食の深みを知るって話です。
「……感心しませんな、魔王レイタロウ様。我らがミリム様にこのような冒涜的なことを教えてもらっては……」
「冒涜的、というと?」
やぁ皆こんばんは。
俺は十大魔王の一柱にして、ジュラ・スターモンズ連邦国の国王を務めるレイタロウという男だよぉ。
栄えある第一回目の〝強化訓練〟を終え、ベニマルやシオンといった有力な実力者達は、軒並み急成長を遂げることに成功した。
ミリムに半ば無理やり連れてこられた竜を祀る民の皆さんも、急な実戦稽古だったにも関わらず嫌な顔一つ見せることなく最後までお付き合いしてくれた。
と同時に全員が疲労と空腹を訴えてきたので、せっかくだからウチで晩飯食べてかない?と提案してみたところ満場一致で決まった次第だ。
そして現在、食堂として利用しているログハウスには、訓練に参加してくれた者達が所狭しと座って自分の分の料理が来るのを今か今かと待ちわびていた。
……その楽しみに水を差すような発言をしてきたのは、ミリムを祀る宗教団体〝
生食至上主義の頑固者とは、この男のことである。
「食事は、食材に感謝し、そのままの自然な味わいを楽しみつついただくのが作法です。……それを、このように汚すとは嘆かわしい」
「なるほど?」
「貴方様の領土ではお好きになされば宜しいかと存じますが、我らがミリム様まで巻き込むなど言語道断ですぞ」
「……一理ある。野菜や果物の中には、自然のまま食しても美味しいものは確かにあろう」
「然り!」
「だがしかし、一口も食べずに判断するのは時期尚早であると思わないかね、ミッドレイ殿。……これら料理は俺の妻であるシュナが腕によりをかけて作ったものだ。せめて一口でも、どうだね?」
「否、お断りします!」
参ったね、こうまで頑迷だとは思わなかった。
唯一の救いなのは、この男が自分の考えを人に押し付けるような傍迷惑な厄介者でないことだが、どちらにしてもこれは骨が折れるぞぉ……。
というか、周りを見て御覧よ?
皆が皆、食べづらそうにしてるしぃ。
前言撤回、やっぱり傍迷惑だった。
「ミッドレイ様、いただきましょうよ?せっかく我々のために用意してくださったんですし」
「要らぬ!」
「スイマセン、ウチの神官長が……」
「……いや、これは仕方あるまいよ」
他人の思想にあれこれ口出しするのは、個人的に一番やっちゃいけないタブーなんだと思ってるよ。
ミッドレイさんが生食しか受け付けないのなら、それにあーだこーだ言うつもりは無い。
「レイタロウ……」
「悪かったねミリム。ミッドレイさんの思想に口出しするつもりは一切無かったんだ。……皆、今夜はしめやかに食べるとしよう」
丹精込めて作られた料理を捨てるなど、それこそ料理に対する冒涜である。
こっちからは口出ししないが、そっちからも口出しするなよ作戦を決行するとしよう。
「「
「ッ〜〜〜!!?」
……決行しようと思ったら、いつの間にかミッドレイさんの近くに俺の子供であるアカシとシュカが近寄って、大声で怒鳴り散らしていた。
その顔は、まさに怒ってますと言わんばかりであった。
「な、何を言っておる小童共!?ワシは食わず嫌いなどせんわ!」
「食べてもないクセにお母さんの料理をバカにしないでよ!」
「っ……」
アカシ、君って男の子は……。
そうだそうだ、もっと言ってやれ!
魔王であるお父さんが許す!
「毎日毎日、ボク達のために朝早くからおいしいご飯を作ってくれるんだよ!汚れているワケないじゃんか!」
「そ、れは……」
「それにそれに、お母さんはご飯を作ってるだけじゃないんだよ!お父さんのお仕事を手伝ったり、おウチの掃除とか洗濯物を干したりとか、たーくさん働いてるんだよ!」
シュカ、君って女の子は……。
そうだそうだ、もっと言ってやれ!
シュナの良いところをぶち撒けるのだ!
「お母さんいっぱいいっぱい働いてね、それでも朝昼晩のご飯を作ってくれるの!ワタシね、お母さんの作ってくれるご飯ならなーんでも大好きだよ!」
「ぅ……そ、そうなのか」
「ベニマルおじちゃんみたいにお野菜を残すような勿体ないことはしないの!エラいでしょ!?」
グサッ…「ふぐっ」
唐突に矛先がベニマル叔父ちゃんに向けられるが、これはベニマル叔父ちゃんの日頃の行いのせいだから擁護したりはしない。
「ミリムお姉ちゃんもお母さんの作ったご飯は何でも残さず食べるよ!最近は花柄のニンジンが好物なんだってさ!ベニマル叔父ちゃんはいつも皿の端に寄せて食べたフリをするけど、いつもお母さんに叱られてるんだよ!」
グサグサッ…「ぐはっ」
「ミ、ミリム様が……!?」
言葉のナイフがベニマル叔父ちゃんを容赦なく抉るが、ほぼ事実のため訂正したりはしない。
「それでも食べちゃいけないものがあって、シオン姉ちゃんの手料理はクソマズいから、もし厨房で見かけたらすぐ逃げろってベニマル叔父ちゃんが言ってたの!」
「バッ……よせシュカ!!」
「ベ ニ マ ル ?」
「」
おーっと、ここでシュカの無邪気な地雷発言が飛んだぞ。
ベニマル叔父ちゃんに剛力丸が突き付けられるが、もはやこれはベニマル叔父ちゃんのせいなので俺は見て見ぬふりをするしかない。
「だからさ、おじさんも食べてみてよ!」
「お母さんのご飯はおいしいよ!」
「……まぁそこまで言うのなら、一口だけだぞ?」
子供達の攻勢に押されて、ようやく一口でも食べてくれる気になってくれたミッドレイさん。
その間、ベニマルが死に体になっているが気にしない。
紹介が遅れてしまったが、今晩のメニューはオーソドックスなカレーライスである。
案外、その色合いを見て嫌悪感を抱いたのかもね。
「………」パクッ
カレーの茶色いルーとライスの白い粒をスプーンで掬い取り、恐る恐る口の中に運ぶミッドレイさん。
さて、その反応や如何に……!?
「……ッ!!?(口中いっぱいに生じる喜びの感覚、これは、これはッ、美味しい、そうだこの感覚、幼き頃、初めて甘い果物を食べた時に感じたアレに似ている。しかしこれはもっと複雑で、それでいてまとまりを感じさせるような、これは一体……!?)」
「今晩のメニューはカレーライスとなります。その具材は主に牛鹿の肉や畑で採れたタマネギやニンジン、ジャガイモとなります。……ですが、そのほかにも多種多様な具材を取り入れております」
「っ、貴女がもしや……?」
「はい。先程は私の子供達が失礼いたしました」
案外シュナがブチギレる前に先んじて怒ったのかもしれないな、あの双子ちゃん達は。
分かる、シュナって怒るとメチャクチャ怖えもん。
ベニマル相手にブチギレた時なんか、双子ちゃんとともに震え上がったもん。割と本気で。
「……この料理はある意味〝
「と、申されますと?」
「このカレーライスの具材一つ一つを国として、それらが自己主張を抑え、各々を共助し合い、全体として完璧な味となるよう調和をもたらす……これこそ、レイタロウ様が求めてやまない理想そのものなのですよ」
うーん、こじつけ感が無いワケじゃないけど、言われてみると確かになるほど……と思わされる。
共助と調和。
あくまでそれは結界システムの一環でしか無かったが、こういうふうに言い切られると本当に実在するのではないかと信じてみたくなってしまう。
シュナの説得力マジ半端ねえ。
「う、美味いです。……ワシが今まで食べたどのような野菜よりも、このひと匙のほうが味わい深い……!」
「分かってくださったのなら良いのです」
「うま―――い!おかわりなのだ!!」
「はい、今晩は多めに作りましたからドンドンお召し上がりください!皆さんも遠慮なくどうぞ!」
「「 お母さんおかわりー!! 」」
「はいはい、今すぐ盛りますね。……レイタロウ様もいかがですか?」
「俺はもうちょっとゆっくり食べるよ。……ありがとうねシュナ」
「うふふ……どういたしまして!」
しかしまぁ、このカレーライスは本当に美味いな。
リムルさんから端を発したカレー構想をシエル先生が具体的に形にし、それをシュナ達に教えることで実現させることが出来たワケだ。
そしてこれは、カレーに限った話ではない。
この町の発展ぶりはもはや、この世界随一と言っても過言では無いだろうねぇ。
「美味しいのだ!!」
「ワシは、料理の意味など考えたことも無かった。魔王レイタロウ様の思い描く理想は、ミリム様の望む理想でもあったのだな。……そして、あそこまで輝くミリム様の笑顔は、野菜の盛り合わせでは見たことが無い」
「(そら、そうっすよ……)」
「ワシが間違っておったのだ……」
いやぁ凄い、ホントに凄いよシュナ。
シュナの料理は言葉以上に雄弁だな。
「さぁさぁミッドレイ様、こんなところで落ち込まれても鬱陶しいだけっすよ?冷めないうちにいただきましょうよ!」
「ヘルメス貴様、せっかくワシが感慨にふけっているというに……」
「わはははは!いいではないかミッドレイよ!さっさと食べねばワタシが全部食べてしまうぞ?」
「チッ……命拾いしたなヘルメスよ。今日はミリム様とこの素晴らしい料理に免じて見逃してやるわい」
「はいはい……」
そう言いながらカレーをスプーンで掬ってパクパク食べていくミッドレイさん。
どうやら気に入っていただけたようだ。
「ミリム、もし良ければそっちから何人か選んで、シュナ達から料理を教わる勉強会を開こうと思うんだが、大丈夫そう?」
「なぬ!?それは良い催しなのだ!!」
「代わりに、竜を祀る民に伝わる戦闘技術なんかをウチにも教えてもらいたいんだけど……」
「分かったのだ!……ミッドレイ!」
「これほど素晴らしき料理を伝授していただけるのであれば、喜んで手をお貸ししましょう!」
「ありがとう。……シュナ、急ですまないが」
「大丈夫でございます。明日の昼間からやるといたしましょう」
竜を祀る民は、ミリムとミッドレイさんを説得できれば大体の要求は通りそうだな。
……まぁ片や最古の魔王、片やその魔王の遊び相手を務められる頑固者な神官長だから、有象無象では困難を極めるだろうけど。
「というか……もうあれだ、ウチの国とミリムの国とで正式な盟約を結ぶとしよう。両国間の百年の不戦条約と銘打ってねぇ」
「なぬ!?レイタロウとは戦えないのか!!?」
「代わりに技術交流という名目で、たまに〝強化訓練〟を行ったりしよう。俺は誰の挑戦も拒まないぜ」
「盟約を結ぶのだぁ!!」
ミリムの鶴の一声で
後日、正式な書面にして両国の調印式が執り行われることとなったが、つつがなく終わったのは言うまでもない。
……これはあくまで余談だが、シオンの手作りカレーライスを腹いっぱい食べさせられるベニマルの姿がそこかしこで目撃されており、それが原因かは分からないが長期療養の申請を届けてきたため、これを受理することとした。
おかげで現在イングラシアにいるリムルさんとの定期連絡を俺が受け持つこととなったが、些細な問題である。
口は災いの元、画面の前にいる君達も気をつけような!
ベニマル叔父ちゃん「もう……食べられません……」
シオン姉ちゃん「さぁさぁ!今日は気分転換にシチューを作ってみました!召し上がれベニマル!!」
アカシ「あの二人仲良しだねぇ」
シュカ「うん、つきあってるのかな?」