精霊女王に会いに行くよ!って話です。
暴れ
彼の口利きで今夜は貸し切りだそうだ。
……料金表を見て吹き出したが、仮面のおかげでバレなかったと信じたい。
「凄いのねぇ。これが先生の故郷で流行ってるの?」
「いやー、流行ってるっていうか……」
言ってみただけなのに、本当にシャンパンタワーをやっちゃうとはな……。
これ、一体いくら掛かるんだ?
ま、まぁ今夜はミョルマイルの奢りだから、存分に堪能させていただくとしよう。
……最悪、シャンパンタワーのアイディア料ってことで、なんとか支払いを誤魔化せるか?
「リムル様、お楽しみいただけておりますかな?」
「ああ、お陰様でな」
「それは良かった」
ねぇ、VIP席のあの仮面の子。
店長がやけに腰低いけど何者?
自由学園の先生らしいよ。
くれぐれも丁重にってお達しだ。
へぇ、あのミョルマイル様が子供に対してあんなに気を遣うだなんて。
何か弱みでも握られてるのかね。
ホレてたりして。
あるかも。
……申し訳ないが、この店にいる人の会話は全部『魔力感知』で丸聞こえだ。
というか店長なのか、ミョルマイルって。
「悪いな、大人の姿のほうが体裁がいいだろうに」
「お気になさらず。あなたの正体を伏せるほうが大事ですからな」
嬢の人達をサッと下がらせてくれたミョルマイルと一対一で話し合いを行うべくこちらから話を切り出す。
「そうだ、ウチの回復薬のことだが、スカイドラゴンの襲撃でずいぶん消費しただろ?……割れたり怪我人に使った分は補填する。だからドンドン配ってくれていい」
「なるほど、売り上げよりも宣伝効果を優先ですか……。料金は規定通りお支払いしますよ。あの薬を怪我人に使うと判断したのはワシですからな」
「俺が助けたからって気にしなくていいんだぞ?」
「ハッハッハ、それは勿論感謝しておりますが、ワシは遠慮しているワケではないのですよ。……ただ、あなたの取った行動に大きく後押しされたのです」
後押し?
一体何の話なんだ?
「回復薬を入荷する折、幸運にも国王であるレイタロウ様と謁見する機会を賜りました」
「レイタロウさんと……」
「非常に恥ずかしい話ですが、他の凡百と同じようにワシもかの王に謁見する前まで〝たかが魔物ごとき〟……そう思い込んでおりました。ですが、かの王はそこいらの人間の王とは比べ物にならないほどの聡明な人格者であったのです」
「へ、へぇ……」
「そしてレイタロウ様は、ワシを直々にスカウトしてくださったのです。商業統括、広報統括、財政統括……呼び方は後で決めると仰っておいででしたが、それはもうワシが失敗しない前提で話を進められておいでで、流石のワシも困惑を隠せませんでした」
「ハハハ……あの人はメチャクチャ強引だから」
「そうですな。ですがレイタロウ様は、そんなワシの困惑を見透かすように敢えて期限は設けずに返答を待ってくれたのです。……むしろ
「……あー、そのことなんだけど」
「?」
「まぁいいか。レイタロウさんが信用するくらいだし、ほかに漏らさないと約束してくれるなら……?」
キョロキョロ…「……お伺いしても?」
近くに人の耳が無いことを確認するミョルマイル。
俺も『魔力感知』を駆使して周囲を確認し、人の目や耳が無いことを確認する。
そうして俺のほうからミョルマイルに近寄り、その耳元で囁くように
レイタロウさんから事情を聞き、俺が改めて思い知らされた、人間の愚かさの煮凝りみたいな連中の話を。
「近々ファルムス王国がウチに侵略戦争を仕掛けてくるんだよ。いつになるかはまだ分かんないけど、レイタロウさんが言うには一時間でウチが勝利する予定なんだってさ」
「ッ〜〜〜!!?」
その後色々と話し合い、魔国連邦側がGOサインを送った時点でミョルマイルのほうから馳せ参じるという形で落ち着いた。
彼にはその間、自分がトップを務めていた商館の引き渡し等といった身辺整理をしてもらうことになる。
苦労をかけるとあらかじめ謝罪したが、このくらいの苦労は進んで買いますわい!と笑い飛ばしてくれた。
そして、話もそこそこにミョルマイルは席を外した。
本当に気の利く男である。
なにせキレイなお姉ちゃんがたくさんいるお店だ。
長時間オッサンの顔を見ていては勿体ない。
……しかし俺も贅沢になったもんだ。
こんなにキレイなお姉ちゃん達がいるというのに、どうしてもエルフの姿を求めてしまっ……あれ?
あのお姉さんは確か……ドワーフ王国のお店で俺の運命の相手を占ってくれたダークエルフのお姉さん。
挨拶したいけど、この姿じゃ俺のこと分からないよな。
スライム姿でしか会ってないし。
っていうか何で此処に……ん?
「ちょっと向こうでお話しません?……
おやぁ……?
バレちょる?もしかしてぇ……?
結局なし崩し的にそのままダークエルフのお姉さんと二人っきりで個室入りをした俺は、テーブルに置かれたお酒に手をつけるよりも早く気になっていたことを口にした。
「……凄いな、どうして分かったんだ?」
「うふふ、エルフの直感……とだけ言っておきましょうか」
エルフすげぇ……。
その直感で俺を丸裸にしてください……なんてな。
「ドワーフ王国以外で会えるとは思わなかったよ」
「私はほかの子と違って旅人なの。ママのお店にはよくお世話になるんだけど、専属ってワケじゃないのよ?」
旅人、かぁ……。
「たまには故郷に帰ったりとか?」
「……スライムさん。エルフの故郷に行けばエルフ美人がいっぱいいるだろうし、今度何人かスカウトして
ギクゥゥゥ!!!「ま、まっさかー!」
エ、エルフ鋭い……!!
取り敢えず飲んでごまかそう……。
「うふふ、冗談よ。……私の故郷は魔導王朝サリオンのはずれ、国境にある小さな村よ」
「へ、へぇ……」
魔導王朝サリオン……確かレイタロウさんが言ってたな。
イングラシアを南下したところにあるエルフの国だとか。
「一応サリオンに属してるけど、どちらかというとウルグレイシアのほうが身近かな?」
「ウルグレイシアって、確か精霊の棲家のある?」
「あら詳しいのねスライムさん!……そうよ、精霊信仰の盛んな国でね、私の占いも精霊魔法の応用なのよ」
占いか……。
目に見えない、感知できないだけで、案外俺の周りを無数の小さな精霊が飛び交っているのかもしれんな。
んで、その精霊が覗き見た俺の心を間接的にキャッチしていたとか、そんなところだろうか?
精霊と一口に言っても、案外奥が深いのかもなぁ。
「……ねぇスライムさん。もしかしてだけど、その精霊の棲家に行くつもり?」
「……そうだよ」
占いのお姉さんの表情が若干曇ったのは、おそらく見間違いではないのだろう。
「……これは私の勝手な想像だけど、スライムさんは既に精霊の棲家の入り口まで特定して、いつでも行けるように下準備まで済ましていると思う。たぶん『
「うん」
「……どんな事情があるのか分からない。でもそれがスライムさんにとってきっと大切なことなんだって声色で分かるわ。だからこれだけは心に留めておいてほしいの」
……精霊の棲家に向かって帰ってきた者はいない、か。
「リムル様、今度はブルムンドでお待ちしております。是非ともそちらの本店においでくださいませ。その時までには準備を万端に済ませておきますゆえ」
「分かった。俺が迎えに行くまでは各地での宣伝活動をお願いできるか?」
「承りました!」
ダークエルフのお姉さん(名前聞きそびれちゃった)との濃密なひと時を過ごした俺は、ミョルマイル達の見送りもそこそこに寮へ戻ろうとしていた。
「先生、もう帰っちゃうんですね……」
「生徒達が待ってるからさ、また遊びに来るよ!」
寮へと向かう道中、俺はウルグレイシア共和国のことを考えていた。
ジュラの大森林周辺の国家群とは一線を画するその国。
西方聖教会の影響下にも無く、評議会にも加盟していない小国である。
精霊の恵みと加護を受け、魔導王朝サリオンとの交易で成り立っている、そんな国。
国への出入りに対する制限は無いが、この国で悪事を働く者はごく少数だろう。
理由は簡単。
……この国の国民は皆、精霊魔法の使い手なのだ。
国民は皆、十歳で精霊と契約する決まりがあるらしく、精霊との契約が出来なかった者は、この国を二十歳で追い出されることとなる。
精霊と近しい国……子供達に上位精霊を宿すっていうのも突拍子のない話では無かったのだ。
だがしかし、問題もある。
占いのお姉さんによると、ウルグレイシアの国民が契約の儀式を行うのは大抵が町の中央にある祭壇だという。
そして、その祭壇に上位精霊が現れることはないのだと。
上位精霊と契約を結びたいなら、精霊の棲家に行くしかない。
トレイニーさんは、魔素を制御させるのなら上位精霊でなければ駄目だと言っていた。
なら、行かない理由は無い。
昨日、精霊の棲家の入り口近くに『
……しかし今は深夜帯、無理に子供達を叩き起こす必要もあるまいよ。
とまぁそんなこんなで、あっという間に自分の部屋の前まで辿り着いてしまったワケだ。
「「 先生…… 」」
ドアノブに手をかけようとしたその時、闇の奥から二人の聞き慣れた少女の声が重なって聞こえた。
「アリス、クロエ……どうしたんだこんな夜中に?」
「「 ……… 」」
……なんてこった。
まさか人生初の夜這いがされる側で、しかもこんな幼女二人からとは……ンなワケないよな。
「先生、私たち……明日も……大丈夫だよね?」
明日も大丈夫、か。
勿論、何を言いたいのかは分かっている。
明日も生きていられるか、だ。
「食堂に行こう。温かい飲み物を出してやるよ」
「先生……」
「……なによコレ?」
「牛鹿の乳を温めたものに、店長(シュークリームやサンドイッチを作っているお店の)から貰ったチョコ擬きを溶かしたものだ」
夜眠れない時は、温かい飲み物に限るからなぁ。
ほれ、遠慮せずに飲め飲め!
「「 フーフー…コクッ……ハァァァァ!!? 」」コクコクコク!!
やれやれ、これで少しは不安感も払拭できたかな?
さてと……。
「お前達の分もあるぞ?ケンヤ、リョウタ、ゲイル」
「うぇ、バレてる……!!」
そんな見え透いた気配、わざわざスキルを使わなくたって分かるぞ?
扉の奥に隠れてないで来いよ。
そして、俺のホットチョコレートを飲んでいけ。
「うめーっ、なにコレうめーっ!!」
「懐かしい味がするな……」
「アチッ、火傷した……」
「飲みながらでいいから聞いてくれ。明日の課外授業についてだ」
「?……明日は何処で?」
「ウルグレイシア共和国ウルグ自然公園」
「ウル……え、外国ですか?」
「ケンちゃん知ってる?」
「知らね」
もっと分かりやすく言ってやるか。
お前らの命を救えるかもしれない場所……。
「精霊の棲家だよ」
占いのお姉さん「……それはそうと、いつかスライムさんのところで働くことがあったら、その時はお給料をはずんでもらうからね!」
リムル「えー、どうしようかなー?」
占いのお姉さん「故郷にいる可愛らしい娘に何人か声をかけておくから、ね?」
リムル「採用!」