外交官として交渉するよって話です。
「……ったく、ブルムンドに到着したらすぐに俺のところまでお連れしろと言っておいたのに」
「「「 ショボーン…… 」」」
仲良く正座して反省させられている三馬鹿……カバル、エレン、ギドは、これ以上フューズからのお叱りを受けないようにするためか、それはもう体を縮こまらせて顔を俯かせて黙りこくってしまっていた。
イヤにデジャヴを感じる光景に苦笑いを浮かべつつ、何とか落ち着きつつあったフューズを宥めるために
「ま、まぁおかげで身分証も手に入りそうだし……」
「初めから私に言ってくだされば、
「あ、そう……」
いやぁ……試験会場に現れたフューズは怖かった。
まぁあのくらいじゃないと荒くれ者の冒険者達を纏め上げるなんてこと出来ないのかもなぁ。
「我々はあなたが邪悪な存在ではないと知っています。ですがほかの者達はそうではないのです。もしリムル殿の正体が多くの魔物達の主を傍で支える右腕的存在であると知れたら……」
「……そうだな。ブルムンドとはまだ正式な国交を結んでいるワケではないし……悪かった。自重するよ」
初めての人間の国で浮足立っていたのかもしれん。
さっさとフューズと合流しておけば、ここまで大ごとにはならなかっただろう。
これでもし俺の正体が
「……実はリムル殿の到着を知り、ブルムンド王が極秘会談を希望されています。イングラシアへ急ぐと聞いておりますが……」
おっと、これは予定外……でもないな。
予想していたことだが、まさかこのタイミングとは。
とはいえこの機を逃す手はない。
ドワルゴンに続いて二国目の承認が得られるかもしれないチャンスなのだから。
「ぜひ頼む」
「分かりました。では三日後に場を設けるよう掛け合います」
そして翌日。
如何にもお貴族様とかが住んでいそうな立派な邸宅までフューズの案内でやってきた俺は、入り口あたりで待ち構えていたTHE・イケオジの出迎えを受ける。
「お初にお目にかかります、魔物の国の外交官殿。私はブルムンドの大臣の一人ベルヤード。どうかお見知りおき願いたい」
「初めまして、リムル=テンペストです。作法に疎いので失礼があったらご容赦を……」
「こいつは貴族ですが、私の昔馴染みでもあります。構えず普段通りに接してやってください」
あぁ〜緊張するなぁ〜!
この場にシュナがいないことの心細さたるや。
「ジーギスから聞きましたよ。なんでもレッサーデーモンを素手で倒したとか」
「いや〜……ははは、お恥ずかしい」
実務的な協議はこのベルヤード男爵と行う。
王との会談は明後日、その内容を元にして相互に確認する形となるらしい。
「……さて、時間は有限です。早速始めましょう」
軽く談笑しつつ案内された一室には既に書類などが用意されており、そこにベルヤード男爵の周到さ、効率主義的な面が窺えた。
ふかふかのソファーに腰掛け、机に置かれていた書類を手に取る。
一つ、両国間の相互安全保障。
一つ、両国間の相互通行許可。
まず相互安全保障について。
「我が国の魔物への対策は
魔国連邦が活動拠点となれば、冒険者の活動範囲は大きく拡がる。
必然、ブルムンドへの脅威が減るというワケか。
「当然、彼らも代価は支払います。ただ……正直な話、そちらのメリットは少ないかもしれません」
確かに「相互」である以上、こちらも助けてもらえるワケだが、こちらが助けてほしい状況というと……。
……みたいな時だし、そもそも。
こいつら全員を散歩感覚で薙ぎ倒せるヤベー怪物がウチの国の王様を務めているんだよなぁ……。
というか、オークにいたっては散歩で倒しちゃってるし、マジであの人の底知れなさは異常だよ。
……さて、話を戻すか。
互いの国家に危険が迫った場合、
でも、実はもう一つの案件はこちらにかなりの益が見込める。
一つ断ってもう一方まで反故になっては台無しだ。
それと、
「……実を言うとな、ブルムンド方面には既に簡易宿や武具を整備できる施設があちこちに新設され始めているんだ。盟約が結ばれ次第、本格的な街道敷設も行われる。そうなれば一月二月くらいで完成することだろう」
「おぉ、それは助かります。では……?」
「その前に一つ確認しても良いか?」
「……何でしょう?」
「仮に
「「 ッ〜〜〜!!? 」」
「勿論、これは相互安全保障の枠組みから明らかに外れることだし、そもそもベルヤードさんの一存で決められるようなことでもないから、どうしても今聞きたいってワケじゃないけど……」
「……な、何故そのようなことを?」
「いやね?単純に帝国と仲良しだったらどうしようと思ってたんだよ。……何せウチの王様、帝国と戦争する気満々だし」
「「 な……ッ!!? 」」
もし東の帝国と密接な関係を結んでいようものなら、ブルムンド王国との交渉は最悪取り消しも視野に入れるべきかもしれないねぇ。
……などとレイタロウさんは言っていたが、俺としてはそれは流石に勿体ないと考えていた。
ウチに協力するか、少なくとも静観してくれれば……などと願いつつベルヤード男爵を見つめた。
「……やれやれ、敵いませんな」
え?
……思わず飛び出しそうになった疑問符を飲み込んだ。
ここで知らなかったと悟られるのはちょっとマズいと直感したがゆえに。
「お察しの通り、我が国は他国の侵攻を何よりも警戒しております。……東の帝国の動向には特に」
「……なるほどね」
「謀りにいくよりも腹を割って話したほうが良さそうだ。正直申し上げて、我々が差し出せる利益は多くなく、逆にあなた方にかかる負担は決して軽くない。言ってしまえば旨味の少ない国なのですよ、ブルムンドは」
「それでも、この国の住民は誰も彼も笑って生きている。そういう国は決まって良い国だと思うけど?」
「国を愛する知恵者達に恵まれているだけですよ。それでも芳しいと言えないのが実情です。それはそうと東の帝国との関係ですが……」
ベルヤード男爵はキッパリと答えてくれた。
東の帝国とは牽制し合う関係であり、同盟は無いと。
「一つお尋ねしても宜しいですか?」
「……帝国と戦争をする場合、ブルムンドは兵力を出すべきか否か、かな?」
「……何でもお見通しですな」
そりゃあ、シエル先生が色々と会話の内容を予測して最適解を教えてくれるからだよ。
……などと口が裂けても言えない。
「結論から言って、その必要は無いとだけ」
「既に東の帝国と渡り合えるだけの戦力を……いえ、愚問でしたな。かく言う私も、かの王の凄まじさを分からされた者の一人ゆえ……」
……可哀想に。
あんな頂上決戦を見せられて、むしろよく発狂せずに交渉しようと思ったよ。
その胆力は紛れもなく最強クラスだな。
「……俺は外交部門のトップとして、そして魔国連邦の王を務めるレイタロウさんの代弁者として此処にいる」
「「 ……… 」」
「俺はこの国を見て、とても好ましく思ったよ。それこそ多少の損をしても手を結んでもいいと思えるくらいには魅力的に映って見えたんだ」
「っ、ありがとう、ございます……」
お互いに半歩歩み寄れば、それは確かな一歩になる。
この前のレイタロウさんの演説の内容を引用する形になるけど、紛れもない本心を伝えたつもりだ。
「だからドンドン話を深めて、お互いにとって実りのある落としどころを見つけていきたいと思っているのさ。国の守りは俺達に任せてくれてもいいから、それ以外のところでね?」
「……ええ、勿論です!」
結局、相互安全保障に関してはブルムンド側の要求を概ね呑む形で受け入れることとなった。
ベルヤード男爵はホッと一息つき、俺も俺で納得したため問題は無いだろう。
その後の話し合いはスムーズに進んだ。
特に二つ目の相互通行許可、これは俺的にも上手くいったと自信を持って言える。
これによって
人と友好的に付き合いたいと考える俺にとって、これは大きな一歩だ。
更に言えば税収も見込める。
商人が魔国連邦に入る時の関税だ。
その点について、ベルヤード男爵は思いのほかアッサリと折れてくれた。
期限を定め、国が商人達の支払いを立て替えるものとするという内容だ。
その内容に不審な点は見当たらなかったため、ベルヤード男爵の提案をそのまま受け入れることとした。
こうしてベルヤード男爵との会談は円満に終わった。
そしてその二日後、つまり今日。
会談本番の日を迎えるに至る。
「うん、うん、うん……」
初めこそ緊張したものの、言ってしまえば二日前の繰り返しであり、ベルヤード男爵の奏上にブルムンド王が頷く、そんな作業ゲーみたいなやり取りが行われるのみだった。
そして、俺が王妃美人だなーとか思っている間に、条約は締結された。
「ホッホッホ、今後とも宜しく頼みますぞリムル殿!」
「ええ、こちらこそ」
「ホッホッホ、東の帝国が攻めて来た場合にも協力のほど、よろしくお願いいたしますぞ!」
「ええ、心得ていますとも」
「ホッホッホ、魔導列車計画を本格的に始動させる際には是非とも我が国をご贔屓願いますぞ!」
「ええ、いの一番にお声がけしますよ」
「ホッホッホ、ではまた!」
……あの王様、もしかしなくても
言いたいこと言い終えて、さっさと帰っていきやがった。
そして近くにはニコニコ笑顔のベルヤード男爵が。
「……これで条約は結ばれました。今後とも良き関係を築き上げていきましょう」
「あぁそうだな。……っと、そうだったそうだった。俺としたことがうっかりしていたよ」
「……どうかされましたか?」
「なぁ男爵、この後時間取れるか?」
「え、えぇ、大丈夫ですが、一体何を……?」
何って……レイタロウさんに頼まれていたことだよ。
「回復薬の実演販売をしたいと思ってな。まだ人の目には触れさせたくないから、出来れば屋内でやりたいんだけど……」
二日前と同じように、俺達は再びベルヤード邸の一室に招かれることとなった。
「すみません男爵、お邪魔してます……」
「ジーギス?……なぜ彼がここに?」
一つ違うことがあるとすれば、その場に討伐部門の試験官であるジーギスが立ち会っていることだろう。
ジーギス本人にも今回の実演販売の詳細を伝えていないため、ベルヤード男爵の疑問に彼が答えられるはずもなく、何とも困惑しきった様子で俺を凝視してきた。
「彼には実演販売に協力してもらおうと思ってな」
「そ、それは如何ような……?」
「ジーギスさん、これをグッと飲んで。毒じゃないから安心していいよ」
「あ、ああ……」
そう言って俺は、懐から取り出した(ふうに装って胃袋から取り出した)薬瓶をジーギスに差し出す。
恐る恐るといった様子で薬瓶の蓋を外したジーギスは、意を決したようにグッと中身をグビグビと
「……彼に何を飲ませたんです?」
「
「フル……からかっているのですか?完全回復薬はドワーフ王国ですら……」
「まぁ見ててくれよ」
突如、ゴトトンと音を立てながら義足が床に落ちた。
義足を落としたことでジーギスは体勢を崩して盛大に尻もちをつく……なんてことは無かった。
「あ、あああぁ……!?」
「ジーギス、それは……!!?」
「そんな、まさか……!!」
「「「 足が、生えた……!! 」」」
そこからの騒ぎは、それはもう凄まじかった。
部位再生が可能な回復薬は神聖魔法に匹敵するだとか、ウチの特産品だと教えたら量産が可能なことに驚かれたりとか、それはもう軽いお祭り騒ぎとなってしまった。
まぁジーギスには感謝してもらえたし、
レイタロウさんに頼まれていた仕事を一通り片付けることが出来たワケだ。
ソウエイ越しに
ブルムンド王国でやるべきことは、ひとまず終了だ。
シズさん「どうしよう、