ミョルマイル君を助けるゾイ!って話です。
「あーあ……振り回しちゃ駄目だって言ったろ?」
「面目ない……(´・ω・`)」クゥゥゥン…
特別教室の教師として、あいつら五人の生徒達ともあっという間に馴染み、今では互いに軽口を言い合えるだけの関係にまでなった。
そいで今日は野外授業と称して郊外で模擬戦を行っているのだが、今はちょうどお昼時。
体を精一杯動かした後はちゃんと美味いものを食べて栄養補給をせにゃならん……ということでランガに頼み、シュークリームのお店(サンドイッチ等も作っている)までおつかいに行くよう頼んだのだが……。
張り切りすぎて全力疾走したのか、サンドイッチの中身がグッチャグチャになっていた。
ランガは落ち込むあまり子犬サイズにまで小さくなってしまったが、やっちまったもんはしょうがない。
見た目だってシオンの手料理ほど酷くなってないし、まぁ大丈夫だろう。
「おーいそこまで!お昼にするぞー」
「「「「「 わぁぁ……やったー! 」」」」」
「くぁーッ、やっぱ運動の後のメシうめー!!」
ケンヤはサンドイッチをガツガツと頬張りながら、子供らしい素直な反応を見せる。
「大体さー、先生は強すぎなんだよ!」
「そうよ!女の子にはもっと手加減するものでしょー!」
ケンヤの愚痴にアリスも乗っかって文句を垂れるが、俺はそんな愚痴で気分を害さないと言わんばかりにカップの紅茶を啜る。
最初会った時と比べて、良い意味で元気になったようで安心した。
焼け石に水かもしれないが、少しでも魔素を発散できればいいと思って定期的に模擬戦をやっている。
いま俺に出来るのは上位精霊を探すことだけだしな。
シエル先生様々だな。
「ねぇ、先生と勇者様どっちが強いかな?」
「そんなの、勇者様に決まってるじゃないの!」
「私は先生のほうが好き!」
……勇者様?
そういやヴェルドラって勇者に封印されたんだよな?
確か三百年前だかって話だし、流石に別人だと思うが。
「こんなのにマサユキ様が負けるはずないもん!」
「こんなのって……ん?マサユキってのが勇者の名前なのか?」
「え"っ!?先生、勇者様を知らないの!?」
「とても強いんですよ!」
「金髪でね、すっごくカッコイイんだから!」
金髪なのか、日本人っぽい名前なのに……。
確かミリムがヨウムに、あれは魔王と同じで特別な存在だとか、勇者を自称すれば因果が巡るだとか、だから勇者ではなく英雄を名乗れだとか、色々言っていた気がする。
ってことは、もしかしてマサユキとやらは本物の……。
「グギャアァァァァァァァァァッッ」
……俺の思考を遮るように、鼓膜を揺らす(鼓膜なんて無いが比喩として)ほどの絶叫が辺り一帯に木霊した。
あれは……ドラゴンか?
あれは一体何だ、教えろシエル先生。
《解。
そうこう言ってる間にもスカイドラゴンは、口元から雷撃状のブレスを吐きまくって道行く人々を攻撃している。
雷撃状のブレスは思っていた以上に威力が絶大であったようで、地面に当たれば地面を容易く砕き割り、人々に直撃すれば容易く人々を感電死させてしまう。
……なんて言ってる場合じゃないな。
王都に入ろうとしていた人達が狙われているのか。
「先生ぇ……あの人達死んじゃうの?」
ふと、そう言いながらクロエが俺に密着してくる。
その表情は、目の前で困っている人達を助けてあげられない非力な自分を呪っているようで、見ていてとても切ない気持ちにさせられた。
……こんな
「ランガ、子供達を頼む」
「はっ!」
「……大丈夫だ、死なせやしないよ」
クロエの頭に〝抗魔の仮面〟を被せる。
俺の大事な麦わら帽子を預けるみたいな、そんなノリだ。
そして俺は……背中から大きな翼を生やした。
「き、きれい……」
クロエの小さな呟きだけがハッキリと聞こえた。
どうやら、俺のこの背中から生える黄金色の翼に見惚れたらしい。
「俺が行くからな」
……さて、助けに行くのはいいんだが問題がある。
西方聖教会に目を付けられても困るし、素性は知られたくないんだよね。
どうしたものか……。
「こ、こんなところで死んでたまるかい……ッ」
……ん?
あの恰幅のいいおじさん……たぶん商人なんだろうけど、一体何を拾ってるんだ?商品か?
《告。彼が拾っている物は
マジか……ってことは!?
《解。レイタロウ様が仰っていた商人ガルド・ミョルマイルその人であると思われます》
こんな偶然あるか?
噂の商人が、俺の目の前で必死で薬瓶を拾ってるなんて。
……あれ、どうしたんだ急に走り出して?
「ぬおおぉおッ!邪魔だどけい!!」
あ、あいつ、女の子を突き飛ばしやがった……!!
なんて酷いヤツだ、人相は悪そうだとは思っていたが、マジで悪者じゃねーか……ん?
煙の奥に、何やら倒れ込んでいる女性がいるな?
見るからに重傷だ、助けてやらんと……。
……あ、ポーションをぶっかけた。女性のほうに。
「お、おじさんだれ?おかーさんになにしたの!?」
「うぅ……ん、あ、あれ、わたし……?」
「おかあさん!」
……女性は、女の子の母親だったのか。
それで、重傷を負っていた母親に、商品であるはずのポーションをぶっかけたと。
商人ガルド・ミョルマイルはもしかしたら、人相が悪いだけの善良な人間なのかもしれないな。
……ッ、マズい!!
「っ、おじちゃんうしろ……」
「わかっとるわい!……ワシを誰だと思っている?こんなつまらぬ場所で死ぬ男ではないわ。貴様らは邪魔だ、さっさと行け!」
男ミョルマイルはそう言って、親子を少しでも遠くへ逃がすべく囮役を買って出た。
だがしかし、背後に迫るスカイドラゴンの脅威に晒されてもなお、ミョルマイルの目から希望が失われることは無かった。
「(……そうとも、ワシは幸運な男なのだ。この場でこの薬を持っているのがその証、かの賢王レイタロウ様より直々にスカウトされたことが何よりの証明)」
フューズを介して伝えられた
ドワルゴンとブルムンドとの間で国交を樹立させた異例の魔物達の国ということもあり、そこに商機を見出したミョルマイルは一も二もなく魔国連邦を目指した。
……そこで
「(これほどの好機を前に、死を迎えるなど……ッ)」
国を去る間際、
イングラシア王国への帰路の途中、自分は災難に見舞われることだろう。
だが心配はいらない。
自分の窮地を救うべく……。
「怪我はないか?……ガルド・ミョルマイルさん」
「(……え、マジで?)」
そのスライムの名はリムル=テンペスト。
ジュラ・スターモンズ連邦国の序列二位に位置する者。
……国王レイタロウの予言はここに的中したのだ。
「(いま何が起きた!?というか―――)」
だがしかし、ミョルマイルは思う。
スライムじゃなくて女神が舞い降りたんですけど、と。
いやー、間に合ってよかったー。
スカイドラゴン
……え、どうやってスカイドラゴンを仕留めたのかって?
ンなもん、『重力制御』によって五トンの重量を付与したグーパンを頭上から叩き込んで一撃なんですわ。
ミリムには通用しなかったけど、スカイドラゴン程度であれば地面の染みに出来るようだ。
「(この娘、いやこのお方がもしや―――)……し、失礼、ワシのことを知っておられるのか?いかにもワシがミョルマイルですわい」
「やっぱりそうか。俺の名は……あっ」
「?……名前は?」
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
正体を隠すつもりで大人に変身したのに、回復薬の顧客を見つけて舞い上がってしまった……!!
「えぇと、通りすがりのしがない教師ですよ。ハハハ」
「……この回復薬を見て反応なさったのではないですかな?もしや
「っ……まぁ今から誤魔化すのは無理だよな」
「(やはり!!)……お目にかかれて光栄です、リムル=テンペスト様」
「え?……名前までよく分かったな」
「ええ、あの町の住人達はあなたの話ばかりで持ちきりでしたからな。……ですが何より決定的だったのは、国王にあらせられるレイタロウ様からの予言があったればこそなのです」
「え、レイタロウさんが?」
「いま思えば、あなたとワシの出会いを意味する予言だったのでしょうな。大量の回復薬を積んで国を発つワシに、レイタロウ様が自らあなた様のお名前を口にしていたのですわい」
……は、恥ずかしいな。
「ハッハッハ、随分好かれておいでだ。ワシも懇意にさせてほしいもんです。……さて、是非お礼も兼ねてご馳走させていただきたい。イングラシアにはワシの出資している店もありますので―――」
「おい、そこの二人!」
あ、ヤベッ。
警備の騎士か……マズいな。
「怪我はなさそうだな、少しいいだろうか?……知性のある竜が無差別に人間を襲うとは思えんのでな、詰め所で話を聞かせてくれ」
万が一俺の正体がバレでもしたら西方聖教会に知られるかもしれんし……せめて仮面でも被っとけば良かったな。
「聴取かね、ワシをミョルマイルと知ってのことか?」
「えっ……?」
「おい、その人はいいんだ!」
え、いいの?
なんか別の騎士が後から登場したんだけど……。
「失礼しましたミョルマイル殿。こいつは新人で……」
「教育がなっとらんようだな」スッ…
あ、あー!!
このオッサン、いま賄賂渡したぞ!?
「弁えろ!この人はブルムンドの大商人のガルド・ミョルマイル氏だ!」
「す、すみませんでした!」
あーあー、そういうことね。
このオッサンはいわゆるアレだ。
清濁併せ呑む人種なんだな。
「聴取には応じてやろう。……ただしこの方は帰してやってくれ。ワシの護衛としてここまで一緒に来てもらったのだ。身元はワシが保証する」
「勿論ですミョルマイル殿。ご協力感謝いたします」
「うむ、では行こう。……ここまで助かりましたぞ、次の機会も是非」
「……またのご利用を」
凄いな、堂々たるもんだ。
助けたつもりで助けられちゃったよ。
「「「「 先生―――!! 」」」」
聴取のために騎士達と同行するミョルマイルさんとすれ違うように、ケンヤ達が俺の元へ駆け付けてきた。
「なんだよ先生!今のめっちゃカッコイイじゃん!」
「ちょっと何よその格好!カッコイイじゃないの!」
「お、おぅ……」
なんか、より一層懐かれた気がするな。
まぁ別にそれは良いことなんだけどね……。
……ん、リョウタ?
「どうしたリョウタ?」
「……さっきのおじさんが、すれ違う時にこんなの渡してきました。先生にって」
「ミョルマイルが?……名刺か」
ん、裏に何か走り書きしてある?
これは……住所だな。
……教えてシエル先生!
《解。そこは高級店が立ち並ぶ地区となります。脳内にマップを表示いたしますね!》
なるほど、随分なやり手らしいな。
ガルド・ミョルマイル。
善良で
彼とは今後も付き合いが長そうだ。
レイタロウさん「無事リムルさんと出会えたようだねぇ」
ディアブロ「レイタロウ様、ファルムス王国のほうももうじき仕上がりつつあります。開戦時期についてはいかがなさいましょうか?」
レイタロウさん「そうだなぁ……なるべく
ディアブロ「クフフ……かしこまりました」