地上に出たよって話です。
挿絵あります。
「……光だぁ」
「……ようやく出れたぁ」
久しぶりに太陽の下に出た。
吸血鬼のように太陽の光に溶けたり、火傷を負ったりはしないようだ。……まぁ俺スライムだしね。
実際、そういう自分にとって危険な行動というのは、魔物の本能で理解できるようになっていると『大賢者』が教えてくれた。
とはいえ判っていてもやってしまう。よくあることだ。
……笑えない。
自覚があるだけに改善するように努めよう。
洞窟は、森の中にあったようだ。
小高い丘という程度の山の麓に、ぽっかりと口を開けていた。
大木に囲まれた中、その丘は良く目立つ。
なんと言えばいいのか、そこだけ太陽が見えている。
一歩、森に侵入するとすぐにでも薄暗くなりそうだ。
丘の頂上には、何やら怪しげな模様が刻まれていた。
魔方陣?っぽい雰囲気。
「そろそろ行こうか。……リムルさん」
「おお、そうだな。……レイタロウさん」
君子危うきに近寄らず。
俺達はさっさと、その場を後にした。
洞窟から出て、森の中を散策してから結構経った。
上空を見上げると、日が傾きだしているのがよく分かる。
「いま何時くらいか分かれば良いんだけど……」
《解。現在時刻は夕方の4時過ぎとなります》
俺の言葉にいの一番に答えてくれたのは、リムルさんのスキルであるはずの『大賢者』
時刻まで教えてくれるなんて最高だねぇ……。
とはいえ、夕飯の支度の時間か。
でもなぁ、正直俺もリムルさんも、食事を摂る必要がないんだよなぁ……。
強いて言えばリムルさんは魔物やヒポクテ草、あとよく分からん鉱物を捕食し、俺はそんなリムルさんを観察しながら酸素と水を皮膚上から摂取しエネルギーに変換して取り込んでいた。
「……しっかし、申し訳なく思うよホント」
「ん、何が?」
「いやさ、俺の絹糸スキルのおかげで何とかレイタロウさんは〝裸族〟から脱却できたワケだけど……」
「いいのいいのコレで。……男として生まれたからには、ふんどし一丁で生き、ふんどし一丁で死ぬものさぁ」
「……より変態度が増してる」
変態言うなし。
……まぁ言わんとしていることは分かるけども、俺の言い分も聞いてくださいよ。
「服を仕立てる暇が無かったもんでね。割りかし簡単な六尺ふんどしを作るので精一杯だったのさ」
「……逆に素材があれば手ずから作れるんだ。意外と器用なんだな」
「日々成長する体に服のほうを合わせないといけないからねぇ。お裁縫程度ならチョチョイのチョイよ」
「へー、凄いなー」
裁縫だけじゃない。
料理や掃除なんかの家事全般をはじめ、モグリながらも人体学や精神学にもある程度通じているし、そこから派生するように応急処置技術にも精通している。
今リムルさんが流暢に言葉を発せられているように、これら全て、出来ないなんて言い訳をしないために必死の思いで習得したものだ。
「……んじゃまぁ、ヴェルドラの言っていた異世界人と合流するのを当面の行動指針にするかぁ。ぶっちゃけほかにやることがないし」
「……そう、だねぇ」
……元いた世界がどうなってしまっているのか、気にならないワケではない。
けど俺は直感、と言うか確信していた。
今この世界にいる俺はおそらく
本来の〝俺〟の魂から僅かに千切れた残滓のような存在。
それこそが今の俺だと、ここ数日の内に頭ではなく心で理解してしまったことだ。
それを証拠に、頭の中に途切れ途切れながらも
それは―――異世界帰りのその足で、また別の異世界に行く俺自身の姿だった。
「……我思う、故に我あり、か」
「レイタロウさん?」
「……リムルさん。もし、三上悟という人間が実は死んでなくて、今この世界にいる自分は三上悟の魂の残滓でしかないと言われたら、どう思う?」
「……滅茶苦茶ショックだな。帰る場所ないのかよー!ってツッコミ入れてると思うわ」
「……俺もだ」
「けどさ」
「ん?」
「すぐに立ち直れると思うぜ。……なんせ、レイタロウさんがいるからな!」
……ふっ、強いな。
他者依存なんてガラじゃないんだけど、それでもリムルさんのお気楽さは光り輝いているな。
「……そうか。そうだな。そうかもなぁ。俺も、自分の生き方を見つめ直す必要があるかもなぁ」
「そうそう、せっかくの異世界ライフなんだから満喫しなきゃ損だぜ。俺もスライムとして―――ん?」
「どうしたの―――ん?」
いつの間にか、俺達を囲むように四、五匹程度の狼の群れが集まっていた。
どいつもこいつも二メートル級はある。
……どうやら普通の狼とは違うようだ。
「「「「 グルルルル……ッ!!! 」」」」
あーあー、そんなに喉を鳴らして……。
俺達がそんなに美味しく見えたのかい?
……言うて、スライムとゴリマッチョなんだけど。
「あ"?」
「「「「 キャイ――――ン!!! 」」」」
あ、逃げた。
リムルさんの凄みで、情けない悲鳴を上げながら何処かへ逃げ去ってしまった。
「いやはや、流石だねぇ」
「ふふん、俺の凄さに狼達も恐れおののいたワケだ!」
……あれ、なんか妙だな?
ちょっと気になったので周囲の音を観察していると、どうやら狼だけではなく、俺達の周囲百メートル以内に、魔物が侵入してくる気配がないのだ。
あれれ〜、なんか妙に避けられているような……?
何でだろ?
この森の魔物は、俺達のことを恐れているように感じる。
そう確信しかけた時、俺の聴覚がとある集団の接近を感知したのだ。
厄介事はある日突然やってくるものだ。
俺達の目の前に、わらわらと三十体ほどの人型の魔物が現れた。
小柄な体躯。
粗末な装備。
薄汚れて、知性に欠ける表情。
それでも知性が無いワケではないのだろう。
剣や盾、石斧や弓まで装備しているヤツもいる。
俺の灰色の脳細胞は、瞬時にこいつらの正体を見破った。
冒険者を襲う有名な魔物……そう、ゴブリンだ!!!
まさにテンプレである。
そして襲われるのはか弱い魔物……十中八九
ってか、スライム相手に三十体って多すぎだろうよ。
だがしかし、何故だか恐怖は沸いてこない。
レイタロウさんが傍らにいることも勿論あるが、本能がこいつらを恐れていないのだ。
剣は錆付いているし防具も貧相。
……腐った布を纏っただけのヤツもいる。
頑強な鱗に覆われたトカゲや強靭な刃の付いた手足を持つ蜘蛛。
そういった魔物達を倒してきた俺達としては、こいつらの装備でダメージを受けるイメージを持てなかった。
それに最悪の場合、黒蛇に擬態してブレスで一網打尽に出来そうだし……。
そう思って眺めていると、群れのリーダーであろう一体が口を開いた。
「グガッ、強キ者ヨ……。コノ先ニ、何カ用事ガ、オアリデスヵ?」
ゴブリンって喋れたんだ。
……まぁある程度は『魔力感知』の応用で理解出来るのかもしれないけど。
ってか、強き者ってレイタロウさんに言ってるんだよな?
武器を持って取り囲んで、丁寧に問いかけてくるなんて。
こいつらは一体何を考えているのか?
少なくとも俺は興味を持った。
「リムルさん。……どうやら彼らには敵意は無いようだ。単に怯えているだけだろう」
すぐにでも襲い掛かってくるワケではなさそうだし、俺の言葉が通じるか試してみてもいいかもしれない。
「初めまして。……でいいのかな?俺はスライムのリムルと言う。悪いスライムじゃないよ!」
俺は、ゴブリン達と会話してみることにした。
切りがいいのでこのくらいにしておきます。
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