!?
ちょ、ちょうどジーギスがもたれかかっている壁の近くから発せられているような……ッ!!?
「リムル殿に何かあったら、ブルムンドが滅びてもおかしくないのだぞ?……何故こんな事態になっておるのだ……!!」
「(ギルマスッ!!?)」
……その後、フューズを宥めるのがどの試験よりも大変だったとさ。
思いのほか長くなりました。
……目指せ四千字以上!(六千字以内とも言う)