五人の子供達に会いに行くよって話です。
「何かあったら連絡してくださいよ?」
「おぅ。また頼むな」
「寂しかったら呼んでよねぇ!」ギュゥゥゥ…
「分かった分かった……」
「どうぞお元気で!!」
「お前らもな」
「「「 馬車と新しい装備ありがとうーッ!! 」」」
「達者でなー」
……滞在僅か二日目でイングラシアを離れることとなったカバルやエレン、ギドの乗る馬車を見送り、今度こそ一人(一人と言ってもランガやシズさん、ソウエイの分身体がいるが)で活動することとなった俺ことリムル。
しばらくはイングラシアでの一人暮らしだ。
一抹の寂しさはあるがそうも言っていられない。
住む場所はユウキが提供してくれた。
人前ではスキルを使ったり擬態を解いたり出来ないから、そこが唯一気を抜ける場所だ。
そして、自由学園。
ユウキが理事を務める学校だが、俺はその寮の一室に部屋を借りている。
……教師として。
さて、なぜ俺が教師を引き受けることになったのかを説明する前に、ここで改めて人間と魔物の関係性について軽くおさらいしておこうと思う。
ではそこの君。
人間と魔物、どちらが強いか言えるかな〜?
……魔物?
ホントにそれでいいの?
ファイナルアンサー?
まぁ概ね正解だな。
種族全体で俯瞰して見れば、人間は魔物にあらゆる面で劣っている。
人間にしてみれば、強靭な肉体を持ち、数多のスキルを使う魔物はただそこにいるだけで脅威的なのだ。
どこぞの暴風竜とか、気まぐれな女の子魔王とか、怪獣王みたいなヤベーヤツとか、その気になれば国の一つや二つどころか世界を滅ぼせる天災が身近にいるし。
故に、人々は
人類の未来を守護し、照らし続ける希望の大火。
〝勇者〟と呼ばれる存在を。
だがしかし、人間は生来スキルを持たない生き物だ。
例えばヨウムみたいに厳しい訓練を積んだ末にスキルを獲得できる場合もあるが、ハクロウみたいな強大な魔物に対抗できるほどの能力を得る者はそう簡単には現れない。
……だから人々は選択したのだ。
万の犠牲を払ってでも、たった一人の英雄を生み出すことを。
さて、ここで第二問!
厳しい訓練を経ずとも人間がスキルを獲得できる可能性が一つだけあります。それは何でしょう?
ヒントはこの俺!
……正解は、異世界からこっちに来る時だ。
異世界人は大抵なんらかのスキルを身に付けている。
それが、こっちの世界の定説なんだとか。
世界を渡る際に肉体が一度滅び、再構成される時に大量の
例えば、俺は三十を超えても童貞だったから『大賢者』も夢ではなかったとか、来世は色んな女を『捕食』してやるぜ!とか、死の間際に熱いよ〜寒いよ〜と痛みに苦しんだこととか、その瞬間感じた色んな感情がスキルや耐性などに反映されているということだ。
……自分で言っててスゲー悲しくなるな。
とまぁ色々説明したが、そういう経緯を経てあっち側からこっち側に転生ないし転移してくる異世界人を待っているだけでは、人々の不安が完全に解消されることは無い。
だから各国は極秘裏に〝召喚の儀式〟を行っているのだ。
要は国がらみの誘拐だ。
標的にされたほうはたまったものではない。
ある日突然、見知らぬ世界に喚び出された上、魔物と戦わされる。
兵器として期待される彼彼女らが逃げ出さないよう魔法で行動の制限を行い、殆どが王族や貴族の護衛として仕えることになる。
……ハッキリ言って、胸糞悪いことこの上ない。
だが、これでもまだ正規の手順を踏んでいる分、マシなほうなのである。
召喚の儀式には膨大な手間と費用がかかる。
そこで簡素化された召喚術式が編み出されたのだが、それには致命的な欠陥があり、
本来スキルへと還元される大量のエネルギーは行き場をなくし、やがてその身を焼き尽くす。
不完全召喚された子供達は、その殆どが五年以内に死んでしまう。
これでお分かりいただけただろう。
シズさんがかつて受け持っていたあの五人の子供達は、理不尽に喚び出され、死を目前に控えた勇者のなり損ないなのだ。
……シズさんが涙混じりに打ち明けてくれた。
それだけで俺が教師を引き受ける理由としては十分だ。
……ま、図書館の本に解決法が載ってたらとっくに助けてるよな。
《告。魔法書の網羅が完了しました。これにより無詠唱での魔法の行使が可能となりました》
調べ物しに来ただけなのに、ついでに大量の魔法書を解析するシエル先生流石です。
《……も、もっと褒めてください
はいはい。
また何かお願いすることあるから、その時にね。
「お邪魔しました」
「はぁ……」
「……あの子凄い勢いで本を取っては棚に戻してを繰り返してたけど」
「あれで内容把握できてるのかねぇ……?」
<<< 翌日 >>>
俺が請け負うのは担任不在の特別教室。
通称、Sクラスである。
とはいえ相手はまだ小学生くらいの年代らしい。
元の担任が鬼の教導官と言われた井沢静江。
……つまりシズさんである。
彼女は〝爆炎の支配者〟の二つ名を持つ英雄でもあった。
そんなシズさんの後釜に入る教師が比較されても可哀相なものである。
皆、生徒からの苛烈な対応に負けて学園から逃げ出したそうだ。
職員室で挨拶をした時に、そんなことを教えてもらった。
「いや、理事長の紹介ですので信用したいのは山々なのですが、あの子達の面倒は難しいですよ?まして君も子供じゃないですか……」
などと校長に心配されながら特別教室まで案内されるが、俺の心は既に決まっている。
「大丈夫ですよ。見た目より年は行っているので」
「はぁ、あぁここです―――ああっ!?またこんなイタズラを!!」
教室の入り口を見上げると、そこにはドアに挟まった黒板消しの姿が。
いやー懐かしいなアレ。
まさか異世界で拝むことになるとは思いもしなかった。
「ハッハ……可愛らしいじゃないですか。案内ありがとうございます」
「は、はぁ、ではワシはここで……」
逃げるようにその場を後にした校長から視線を外し、俺はドアに挟まっている黒板消しをどうしようか考えた。
敢えて引っ掛かってウケを狙うのもアリだが、初日から舐められるのもよろしくないし、ここはギリギリで
「ちーっす、今日から君達の担任に―――」
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
俺がフレンドリーに挨拶をしながら入ってきたところに、炎の剣戟が襲い掛かってくる。
「……やれやれ、会って早々それは酷いだろ」
「えっ、えっ、えっ……!!?」
「「「「 ふぇ……? 」」」」
炎の剣戟で襲いかかろうと空を跳躍していた少年の体を『重力制御』で難なくキャッチし、その位置で固定する。
一瞬何をされたのか分からず周囲をキョロキョロ見渡している少年と、その少年をただ呆然と見つめる四人の子供達を見据えながら、あまりの学級崩壊ぶりに俺も呆れを覚えてしまう。
え、君達余命あと僅かなんだよね?
元気いっぱい敵意剥き出しじゃねーかよ。
なんてこった、まさか初日にいきなり奥の手を使うことになるとはな……。
「えー……先生の名前はリムル=テンペストだ。皆の顔と名前も覚えたいので呼ばれたら返事をするように」
なるべく先生っぽく振る舞いつつ、俺は子供達の名前を読み上げていく。
「アリス・ロンド」
「……はぁい」
「ゲイル・ギブスン」
「……はい」
「クロエ・オベール」
「はい……」
「リョウタ・セキグチ」
「は、はい!」
「ケンヤ・ミサキ……ケンヤ・ミサキ君?呼ばれたら返事しなさい」
「お、
「ん、先生の奥の手がどうかしたかね?」
ケンヤ・ミサキ……さっき俺に斬りかかろうとしていた少年の後頭部を咥え込むようにランガに命じておいたけど、それが何か不満なのかな?
「こんなのおーぼーだ!!ちょっと強い犬を従えてるからって卑怯だぞ!!」
「着任初日の先生に斬りつけるのは横暴とは言わないのか?」
「っ、そ、それは、シズ先生なら簡単にかわせるし……」
やれやれ、減らず口を……。
まぁ実際そうなんだろうけどさ。
「確かに一理ある。……よし予定変更、今からテストをするぞ」
「え―――ッ」
「えーじゃない。運動場に移動するぞ」
駄々をこねる子供達を引き連れてやってきた運動場には、既にほかのクラスの生徒や先生達がそこかしこに点在しており、その殆どがこちらを物珍しそうに見つめていた。
「え、なに、どこのクラス?」
「ほら例の……」
「あれが新任の先生?……子供じゃん」
とはいえ、あまり気分の良いものじゃないけどな。
そんなことを思っていると、ゲイル(五人の中で一番のっぽな少年)のほうから質問が飛んできた。
「テストって、一体何をするんです?」
「模擬戦だよ。……全員いっぺんに来てもいいぞ。信頼を得るのが難しそうだからな、シズさんに劣らないとこ見せないと」
「「 ムッ…… 」」
おっと……挑発の意図は無かったんだけどな。
ゲイルとケンヤをその気にさせちゃったか?
「ご自分がシズ先生に並ぶと?……随分大口を叩くんですね。大怪我しても恨まないでくださいよ!!」
やれやれ、先鋒はゲイルだな。
それはそうと大きな魔力弾だ。
かなりの威力が籠もってそうだし、当たれば痛そうだな。
「よっと」
「んな……蹴ったぁ!!?」
まぁ見たまんま直線的だし、下から蹴り上げて空中にゴーシュート!!なんですわ。
「で、次の魔力弾は?」
「え……?」
「一撃必殺を考えていたにしろ、二の矢三の矢のくらいはいつでも撃てるように準備しておけ。実戦は一撃で決まるとは限らないぞ」
その点レイタロウさんはマジでヤベーぞ?
二の矢三の矢どころじゃなく、千の矢二千の矢くらいは即座に撃てるようにエネルギー管理しているからな。
実際はもっと撃てるだろうけど。
……あ、後ろからリョウタが来た。
「ぐるぁぁぁ―――ぁぁあああ!!?」
「狂戦士化か。……肉体強化は中々だが、意識が無いのがマイナスポイントだな」
後ろから迫ってきたリョウタの体を優しく背負い投げし、狂戦士化を解除してやる。
「思考を放棄しちゃあ格上との戦いにはまず勝てないぞ。考える頭を保ちつつ、それでいて狂戦士化のメリットだけを享受できるように鍛えていけ」
「は、はい……!」
リョウタの体を優しく地面に置き、今度はケンヤのほうを見やる。
一瞬ビクッと体を震わせるケンヤであったが、こちらに敵意剥き出しで魔法を発動させてきた。
その反骨精神は素直に評価できる。
「これでも……くらえぇ!!」
無数の火の玉を俺めがけて乱射する。
その瞬間
「わわ……ッ」
「シズさんに憧れるのは分かるけど、扱い慣れないなら炎に拘るのはやめておけ。エネルギー効率が悪いぞ」
「
「ん、おぉ……凄いな」
水の檻ね、見事なもんだ。
『魔力操作』が無かったら少し危なかったかもしれない。
俺を閉じ込めようとしていたクロエの魔法のコントロールを奪い、即座に解除させる。
「あ、あれ??なんで……あぅ」
「凄い魔法だった。今後ともしっかり勉強するように」
五人の中で、クロエが一番の天才かもしれないな。
そんなクロエの頭をポンポンと撫で、最後に残ったアリスを見やる。
「こうなったら私のお人形で……あ、こ、焦げてる!?」
……あー、ケンヤが乱射した火の玉が運悪く当たっちゃったのかな?
「もーッ、あんたがパカスカ火ばっかり使うからぁ!!」
「お、俺のせいかよ!?」
「二人ともそれどころじゃないだろ!!」
「……ほら、直ったぞ」
「えっ、わぁぁぁ……!!」
全く、世話の焼ける……。
「で、次はアリスか?その人形でどう戦うんだ?」
「ムッ、なによぅ……」
少し意地の悪い質問だったかな?
アリスは可愛らしく俺を睨むが、そこに先程までのトゲトゲしさは無いように思えた。
「……先生、その仮面シズ先生の?」
「あぁ。……この仮面と一緒にお前達のことも託されたと思ってる」
「……あのねアリス、私、リムル先生は信じていいと思う」
「ボ、ボクもそう思う。……だってシズ先生の後に来た先生達はみんな
「リョウタの言う通り、この人は今までの先生とはタイプが違う。それにシズ先生の知り合いなら……」
「……分かったわよ。冷静なゲイルまでそう言うなら信じてあげる。お人形直してくれたし、テストはここまでにしてあげるわ!」
「ありがとな」
テスト受けてたのはそっちだけど。
「どうだケンヤ、お前も信じてくれるか?」
「………ッ」
……ケンヤ?
「……シズ先生だって俺達を見捨てて行っちゃったじゃないか」
「………」
「今更新しい先生が来たからなんだっていうんだよ!?俺達もうすぐ死んじゃうんだぞ!!」
……そうだったな。
お前らを取り巻く状況はいつだって残酷だった。
勝手に喚び出された挙げ句、数年で潰える命と失敗作の烙印を押されて、誰も信じられなくなっていた。
シズさんから直接その話を聞かされた時、俺はこの世界を本気で恨みかけたよ。
「……二つ間違いを正してやろう。まず一つ、シズさんは決してお前達を見捨てたワケじゃない。彼女の最後の旅はお前達のためのものだったんだよ」
「俺達のため……?」
これはシズさんから聞き出したことだけど、シズさん自身も召喚された子供だったんだ。
それなのにここ最近まで人間として生き永らえていたのは、身内にあふれるエネルギーを安定させた人物がいたからだ。
シズさんは聞き出すつもりだったのだろう。
相手にどんな意図があったにせよ、自分の命を救ったその方法を。
……魔王レオン・クロムウェルに。
「もう一つの間違いは、お前達がもうすぐ死ぬってとこだ」
「「「「「 ッ〜〜〜!! 」」」」」
「……安心しろ、シズさんのやり残したことは俺が継いだ。だからお前達は俺を信じていい子になれよ?」
正直、こういうのはガラじゃないんだよ。
……けど、俺もシズさんみたいな〝
仮面を外し、素顔を露わにする。
「お前らを泣かせるクソみたいな運命を、俺が全部
精霊姿のシズさんとの再会は、もうちょっと先……。