リムルが人間の国に行ってる間に、って話です。
<<< 閑話⑤ 壊れる道化 >>>
「……は?」
「えぇ、ですから、新しくレイタロウ・スターモンズ様が十大魔王の一柱にご就任なさいました」
傀儡国ジスターヴ。
大陸の東端に位置する魔王領の、とある居城。
その居城の一室にて優雅にティータイムを決め込む魔王クレイマンの元に、あり得ざる凶報が届いてしまう。
「ま、待て、
「ワルプルギスは開かれてはおりません。その必要がないほど、ほかの魔王様方にこの事実は周知されております。もしや、ご存じでなかったと?」
「なっ……なっ……!」
自らに凶報を届けてきたのは、メイド服を完璧に着こなした青髪の美女。
女神の微笑みとも、悪魔の薄ら笑いとも言い表せる表情を形作るその美女の正体は、竜種に次いで天地
紆余曲折ありながらも、現在は十大魔王の一柱を務める原初の
「……フフッ、冗談にございます。聞けば魔王レイタロウ様は
「い、一体どういうことなのだ!?なぜヤツが、あの黒トカゲが十大魔王などに!?ヤツは魔王を自称し、あろうことかこの私に宣戦布告をしてきたのだぞ!!」
「はい。魔王を自称したがゆえに、まごついて……失礼、周到な準備を重ねておられたあなた様を出し抜くように魔王ミリム・ナーヴァ様が先んじて
「フッ、当然の結果だ!ミリムに襲撃されれば誰だって抵抗できずに……返り討ち?」
レインの先の言葉を思い出し、思わず間抜けな顔を晒してしまうクレイマン。
返り討ち、返り討ち……。
ミリムが返り討ちに遭った……ってことォ?
「最初に断っておきますと、魔王ミリム様は美味しい食べ物で懐柔されたワケではありません。……魔王レイタロウ様との一対一の真剣勝負に敗れ、かの御方の賛同者となることを確約なされたのです」
「ハ、ハァァァァァァァ!!?」
あの天災の化身みたいな存在を?
自分すら片手間に屠れる、そう直感させるほどの強大な力を有する最強の実力者を?
ありえない、ありえない……!?
クレイマンの全身から滝のような冷や汗が流れ落ちる。
「その激戦の一部始終を水晶越しに観ておりましたギィ様は、かの御方こそ魔王に相応しいとわざわざ魔国連邦にまで足を運ばれ、魔王ミリム・ナーヴァ様、魔王フレイ様とともにその場で魔王レイタロウ様を十大魔王に認可したのでございます」
「ギ、ギ、ギィも……!!?(裏声)」
「敢えて書面には残しておられぬようでしたが、ギィ様と魔王ミリム様が認めた御方を魔王と認めない愚か者はいないでしょう」
「そ、そそそ、そう、だ、な……!!」
まずい、まずいまずいまずい!!
クレイマンの内心は激流に呑まれていた。
まるで詳細が把握できないが、あの天災の化身のような竜娘を力で圧倒したと言うのであれば、まるで話が変わってくる。
自らに堂々と宣戦布告をしたのも、ミリムを圧倒できるだけの実力を兼ね備えていたからであり、それはつまり若気の至りなどでは断じてなく、確固たる自信に基づいた実質的な死刑宣告であったということ。
……自らを確実に殺すという、明確な意志の表れ。
クレイマンの顔色が、白を通り越して土着色に染まった。
「……あぁそれと、どうやらその時に
「ッ〜〜〜!!?」
元々はフレイを手駒にするために見つけ出した切り札だったが、まさかこのタイミングで訃報を聞くことになるとは思いもしなかった。
仲間であるティア達に無駄骨を折らせてしまったことを心の中で謝罪しつつも、同時にクレイマンは一つの活路を見いだしていた。
「な、なるほど。あの黒ト……じゃなかった、レイタロウが既に魔王になったとは驚いた。彼とは色々あったが、同じ魔王として肩を並べたのなら、それなりに仲良くせねばなるまいよ」
業腹だが、あのミリムを下せるだけの実力を持っていると仮定した場合、正面から立ち向かうのは自殺行為だ。
幸い、自分が五体満足のうちに早々に十大魔王に就任したことでわざわざ争う必要もなくなったと言える。
……そのせいで十一大魔王になってしまったが、それも近いうちに十人に戻ることだろう。
五百年周期で訪れる
これで少なくとも、下痢ピーの件はチャラに出来る。
「……それはそうと、近日中に
「近日中?」
レインの曖昧な言い方につい怪訝な表情を浮かべるが、それより気になるのは今回の提案者である。
……そんな自分の内心を読み取ったのか、レインはなんとも意地の悪そうな笑みを浮かべて口を開いた。
「今回のワルプルギスを提案されたのは魔王レイタロウ様にございます。賛同者はギィ様と魔王ミリム・ナーヴァ様です」
「ッ〜〜〜!!?」
「お題目は、分かりやすく言えば『魔王クレイマンの公開処刑』となります。……魔王レイタロウ様は、あなたとの一騎打ちをご所望のようでございますよ?」
「なっ……んなっ……!!?」
「私が此処を訪れたのは、ギィ様から〝何も知らないでいるクレイマンに優しく丁寧に現実を教えてやれ〟とのご命令を受けてのこと。……フフッ、逃れることの出来ない現実を理解なさったようですので、私は失礼いたしますね」
そう言い残したレインは、何の感慨もなく、同情もなく、慈悲もなく、その場から消え去ってしまった。
……その場に一人残されたクレイマンは、手に持っていたグラスを落とし、中に注がれていたワインを盛大に床にぶち撒ける。
大理石の床が、豪奢な絨毯が、赤黒いワインに侵食され、染み込み、汚れていく。
そのワイン染みはさながら、クレイマンの行く末を暗示しているかのようだった。
「……あ、漏れた」
クレイマンは、急激に湿ったズボンのお尻部分を手で触り、その惨状を目にする。
クレイマンの手は、真っ赤に染まっていた。
<<< 閑話⑥ 平伏する原初 >>>
「……やれやれ、行ったかぁ」
遠目にもリムルさん達の姿が見えなくなった頃、町の入り口あたりで見送りをしていた俺達はようやく落ち着きを取り戻し、各々の持ち場へとゆっくりと散っていった。
おっと、挨拶が遅れたね。皆ごきげんよう。
俺はジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、十大魔王の一柱を務めるレイタロウという男だよぉ。
……言っとくけど俺に覗きの趣味はないヨ?
「さてと、俺もやることやるかぁ」
「レイタロウ様?……もしやまた何か悪いことを企んでおいでですか?」
そう言ってジト目で俺を見上げるのはシュナ。
大きく膨らんだお腹を優しく撫でながら俺の傍を離れようとしない。
……ドワルゴンで
それはそうと、俺もう干からびちゃうよ……。
「うんそうだよ。……俺の悪巧みを形にできる魔人をこれから召喚しようと思ってるのさ。シュナも来るかい?」
「是非ともお願いいたします」
「あれ、何か面白いことでもするッスか?」
「悪い予感しかしないな。……俺もお供させてもらってもいいですか?」
それで結局シュナ、ゴブタ、ベニマルが付いてくることとなった。
「お、レイタロウではないか!」
「ヴェルドラさんか。奇遇だねぇ」
ところ変わって、いま俺達がいる場所は広大な花畑。
四人で何処か適当な場所を探していた時に偶然、人型のヴェルドラさんと出くわした次第だ。
「ヴェルドラ様、ご機嫌麗しゅう……」
「おはようございますヴェルドラ様」
「どうもッス!ってか何されてるんッスか?」
三者三様、敬意を込めてヴェルドラさんに挨拶していく。
それに気を良くしたのか、ヴェルドラさんはいたって上機嫌のまま口を開いた。
「よくぞ聞いてくれたお前達!……実はな、レイタロウとリムルから直接名前を授けられたゼギオンが、あともう少しで孵化しそうなのだ!」
「へぇ……ゼギオンが」
ヴェルドラさんが小脇に挟んで連れてきた、あのカッチョイイ
ちなみにこれは余談だが、ゼギオンのほかにヴェルドラさんが連れてきた蜂型
両腕に鋭利なドリルみたいなものを生やし、口からナパーム弾、二本の触覚から雷撃光線を放つ等の多彩な攻撃手段が特徴的な
……遠くでハチミツを採取しているな。
あ、手ェ振ってきた。
閑話休題。
「あれ以降、我は惜しみなく
「もうほぼ我が子じゃない」
「そうとも!ゼギオンは我が弟子にして我が子も同然よ!クァ―――ハハハハハ!!!」
いやはや、名付け親である俺よりも嬉しそうじゃない。
ま、それはいいとして……。
「ヴェルドラさん。ここら辺で〝悪魔〟を召喚したいんだけど、大丈夫かな?」
「ん?おぉ構わんぞ!」
「「「 ……え、悪魔? 」」」
シュナ達の呟きを無視し、俺はスキル越しに他人から盗み見て習得しておいた魔法を発動させる。
いや〜「
「わっわっわっ……なんスかなんスか!?」
「なっ、これは……!?」
「
「ほぅ、なるほど……」
半径二十メートルくらいの巨大な魔法陣を出現させ、それなりの
……それなりと言っても、この魔法陣の組成が崩壊しないギリギリの量をだが。
こちらの求めに応じたデーモンに自動的に俺のエネルギーを注ぎ込んで受肉させるシステムを構築し、次いで
ぶっちゃけ、有象無象の悪魔に用はないんだよね。
俺が用があるのは……。
「来るがいい。……原初の
魔法陣の中心からおどろおどろしい漆黒の瘴気が立ち込め、それが徐々に人型を形成していった。
まず目に飛び込んだのは、紅と金のメッシュが入った漆黒の髪色。
瞳は金色で瞳孔が赤く、強膜が黒く染まっている。
限りなく人間型に近い美丈夫だが、その背中に生えている
華美ではないが決して貧相な印象を受けない、髪色と合わせたかのような漆黒の装いから見ても分かる通り、相当高位の存在であることが窺い知れる。
……まぁコイツが万単位の時を生きる原初の悪魔の一柱であることはギィのメイドのレインちゃんのスキルを通じて把握しているんだけどねぇ。
「……クフフフ、なんと素晴らしき御力、なんと恐るべき智謀、私の正体を最初から知った上でそれでも喚びだしたその豪胆さ、召喚に応じただけで受肉を確約してくださるその寛大さ、敬服するほかありません」
「「「 ッ〜〜〜!! 」」」
「よせ君達。……喚んだのは俺のほうだ」
「「「 レ、レイタロウ様……! 」」」
ただ喋っただけで得物を向けられたんじゃ可哀想でしょ?
だから、得物から手を離しなさい。いい子だから。
「……やぁ、俺の純粋な
「なんと……供物も無しに魔素だけでこれほど完成された肉体を作り出すとは、私はどうやら偉大にして素晴らしき
……どうやら問題は無いみたいだね。
こっそりストーキングするくらいだから、どんな変人が来るのかと身構えたけど、俺の知ってるストーカーと比べたらまだこっちのほうが敬意がある分マシだな。
あ、片膝をついた。
「偉大なる我が
「……それは、俺に生涯忠義を尽くすと解釈していいのか?」
「生涯!!えぇまさしく!!我が身命を賭してあなた様にお仕えいたします!!」
……まぁ最初からそのつもりだったけどね。
単純に彼の能力を見込んだ上で召喚したワケだし。
「……であるならば、君にディアブロの名を授ける」
「おお!!名前まで授けてくださるとは……ッッ」
……原初の
「こ、れは……!!?」
「あぁそうそう、一つ言い忘れていたが……俺は普段、ほかの者に名付けを一任していてな。俺から名付けをすることはそんなに無いんだ。その理由が分かるかね?」
「そ、れは―――ゥグアァァァァァァァァァ!!」
「……俺が名付けをした魔物は皆例外なく〝真なる魔王〟とやらに覚醒進化してしまうんだよ。それじゃあ流石にマズいと周囲に止められて、なるべく自重するようにしているのさ」
ディアブロを取り巻くように何処からともなく闇の欠片が出現し、その全身をすっぽりと埋め尽くしてしまった。
闇で象られた球状の物体の内部で、ディアブロは今まさに更なる進化を遂げようとしているのだ。
……それはそうと、俺のエネルギー総量の三分の一をぶっこ抜かれちゃったわぁ。
こりゃあ、とんでもない化け物が生まれるぞぉ……!
「……クフ、クフフフ、クフフハハハハハハッ!!!」
パリーンとガラスを割るみたいな音を響かせながら闇は崩壊し、
……先程までのディアブロを貴族に扮した悪魔と例えた場合、いま俺達の目の前に立つディアブロは地獄の悪魔と例えるのが妥当だろう。
全体的に恐ろしさが倍増された姿形をしており、およそ人肌と呼べる部分は見当たらず、その質感はまさしく化け物と呼ぶべき異様を放っていた。
額より生えたる金色の一本角。
全身を覆う赤黒い皮膚。
大小二対の蝙蝠のような翼。
先端が鋏のようになっている長大な尻尾。
胸部には乱杭歯のような特殊器官が生成されている。
その姿はさながら……〝完全生命体〟であった。
「……ディアブロの名、しかと賜りました。この名と肉体に恥じない働きをここにお誓いいたします」
「うむ、俺の名前はレイタロウだ。これから宜しく頼むぞディアブロ。……そして早速だが君に仕事を任せたい」
「なんなりとお申し付けを!レイタロウ様!!」
……なんつーか、ランガを彷彿とさせる忠犬っぽさを感じさせるなぁ。
まぁいいか、裏切られるよりはよっぽどマシだ。
「ファルムス王国……そう遠くないうちに我が国に侵略戦争を吹っ掛ける人間の国に所属するラーゼンという魔術師を手駒にしてきてもらいたい」
シュナ「……例のごとく、ですね」
ベニマル「またいつものが始まったな……」
ゴブタ「まーたロクでもないことを考えてるッスね」
ヴェルドラ「これは面白くなりそうだな!」