転移したらスライムと一緒だった件:REY   作:びよんど

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ミュウランさんが憂うって話です。


魔女の憂い 前編

 

 

国王である俺が、直々に配下を鍛え上げる。

 

 

 

ゴブタから端を発したいわゆる〝強化訓練〟の話は、あっという間に町中に広がっていった。

 

ある者は無理やり参加させられ、またある者は更なる高みを目指して、またある者は情報収集のため。

 

その場の思いつきで決めた話が、各勢力の思惑を刺激し、やがて国を上げての一大イベントに発展していくのだが、それは少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんばんちわー、俺はレイタロウだよん。

 

魔王だとか国王だとか、色々な面倒事を背負い込んでいるワケだけど、今日は何だかんだ楽しい日になりそうだ。

 

 

「……あの、なんで俺まで参加しなきゃならないんです?レイタロウの旦那?」

 

「ついでだよついで。ヨウム君が修行を怠けてないか確かめてみたいし」

 

「うっ……そんなことねーし!」

 

 

適当な森林地帯の、円状に開けた平地。

 

そこはよくハクロウが弟子達の修行のために利用する鍛錬場であり、半径五十メートル範囲内の木々が綺麗に伐採された場所でもあった。

 

そして今日そこには、俺やヨウム君以外にも大勢の人達が集まっていたのである。

 

 

 

 

 

「超実戦形式の修行をつけてもらえると聞いて、剛力丸共々駆け付けました!よろしくお願いいたします!」

 

「警備に穴が開かないように人員配置は済ませてあります。何より俺も久しぶりに暴れたいですし」

 

「ほっほっほ……年甲斐もなく血が騒ぎますわい」

 

「……メンツは捨てて全力でかかってくるといい。この〝強化訓練〟に臨む者は、皆等しく弱者なのだから」

 

「「「 ッ…… 」」」

 

 

リムルさんの第一秘書を務めているシオンや侍大将として辣腕を振るうベニマル、そして意外にも指南役のハクロウまで参加しているのだ。

 

そいつらを程々に挑発して戦意を高めつつ、俺はオーガ以外の面々にも目を向けた。

 

 

 

 

 

「更に強くなれると聞いて、我ら馳せ参じましたぞ!」

 

「亥眼族(ガイガンオーク)を代表して、その威信にかけて臨ませていただきます」

 

「で、出来れば手心を加えてほしいッス……」

 

「……この感じだと、俺が獣王国(ユーラザニア)の代表ってことになるんですかね」

 

 

ガビル率いる魔翼竜人族(ラドニュート)数十名。

 

ゲルド率いる亥眼族(ガイガンオーク)数十名。

 

ゴブタ率いる獣鬼族(モンスターゴブリン)数十名。

 

外様のグルーシス率いる獣人族(ライカンスロープ)数名。

 

……まだだ、まだまだこんなもんじゃないよぉ。

 

 

 

 

 

「レイタロウよ!ワタシもドラゴンナックルを着けて戦うぞ!」

 

「……良いかヘルメスよ。ミリム様のお邪魔だけは決してせぬように立ち回るのだ……!」

 

「はぁ……それは承知してるっすけど」

 

「お前達も、ワタシに遠慮することなく暴れるがよい!今日は無礼講である!」

 

「そうだヘルメス!みみっちく戦ったら承知せんぞ!!」

 

「……はいっす」

 

 

同じ魔王にして親友(マブダチ)のミリムと、その彼女を信仰する〝竜を祀る民〟こと龍人族(ドラゴニュート)数十名。

 

ミリム曰く、外に連れ出すのに相当骨を折ったんだとか。

 

……これ終わったら美味い飯をご馳走するかぁ。

 

 

 

 

 

「クァ―――ハハハハハ!!!久々に大暴れできるこの絶好の機会、逃す手は無いわッ!!」

 

 

極めつけは、しれっと参加している金髪の兄(アン)ちゃんことヴェルドラさんである。

 

どうやらゼギオンの育児は一旦お休みらしい。

 

 

 

 

 

「な、な、な……!?」

 

「……ま、そういうことだミュウラン。どいつもこいつも化け物揃いだが、気は良い連中ばかりなんだよ。お前はお得意の魔法でこいつらの援護をしてやってくれ」

 

「その、私、用事を思い出して……」

 

「おーっと、生憎この地獄に帰り道はねーのさ。是が非でも相乗りしてもらうぜ?」

 

「ちょ、やだ、私こんなところで死にたくないッ」

 

「「「「 ディーフェンス……ディーフェンス…… 」」」」

 

 

ヨウム君や新顔のミュウランさんを含めた人間数十名。

 

……いや、ミュウランさんは元人間だったか。

 

まぁ何はともあれ、これで全員揃ったらしい。

 

数は……九十ちょいか、意外と集まったなぁ。

 

 

 

 

 

「夢空間 展開」

 

 

 

 

 

閻魔天印を結び、世界そのものを俺の中に広がる心象風景で塗り替えていく。

 

だがしかし、今回はミリム戦の時のように世界規模に異次元世界を広げたりはしない。

 

俺を中心に、半径百メートル以内を俺の空間と定義する。

 

そうしてドーム状に広がった小さな世界から色が抜け落ちていき、そこは〝白〟と〝黒〟のみとなった。

 

 

「ッ〜〜〜、な、んなの……!!?」

 

「気ぃつけろよミュウラン。……死にはしねーが、死ぬよりヤバい目に遭うことは確定だぜこりゃあ」

 

「ヨ、ヨウム、こ(・)れ(・)は一体何なの……!?」

 

「西方聖教会が結界を張るように、レイタロウさんも結界を張れるんだよ。見たところ結界の維持も一人でこなせてるみたいだし、本体を叩かないことには解除できないだろうな」

 

「こ、これはそんな生温いものじゃ……!!」

 

 

……なんかもうミュウランさんが死にそうなんだけど。

 

本当に死なれる前に簡単に趣旨を説明しておくか。

 

 

「注目」

 

「「「「 ッッッ 」」」」

 

「……この〝強化訓練〟の目的は、格上の相手との死闘を通じて技量(レベル)を限界以上まで引き上げ、なおかつ高位の能力(スキル)を獲得することにある。この場合の格上とは、つまるところ俺だな」

 

「はいはーい!質問ッス!」

 

「途中退場は不敬と見做すぞ?」

 

 

ゴブタは 両膝をついて 完全に 燃え尽きた!

 

どうやら図星だったようだねぇ。

 

 

「この空間内で起こったことは魂(・)に(・)刻(・)ま(・)れ(・)た(・)経(・)験(・)を(・)除(・)い(・)て(・)大体無かったことになる。仮に死んでしまっても問題ないが、俺も殺さない程度に手加減はしよう」

 

「ワタシが体を張って実証済みなのだ!」エッヘン!!

 

 

……負けたのに随分と自慢げだねミリム。

 

ミッドレイさんの俺を見る目に殺意が宿ったんですけど。

 

 

「とまぁそういうワケで、これは実力的に伸び悩んでいる連中にお気軽に地獄を見せようという純粋な善意のもとに企画した訓練でな、ハッキリ言って思いつき以外の何物でもないんだ」

 

「オ、オイラは、図らずも地獄の釜の蓋を開けちゃったってことッスね……」

 

「何度か戦(や)ってみて、何の成果も挙げられなかったらすぐに取り止めようと思う。それまでは志願者に地獄を味わわせる予定だ。……見返りは、君達自身の成長だよぉ」

 

ゴクッ…「……面白いですね、それ」

 

「レイタロウ様がもたらす地獄か、それは果たしてどんなものかな……?」

 

「ほっほっほ……久方ぶりに滾ってきましたな」

 

 

オーガ連中が、さながら地獄の鬼みたいな笑みを浮かべておられる。

 

 

「……最後に一つ、忠告しておこう」

 

「「「「 ……? 」」」」

 

「硬く鋭く研ぎ澄ました一念をもって、限界を打ち破れ。それが、この〝強化訓練〟唯一絶対の掟(ルール)だ」

 

 

俺が言い終わった直後、桃色の閃光が駆ける。

 

栄えある〝強化訓練〟第一回目の一番槍は、ドラゴンナックルを携えたミリムであった。

 

 

「行くぞレイタロウ!!!」

 

 

訓練……開始ぃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミュウランは、ただ只管に後悔していた。

 

 

「うっきゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「回り込め回り込めぇ!!」

 

「いてまぇ!!」

 

「ギャフンッ!!?」

 

 

ヨウムに取り入り、魔国連邦(スターモンズ)に入国したのも、全ては真の主である魔王クレイマンからの命令故だ。

 

魔物の国に潜伏し、その有益な情報を抜き出して報告することがミュウランに与えられた使命である。

 

 

 

 

 

「黒炎(ヘルフレ)……ぽへぇ」

 

「ベニマル殿ぉ!!?」

 

「うひぃぃぃ!!?しぬ、しぬッスゥゥゥ!!!」

 

「うおぉぉぉぉミリム様に、続けぇぇぇぇ!!!」

 

「ちょ、神官長、一人で突っ走らないでぇ!!?」

 

 

ゴブリンも、オーガも、リザードマンも、オークも、ドラゴニュートも、人間すらも、皆平等に宙を舞い上がる。

 

くるくるくるくる……そうして、地面に頭から激突する。

 

強者も弱者もなく、男も女もなく、そこに区別や差別は存在せず、皆平等にふっ飛ばされているのだ。

 

まさに秋に散り舞う枯れ葉のごとく。

 

 

 

 

 

「腕に自信の無い者は俺の後ろに……ふぐぁ!!?」

 

「ゲルド殿が死んだぁ!!?このヒトデナシぃ!!」

 

「俺達そもそも人じゃねーって……グボハァ!!?」

 

「無念じゃ……」ガクッ

 

「「「「 師匠ぉぉぉぉ!!! 」」」」

 

「……ジジィはくたばったようッスね。顔に思いっきり落書きするッスよ皆ぁ!!」

 

「「「「 うぇええええええぃ!!! 」」」」

 

 

まさにこの世の地獄と形容できる。

 

凄惨を極めるこの生き地獄の中で無事な者など、数えるほどしかいない。

 

 

 

 

 

「すごいのだ!また強くなったなレイタロウ!」

 

「ミリムこそ……ついこの間よりも打ち合いが強くなったよねぇ」

 

「我を忘れるでないぞレイタロウよ!……お前より盗み見たこの技で、お前自身を超克してみせるわ!」

 

「……しかし参ったな。これじゃあ〝強化訓練〟の体裁が取れないし、あっという間に目減りしちゃったぞぉ?」

 

 

そして、当然と言えば当然だが、ミュウランではレイタロウを筆頭した上澄みの強者達の攻防を目で追うことが出来なかった。

 

何と言うべきか、もはや一周回って止(・)ま(・)っ(・)て(・)見えている。

 

 

 

 

 

「ギャアァァァ冗談ッス!冗談ッスよ師匠ぉぉぉ!!?」

 

「地獄の底から甦ったわ。……それはそうと、誰がジジィじゃ!?」

 

「これには深い事情が……イヤンッ!!?」

 

「「「「 ゴブタさぁぁぁん!!? 」」」」

 

 

ミュウランは、猛烈に後悔していた。

 

クレイマンから、彼(・)が魔王ミリムと特別な友誼を結んでいることを話には聞いていた。

 

だがしかし……。

 

 

 

 

 

「クッ……話に聞いておったが、本当にミリム様と渡り合えておるわい。隣におる金髪の男も含めて、とんでもない三強じゃな!」

 

「いや、あの方確か本気のミリム様と戦って勝ったとか言ってなかったっすか……?」

 

 

その魔王ミリムと互角以上に渡り合えるとまでは聞かされていなかった。

 

一連の〝強化訓練〟の光景を逃げ隠れしながら観察していたミュウラン個人の見解としては、クレイマン程度ではもはや相手すら務まらないレベルに彼は達しており、彼の抱える配下もまた規格外の化け物で溢れていた。

 

つまりはクレイマンに勝ち目無し、である。

 

 

 

 

 

《告。個体名シオンにエクストラスキル『完全記憶』『超速再生』が発現しました》

 

 

「っ、レイタロウ様!私はまだまだ戦えます!お相手よろしくお願いします!」

 

 

《告。個体名ハクロウのエクストラスキル『天空眼』が、ユニークスキル『武芸者(キワメルモノ)』へと進化しました》

 

《告。個体名ベニマルにユニークスキル『大元帥(スベルモノ)』が発現しました》

 

 

「……負けっぱなしは性に合いませんのでな」

 

「俺達にはレイタロウ様の配下であるという自負がある。それは例えレイタロウ様であっても否定させませんよ」

 

 

《告。個体名ゲルドにユニークスキル『守護者(マモルモノ)』が発現しました》

 

《告。個体名ガビルにユニークスキル『天邪鬼(ヒネクレモノ)』が発現しました》

 

 

「……俺にも、レイタロウ様の攻撃を何度も受けて立ち上がった自負があります。この程度で諦めるワケにはいきません!」

 

「何度地を舐めさせられようと、諦めなければ我輩達は負けておりませぬ!もう一勝負お願いいたす!」

 

 

何が彼らをそこまで突き動かすのか。

 

先程まで地面に倒れ伏していた者達が、一人、また一人と立ち上がっていくではないか。

 

 

「おぉ目を覚ましたか皆。……ちょっと二人共どいてちょーだい」

 

「「 ぐおっ!!? 」」

 

 

そう言って、魔王ミリムと金髪の男を軽々と左右に吹っ飛ばしてのけた。

 

 

「……大失敗に終わると思っていたが、随分と魅せてくれるじゃないの君達」

 

 

瞬間、大瀑布のごとき殺意の嵐が巻き起こる。

 

発生源は勿論、彼だ。

 

 

「さて、今が底だと思っている君達に、更なる地獄を見せてあげよう。……死ぬがいい」

 

 

ミュウランの 目の前が 黒一色に 染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《告。個体名ゴブタにユニークスキル『生存者(イキルモノ)』が発現しました》

 

 

「(オイラまだ死にたくないッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!)」

 




とってもタチの悪いことに、諦めずに真面目に受ければ必ず結果が形となって表れる。

……それが〝強化訓練〟というものです。
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